『――――る? ……きこ………え……もし……もしも…………。
おい、聞こえてんのかクズ! 返事しろ! 巨乳に釣られて出てったかよ!』
ぎいんと酷いハウリング。その場に立っていた誰もが表情を歪めたことだろう。
Barソムニウムに設置されている通信機から響いたのは藤代 柘榴(
r2n000030)その人の声である。
マシロ市トップアイドルの
柘榴らしからぬその声は酷い苛立ちを込めているようだった。
「藤代」
『は? 繋が――』
「心配したか」
『よーーし、ぶん殴ってやる。帰ってきたら頬を貸せ』
雀居 影臣(
r2n000218)が多摩に設置しているのは自身の十八番である聖釘技術を転用しKPAと共同制作した通信網である。元から多摩南地区に広がっていた蒸気機関を活かしてかの地区内に限ってはクリアな通信が出来るようにと心がけていたのである。
――が、その通信が遮断されてしまっていた。
おおよそ外部要因だ。通信に影響が出れば多方面展開された任務にも支障が出る。
特に、
『時計屋』アヴァリティアとの戦いに置いてはシェナ(
r2n000219)の救出も任務の内であったのだ。その為には
『召喚士』イーリロスの足止めを行わねばならなかった。能力者と、そしてノエ(
r2n000225)が彼の事をスルーしたならばイーリロスかアヴァリティアの支援に向かった筈だ。
「そう怒るなよ。予備のドローンを飛ばす都合上、戦場近くに出てた。勿論、お守り付きで。
その道中、通信用設備にケチ付けてフォーカポーカが居たのも確かだ。Barソムニウムに来てたマシロ市の奴らに対処を頼んだからこの俺が居なくても復旧しただろ?
つまり、今、俺に呼びかけてたって事は藤代が俺の事を好きすぎて心配したってことだ」
『テメェ、フォーカポーカだらけの場所にぶち込んでやろうか……』
二人の間の因縁に殊更に触れる気はない。が、苦笑を滲ませていた百合垣 純哉(
r2p002190)は「今……Barの様子は、どうですか……?」と恐る恐ると問い掛けた。
「あー、そうだ。こっちの状況は簡単に報告する。藤代、スピーカーモードってボタン押せ」
『……はい。ちなみにこっちは何人かが
感情を奪われているけれど、比較的マシかな。誰も死んでもないし、任務成功の報も上がってる』
柘榴はちら、と後方を見た。負傷者の傷の手当などは中央街の住民たちが手伝ってくれている。時々、涎をだらりと垂らしたアザーバイドが「齧っていい……?」と聞いていたがそれはそれ。
「皆さん、お疲れ様です。ノエです。……こちらは『召喚士』イーリロスが撤退していきました。
途中、通信系へのちょっかいやドローンへの攻撃などがありカゲオミさんが前に出てくることになりましたが……」
「まあ、無事ってワケだ。イーリロスも本気じゃあなかったな」
カゲオミが軽くそう告げたならばノエは少しばかり苦笑を滲ませながら頷いたか。
「それから――」
ふと、ノエが視線をやれば、合流地点まで春名 朔(
r2n000031)にエスコートされてやって来た大里 杏理(
r2p002672)始めとした面々であったか。
「……ッ、時計屋は……シェナちゃんを……ッ」
「杏理さん……」
気遣うように、そして自らも傷ついた体を引きずるようにやってきた硯 墨花(
r2n000178)がその背を支える。
「でも……
仕掛けは万全っす。カゲオミさんから聞いていた通り
あいつらはこの街を全然分かっていない」
杏理はそう切り出した。アザーバイドによって取り出された
感情。錆び付いた歯車のように、心を軋ませるそれは美しい宝石の形をしているそうだ。
その美しさにばかり気を取られていた天使の腹へと秘密裏に通信機を仕掛けておいた。もしもの時、彼らがアヴァリティアに
たった一撃でも仕掛けられたならば次に繋げられる――
「あの人たちは、この街の事を……分かっていないと、私も思います」
「そうっすよ。フォーカポーカ達が持ち込んだ文明は有効活用できる。けれど、そうしないのはイーリロスが……」
ふと、顔を上げた杏理は傍らに立っていた純哉のかんばせを一瞥した。
イーリロスは元々はノエの知己、もしくは中央街の人間であり、フォーカポーカの持ち込んだ
未知の文明など活かせるわけがなかったのかもしれない。
詰まり、彼は異物。この街をおかしくしてしまった、存在だ。
「……ああ、いえ……彼は、そう、ですね。元々は俺の知り合いで……中央街の人間でした。
追々、話しましょう。シェナが連れ去られたというならば、次の策を講じなくてはならない。
ですが、純哉さんたちがイーリロス始めとした敵の気を引いていてくれたおかげでカゲオミさんを派遣出来ました。
それで、幸いにして杏理さん達がアヴァリティアの追跡の為の
きっかけをくれている――」
『何も分からない訳じゃない、って事だね。
――あのさ、ほう・れん・そうって言葉知ってる? ……本当に無事か確かめたいからとりあえず帰ってきて』
喧噪の中、鋭くそう言った柘榴にノエは「分かりました」とそう言った。ゆっくりと、振り返る。
立ち込める煙の向こうに何もかもが覆い隠されてしまう前に。
――反撃の一手を。
