「えるさどうした、どうした。もう授業だぞ」
「あれ、私、寝てたんですかね」
同僚の
祖水 怜理の言葉に、
綴坂 えるさは慌てて顔を跳ね上げた。いけない、もう一時間目の十五分前ではないか。急いで授業の支度をしなくては。
「また徹夜でもしたん?」
「教材作り終わんなくって」
「そんなことしてると、いつか身体壊すよ」
「きをつけまーす」
「響かない。だいたいそういう時のえるさ、気を付けねえんだよな」
「そういうこと言わないでくれます?」
二人は少し笑った。
秋の朝日が、妙に眩しい気がする。
一階の職員室から見える、向こう側のイチョウが黄金の葉をそよがせている。もっともこうして、遠くなのは良かったとは思う。だって近くにあれば、この時期は、大変なにおいがするだろうから。
「
なんか嫌な夢みちゃったんですよね」
「へえ、どんな」
「なんか世界が滅んじゃって、私ね、魔法少女みたいな服で戦ってるんですよ」
「なにそれ、世界滅んでんのに戦いとかあるんだ」
怜理が笑い、二人はしゃべりながら教材を整えていった。
「それでね、生徒を引き連れて戦うんですけど、戦わなくちゃいけない相手が――」
ふいにえるさの頬を涙が伝った。
「敵だと思ってたのに、
実はすごくいい子たちだったんですよ」
「なんかくさ」
「すぐそういうしゃべり方、子供たちが真似したらどうするんですか」
「ごめんて、え、てかなに、まってえるさ泣いてる? だいじょぶ? え、それで続きは?」
「そう、それでね――想いや疑問を真正面からぶつけてきてくれた
素直で良い子、がいました。
まっすぐな瞳で
真剣に考えてくれた子、がいたり。
私のことなんか
お見通しって感じの子がいたり。
ちっちゃいのに本当に
頑張り屋さんな子がいたり。
あとはね――静かな情熱を抱く
ヒーローみたいな子。でもちょっとずるくて」
「ずるいんだ、くさ」
「きっとすごく重いであろう呪縛を、断ち切ろうと
あがいてる子。
他にも、こっちも、重い宿命みたいなものを背負いながらも、頑張って
成長していく子。
あー、あと、びっくりするほど
ずるがしこい子もいて」
「なにそれ笑うんだけど、それっていい子扱いでいいの?」
「いいの。あとね」
「そろそろ長いな」
「いいから聞いてよ。同じ先生と呼ばれる生き方で、一人の大人として
私に向き合ってくれた方」
「そろそろ子どもじゃなくなってきて、くさなんだけど」
「あと、本当に尊敬できる、
子供を愛することが出来る先生」
「てかさっき軽く流しちゃったけど先生もいるの? 世界滅んでる設定じゃなかったっけ?」
「そう、居るの。居たの。あとね、向こう側でも戦っていて。そっちは良く見えなかったんですけど。
荒れた子供たちに、
真摯に向き合っていた子の様子がちょっと見えてね。
ああ、あの子とも、おしゃべりしてみたかったなあ。
きっといい子なんだろうなあ。
でも、
もう行かないとですよね」
「あーもう、こんな時間だね、ギリじゃん」
「てかなんか今日やけに眩しいですね。あとああ、やっぱりちょっと眠いなー」
えるさが職員室のドアへと歩き出す。
そして開き、妙に明るい廊下へと足を踏み出した。
――授業をはじめないと。
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