「現状の報告をしてやろうかと思ったんだが、目の前にいる女がすげぇ顔してる。助けてほしい」
棒読みである。雀居 影臣(
r2n000218)、彼自身の現状を端的に表すならば助けてくれ、である。
目の前ではじらりと睨みを聞かせている藤代 柘榴(
r2n000030)が立っていたからだ。
影臣と柘榴には因縁がある。
それは、彼が終末論者の大派閥である終鐘教会の一員としてマシロ市の若者達へとスカウトを行っていた事に起因している。
魔道具『聖釘』をマシロ市内へと持ち込み、混乱をもたらしながらもマシロ市に対して懐疑的な若者を外へと連れ出し終末論者の一員とする。よくある手法を取っていたが、その中でも特に適性があり
告解に至った女が居た。
――妃野原 いばら(
r2n000109)。
彼女は
柘榴の先輩であり、相棒であり、掛け替えのない友人であり
アイドル候補だった。
マシロ市におけるトップ・アイドルとは人々の希望の象徴であり、勇気の象徴であり、幸福と安寧の象徴である。
マシロ市とK.Y.R.I.E.は人々の安寧の為に敢てトップ・アイドルを生み出した。彼女が光であるならば、影がある。
その影となったのは、きっと
現実に理不尽ばかりを叫んだいばらだったのだろう。
「顔が怖い女がいる。マジで助けてほしい」
「別に、今更殺そうなんざ思わないって。そんなの先輩も望まない。
つーか、普通に腹立つ。何だよ、お前、別に悪人とかじゃないじゃん。何だよ。
聖釘とかつくんだから、もっと大魔王みたいなツラして『ケッケッケ~、人間殺すでゲス』とか言ってくれよ」
「言わねぇよ。つーか、グルガルタってた時は好青年で売ってただろうがよ、俺は」
「態度が悪ぃんだよ……」
「お前が言うなよ、トップ・アイドル」
「今はただの藤代だっつーの」
「おうおう、帰ってくれ、藤代」
ひらひらと手を振った影臣に柘榴は地団太を踏んで不満をアピールした。こんな場面ファンに見られでもしたら
SNSで拡散されて爆発炎上してしまう。
が、気になどして居られなかった。彼を許せないは本当、彼を殺さないのも本当、行き場がない感情が溢れてるのだって本当だ。
「精々良いように使い潰されなよ、カゲオミ。今もその仕事中でしょ。サボったらバンジーな」
「勘弁してくれ。アイドルだっていうならもっと可愛くねだれ。それか胸囲を増やすか露出を増やせ」
「充分あるだろ、殺すぞ」
「驕り高ぶるな、乳が萎んで見える。で、仕事仕事」
柘榴の
正当な意見を無視した影臣は自身が手にしていたタブレットへと指先を滑らせる。
「多摩の現状は簡単だ。東西南北、それぞれでの活動が開始されている。
南側をどうにかしなくちゃならないな。K.Y.R.I.E.との通信網構築をしてやらないと不便そのものだ。
んで、諏訪方面も調査中だろ。あっちは甲府観測所があるからある程度現状把握が簡単だって聞いた」
情報を持ってきてくれた同僚は
北に遊びに行った主任を追い回していたそうだが、各地の調査や対応は順調と考えていいだろうか。
だが、問題はと言えば――
海だ。クラーケン、海の暴威。
「俺はイカ焼きは丸ごとが良い派閥なんだけどな、藤代。海のことはさっぱり分からない。今はどうなっているかも分からない。
此処まで、情報がない。非常に困った話だぜ? K.Y.R.I.E.にゃ
素晴らしいものがあるんだ。それが損なわれるってのは地球にとっての損害だろ」
「…………あのさ」
「うん」
「
一文字一文字に感情を込めるな」
柘榴はまるで蛆虫でも見つめているかのような目で影臣を見た。彼が自身はもう悪人ではなくただの阿呆であるように振舞うのはある種の処世術であるとは知っているが――どこまでが本音なのか、本性はこっちだろうか、と考えてしまうものである。
「まあ……
ソレ以外も無事であって貰いたいもんだぜ。人間ってのは名前を知って、言葉を交わしたら情が湧く」
「……先輩……ローズ……ううん、いばらには?」
「勿論。俺は、妃野原の事は好きだったよ。でも、それを言う権利は俺にはないだろ」
柘榴は小さな舌打ちをしてから「行ってくる」とそう言い残してBarソムニウムを後にした。
ロストアーカディア二周年!
