焦げ臭い。
半ば燃え落ちたシアターの燻る
炎に水がかけられて、細い煙が棚引いた。
石畳の水溜まりに映るのは火傷だらけの氷ヶ﨑 黒宵(
r2p007957)。その血肉たる氷はそこかしこが溶け落ちて、ふらつく乙女は膝を突く。
「はぁっ…… ふーー……」
刺突剣は握ったまま、なれど。もう周囲に敵意はない。石畳のあちこちにはウーアツァイトの欠片が散らばり、奴が着飾っていた感情宝石が場違いなほど美しい色彩を放っていて。
「今回は……私達の勝ち、ね」
元凶こそ退いたけれど、確かに掴んだのは勝利だ。一息を吐いて顔を上げれば、心を取り戻した仲間達が見える。
「――よかった」
その場にいる誰もの心をリウラ・ヴィアンシエール(
r2p005000)が代弁した。仲間は心を取り戻し、新たに奪われた心もなく。なにより――リウラの視界で輝いていたのは、かつてレイヴンズが助けた者らが、決死の覚悟で助けに来てくれたことで。
見返りを求めて『救ける』わけではない。お礼を求めてリウラは『救済者』になったのではない。それでも――自分の成したことが虚無ではなかったと実感できることは、やはり心に光が灯るような心地がして。
「ありがとう、……」
心を取り戻した仲間に肩を貸されている梅崎 百二(
r2p006617)が、弱々しくもそう呟いて。だからリウラは振り返って、ひだまりのような笑みを返した。
「どういたしまして!」
――決着はついた。
「ファドリン、おやすみなさい。良い夢を」
そう呟いた綾瀬 久遠(
r2p000480)の、両手の上には
何も無い。さっきまでは『彼』がいた。『人形師』ファドリン――その華奢な体躯の感触も、冷えていったぬくもりも、流した涙のきらきらした粒も、今はもう、
遠いところ。
――石畳には激戦の痕。散らばったウーアツァイトの
欠片。フォーカポーカと一緒に幸せな夢を見たまま、幼子は安らかな眠りについた。その最期がぬくもりに包まれていたことを……久遠は、そして周囲のレイヴンズは、ひた祈る。
(こんなの偽善だってわかっている)
それでもこうしていたいから。――これは、久遠達が生きる為に選んだ選択だから。
この罪と罰を、忘れない。
――そして。そんな『感情』を弄ぶ権利など、誰にもない。たとえ
怪物共にとって……どんなに美味しそうで魅力的でも。
それぞれの描いた価値の果て、しじまが訪れた
異形都市で、春秋 佑河(
r2p000035)は深く長く息を吐いた。
自分の掌を見下ろす。閉じて、開く。護り抜けた感情は今も佑河の中で煌めいている。
(感情ってのは、人を構築するピースの一つだ。持ち主から離れちまった感情は、どんなに輝やかしかろうが感情としての価値を俺は認めねぇ)
鳥の影が緩やかに通り過ぎる。ハイ・ファミリアで見る戦場は、また一つと終わりを迎えているようだ。
ひときわ大きな戦いはどうなっただろうか。煙る街は、なにも見せてはくれなくて。
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