東京における天使の仕掛けたゲイム『
命空骸戯』の
第一回戦が終了した。つかの間の安息を労うかのように、甲府盆地の湖からは春めいた風が吹き抜けている。
この先にある諏訪湖は八尺瓊勾玉によって早すぎる冬に覆われ雪までちらつくというが、この場所からはとても想像ができない。
更には多摩で心を奪われた仲間達がその
宝石を巡り争っている。
『つかの間の安息』などとは言ったが、どこも安息とはほど遠い状況であった。
そんな中。
龍宮寺 蛍(
r2n000027)はただひとり、端末すら握ることなくその水面を見つめ続けていた。
「おや。少年、チュートリアルが終わってここは
外なのにそのデバイスはつけたままか?」
声に振り返る蛍の耳には、カタルモイの参加者であることを示すデバイスが飾られている。
「シェス博士……少年はやめてください」
「君は少年だよ。子犬ほどのサイズの頃から少年のままだ」
「ならあなたをくろねこ先生と呼びますが?」
「それは辞めて欲しいな」
フッと笑い、同じく湖を見る。白衣のポケットに手を入れたまま、風に髭をゆらしていた。
シェス・マ・フェリシエ(
r2n000067)が眠たげに
眼を細めるほど今日の風は心地よい。
「ゲイムフィールドを出ればデバイスは消せますし、そうしている仲間もいます。ですが、俺は存外悪くないと思っているんです。造形美や機能美は、善悪とは切り離される」
「サヴェージを見れば食べられるかどうかを聞いてきた少年ならではだな」
「そういうわけではありませんが……」
「今日も
甲府観測所へ来たのだろう。まだ鉄道も開通していないというのに、よく頻繁に通うものだ」
「それなら――」
蛍が答えようとしたところで、別の声がそれに続いた。
「これからまさに、『仕上げ』が始まる所だ」
黒崎 光太郎(
r2n000041)がゆっくりと、蛍たちへと歩いてくる。
かと思えば、時谷 星竜(
r2n000134)や綾瀬原 宵(
r2n000158)、そしてスイッチャー(
r2n000227)の姿もあった。
一番シルエットとして目立っているのは歩く戦車のような造形をしたデルタ(
r2n000014)なのだが。
「鎌倉を終着駅にしていたマシロ電鉄鎌倉線を、富士橋頭保まで延長する。ようやくその目処がついた」
「まあ、目処というか……旧時代のものを出来る限り利用している事もあって線路も駅舎もすぐに作れるから、いつやるかの問題でしかなかったけれど」
星竜が苦笑を浮かべると、宵も同意するように肩をすくめた。
「さすが、磯子・横須賀間を瞬く間に開拓しただけはあるわ。建設技術じゃ旧時代と比べものにならないわね」
「で、
それ以外の問題のほうも比べものにならない、って?」
スイッチャーが皮肉げに唇の端をつりあげてみせると、『その通りです』とデルタが深々と頷いた。
「江ノ島には監視哨や
重要神秘拠点を、湘南には武器保管庫や海水浴場を、小田原には旧コロニーの再利用を、箱根には研究施設を兼ねたKPA高専と温泉施設を、そして御殿場にはマシロ市外郭を上回るほどの壁で覆った要塞を建設する予定です。
これが、我々の暮らす『マシロ市』のボーダーラインとなるでしょう。
そのためには、物資を効率良く輸送する鉄道網は非常に有効になります」
「たしかその要塞の先に軍事基地を作るという富士橋頭保にも鉄道は繋がる、のよね?」
宵が首をかしげて見せると、デルタは再び『その通りです』と頷いて見せた。
「ま、敷いた建てたでコトが済むなら僕等もわざわざマシロ市を壁で覆ったりしなかったでしょ。あっちじゃ天使、こっちじゃサヴェージ、そっちじゃ荒くれ能力者、ついでに邪霊も暴れてるときた。こういう連中を一斉に排除して、ようやく鉄道網は完成ってコトになる!」
パチンと手を合わせ、その両手を開くスイッチャー。
「特に、富士橋頭堡は酷いんだって? 軍事基地を攻めるだけあって大軍勢らしいし」
「問題ありません」
今度は『その通りです』とは言わなかった。
デルタはアイシールドを淡く発光させ、湖を見やる。
「戦友殿が力を合わせ戦うのです。必ずや、脅威は払われるでしょう」
「そういうことだ。第一、私達はこんなところで止まっている場合ではない。アーカディアイレヴンたちが動き出した今、常に攻め続け、その先へその先へと進み続ける必要がある。ボーダーラインと各主要施設の建設は、帰るべき場所を守るためのものだ」
光太郎が重々しく言うと、蛍がくるりと湖に背を向け彼等へ向き直った。
「それもあるが……鉄道が通ってくれると俺達が甲府観測所にも通いやすくなる。是非、成功させてくれ」
「「勿論」」
星竜や宵たちの声が重なり、そのことに彼等は顔を見合わせ、小さく笑うのだった。
その時、幾人かの電子端末にK.Y.R.I.E.より緊急の連絡が滑り込む。
「何」と言ったのは誰だったか。急拵えで用意されたアガルタ観測所への富士橋頭保よりの伝達は東京と呼ばれる地での出来事の通達であったか。
「のんびりとしている、訳にはいかないようだな……。
次回進軍先選択か。時間的猶予は与えられているようだが――」
あまりに情報が欠落しているのは
らしさだろうか。旧展示場要塞net.を通じて次回のK.Y.R.I.E.の向かうべき進軍エリアの投票が開始されていた。
されど、その詳細をこの力は見る事は出来ない。シェスは「少年」と心配そうに蛍へと声をかける。
「……きっと、こうしたセレクトを行う時間がつかの間の休息の扱いなのかもしれない。どうか、気を付けて――」
命空骸戯 - 旧展示場要塞システム/ゲイム・ルール
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