カブキチョータワー前にはビニールプールが設置されていた。
放棄されたホームセンターから得て来たそれに水をたんまりと溜める事が出来るのはプシュケーと呼ばれた派閥がタラリアから与えられる特権が故だろう。衣食住、困らぬ様に与えてやる――だが、戦功点を常に得続けろ。
各戦区に幾人かの派遣を行い偵察を続ける。
丸の内を通らずに済むだろう区画にて戦功点を稼ぐことがプシュケーのできる最も安全な稼ぎ方だった。
「いきなりプールって、まじだるいよ。絶対後で寝る」
そうやってぼやいたのはビニールプールから上がって備え付けられたベンチでぐったりと座っていた御徒待・小町(
r2p008548)であった。非戦闘員であった仲間たちと少し遊んでから
皆の帰りを待っている。
単調な毎日がずっと続いてほしいと願っていた小町は「だるい」と口にしながらもこうしたイベントに参加していた。
――K.Y.R.I.E.との
方向性を決めてから幾人かが離反した。
第二戦区、第三戦区と戦いが終結し、小町は今か今かと身構えていた。
彼らがやって来たならば向かい合わねばならない。第五戦区に姿を見せたK.Y.R.I.E.に
離反した者達が接触を目指しているはずだが、その辺りは小町にはあずかり知らぬ所であっただろう。
「ただいま! えっ、プールじゃん、やろうやろう! 水着着てマジビーチ気分で行こう!
ボス~! 仁菜パイセン! 水着着て! あっ、すずちゃーとか凛ちゃんパイセンも帰ってくんじゃん。プール遊びっすよ!」
モイッセオでの戦歴を華々しく残し、
戦功点を手に帰還したばかりの百鬼夜継 鈴蘭(
r2p008409) は意気揚々と一度タワーに引っ込んだ。それからすぐに帰還したかと思えば愛らしい赤いビキニを着用してビニールプールへとダイブする。
「ぎゃっ」
飛び込んだ鈴蘭によって跳ねた水を顔面で受け止めた日向 絵麗奈(
r2p008437) が「着替えてないのに!」と叫ぶように鈴蘭へとクレームを一つ。
「えー?」
「えーじゃなくってぇっ! ひ、ひどい!」
濡れ鼠になった絵麗奈がぐったりと腕を降ろした様子を見て「面白い。着衣でびしょぬれスプラッシュバトルとかやってもいいかもしれないな」と栞 咲願(
r2p008061) が笑う。
魔法少女らしい可愛らしい水着に身を包んでいる咲願はそうと足先をビニールプールに着けてから「気持ちい」と呟く。
「モイッセオ、頑張った甲斐があった。ね?」
「……ね、じゃないわよ。水に入る奴は水着着なさい、水着。風邪引くから。咲願も折角水着に着替えたんだから、もう一度服を着ようなんて悪だくみをしなッ――雀!!!」
咲願の気紛れに注意を促していた武良井 仁菜(
r2p008414)の傍らに、モイッセオから帰還したばかりの小鳥遊 雀(
r2p008449)が姿を見せた。そのまま勢いよくビニールプールの中に飛び込んでいく――無論、着衣のままで、だ。
「わあああ、つめたい! すごい! ここが我が癒しの地! びにーるぷーる!
