この世界にはたくさんの不幸せがあるらしい。
幸せだと笑っている人は一握りで、いつだって誰かを恨んで、恨んで、妬んで、蔑んで、そうやって生きている。
そんなの世の中のジョーシキで、わたくしはその不幸の一粒。宇宙規模ではただの素粒子、なんちゃって。
だから、こんな世界になんの期待もしていないし、こんな世界で誰かがわたくしをお姫様にしてくれるだなんて思っても居ない。
わたくしは、わたくしを救ってやらなくちゃならない。
世界は呆れる程に理不尽で残酷だから、わたくしのような
ザコモブエネミーさっさと呑み込んでしまうのでしょう。
それならそれで、構いませんとも!
飲み込まれるまで散々抗って、手段何て択ばずに、ただ、ただ、
わたくしが思う通りに進みましょう。
――だから、これはわたくしの記憶だ。
「そよごん様」
甘宮 七竈(
r2p009073)はその背中に声をかけた。
白い髪は雪のようにはらはらと降り続ける塩雨に溶けてしまいそうにも見えた。
薄汚れて来てしまった白いジャージに、返り血が滴った鉄パイプ。その辺りで拾い上げましたと言わんばかりのお粗末な武器を軍場 冬青(
r2n000257)が捨てる。
「ん、どした」
「……決勝戦に行く前に聞いておきたいことがあるのですけれど、よろしいですか」
「いーよ、七竈はかわいーかんね。何でも聞きなよ。ぼくが旧時代好きだった食べ物とか? あずき入ってるアイスとツナマヨ」
「そういうのじゃなくって」
揶揄うように笑った冬青は傍らで
天使の死体から武器を奪い取っていた磨黒 尊(
r2p009030)へと「たけるんはおかかだよね」と問い掛けた。
「おにぎりの具の話じゃねえだろ」
「その顔で
おにぎりって呼ぶの可愛すぎるだろ、握り飯って言えよ」
「握り飯って言うやつの方がおかしいだろ。んで、ほら聞いてやれよ」
肩を竦めた尊に――ティティフィティアで共に歩いて来た青年に、七竈は一つだけ礼を言ってから問い掛ける。
「ニゲラちゃんをリーダーに決勝に参加しないメンバーに棄権用チップを渡したのはどうしてですか」
「ハンパな覚悟じゃ邪魔んなるからだよ。ミハイルさん
家の人らと協力する準備はしてる。
皆が皆。シレネみたいなやつじゃねーんだってば。ななも、たけるんも逃げたくなったらいつでもいいな、無理強いはしない」
七竈は「どこまでだってついていきますもの」とそうぼやいた。シレネ(
r2n000259)だって、きっとすべて気が付いてる。
軍場 冬青が何を考えているのかも。その最後の最期まで傍に居ようとしている事だって。
七竈だって気が付いてしまっていたから、冬青に聞きたかったのだ。
「ねえ、そよごん様――……生き残ったら、何がしたい?」
わたくし、あなたに生きていて欲しいの。
ただ、そんな願いだけがそこにあった。
わたくし、あなたと一緒じゃないと生きていけないの。
ただ、あなたが遠くに行こうとしている気がして仕方がなかったから。
「生き残ったら? ん、そだなー。じゃあ、あれだな。焼肉食べほしよーぜ、みんなでさ」
七竈は緩やかに視線を向ける。渋谷に吹く風は気味の悪い気配までもをさせている。
――
ぼくの願いは何処までも薄汚くって貪欲だ。
そう告げた冬青の願い事が、そんなちっぽけなものではないとも知っていた。
七竈は冬青に飛びついた。何時だって抱きしめてと乞えば抱きしめてくれる、誰かの為にそうあろうとしてくれる優しい人。
「だいすき」
「ぼくも」
この世界にはたくさんの不幸せがあるらしい。
幸せだと笑っている人は一握りで、いつだって誰かを恨んで、恨んで、妬んで、蔑んで、そうやって生きている。
そんなの世の中のジョーシキで、わたくしはその不幸の一粒。
だけど、たったひとりだけの大好きで、大切で、失いたくはない人を諦めなくちゃならないなんて――許せない。
「勝ちましょうね、そよごん様」
渋谷。
今、決勝戦の開始エリアになったその場所で、開会の声を聴くその前の。
「ん、勝とうぜ。焼肉な」
――そんな、刹那のわたくしと、あなたたち。
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