「天には巨大な翼がその音を響かせ、地には這い蹲る獣が腹を空かせている。
うんうん、実に面白い演目だとは思わないかな? 大地は陥没して大穴を開き、その内部に迷宮を作り出す――とか」
楽し気に告げるジュールヴェールに「迷宮かしら?」「東京駅が?」と囁き合う声がする。
「はは、地下鉄の線路は様々な場所と
穴掘りが成されていてまるで蜘蛛の巣だよ。
旧時代、各地へと向かう交通の要であったのかもしれないけれどね、その頃の知識はあまりアテにするものではなかったね。
我々だって散策をしてみたけれど、見たかい? 腹を空かせた獣が一人の天使を追いかけ回していた。
彼女、片翼を捥がれていた。可哀そうにね、今頃腹の中かもしれない」
そう告げるジュールヴェールに「そんな怖い事を言うでちか」と眉を顰めたのはクリーガーと名乗っている天使であった。
彼女は元々はと言えば多摩南地区にて活動していた天使である。天使イーリロスの傍にいたアザーバイドの
飼育員は今や、かの戦いを終えてから東京へと足を運んでいた。
「全く……
エルシャーの事も見失いまちたし。
ティアは
何とかアライグマに合流してしまいまちた」
やれやれと肩を竦めるクリーガーにジュールヴェールは「君こそ、アンラッキー・ラクーンに身を寄せなくてよかったのかい」と揶揄った。
「……残党扱いされるのは嫌でち」
「多摩南街で活動していた者たち、なんてひとくくりは御嫌いかい?」
「勿論でち。そもそもでちよ。第五戦区南部はK.Y.R.I.E.の拠点がある第一戦区から瓦礫の橋を渡ってすぐ。
化物が活発になっている地下や丸の内を避けて他戦区から向かうとするなら、あの地区は避けては通れまちぇん」
クリーガーは南部の様子を確認してからこの丸の内――サーカス団との合流に至っている。
かの地区は様々な派閥が犇めき合っているが
中央の激戦区と比べれば比較的穏やかな戦いが繰り広げられていただろうか。
「わたちはK.Y.R.I.E.にタコ殴りにされたくはありまちぇんね」
やれやれと肩を竦めるクリーガーにジュールヴェールはくすくすと笑ってから「けれど、此処でも危険な事には違いはないよ?」と囁いた。
「だって――」
大地が揺れる。
軋むように何かがへし折れた。
「あ」
振り返ったクリーガーはのそのそと歩いてくる
大きなピンク色の化物に気が付いた。
「ナマヤケッ!!!!!」
堂々と声を上げたそれがずんずんと迫ってくる。
「イケジメッ!!!!!」
「ずらかるでち!」
――あれは腹を空かせている。餌が地下に来ないからこそ、そろそろ、我慢の限界だ。
丸の内を拠点としている化物は、誰も来なければ
余所へと向かう可能性だってあるのだろう。
「オイシイッ!!!」
「まだ食べられてないでち!」
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