――第三戦区:東部。ここは旧時代の地図であれば葛飾区と江戸川区で構成される。
チュートリアルオーダーが行われたK.Y.R.I.E.の拠点もある台場エリアとは目と鼻の先の片割れだ。
下町情緒の溢れた町並みを中心としたこのエリアはゲイムの舞台としては行き止まりとも、千葉方面に広がる――つまり
外に繋がる場所ともいえる。
そんな場所だからこそ、シュウリ達の
焔狗はやってきたのだ。
「……ちゃちゃまるさん、なにしてるの」
通信を繋いだシュウリは思わずそう声に出した。
ぽってりとした愛らしい着ぐるみのような天使。びたん、びたん、と結界か何かを叩く小さな手はとても可愛らしい。
この愛らしい
小動物めいた上司がシュウリは嫌いではなかった。
あの方々の為に生きるこの天使はいつだって潤滑油のような存在としてあろうとする。
その懸命な生き方そのものが愛らしくて好きなのだ。
「んぇ……その声は、シュウリくんじゃないですかぁ」
むくりと体を起こしたちゃちゃまるがくるりと振り返り通信を見つけて首を傾ぐ。
「うん。こそっと抜けてきた……なんか、ちゃちゃまるさんの後ろ、すごい吹雪に見えるんだけど」
「そうなんですよぉ! 寒くて寒くてぇ……」
「大変なんだね」
わたわたと身体を動かす上司に思わずほおが緩みそうになるのを堪えて、シュウリはこてりと首を傾ぐ。
「シュウリくんの方こそ、大変じゃないですか? 今、カタルモイに参加してるんですよね?
大丈夫ですか? あ、もちろん、シュウリくんもつよつよ天使なのは知ってるんですけど!
ウルちゃんも偵察に出ているんですよね?
あの子は、はやとちりなところがあるので心配です!」
「ふふ、良いよ別に。ゲイムマスターには勝てないのは事実だもん。
ウルも、一緒にはいないけど、元気みたい。
部下の子は少しやられちゃったみたいけど、色々調べて回ってるよ」
まるまるとしたフォルムはできうる限りの愛らしさを追求して、体躯と比してあまりにも小さな手をわたわたと広げる。
「それに、ボクも
会いたかった人に会えたんだ。
ボクのことなんてすっかり忘れた薄情な人だけど」
「シュウリくんが無事で、会いたかった人にも会えたのも良かったです」
うんうんと頷くその人に、ありがとうとだけお礼を言ってシュウリは微笑んだ。
「……って、こんなことを話してる場合じゃなかった。一応、連絡しておこうかなって。
ボクたちは今、東京の第三戦区ってところにいるんだ。なんか、カタルモイの戦場だと東の端みたい」
「おお~~! 何か情報はありますか?」
「んーー……なんか終末論者がいっぱいいる」
終末論者の組織として名高い終鐘教会、その分派たる
アルマ=ミラ修道院。
終鐘教会と手を結んでいるらしい
アルコ・イリス。
それに
和魂同塵紫雲の会と名乗っている魔女もいたか。これでもかというぐらいに終末論者達が此処にはいる。
「へえ~~!仲良くなれますかね?」
「どうかな……あ、
ネオフォボスと
テオフィロは合流するのかな?」
「ふむふむ。テオフィロ、あの魔術師さん達ですか~」
「あー。あと、知らない勢力もいる。
図書館、とか名乗っているらしい」
心配そうに呟くちゃちゃまるを誤魔化すようにシュウリはそう言葉を重ねる。
「わあ~、ちゃちゃまるはあの絵本が好きですよ! おおきなケーキやくやつ」
「じゃあなんか良いの見つけたら持って帰ろうか?」
そう大きく体を動かして言うちゃちゃまるに小さく笑って――
アレの音がする。
「それから、ほら」
シュッシュ、ポッポ、シュッシュッ、ポッポ――それは大破局以前であったって珍しい部類になってしまったものが響かせる音色。
「聞こえる?」
「えっ!?何ですか、すっごいデカい鈴虫いましたか!?」
「電車」
「電車!」
「あ、でもあれ電車なのかな。機関車じゃない? まぁ、どっちでもいいか」
血色の排煙を引き連れた漆黒の車体、被害者たちの血液をしっかりと残して爆走する壊速列車 ジャガーノート(
r2p007139)の姿。
ポッポッ――
視線を横切るそれは、そのまま何処かへと走り去る。
「おお~~すごいですね。あれ手に入ったりします?」
