其れは春の夢の如く、はらはらと崩れ去っていく。
自らの作り上げた
戦場が崩れ去り、塩の雨ばかりが降る空を
イヴェール(
r2p007406)はぼんやりと仰いだ。
(もう、踊れないんですね)
それはまごうことなき事実。切り落とされた両足は既になく、この体もやがて動かなくなるだろう。
ふと、思い出せないことがあると気づく。どうにも其れには靄がかかっていて、天使になった頃からが鮮明になり始める。何が其処に在ったのだろうと考えてみても、血を失ってまともに動かない頭ではロクに思いだせやしなかった。思い出す必要もあまり感じはしなかった。
代わりに思い出すのは――イヴェールを殺す筈だった刃の向き先だ。ふ、と小さく笑う様に息が漏れる。
(わたしの足を切り捨てたから、自分も切り捨てようなんて……
自己満足だわ)
告げることをやめた言葉を心の中で吐き出して、イヴェールはうっすらと目を開く。
嗚呼、白い。姫君の降らせる白が、わたしをも埋め尽くしていく。
在るのは唯、これ以上踊れないという悔しさだけ。わたしは姫君にもう喜んでもらうことが出来ない。
そうだ。彼女の傍にあったはずの、ジュールヴェールはどうなったのだろう――。
だれもが
彼女の為に存在していただろう。
存在意義というのは即ち自身が生きている意味そのものだ。
少なくともサーカス団と呼ばれたその場所に集っていた者達は皆、
彼女の為に居た。
嘉神 メイ。
彼女は天使だった。笑う事もなく、常に詰まらなさそうな顔をした一人の少女。
――そうだ、彼女に笑顔を与えよう!
喜劇でも悲劇でも、麗しき
可能性の卵の姫君に魅入られるようにあくせくと働いた。
そう、
可能性の卵は彼女に惹き合わせるように存在していた。
「ジュールヴェール」
呼ぶアルデルス・アルベルティナ (
r2p005760)が告げた
幕引きは愉快なものだろうか。
それとも
舞台役者の在り方に異議を唱えたドリアン・ファスティ (
r2p006261) にハンカチでも投げればよかったか。
眩いばかりに佇んだ蓬莱 ルカ (
r2p000660)を聖人の役として誘ってやれば良かったか。
なんて、戯言だ。
各地での公演がどうなったかジュールヴェールは分かりやしない。
メリィ・メルゥ・メイルゥはまだ遊びまわっているだろうか。
劇作家・ベルナデットは?
ああ、それに、麗しき
イヴェールはまだ舞っているだろうか。
「はは、」
どうやら、
私には無理だったようだから。願わくば、君、彼女に笑顔を――
――――――
――――
――
「……おやすみなさい」
その言葉はきっと、この戦場の誰もに投げかけられるものだった。
幸平 かなた(
r2p001526)はそっとドルチェ=ルーチェの胸元へクッキーを添える。いつも、花だけでは味気ないと思っていたから。
「ルーチェさま、……あなたにだって、食べてほしかったのに」
美味しいホイップの作り方。小声で「たべるひとのことをおもって、おいしいほいっぷをつくるんだ」と教えてもらったって、とシンディー・"ヒンキーパンク"・フォーサイス(
r2p000146)は唇をかむ。
この戦場だけではない。桟原 紗穂(
r2p001695)は母の大切な人へ。ロック・婁狼(
r2p005635)もまた
幼馴染への別れを告げた。ロロ=ヴァントーズ(
r2p003282)やスン・ウーコン(
r2p000154)もまた
因縁とは決着となっただろうか。アーカディアⅧ配下との決着はここではないだろうが、いずれ、どこかで。
「イヴェール。……あなたは。いえ、もう聞くことはできませんね」
聞けなかった言葉を考えて、天喰 依葩(
r2p000077)は首を緩く振った。切り捨てたいのちはもう戻らない。言葉も、声も、もう聞くことはできないのだ。
それでも立ち止まってはいられない。不変ではいられない。勝利を掴むためにも前へ進み続けなければ――。
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