服のままで入るとぶわあって服が広がって面白い……! ふふふ、くらげになったみたいだ……!」
「雀! 今何て言ったかッ!」
「わっ、になが怒ってる! 助けてさがーーーーん!!!!」
慌ててばしゃばしゃと水の中を行く雀は服が水を吸って動き辛い。慌てる雀の首根っこを掴んだ仁菜が「風邪をひくって言ったでしょう!」としかりつけるようにそう言った。
「で、でも……ばしゃばしゃってきもちよさそうだった。なあ、こまち」
「あ、水着だから」
「う、うらぎりもの!!! なっ、なあ! すずらーもうらぎりものだ……えっと、えっと、なあ! あいあんまん!」
「入っていません」
「うらぎりもの~~~!!!」
御茶ノ水 鉄人(
r2p008436)は眼鏡の位置を正してから「ただいま」と声をかけた太刀花 紬(
r2p008458)に頷いた。
「プールか? いいな、涼し気だし、暑いからな、最近。お前も入れば?」
「え? あーしも? ん~、どうしよっかな~? つむぐはどうしてほしい?」
「はあ?」
揶揄うような視線を向けて楽しげに笑った田中 凛(
r2p008448)は「うーそ、ころねとプール入ろっかな~?」と楽しげに笑った。「プールの中で喧嘩ですの!?」と瞳を煌めかせる烏丸 転音(
r2p008464)に「やっぱスプラッシュバトルかな」と咲願が呟く。
「え~、たのしそうじゃーん、やっちゃう?」
「いいですわね! バトルならいつでもしますわよ!」
楽し気な二人を眺めていれば紬の中にたまった疲弊もいくらか和らいだ、が――鉄人までが外に出て待っていたというならば遊びが目的ではないだろう。
「で?」
「……ああ、本題をしておきましょうか。まずは、モイッセオお疲れさまでした。
戦歴に応じて
戦功点が加算されているので、今回も無事にタラリアからご褒美が与えられたことを確認しています。
それと……現状についてのデータがありますので確認をお願いできますか? 出来るだけ、早い方がよいかと」
鉄人の言葉に、楽しげに笑っていた咲願の表情が失われていく。傍らにいた仁菜は雀を捕まえていた腕に力を込めた。
「にな、いたい、いた……んん、あいあんまん、簡単に教えてくれ」
「はい。これまでよりも一番近くにK.Y.R.I.E.が接近しています。
地下通路を利用した彼らは丸の内を避けようとしているようですが――」
「出来ねえだろ。あの
莫迦怪獣が卵をボコすか産んだ上にジャガーノートまで入り込んでる。
奴らが足止めされるなら丸の内だ。どのみちサーカスと殴り合いが発生するだろうが……それだけじゃねえんだろ」
紬に鉄人は頷いた。小町は「冬青は」と掠れたように問う。
「冬青も西側に移動をしているはずです。東がK.Y.R.I.E.の陣地となった今、西を取り合うほかありませんから」
「そう……。じゃあ、西側で、冬青ともK.Y.R.I.E.ともぶつかり合うかもしれない、んだ」
呟いた小町に「話が分かる相手だと思ってるけどなあ」と困ったように鈴蘭が呟いた。
鈴蘭の様にK.Y.R.I.E.に好意的な人間が居るように、対照的に警戒を弱めないものも居る。それが鉄人や仁菜、それから、
「K.Y.R.I.E.……」
ぞっと絵麗奈のかんばせから色彩が消えていく。辛いだろうと声をかけた鉄人に少女は幾度となく首を振った。
「違う、違う、あれは、違う。だって……あれは、あたしが悪かったから。
契くんを殺したのは、K.Y.R.I.E.じゃ」
そこまで口にしてから絵麗奈は思わず口を噤んだ。俯いた絵麗奈の背を撫でた転音は「どうしますの?」と問い掛ける。
「あーしらは、K.Y.R.I.E.に宣戦布告をするんでしょ。それも
あーしらが有利な場所で」
凛をじっと見つめた鉄人は「そうするべきだと、考えていますが。どうしますか?」と咲願を見た。
「第五戦区の決戦はどうなるかは分かりません。ですが……第七戦区での戦いに挑むならば、そちらへの特攻準備としてタラリアからボーナスチップが大量に配布される。
第七戦区では、
我々が勝利できる確率は80%を越える筈だ。マシロ市が此方に手を貸す確率は60%はあるでしょうが、その場合は冬青たちとは――」
「……その時になれば、時期に分かるよ。それじゃあ、僕達も
決戦への参戦準備を始めよう。
とりあえず、タワーにある食糧根こそぎ集めてみんなで食べよう。んで、腹を満たしてさ、言うんだよ」
――戦いに出る準備が出来ている奴は、
【覚悟完了】ってアピールしてくれ、ってさ。
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