「祇化は御津那海の地に居れば誰だってそう成り得る状態、であってる、よね」
長い赤毛の髪を下ろした花蔭 明依(
r2n000056)の問いかけに八重(
r2n000260)は「はい、そのはずです」と柔らかく微笑み告げた。
「国津神であれ、天津神であれ、或いはそれら以外の精霊ということもあるでしょう。
皆さんがこの御津那海で活動を続けてくださり、馴染んできたからこそ、彼ら――いえ、わたし達がK.Y.R.I.E.の皆さんに力を貸す事が出来るようになってきたという事です」
ふわりと笑って、けれど真剣そのものに八重は頷く。今は神様として、神様らしく振る舞うべき時だった。
御津那海で居る時のようにただの女の子のように振る舞っている場合ではない。スクナを始めとした此の地に滅びを与えんとする者達による攻勢を何とか退けた。スクナ曰くは
余興などと呼んだ戦いの中で、あの子の――八重と同じ草薙剣の片割れたる都牟刈の姿も見受けられた。
彼女の下から逃れ出た小さな神格の欠片は様々な物の中に逃げ込み、能力者達の手によって回収され、八重の下に集約された。
零れた欠片を纏め、自分の下へと集めた分だけ、八重の神性は少しばかり本来の出力に戻っているだろう。
「ありがとう、八重ちゃん……御津那海比売様もきっとそうなんだね」
ふわりと笑って言う明依に八重はコクリと頷こう。
「学園長先生とアオノちゃんはもう東京に発ったの?」
「はい、弥栄――アオノちゃんの事は匠に任せれば十分でしょう。ああ見えても彼の力は確かなものですから」
菱へと頷いた八重は、昨日の事を思い出して少しだけ困ったように眉をひそめた。
黄金の眩さ、刻陽学園の未来を照らしてくれるかのような、そんな姿をした彼の姿は一日経っても処理しきれない。
きょとんとした顔を浮かべる明依に「――いえ、それよりも」と切り替えるように顔を降って目を向けた。
「それよりも、彼らの事を厭離衆と協力している第八熾天使の麾下のちゃちゃまるさん達が動いた今が好機です。
わたし達はわたし達のやれることをしましょう――スクナ達が居るあの場所へ、此の町の
深部へ」
「うん。分かってる……その深部に行くのに、私や瀧冶さんの力が必要なんだよね。どうすればいいの?」
「逃げ延びてきた
あの子の力を取り戻したからか、今のわたしには其処が何処なのか、何となく位置が分かるような気がします。
何より、力を少しだけ取り戻した今のわたしなら、きっとこの町を包んでいる
帳を斬り祓う事が出来るでしょう。
明依さんと瀧冶さんにお願いしたいのはその後です。
あの子はこの御津那海の土地神ですから、御津那海比売には境界の神としての側面があるはずです。
わたしが斬り祓った場所を、境界にして瀧冶さんの力で彼方と此方を往来する流れを作ってもらえたら、彼方に行けるようになるはずです」
「なるほど……私にも手伝えることがあるのなら喜んで協力させてもらおう。それが出来るのであれば、つゆりの下へ戻ることもできる筈だ」
コクリと頷く瀧冶に「ありがとう」とそうお礼を言って、八重は視線を廻月 薇(
r2p008636)に向けた。
「薇、お手伝いをお願いできますか? 槐を助けに行く為の第一歩です。
わたし達だけじゃ、もしもの事があるかもしれない……だから、薇にはわたし達の護衛をお願いしたいの」
「わたくしにご協力できることであれば喜んで致しますわ、八重様」
仄かに微笑んだ薇に「ありがとう」とお礼を言ってから、八重は他の2人にも目をやった。
「行きましょう。何があるかは、わたしも知りませんが、きっと、あんまりよくはない事だけは確かだと思います」
――そこには、音が無かった。否や、いうならば音が鳴るものが存在しなかった。
硝子で出来た地面、鏡の塀に建造物、人が居ればその者の吐息や心臓の鼓動さえも聞こえてしまいそうな、そんな場所。
人の姿などほとんどある筈もない無音の世界に
生えるように作られていくのは、ガラスで出来たお人形。
空を覆う天蓋は瑠璃色の硝子ではなく、人々の息づく御津那海の町、まるで鏡の裏側に入ってしまったかの景色は悍ましくも美しい。
酷く澱んだ冷たい空気を飛び交うのは人ではなく誰かの呪い、ガラス細工の中に飛び込んだ呪いはやがて人形の手足を動かして動き出す。
それらをぼんやりと眺めていた『報道官』アマニタ(
r2p006971)はキノコのような、純白の傘を広げて顔を上げた。
「――おや、もうやってきたのかえ。ちゃちゃまる様が勾玉を追いかけて出て行かれた隙を狙うとは、全く不届きな連中なのじゃ」
「あっちが御魂石を回収したんだろ? 草薙剣が力を取り戻したなら、都牟刈の気配を追って来れるだろ」
金毛の尻尾を揺らして武智那(
r2p009185)が言うのに「まあ、そうじゃな」とアマニタはからからと笑った。
「とくと観光してもらうとしようかの――
呪創を得た者には此の地は辛かろうし、
硝子の神籬は救いを求めて暴れるじゃろう」
「だろうな」
町並みをつまらなそうに眺めて告げたアマニタに武智那はそう応じよう。
此処は
鬼神が描く新天地、硝子と鏡で出来た鏡の裏の常し世――変わり映えのない、
停滞した町。
人を呪う神と霊とが人の真似事をする場所だ。
※イラストオプションに『
祇化』が実装されました。(用語説明:
呪創/
祇化)
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