「お疲れ様~、元気してるっ? そういえば、さっき第一戦区のバトルで君達の仲間見たよ。
なんだっけ? ややちゃんときたのちゃんだっけ? さっき丸の内の方に行ったのは確かだけど」
「それでも連れて帰って来たわけじゃない癖に」
吐き捨てるようにそう言った栞 咲願(
r2p008061)の表情には苛立ちが滲んでいたか。
楽しげに話す
男を睨み蹴る咲願は溜息を一つ、いつも通りの笑みを浮かべて「それで」と言葉を紡ぎかける。
「あ、さーねぇ! いた!」
ひょこりと後方より顔を出した少女は「さーねぇ、ややときたは帰ってきた?」と期待をその眼差しに乗せていただろう。
ゆらりと彼女の亜麻色の髪が靡く。「幸希ちゃん、今、咲願さん用事があるって言ったよ?」と慌ただしく彼女の手を握り締めにやってきたのは穂村 武流(
r2p008527)であった。
「あ、そうだったっけ……ごめんね、さーねぇ。お話し中?」
きょとんとした倉持 幸希(
r2p008474)に咲願は苦い表情を浮かべた。困り切ったような彼女の表情をじっと見つめてから幸希は「
みつねぇとか
ころねぇと遊んでくるね」と恋人の手を握り返してから手を振った。
彼女と武流が屋内へと入って行ったことを確認するまで咲願は唇を引き結んだままだった。じっと動くことをしない咲願に「優しいね」と
男が声をかけた。
「うるさいな……いきなり来るやつが悪い」
「ふふふ、でも予告したら絶対似合ってくれない。君はそう言うヤツだからね」
「場所を移してほしい」
端的に告げる咲願に
男は頷いた。
紫色の髪をした何処か色香をも感じさせる男である。
了承した彼に続き、咲願は今ばかりはプシュケーと距離を取ろうと一歩踏み出し――
「咲願君、どこに」
本庄 宗助(
r2p008410)に声をかけられた。咲願は嫌な気配に支配される。背中に汗がつうと伝った。
――陽一。
苦い思い出だ。目の前の
誰かの振りをした男が初めてプシュケーの前に現れた日を思い出す。
自分が話を聞くと踏み出していった友人。頼りになる兄貴分のような男は見せしめのように殺された。
あの日ことを口にしたくはない。
来ないでほしい。そして、決して気が付かないでほしい。
「ああ、ごめん。この人が道に迷ったから、送っていく。ただのゲイムの参加者だろうから」
「じゃあ」
「僕一人で結構。皆の事をよろしくね。すぐに戻るから」
咲願はそう笑ってから足早に物陰へと身を隠した。目の前の男が仇だと知れば彼は
天使を殺そうとするはずだからだ。
「……タラリア」
「うんうん、そうだね、私がプシュケーに踏み入れたら君達はすぐに武器を構える。
ゲイムとかいう騒ぎじゃなくなっちゃうからね。お利口な咲願ちゃんで良かった。
それで、だ。話は聞いたと思うけれど第一戦区にK.Y.R.I.E.と呼ばれる集団が居る。強いよ」
「まさか、僕達にそれを倒せっていう話じゃないだろう? 私たちは――」
「そう、君達は所詮は烏合の衆、って言いたいんだろう。弱く見せておいた方が得だって分かっているんだね。
彼らはボーナスチップを得た場合、そこに付随する効果を全体適応する特例がある。
逆に君達はボーナスチップを大量に渡そう。隠匿の効果、ステータスアップ、なんでもござれ。ただ、取引は覚えているよね」
「……
戦功点を稼ぎ続けろ。常に、僕達プシュケーはカタルモイの中で5本の指に入るチームでなくてはならない。
カブキチョーに留まり続けていれば得だろうけれど、そうはいかない。此処から進軍が決定されて
紛争地帯に突入する奴が居れば狩らなくちゃならない、だろう?」
「そう。また様子を見て君達にも特別な
プレゼントを用意しに来るよ。けれどね、あくまでもそれは君達が頑張ったら、だ。
カブキチョーに隠れて、留まって。誰にも会わずに過ごしているようならば……分かるかな? 統一チップは没収する」
咲願は唇を噛みしめた。仕方がない、これは、仕方がないのだ。
