「まるで、儀式のようですね。
願望器の所有者を選ぶような――」
そう告げる
クワイエットドールは今、第二戦区に立っていた。
東京23区にて行われている
カタルモイ。それは願望器と呼ばれた品を巡っての闘争であるとされている。
ゲイムと呼ばれたそれは誰がどう見てもルールが厳格化されたデスゲームなどではない。
先ほどの彼女の言の通り、これは何らかの儀式であるかのようだった。
「そもそも、ゲイムと呼ぶにしては
校則が曖昧です。
教育要綱だけが存在し、我々にその全てを委ねているかのよう。
……これはきっと、デスゲームの振りをした儀式のようなものなのでしょう」
子供たちに学びの場を与える際に、好ましいキャラクターやゲーム方式で導入を行う様な有様だ。
カタルモイは死亡を必須とし、脱落を要する
死亡遊戯などではない。
そうであると認識している者はそう思わせんと曖昧な言葉を繰り返す
ゲイムマスターの言に乗せられているのだろう。
「ただ、今回は――」
墓守の皆様へ。
クワイエットドールの、『ティティフィティア』冬青の、『どうぶつさんファミリー』リフィネの、そしてK.Y.R.I.E.の前に表示されたのはそうした文言であった。
「
らったんが言ってた新ゲームって、ボーナスステージの事なんだ~?」
ぱちくりと瞬くリフィネの背後でぐわぐわと叫んでいる家鴨と鵞鳥、困った様子でドラミングを繰り返すゴリラと大騒ぎの様相だ。
愛らしい姿をした動物園長は首をこてりと傾げてから「面白そう~!」と手を叩いた。
「面白い? つか、悪趣味じゃね」
そう呟いてやれやれと肩を竦めたのはデバイス泥棒として活動する『ティティフィティア』の冬青だった。
じゃらりと無数のデバイスを自らのアクセサリーのように身に纏う冬青は「思わん?」と振り返る。
クワイエットドールは「そうですね」と目を細めてから周辺を見回した。巻き込まれた
子供の姿が見える。
(あれは、新宿を拠点にしている
不良青少年グループでしたか)
教師である女は、巻き込まれながらも懸命に生き延びんとしている青年が愛しい婚約者の名を呼んでいることに気が付いた。
本日の生まれである幼馴染と共に、偵察に出ていた青年が彼女の行方を捜している。
ミハル・メイフィールド(
r2p008481)を探す蒼灯 契(
r2p008492)は夏には18歳になり、彼女と結婚すると誓っていた。
慌ただしく探す青年の声を聴きながらも、このゲイムに参加するものは何の油断も出来ないことを知っていた。
――墓守げ~~~む!
楽し気な音声と共に姿を見せたのはふんわりとしたフォルムの奇妙な人形だった。
「つまり、馬鹿げた椅子取りゲームでしょ。まあ、説明もう一回聞いたげるよ、言え」
冬青が呆れ半分に言えばリフィネが「みんな、しずかにね~」と家鴨たちに声をかける。
ボーナスステージとして用意されたこのゲームは第二戦区が
決戦に移行する前段階にイベントとして用意されたらしい。
冬青が言った通り、これは椅子取りゲームのようなものである。
プレイヤーはこのゲイム中に
墓守と呼ばれる事となる。
そして、フィールド内にそれぞれの派閥が
運ぶべきお客様が安置されている。
墓守たちは、お客様の身柄を確保して、フィールドに点在している「墓」にその体を安置する必要がある。
ただ、お客様の数と入るべき墓の数は同数ではない。
遺体役であるお客様が入る棺が少ないのだ。すると、どうだ。
入れなかったお客様は墓を喪ったことになる。つまり、ゲイムオーバー。
墓守達は
お客様を元通りの場所に戻せなかった罰を受けなくてはならないだろう。
――残念ながらお客様役の人間のデバイスは破壊され、仮想死亡ではなく死が訪れる……かも?
「ねえー、しつもん! もしどうぶつたちがね? お客様の身体をぼろぼろにしちゃったら?
仮想死亡って、
体の損壊が激しかったらだめなんだよね? 本当に死んじゃったら?」
「そこがミソなんでしょ。お客様を無事に墓に戻さないと墓守の仕事は終えられないもんね。
つーことは、お客様って呼ばれる運搬するべき遺体役を
本当に殺せばこっちが勝利か」
冬青が呟けばリフィネは「こわ~い!」と笑った。クワイエットドールはじっと奇妙な人形を見つめている。
「我々墓守は、お客様を無事にお墓へとお運びしなくては敗北してしまう……と。
そのお客様は我々の知り合いなどであるが為に、仲間を助けたいならばゲイムに参加しろという事ですね?」
――ちゃんと報酬はあるよ~~~! お墓の中にボーナスチップを入れてあるからね~~!!
「信用できなくね」
「信用はしませんね」
「え~、信じられない~」
「クワクワクワククワッ!!!!」
――非難囂々~~! でも始めちゃうからね~~~!!!
唐突に人形が破裂する。ボーナスステージのスタートだ。無数の場所で
お客様が安置された。
K.Y.R.I.E.は、
あなたは、そのお客様の中に知った顔もあった筈だ。
複数の派閥が動き出したというならば、このステージのクリアも目指すべきだろう。
――がんばれ~~、がんばッ
「うるさ」
冬青は指先を銃の形にしてからその人形を撃ち抜いた。クワイエットドールは嘆息し「さてさて今回の新しいゲーム、先生も参戦したいところではあるのですが、この前K.Y.R.I.E.の方々にお腹をさされちゃいまして、そうですね、少々見学をしたいところなんですよ。思ったよりゲーム中の力の減衰が大きいので、差が縮まっている印象なんです。ですが、そうですね――この悪辣なゲームに行きたそうなお顔が見えるんです。ねえ、ロクリュウ先生、アマミツ先生、ナリタ先生、ササナミ先生、学年主任のウメカ先生」と首を傾げた。
「ああそれから、マツシザカ先生やサカダカ先生は、大丈夫なんでしょうか」
くすくすと笑う。
「あー、
クワイエットドールなんて名前なのに、おしゃべりだなあって思ったでしょう」
クワイエットドールが、片目で
カメラを覗き込んだ。
「良く言われるんです。でもね、先生が静かなんじゃなくて、先生のお仕事はね、子供たちを静かにしちゃうことなんですよ」
第二戦区を包み込んだ異様な空気は、じわじわとその場に佇む者たちを侵食していくかのようであった。
命空骸戯 - 旧展示場要塞システム/ゲイム・ルール
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