目を覚ましたならば、そこには見覚えのない梁が掛かっていた。身体を包み込むのは嫌にならない程度の温かさと重み。
少しだけ大きく息を吸い込んでみると畳の香りがする――どうやら和室に寝かせられているらしい。
「……ここ、どこだろ」
被せられた布団の中で花蔭 明依(
r2n000056)はぽつねんと呟いた。
顔をゆっくりと横にやろうとしてぴりりと走った引き攣るような痛みに思わず呻く。
(私……なんでこんなことを?)
少しだけ痛いが、耐えられない痛みというわけでもない。ただ、身体を動かすまでもないような気がしてその場で目を伏せる。
そうすると、体を包み込むような
痛みの層があることに気づいた。
「……あ」
思い出してぽつっと声が漏れる。
(……そうだ。私、たしか禍神様を受け入れて)
呪創、それがないとこの御津那海町でのループに気づくことは難しいのだという。
あの状況から抜け出すためには、どれだけ苦しくても痛くても神様の呪いを受け止めるしかないと思ったのだ。
(……だれかくる?)
ふと、それに気づいて視線を近づいてくる気配の方へと見やっただろう。
「……なんと」
音も無く縁側を歩いて姿を見せたのは、巫女服に身を包む女の子だった。明依よりもずっと幼いようにもみえる少女である。
「目を覚まされましたか」
驚いたように目を瞠って、彼女は少しばかり足を速めて部屋の中に入ってくると明依の隣へと腰を掛ける。
「貴女は?」
少しだけ痛む身体に鞭を入れて、明依はゆっくりと体を起こした。
「つゆりと申します。今はさる方の傍にある巫女をしております」
ちょこんと正座してそう言った彼女の所作は洗練されたものだった。きっと、長い間そうやって厳しく育てられてきたのだろう。
「つゆり、さん……ええっと、私は明依、花蔭明依……よろしくね」
「はい、失礼ながら学生証から身分を確認させていただきました。知らぬ名前の学園でした。
きっと、遠くより来られたのでしょう」
「遠く、そう、だね……ちょっと遠くから来たの。ねぇ、つゆりさん、少しいい?」
少しだけ笑って、明依はそうつゆりへと問いかける。
「わたしでお答えできる範囲であれば……」
「ふふ、ありがとう……此処がどこか、分かる?」
「此処は瑞浪でございます」
「御津那海?」
「いいえ。瑞浪、です」
こてりと首を傾いだ明依を真っすぐに見据えてつゆりはふるふるとそう否定して答えたか。
「……瑞浪」
「はい、数日ほど前、あなたは此の地にふらりと姿を見せ、そのまま倒れてしまわれたのです。
それを瀧冶さまが発見され、このお屋敷へと運び込まれました」
「数日……私、数日も眠ってたの?」
思わず目を瞠った明依に、「うむ。随分と永く眠りに就いていたものだ」とそう答えたのはつゆりではなかった。
其を見て止めた明依の両目は、思わず見開かれる。それから
滲むものは明らかに人のそれではない。
「お兄さん、が、瀧冶さん……?」
「うむ……
ただの瀧冶だ。一人の人間だ」
「……そう、なんだ」
その
人がただの人ではないのは明らかで――でも確かに人であるのだろうと明依は無理やりに納得する。
「……汝は今暫しこの地に滞在した方が良い。その身は神霊の
まじないを受け入れたな?」
「ありがとう、でもごめんなさい――御津那海に戻らないと……友達が、皆が待ってるはずだから」
真っすぐに明依を見据えてそう言った瀧冶にふるふると顔を振る――そうしたならば、彼の目線は少しばかり険を持った。
「……そうか。あの地から来たのか」
「うん……八重ちゃんに案内されて」
「……ほう」
「ループに巻き込まれない為に、呪創を受け入れたのに」
ぎゅっと拳を握った明依に、つゆりがその拳を包み込む。
「……私は彼の地に拒まれている。暫し機を待て」
そう瀧冶が続けるのに、明依は「……うん」と項垂れ頷いた。
「瀧冶さんほどの方がいうなら……」
「そうでなくても、今の汝ではまともに動けまい」
「あははっ、そうかも」
そう続けて言った瀧冶の言葉は、きっと明依を慰めるものだった。
「ねぇ、瀧冶さん。私は神様に呪われてるんだね?」
「……うむ」
「――そっか」
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