シーズンテーマノベル『弓張月の下で』
商品概要:シーズンテーマノベル
| 商品 | 説明 |
|---|---|
対応商品一覧
発注可能クリエイター
|
基本価格 100RC~ |
景品
シーズンテーマノベル限定アイテム『der Herbst』
涼し気な風が吹いていく。あなたと過ごしたこの季節を忘れませんように。 【シナリオ時、少しばかり暑さに耐性ができます。】
サンプルSS:『赤紅葉の頃に』
登場NPC:ノエ(r2n000225)、イーリロス(r2n000252)
まだ、イーリス・ヘリングが幼かった頃の話である。ノヴェル・アルベルトゥスと共に各地を転々とする生活の中で、立ち寄った森の街は故郷とはあまりに違っているように思えた。
枯れ葉を踏み締めながらもイーリスは「すっかり涼しくなったね」とノヴェルを振り返る。その腕に大きな紙袋を抱えていた青年は「そうですね、秋は足早に過ぎ去ってしまいますから、急ぎ足で冬支度に入った方が良いでしょうか」とそう呟く。
「うーん、どうかなあ。まだまだ暑いままでいてくれると思ってたんだけれど」
「油断は大敵ですよ。あまり、油断ばかりしているとまた風邪を引いてしまう」
「そ、それは……僕に体力がなかったからだ。今の僕はそれなりに筋力だってついた。そう易々と風邪をひかない!」
拗ねたようにそう言ったイーリスにノヴェルが小さく笑った。傍から見れば似ていない二人は何らかの師と弟子のようにも見えるだろう。
イーリスの気安さが師に向けるものではないことから、血の繋がらない親子であると勘違いされる事もあった。
この枯れ葉の街でだってそうだった。色付いていく木々の美しさを眺めていたイーリスが「赤色、黄色」と嬉しそうにそう笑う姿を微笑ましそうに眺めるノヴェルに「仲が良いのね」と話しかけた老婆は「あの子とはどんな関係なのかしら」と恐る恐ると問い掛けたのだ。
「……友人の子を預かっています」
「まあ。預かっているだけ? そうは見えなかったから。血の繋がりよりも濃い心で繋がっているのかしら。親子や、ご兄弟に見えたから、つい」
老婆がそう言ったならばノヴェルは「そう見えたのならば嬉しい限りです」とそう微笑んだ。
自分とイーリスの間には決定的な壁があるように感じられていた。人の身と少々離れてしまった肉体の変化を抱えていたノヴェルにとって、真人間のイーリスは自分とは相いれない部分があるのではないか、と――
素直に、老婆の言葉は喜ばしかった。「彼とオレは家族だと訂正させていただいても?」とそう囁けば、ベンチに腰掛けていた老婆が嬉しそうに笑うのだ。
「ええ、そうして頂戴。そちらの方があの小さなお坊ちゃんも喜ぶのでしょう?
ねえ、あなたたちはこの街は初めてなのでしょう。どうか、楽しんでね。何もない場所だけれど、きっと、1つ1つの日が特別になる筈だもの」
「……はい。あの子にとって、この街の美しい枯れ木たちも、夕暮れも、何もかもがきっと特別なものになります」
ノヴェルは暫くの間老婆と談笑を楽しんだ。傍に腰掛けていた老婆から聞いたミートパイの作り方も、彼女の息子たちの話も、どれもこれもが人間とはあまり関わる機会のなかったノヴェルにとっては新鮮なものであっただろう。
「ノヴェル! 見て、影がぐんと伸びてる。夕暮れって面白いね」
「……イーリス、あまりはしゃぎすぎては明日朝起きれませんよ」
「だから、僕は結構強くなったってば」
拗ねたようにそう言ったイーリスをノヴェルはくすくすと笑ってからゆっくりと立ち上がる。「レディ、そろそろ風も冷えて来ましたよ」と老婆へと声をかければ、杖をこつりと鳴らした老婆が頷くのだろう。
「貴方方も、楽しい時間を如何か過ごしてね。わたしは、もう、この通り後は迎えを待つだけの体になってしまったから。
貴方達の様に新しい場所を駆け巡る時間と言うのがとても羨ましくなるものだわ。素敵な時間を繋いでいって頂戴ね」
「ありがとうございます。レディから聞いた話はオレにとってはまるで時代旅行でしたよ。とても楽しかった」
ノヴェルが微笑めば、老婆は駆け寄ってくるイーリスに気が付いてひらりと手を振っただろうか。
「おばあさん、これ、ノヴェルが構って貰ってたから」
「イーリス……」
「貰って。向こうの露天商から貰ったんだよ。きれーだろ。でも、割れちゃったって言うから、さ。貰った。
でも、修理すればきっと綺麗だよ。おばあさんの目の色みたいできらきらしていたんだ」
老婆はイーリスを見てから「修理をせずに置いていてもいいかしら?」と問い掛ける。不思議そうな顔をしたイーリスに「あなたがまた大人になってこの街に訪れた時に、一緒に修理に行きましょう」とそう言った。
イーリスは何も疑う事もなく「うん!」とそう笑う。「帰ろう、ノヴェル。さっさと風呂入って寝て、早く大人にならなくちゃ」と、そうやって無邪気に笑う子供に対して老婆は穏やかに手を振るのだ。
――あなたの世界が、どうかよりよく美しいものでありますように。
ノヴェルはそう願う。それはまだ、大破局からも少しばかり遠い、過去のただの思い過ごしのような一日であった。

