戦況報告が続々と成される。
人類軍は膨大なる海の脅威を退けつつある。だが、
本命はどうか。
この争いのそもそもの原点、クラーケンは未だ健在。
奴がいる限り
分体は無尽蔵に生み出され、そして――この海に安寧はなく。
「――っ!」
機動防衛浮島『アイギス』に立つ天海寺 サリル(
r2p000322)が息を呑んだのは。
その頭上を、まるで
世界のほつれのような巨大な闇が覆い尽くしていたからだ。
決死の退避。精霊の加護を用いて水面を駆ける。その直後だった、さっきまでサリルが立っていたアイギスがクラーケンの手足に粉砕され、一撃の余波は大波となり、戦場を揺らして――
「皆様、ご無事ですか?」
途方もない巨大へ銃器を向けつつ声を張るサリルに、「どうにか」と答えたのは乾・依心(
r2p000803)。銀鳩の翼で荒波を越えて、
神霊の一撃を撃ち放つ。
「異形――じゃないけど、人類の脅威ならノゾミの
標的っ!」
パワードスーツ、ブースト――月ヶ崎 希望(
r2p008093)は赤き機械翼を翻し、依心が撃ち抜いた箇所へ赤熱の斬撃を連続連打で叩き込む。
「
あの時に比べたら、これぐらいどうってことないよ!」
鼓舞するように地上 真珠星(
r2p001838)は声を張る。弾丸を放つ。
第五熾天使だって倒せたのだ、今度の戦いだってきっと勝てる、乗り越えられる!
「立ち塞がるなら、全部あーしがぶっとば~す!」
攻撃を途切れさせない。七星・葛葉(
r2p001123)もまた二つの刃を以て猛攻。閃光。しかし手応えはまるで分厚い岩盤を殴っているかのようで……。
「ふむ」
只野 白子(
r2p000765)は仲間達へ支援と治癒術を振り撒きつつ、破壊的に振り回されるクラーケンの触腕を見上げる。
「巨体に見合う体表の厚さと頑丈さと弾力とあと神秘とエグめのなんやかんや、といったところでしょうか」
「艦砲射撃を浴びても平然と生きている
大怪物、ですからね」
答えた絵空 白紅(
r2p000568)もまた仲間達の為に『画描き』つつ、ちらと遥か後方の駆逐艦ラファエル・ペラルタを――そこに乗っている浪花 アルネ(
r2n000145)を見やった。彼女の駆る軍艦は、的確なタイミングで雷と吼えクラーケンへありったけの火砲を浴びせ続けている。
もちろんラファエル・ペラルタだけではない、数多のレイヴンズ、精霊達、キャンプ・パールコースト軍人――彼らのありったけの猛攻が、今も敢行され続けれおり――
「
それでも耐えるのか」
白縫 かがち(
r2p000825)が苦々しく呟く。クラーケンがなぜ「大怪物」などと呼ばれているのか、その真相を思い知る。
「……なぜ、くらーけんはここまで強くなる必要があったのじゃろうな」
盾となるべく立ちはだかりつつ、かがちは呟く。生き残る為だというのなら……その強さが「個で生きていけばよろしい」「邪魔は全て破壊すればよろしい」という生き方を生み、こんな、人類と殺し合わねばならぬ結果になったというのか。
クラーケンは何も答えない。クラーケンに言葉はない。誰かと通わせる心も。
そしてまた、ルーカス・L・ベンソン(
r2p000041)にも語る言葉は何もない。ただ、『すべきこと』の一つとして銃を構え、引き金を引いている。クラーケンが喋らなくても、ルーカスが喋らなくても、火薬が唸る嵐の海は鼓膜が痛いほどにうるさくて。
風の金切声。それは八木 絵空(
r2p000144)が放った
虚砲。常ならば天使を景気よく吹っ飛ばすその術だが、この絶望的なまでの巨大は笑ってしまうほど微動だにしない。
「……出鱈目ですね」
迫る破壊を一瞥し、絵空は翼を翻す――風がほどけるように、クラーケンの一撃が薙がれたそこに彼はいない。
しかし誰も彼もが絵空のように回避しきれる訳ではない、――その為にElaine Willy(
r2p000291)がいる。
破壊的なクラーケンの一撃はラファエル・ペラルタの遅延術式弾をはじめとした支援によって勢いが削がれているものの、それでも生身で受けるにはあまりにも脅威で。
――紫陽花の花が血と共に散る。海面に叩きつけられ、身体の壊れる音がして。それでもイレインは立ち上がる。
徒人の身体で。ありふれた剣を持って。
「……人類を、舐めないことです」
「そうだとも。ただ大きく力が強いだけで……奪い尽くせると思うな」
鎌苅・サデュラ(
r2p001113)は赤熱の翼を輝かせ、海上を駆り――光をその手に圧縮する。曙光墜。燃える流星の如き銛は一直線、嵐を裂いて飛んでいく。
その光に、朝賀 よるがお(
r2p003456)は手を叩いて闇を重ねた。生も不幸も闇の底。海の底よりも暗い暗闇が触腕を襲う。
「あは! すっごい
敵意!」
この戦場全てに、背骨がぞっとするほど満ちているクラーケンの敵意、殺意、害意。それは
よるがおの力になる。胸焼けしてしまうほどに。
クラーケンが生き物である以上、決して削ぎ落とせないモノだ。敵への攻撃性、そして生命への執着。「ならば」と紅邑 咲(
r2p000353)は大怪物を見据える。手にした刃を、ぎらつかせて。
「死に、――私達に、恐怖しなさい」
「そうそう! 嫌われるのは大歓迎だしね?」
からから笑って、倉本 有希(
r2p000043)は可変魔導杖ワンダーホリックより砲撃を放つ。最中にも、この海に響いているのは歌だ。生きて明日へ辿り着かんとする意志の響きだ。――だから有希は武器をしっかり、握っていられる。
「腕一つ落とせずして、
本丸が落とせようか」
斬ってみせる。鬼 迅衛(
r2p000559)の双眸に宿り滾るのはただそれだけ。華々しい勝利も喝采も賞賛も必要ない、ただ、ただ、己の武があれを凌駕できるのか、それが知りたい――!