彼が東京に現れた時、K.Y.R.I.E.より先に咲願達はタラリアに接触をしている。
その際に自身らを庇護していた
取引相手の天使が死んだ。その上で、ゲイムに参加すればこの地で「ゲイム期間は安心安全に生きられる蓄え」を与えるとまで申し出たのだ。断ればこの男によって全滅しただろうというのは陽一の姿を見ていれば分かった。
――どのみち、死地に送り出されるのは当たり前の事だったのかもしれないが、構わない。
「分かってる。……ちゃんと、何人かに声をかける。僕達が生き残る為に」
じゃら、じゃらと音を鳴らしたのは多数のデバイスだった。「そーよごん。ごんごんー」と声をかけるのは無数のデバイスをその身に着けた少女だった。
ニゲラは何処にも繋がっていないスマートフォンをぼんやりと眺めている白髪の子供に声をかける。鉄製バッドを手にして東京駅の壁を背もたれにしている、これまたデバイスだらけの子供だ。
「何、ニゲラ」
「そよごん、何見てるわけ? もしかして、
バケモノ?」
デバイスと無数に付けた少女ニゲラはティティフィティアと呼ばれるグループに属して居る。そのリーダーである冬青は「そんなとこ」とぽつねんと呟いた。
ニゲラがゲイム期待のルーキーとやらに接触したとは聞いていた。その上で、別の地区では魔術士であろう一行の姿が見られたことを聞き、少しは距離を取っておくべきかと冬青は彼女との合流後、仲間の待つ第五戦区南部へと向かおうと考えていたのだ。
「あの化け物、さっきまで大人しかったのにね」
「ねー、K.Y.R.I.E.ってやつらのこと美味しそうに見えたんじゃない? タワー上のクソデカトリ」
「どう見ても恐竜じゃね。あれ、いや、鳥? 鳥なら食える? ワンチャンさ」
「食いたくはないなあ。あれ、人間喰ってたくない?」
ニゲラがべえと舌を出せば冬青は「ちがいねー」とからからと笑った。冬青たちがタラリアに与えられた特例と呼ぶべきもある、が、それを冬青はニゲラにも伝えるつもりはない。
空を見上げれば、台場から離脱する イルト=アシェラ(
r2p007700)の姿が見えたか。
「ああいうのにも見つからないようにさっさとずらかろ。
バケモンも地下鉄に住んでるしさ」
「りょーかい」
―――キャアアアアア―――――!
何処からか叫び声が聞こえた。 ジュリアーノ・ベルティ(
r2p008441) の声はよく響く。
慌ただしく東京駅より繋がっている地下鉄線路を駆けていくジュリアーノはひいひいと息を切らしながら地下鉄からの離脱をはかっていただろう。
「イケジメッッ!!!!」
叫ぶ桃色の巨大な物体。
「それは美味しくないんじゃない?」
「サシミ?」
「ううん、もうちょっと……何か……」
「ナマヤケッ!?」
「うーん」
首を傾げたのは猫の耳を生やした可愛らしい少女だった。魔術師を思わせるローブに身を包んだリノン(
r2p008435)は「アーケダマル、ご飯逃げちゃったけど外に色々な生き物気配がするね」と微笑む。
頭を撫でて貰ったのは地下鉄線路にぎゅっと詰まる様にして存在していたアーケダマル(
r2p006335)であったか。
「ゴハンッ!!!!!」
嬉しそうに叫んだアーケダマルは涎をだらだらと垂らして線路内を歩き回る。
先ほど
サーカスも見た。
終末論者も見た。リノンは早くこの可愛い友人に食事を与えてやらなくては、とそう思った。
出来れば子供が良い。新宿の方に居た気がする、けれど、ああ、そうだ――池袋のあたりが騒がしかった。
「……しばらくこの辺りで探して居よっか」
出来るだけ生き残りたい。リノンはきらりと自身の尾に揺らぐデバイスを楽しそうに眺めているアーケダマルの頭を撫でた。
「無事に生き残って、お母さん、探そうね」
「オカアサンッ! マルノミッ!」
――この
天使は何もかもを覚えていないのかもしれないけれど。
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