――人の気が充ちている。
マレビトが
神奈備へと踏み込んだか。
「全くもってけしからん! 我らの領域に入り込んでよいのは朝夕のお散歩。三食とおやつ。午後のお昼寝を与えてくれる従者だけであっただろう。
あれらは
自己の欲を満たすためにこの諏訪へとやって来たと言うではないか! けしからん!」
偉大なるわんを自称するモフモロス ホネスキー(
r2p006708)がふんすと鼻を鳴らした。
禁足のまじないが張り巡らされた諏訪の湖畔。この場所には人類は一人も残らず、神霊や精霊たちの寄り合いの場となっていたか。
――故に、この地に根付いていた信仰は一度ぱたりと閉ざされてしまったであろう。
元来よりこの諏訪地方は神霊や精霊を祀っていた。その篤き信仰はこの地を確かに守護してきたのであろう。
街並みは嘗ての儘、時を止めたように沈黙している。
人類の気配だけがごっそりと抜け落ちたその場所がモフモロスは好ましかった。
翼をぱたぱたとはためかせる雀雷(
r2p005568)は複数の集団を作りちゅんちゅんと鳴き声を上げている。
雀雷が通り過ぎた山間にぞろりと蜷局を巻いていた山蛇(
r2p005769)はぺろりと舌を見せた。
人の手が届かなくなったその場所に山蛇は居を構え、のんびりと過ごしてきたのだろう。雀雷の気配に走り出した狼の変異体をぺろりと頭から丸呑みしてはまた転寝をしたか。
「誰が来たと?」
イザナマリア(
r2p002185)はこてんと首を傾げた。金色の瞳が揺らぎ、射干玉の髪が地を這うように揺らいでいる。
「人間だ」
モフモロスが鼻先をふんと鳴らしたならば、イザナマリアは――天使の食べ残しであり、とある世界にとっての
悪足掻きはくつくつと笑った。
「へえ、人間。人間か。それはこの世界の支配者じゃったな?
よもや、このような場に辿りつくとは……わらわにとっては隣人であろうがそれが来たならば
天使も訪れるのかえ?」
「その通りだ」
「そうか、そうか……なれば、もう、昼寝を楽しんで居る暇はあるまいな。
この世界も愚弄され、穢され、嬲られてしまうのであればわらわは天使諸共この世界を作り変えて
わらわのものにせねばならぬではないか。
――のう、そうしても良いか。
フナドノサエ。この地に住まう神霊にして、唯一の大祝よ」
イザナマリアの視線の先には美しい水の気をその身に宿した精霊が佇んでいた。
水晶で作り上げられた鹿の角。まるで蛇を思わせる肉体は魚の如く変化を帯びる。
うっすらと光を帯びる神霊はこてりと首を傾げたように見えたか。
――
好きにすればいい。ただ、
彼女を護る事だけを考えていればいいのだから。手段は問わぬ。
彼はフナドノサエと呼ばれている。この地に根付いた信仰は人類が絶えた事によって途絶えてしまった。
しかし、八百重に神々が身を寄せて座するようになってからこの地では
神議が行われることとなっただろう。
フナドノサエは眷属の一人であった。その身にこの地の支配者なる神を降ろす者が絶えてから、唯一、彼の身が名乗り出たのだ。
故に、その性質は何者かとも称することは出来まい。この地に根付く信仰が無数に終結し、新たに作り上げられた終着点こそがフナドノサエであった。
彼は現人神であり、
神籬であり、
憑坐であった。
彼は塞の神であり、
神使でもあっただろう。
故に、神域は立ち入らせぬ。守らねばならぬ、彼女を。讃えねばならぬ、彼女を。
――彼女はまだ、人を認めてはいない。
「彼女はどうしている?」
モフモロスの問いかけにフナドノサエは首を振った。
未だ深い深い眠りについている。
ならば人の子より長く生きるその身で
惑わせ続ければいい。
――さあ、
この地に住まう者たちよ。マレビトへと歓待を与えてやろうではないか。
ロストアーカディア二周年!