「――っッ!!」
鬼の如き裂帛の声。剛なる刃に切り裂かれ、黒く淀んだ血が噴き出す。
かくて迅衛が深い傷を成せば、獅堂 政季(
r2p003447)はすかさずそこへ弾丸を叩き込んだ。銃声は、嵐の中で雷鳴のように。
「こういうの、なんて言うんだっけ……なんか諺あったよね? 覆水盆に返らず? いや違うな……雨垂れ石を穿つ、か」
なら、傷という針穴に糸を通し続けるだけ。的が大きいのは狙撃者として大いに助かる。ふっと笑った。あれだけ大きいと酔っぱらってても当てられそう、と。
「まあ……飲むのは生きて帰ってからで」
そら、もう一発くらえ。
「――
そこでごぜぇますね」
仲間の攻勢が重なり続ける傷口を、兎月 ゆめ(
r2p002686)の赤い瞳が
捉えた。
「アルネ様に
おいたをした報い、受けてもらうですよ!」
空を蹴り、刃に炎を滾らせて、ゆめは駆ける。波間を越えて、振り抜かれる触腕を越えて――ならばと手負いの腕はそのままゆめを叩き潰そうと振りかぶった。
――が、その動きが
唐突に止まる。それは、エトリー(
r2p007227)が仕掛けたトラップによるワイヤーが十重二十重に絡みついてからで。
「マジとっとと千切れろし! エトリーちゃんこのあと大事な用事あるんだから!」
悪魔令嬢が成す進軍に加わらねばならないのだ。集合時間に遅れちゃいました~ではゴメンテヘペロで許されない。エトリーの見上げる先、ワイヤーが甲高い音を立てて次々と引き千切られていくが、それは織り込み済みだとエトリーは更なる罠にて絡め取る。
「塩水に大雨にっ……根腐れ起こしそうだし~っ! も~~とっととやっちゃって!」
早く
お日様を浴びたい。ありったけの罠を作動させつつのエトリーの叫びに、ゆめは口角をつって答えてみせた。張り巡らされたワイヤーを足場にひときわ跳んで――構えるは双刃。
「うさ~~~~~っ!!」
燃える、紅蓮の剣閃。
火に巻かれ、苦悶にのたくる腕が暴れ回る。挑みしレイヴンズを次々と蹴散らしていく。
手負いの獣は恐ろしいとよく言うが、それはまさに。――アンヘル(
r2p000049)は辟易と息を吐いた。
「往生際の悪い……」
なら沈めちまえばいいじゃなか。右耳に飾られたカラベラ人形がくすくす笑う。そも、生命体とは
邪魔者をぶっ倒して生き残るのが
節理だ。クラーケンが
そうしているなら、人類だって
そうすればいい。
やるか、やられるか。
生きるか、死ぬか。
これを倒せないのなら、人類はこれからも海には進めない。一生、ずっと、この小さな日本列島で縮こまって生きるだけ。海に怯えながら暮らすだけ。
――なんてみっともない未来だろう。なんて
ウザい結末だろう。
アンヘルの未来に、クラーケンは「邪魔だ」。
アンヘルが生きるに、クラーケンは「鬱陶しい」。
だから結論はこの四文字だ。
「
くたばれ」
振り抜く斧が、クラーケンの傷を捉えた。
力尽くの一閃――かくして。
両断された巨大な腕が、ひとつ。この海に
斬り倒され、沈む。
かつてない光景。それはこの大怪物にやられるばかりだった人類の、反撃の一矢!
――なれどまだ、大怪物の巨影は幾つも、数多に。
「上等だ」
アンヘルが斧を構える。エトリーが、ゆめが、政季が、迅衛が、数多くのレイヴンズが、得物を構える。
クラーケンが滅亡の波濤を巻き起こすのなら、それを貫く矢となりて。
受難の嵐を、越えて往く。
ロストアーカディア二周年!