「ううーん、どうだろ。お二人は喜んでくれるかな?」
そう言うちゃちゃまるに、こてんと首を傾いでそう笑って――
「こんな感じで、ボクらは今のとこ参加してるよ」
「はい、分かりました! 心配ですけど……こっちはこっちで勾玉と向き合わないとですね」
シュッシュ、ポッポ、音がする。
あれがまた近づいてきているのだろうとマリアム・アルマ(
r2p006122)は湛えた微笑みのままに地平を見た。
「アイリ」
「はい、マザー」
アイリ・クルネル(
r2p006942)を見つめ、慈母のように笑うその人の視線にはどこか冷たささえもあっただろうか。
「
あの子が居たそうですね?」
「……はい」
「私のアリシア、穢れてしまったあの子を連れ戻しましょう」
ふわりと甘い蜜の香り。
「怯えているようですよ? 少しは手加減をしてあげたらどうです」
ぽってりとした唇から艶めかしく吐息を漏らしてそう告げたのは神葬世界 真逆悟得(
r2p002538)だった。
「えぇ、分かっていますとも。私達の目的は
指導者の望む
願望器。
けれど、その過程に求むる物はそれぞれのはず。それはそちらも違いないでしょう」
冷え切った微笑みを浮かべてマリアムがそう言った。
異なる輝きを秘めた黄金色の瞳を交えた二人の女傑はその内面の激しさを挑発めいて覆い隠している。
「そうですね? えぇ、もちろんわたくしにもわたくしの目的はあるのですから」
これはお遊戯程度の挑発だった。事実、真逆にもまた、己が求めて止まぬ唯一があるのだから。
「ところでぇ、
劔醒会が派遣するって言ってた花月って人達はまだ来てないんですかぁ?
一番近いところに拠点があるくせに遅刻してるなんて♡
ヒーローは後からやってくるですかぁ? 許せないですよねぇ♡」
ひょこりと真逆の後ろから顔を出したファルラ・エリュシオン(
r2p005374)がにやりと笑う。
「最も東京に近い場所に在るが故に、己らにとっての敵に動きを制限されているということもあるだろう」
加虐的に笑んだ少女に静かにそう告げたのはAlphard(
r2p005591)である。
コスモスの存在はアルコ・イリスにとっても見逃す事の出来ない代物だった。
(あれは告解時のエネルギーを蓄える器とも成り得よう。
そうでなくとも、その力があれば我らが目的には確実に一歩近づけるだけの力がある)
Alphardは同じように
指導者から集められた終末論者達から傍に控える少女へと視線を移す。
「輝帆。主に命じておいた偵察はどうなっている」
「えぇ、K.Y.R.I.E.がこっちに来る可能性もありそうね。もしかすると南部かもしれないけれど」
濡れ羽色の翼を畳んで天ヶ瀬 輝帆(
r2p005183)は静かにそう言った。
その視線は天使であるアイリに冷たさを帯びた視線を向けているか。
「それに、気になるのは図書館ね。焔狗は第八熾天使麾下の天使達だけど、こっちは分からないもの」
そう言葉を重ねた輝帆にAlphardはコクリと頷いた。
「情報交換といこう、それなりに勢力が揃えば此処もまた紛争地帯となるだろう」
天使達が図書館と呼ぶ迷宮がある。
それは何処にあり、何処からか招待状を持って誘う迷宮だという。
「コスモス、気になりますね」
フクロウの翼を広げた天使、ארמיאל(
r2p002402)は『全知全能の書』と呼ぶそれをぱたんと閉じてそう呟いた。
歪な願望器であるというそれを探る為、
指命図書の何人かを誘って此の地へとやってきた。
「紛争地帯で戦功点とチップを稼ぎ、
決戦に勝利する。それが基本的な流れであるようですね」
ちらりと視線を上げて傍らに控えるμαχηνα≡λυκόφως(
r2p006263)を見た。
直衛たる天使は今はまだ静かに控えるばかりだ。
「テオフィロとネオフォロス、此処にK.Y.R.I.E.が入ってくれば恐らくは此の地も紛争地帯となるでしょう」
台場区に彼らが訪れた今、燎原に広がる火の如く戦いは加速するだろう。
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