ぐしゃりと大地に叩き潰されるようにして倒れたのは翼を有する生物であった。
それを
天使と呼ぶことを、ハズク(
r2p008488)は幼い頃から知っていた。
何せ、青年を育ててくれたのは天使だった。故に、青年は天使に対して然したる嫌悪感はない。
だが、これはゲイムだ。生き残るためには犠牲は付き物である。偵察に出て耳にした戦功点の話――それが幸運にもプシュケーには適応されていない、なんて訳がない。寧ろ
自分たちはそれによって外に出なくてはならないと認識するべきだとも感じていた。
「この、そっちは?」
「大丈夫。ゼンと慈悲を探そう。……
情報見る限り、
K.Y.R.I.E.は第二戦区に行ったようだけれど、油断できない。
さっさとこの辺に落ちてた物資持ってズラかろう。さっき、はぁが言ってた通りの疑問だって咲願に聞かなくちゃ」
お人よしのコノハ(
r2p008487)は人を疑う事はない。それでも、ハズクという唯一無二で自分の存在理由である相棒だけが生きていてくれたらよいのだから――彼が、疑問に思うならばそれを解決するのだってコノハの役割だ。
「他の戦区に行った子も無事だといいね。カブキチョーに戻ったら、そろそろややも帰ってるかな」
「あー……ややとトランプする約束してたんだったか? アイツ、ババ抜きへたくそだからな。凄い苦しそうな顔するし」
揶揄うように笑うコノハを見ているとハズクの心が幾分か落ち着いた。天使の死骸を作り上げたとは思えぬほどの、穏やかな時間だ。
二人が歩いているのは
第五戦区:南部――第一戦区からは海を挟んだ住宅街だ。
元々の品川地区は市街地はターミナル駅が存在し、ビジネスの中心地でもあった。海沿いに行けばコンテナなどの産業用区が見える。が、内側に入れば入るほどに閑静な住宅街が広がっている。
「あ、おい! コノハ、ハズク。こっち」
手を振ったのはゼン(
r2p008445)だったか。その足元には幾人かが倒れているのが見える。
「あんまデケー声出すなってば。誰か着たらどうすんスか? ゼンクン。
ハズクンとコノハクンもお疲れ。そっちも
天使いたと思うんスけど無事で何より」
ゼンを窘めるように肩を竦めた巳陀来 慈悲(
r2p008424)にゼンが可笑しそうに笑った。
偵察兼状況把握の為に四人は揃ってカブキチョーからここまでやってきた。
されど、行きはよいよい帰りは怖い、である。
彼らは目黒周辺にまで戻ってから地下鉄線路を伝って新宿へと戻る為に
どこを歩くかを選ばねばならないのだ。
この場所は戦闘が行われていないこともあり安全な場所という認識もあったが、何時ここが
紛争地帯となり奇妙なエリアルールが課せられるかも分からない。
――それは何処のエリアもそうだ。戦区としての危険が孕む丸の内に、その隣接地帯である渋谷などもどこまで危険か。
「慈悲、また天使が来るぜ。
殺すか?」
「ああ、じゃあアイツらブチ殺したら帰るって事で。その間にハズクンたちが見たものを聞いても?」
身構えるゼンの背後で武器をゆったりと構えた慈悲を見てからハズクとコノハは頷いた。
第一戦区――K.Y.R.I.E.と呼ばれた人類チームが拠点とする
台場から、この第五戦区に向けて瓦礫を伝えば渡ってくることが出来そうだ。
それは、彼らにとって新たな追加ルートの提示となる可能性もある。
「ここが
紛争地帯になるって?」
「あり得なくはない、から早めにズラかって咲願に報告しよう。
動き方をそろそろ、指示して貰わなくっちゃ――」
柔らかな初夏の風が頬を擽った。第一戦区・台場に吹く風を受けながら柏木 清志郎(
r2p000956)は「瓦礫の橋?」と問い掛けた。
チュートリアル・オーダーを終え、K.Y.R.I.E.は第二戦区である浅草への進軍調査を開始している。
自身らの元に齎された予想外の
凶報への対処にも奔走する中、唐突にそのような情報がもたらされたのだ。
「ああ、まあ、第二戦区調査に絞った分、第一戦区内に目を向けられたってこと? そりゃ、いい話だわ」
煉谷 紅似(
r2p006137)に志佐島 ニイナ(
r2p008403)は「頑張ったからね~!」とその微笑みを深めて見せた。
愛らしく微笑む電子精霊の少女は東京都に設置された物理サーバーより生み出されたという。故に、東京については
管理者の知識がある為に、東京港連絡橋始めとしたアクセス方面の調査を行ってくれていたらしい。
その力添えが叶ったのは戦区を一つに絞って慎重な進軍を開始したからだろう。
「しかし、発見をしたならば
進むかどうかという選択を行わねばならないのではないのかい?
ニイナ嬢、我々はゲイムで
紛争地帯に介入するかどうかを選択させられていたよう、だけれど――」
問い掛けるアルジェント・ディノッテ(
r2p006088)の言葉が早かったか、それともデバイスへの通知が早かったか。
その何方であったかなど今は関係はない。デバイスには確かに
詳細ルートセレクトの項目が発生していた。
「……これは……。新しい進軍候補が発生したから、という認識ね?
前回と同じように、東部、丸の内、それから南部……。浅草に加えてどうするか、という意味か……」
呟くパトリシア・ウルシュ・オブラン・シェリード(
r2p005521)にニイナは「今、新規で発見した南部のメリットは次に向かう選択肢が増える事なのかなって思う」とそう言った。
「それぞれのメリットやデメリットはあると思うよ。
丸の内は中央エリアになるから多くの敵が初めから確認されている。激戦も予想されるけど抑えておきたいポイントだよね。
東部はエリアが広い分、ぐるりと大回りしての行動が開始できる筈。それに、
外を押さえておけば進軍の選択幅も増えるよね。
それは南部も同じかも。でも、こっちは丸の内を避けて世田谷とか渋谷にアクセスできる可能性が広がる筈……」
「ああ、エリアごとに変化は生まれるだろう。それは、敵性対象も同じだ。
……少しばかりルートセレクトには時間が発生する筈だ。引き続きセレクターの情報を確認しながら検討しようか。
元より、
進まないという選択肢もあるにはある。大きく動き出した一例もある。どの様に動くかでこのゲイムの進み方も変化するだろうからな」
清志郎はデバイスをじっと見つめてから嘆息した。自身らが手を拱いていれば他の陣営が動き出す可能性もあるだろうか。
そう、例えば
星導逆行などがどこかで潜み別エリアでの戦闘を開始している可能性だってある。
――さて、どう動こうか。選択は能力者達の手に委ねられている。
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