「というわけで~」
と、七井あむ(
r2n000094)は、いつもの様子、いつもの調子でひらひらとレイヴンズ達に向けて手を振った。
一点、いつもと違う箇所があるとしたら、なんともかわいらしい、見たこともない衣装を着ていたところであろうか。
ここは箱根。人類にとって、再び手を伸ばすことのできた、新たなフロンティアといえようか。
「諸君、お疲れ様~。
マシロ電鉄西部延伸作戦。
見事完遂、って感じだね~。
いや、えらいよ~。もろもろ大変な中、よくがんばってくれたのだ」
ふふ、と微笑むあむは、心から、みなの戦いと苦労をねぎらってくれているようだった。あむの後方には、広大な敷地に建設された建物が存在していて、まるで研究所か、そういった施設のようにも見える。
「そちらの衣装は?」
Elaine Willy(
r2p000291)が、僅かに不思議そうに視線を向けた。というのも、いつものあむの趣味的な衣装というよりは、何処か制服的な意匠を感じ取れたからである。やはり、後方の施設にも関与しているところであろうか。
「うん。Elaineちの想像通り。
制服。ま、ぼく専用のカスタムはしてるけどね。
まぁ、さておき、こっちこっち。ひとまず、この建物の中に入っておくれ~。クーラーも効いてるよ。今年は五月だって言うのに、熱いからね」
あむに連れられて敷地の中に入れば、なるほど、なんというのだろう、機械的な香りと、本の香りが混ざったような、つまり興行的な設備と学校的な設備が合同されたような、そんなような感覚を覚えたものだ。瀬田松 柚(
r2p002336)がブレイド(
r2p007069)を抱きしめながら進めば、ブレイドも、何処か興味深げにあちこちへ
視線を送っているようだった。
「工場……ですか? でも、学校みたいな感じもします……?」
「工業高校、のような感じでしょうか?」
シンディー・"ヒンキーパンク"・フォーサイス(
r2p000146)は、小首をかしげながら言葉を紡ぐ。
「詳しくはありませんけれど、何処か刻陽学園の、工学部の学舎に似たものを感じますわ! それを、すごく大きくしたような……」
「お、二人とも正解。
そうだね、工業高校というか、昔の高等専門学校というか。
ここはね、KPAが出資、というかプロデュースして作った。KPAの工業育成学校。
名前をつけるなら、
KPA工科学校って所かな~。
つまり、より専門的な工業科ってかんじ」
「ほう、絡繰の学校、ということじゃな?」
愉快げに、メリジュアナ ククリ(
r2p007383)は笑って見せた。
「魔女たるわらわには縁の無いところでもあるが、しかしマシロの地が、こういった科学によって運営されているのは知っておる。
そう言った次代の担い手を育成するというのであれば、良いことでは無いかな?」
「そうね。実際、私達もKPAの技術者達には、お世話になっているわけだものね」
ふむ、とアリステラ・ルクスターム(
r2p004298)も頷いた。人類の生存権が確かに拡大し、そして、こうしてその未来を繋ぐための施設ができあがってきている。それは、人類にとっても、輝かしい未来を感じさせられたし、自分たちの行いが、確実に人類の未来を築き上げているということの証左にも違いない。
さて、一行は学舎の内部に入った。玄関口は、まさに学校というような形をしていたが、別の方向を見れば、最新式の工業機械が、生徒達を導くのを今か今かと待っている様子が見えた。柚あたりなどは、目を輝かせただろうか。内部の観光がてら、少し遠回りをして、あむは一行を職員用の会議室に案内した。あむの言うとおり、クーラーもしっかり効いているところから、インフラ担当者達も相当に頑張ったのだろうと想像ができる。
「んでは、まずは、改めて『マシロ電鉄西部延伸作戦』の完遂、お疲れ様~。
今日ここにいないメンバーも、すっごく頑張ったと思う。ほめてつかわす」
ふふ、と何処か得意げに、あむは笑った。あむからしてみれば、自分の子供達が、しっかりと結果を出したようなものであろうか。それは何処かこそばゆいが、あむの最大限の称賛だと受け取っておこう。
「報告書は受け取ってるけど、一応、各々確認しよっかな?
Elaineちから、お願いできる」
「ええ。では」
こほん、とElaineは咳払いをして見せた。
「私達は、
箱根駅の延伸作戦に参加しました。
駅の建設現場での、敵性存在の討伐と、九頭龍大社の精霊蛇との交流です」
「Elaineちたちのおかげで、箱根は見たとおり。ありがとね。おかげで工科学校の建設も早められたよ~」
「それは重畳です。
Ms.柚は、江ノ島での作戦でしたね?」
Elaineが柔らかく笑うのへ、柚は頷いた。
「は、はい!
天使の縄張り争いに巻き込まれてしまったのですが、そのどちらも、やっつけることができました……!」
『厄介な奴らだったみたいだぜ? まぁ、厄介じゃ無い天使なんていないけどな』
うんうん、とブレイドが頷くのへ、メリジュアナは愉快げに笑った。
「はは、確かに、じゃな!
こちらは、
御殿場駅のサヴェージの群れの討伐に、オルフェウスの同胞の救助、じゃったな。
いやいや、なかなか骨の折れる仕事ではあったな」
そういうものの、実際にはまだまだ余力を残しているのだろう。少女のように見えても、彼女は魔女であるのだから。
「
富士橋頭堡でのイレイサーの襲撃も、無事に迎撃完了よ」
そう言ったのは、アリステラである。
「こちらも、有力な天使が相手だったけれど、なんとかなったわ。
……これからも、どんどん強力な敵と遭遇することになるのかしら……?」
少しばかり、場は重い空気に包まれた。確かに、外に、外にと手を伸ばせば、多くの敵性存在と遭遇することになるのは仕方あるまい。実際、今は
東京において、カタルモイと呼ばれる戦いが繰り広げられている最中だ。
「でも、悪いことばかりではありませんわよ!」
そう、シンディーはそんな空気を吹き飛ばすように、笑って見せた。
「あたしたちは、
湘南でのイレイサーとの戦いに勝利しましたの!
湘南! もしかしたら、今年はここで、海遊びなどができるかもしれませんわよ!」
ふふふ、とかわいらしく笑うシンディーに、あむも笑って見せた。
「そうだね。
外に出るってのは、たくさんの敵に遭遇するかもしれない。
最近だと、多摩にはまだ色々あるし、諏訪での決戦も始まったばかりだ。東京は言わずもがな。
でも、湘南とか、このKPA工科学校みたいに、新しい場所や、出会いが、きみたちを待ってるんだ」
少しだけ、まぶしげに、あむは笑った。
「だから、どうか、この世界に絶望しないでほしい。諦めないでほしい。
何処までも、君たちの行くべき線路を紡いでいって、いつかこの星を繋ぐくらいまで――未来を描いてほしい。
あ。別に、本当に鉄道を世界中に延ばせって訳じゃ無いけど」
さておき、とあむは笑った。
「まぁ、ひとまず、のんびりして行ってよ。
戦いの合間の休息ってだからさ。
ぼくがゆるそう」
そう、あむは笑う。
鉄道は長く延びて、その先に、人類の未来もあるのだと、そんな風に、信じられるように――。
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