――胡散臭い集落だな、とは思った。
嫌いなタイプの臭いがしたから。
「うわぁ……」
思わず閉口する。あの、村の彼方此方に立っている道祖神のような石像から感じる、
悍ましい気配はなんだ。家を覗き込んだら、大体の家に祭られている、あの
木製の箱は?
此処は何を祀っている?
あの全てから、嫌な臭いがする。嫌いな臭いがする。いっそ憎いとすら思う臭いがする。
――ああ、ああ、これはこれは。■■■■殿。
とおいところから、わざわざと。
そう、佐竹 黄蓮が笑って言ったのを思い出す。
――好いところでしょう、鎌倉は。お義父上の作り上げた、
楽園にござりますれば。
きっとあなたもお気に召すでしょう。
ええ、お義父上より、貴方様の事はうかがっております。
貴方様の、目的も。
衆生済度の時まで、まもなく、まもなく。
それまで
ごゆるりと、お過ごしいただけますれば!
いっそ哀れだ。いっそ無残だ。いっそ道化だ。いっそ愚鈍だ。
とはいえ――『佐竹 黄蓮』という道化の事は嫌いではない。あれはおそらく、間抜けなだけで真っすぐなのだろう。そういう奴は嫌いではない。きっと必死なのだろう。この楽園を維持するために。それは良い。
良いのだが――。
「あのアホ、なに祀ってっか理解ってンのか?」
苛立ちに、思わず
素が出てしまった。
わかっていまい。いや、おそらく――鎌倉に住むほとんどの人間は、自分たちが何を信仰しているのかを気づいていまい。
気づいていないから、あんな顔ができるのだろう。気づいていないから、あんなへらへらと笑う事ができるのだろう。
救われると。
救いの時は来ると。
あのようにへらへらと――。
「うぶすながみ――」
つぶやく。いや、これは憶測にすぎない。すぎないが……。
「うーん、やっぱり、地下ですかねー。
怪しいものは埋めて隠す――というか。
元々そこにあったのを、利用していますね?」
つぶやく。ああ、まったく、趣味が悪い。地下に囚われている、
本来の結界の主の事も気になるが――いや、それはおそらく、別件だろう。自分のやることではない。自分のやるべきことは――。
「観光ツアー、ですねぇ。
ええ、
マシロ市の良い子たちなら、なんらか打開策を見つけてくれるでしょう」
ふと、マシロ市の方へと視線を投げた。
アイツはまだ、あそこにいるのだろう、とふと思った。
まぁ、綺麗だからな、マシロ市は。そう思う。
だから、
綺麗なうちに終わらせてしまいたい。
大嫌いな親友の事も。
「だから――クッソキショイんですよねぇ、鎌倉は!」
思わず笑ってしまった。自分の活動は、あまりにも個人的なもので――。
そう、これはあれだ。
解釈違い、という奴だ。
終末論に関する!
――シュヴァル・クノッヘンと名乗る自称女スパイから、鎌倉観光のお誘いがレイヴンズへと届いたのは、二月の良く晴れた日の事であった。
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