幼い頃、森には魔法使いが住んでいた。ノヴェル・アルベルトゥスはその身の上を隠し、只の薬師として人々と暮らしていた。
彼は森に遊びにやってくる少年イーリスとひっそりとした秘密を共有し――幼い少年の冒険心を護るために魔法を使い、そうして森を去った。
化物だと罵られ、出て行ってくれと泣き叫ぶ声に背を押され、彼は追われる様に各地を転々としたという。
それは仕方がない話だとノエ(
r2n000225)は語る。
この世界には幽霊も怪物も、魔法だってなかった。秘匿されるべきが露見したならば、どうなるか。それは歴史が語るだろう。
「魔女裁判モノだものな。一般人と違えばただのバケモンだ」
そう、少なくとも
そんなことを言える人間はこの場所には雀居 影臣(
r2n000218)その人しかいなかっただろうが。
「俺は
真人間だからな、魔法だドラゴンだ幽霊だなんだは漫画やアニメの世界の話だよ。
ノエみたいな魔術師一族の生まれなんかじゃない。それに、ロウ……?」
「ロウ博士と呼びたければ呼べばいい」
「ああ、ロウ博士とやらみたいに錬金術を知らないし、その弟子みたいに異世界で産まれちゃいない」
影臣が一人、一人指させば渋い表情を浮かべたイライジャ(
r2p008633)が「かげさん」と窘めるように声をかけた。
「きみだって、思う事があるからだろうけれど、うれしいことじゃないひともいるんだよ。
……でも、きみはいってたね。きみは、どちらかといえば、そうなりたい方だったって」
「そうだぜ、俺は特別になりたかった。くそったれの人生から抜け出したくて天使になりたいと願ってたんだ。
イーリロスもそうだったんだろ。森からアンタを追い出すきっかけになった自分が、せめてアンタと並び立ちたかったんだ」
対等になりたいと願っていた、けれどそれは子供の背伸びでしかなかったのだろう。
魔術師ノヴェル・アルベルトゥスにとって村で生まれ育った小さな子供は庇護するべき対象で、愛するべき隣人だった。
彼が自信を追いかけて村を捨て、槍の腕を磨くと笑ったその日を思い出しては青年は溜息をもらす事しかできない。
――僕はノヴェルの騎士になるよ! 任せておいて、絶対に守るってば。
――ノヴェル、聞いて。槍上手だって褒められた! 何時か、君の相棒になれるかな?
一身に向けられる愛情は失せてしまった。エーデレッセンは
彼の心を糧にしているのだろう。
召喚士イーリロスは自らの心をエーデレッセンへと渡し、伽藍洞の心に無理やり錆び付いた歯車を当てはめているかのようだった。
軋む心を無理やり動かして、最後に残った執着だけが彼を突き動かした。
「
東京が彼に接触したようです。
こうした時に諜報員のシェナが居れば全容の把握が早かったのですが、後手に回り申し訳ない。
……これまで
エロスマリスと呼ばれるイレイサーを伴って活動していた天使エルシャーは東京でゲイム展開をしているタラリアと呼ばれる天使の配下だったそうです。
彼は先んじてフォーカポーカを抱き込んだ上で、アヴァリティアやイーリロスに接触し、開戦準備をしています」
淡々と告げるノエ――いや、ノヴェルに錬金術師ロウは「だろうな」と呟いた。
彼の手元には
『だいだいおう』ポルカ・ポルカの肉片がある。それがなくてはならない事情が彼らにはあった。
「ウーアツァイトは人形との相性が良かったんだろう。まるで当人みたいな姿に変わっている。
その感情だけを頼りに人の姿まで模倣するだなんて、成り代わりそのものだな」
ロウは肉片を利用し、別の液剤を作り上げていた。その成分の解析を行う彼の弟子たちと影臣はその量産の手伝いを行っていたか。
「そのウーアツァイトが投入される戦線になるっていうなら問題だよ」
「ウーアツァイトの核たる本体は寄生生物だ。液状モンスターを溶かして感情宝石だけを安全無事に取り戻す効能を与えてやればいい。
それ以外にも問題はあるだろう。生物的生存危機に陥ったフォーカポーカの毒の無効化が必要となる。
使役生物から歯車を取り除いておかなくちゃならない。あれも東京に持ち込まれては困る技術だろう」
ロウがテーブルに置いた液剤は武器への塗布や魔力などを利用できる錬金薬そのものだった。
――トロプフェン。
そう名付けられた薬剤の唯一のデメリットはフォーカポーカに対しては猛毒にあたるため、彼らの毒を取り除けば死に至らしめる事、という生存競争の上では致し方がない事であっただろう。
「ありがとうございます。……それを持ち込みましょう。ウーアツァイトから感情宝石を奪取する他、ポルカ・ポルカやイーリロスを
東京へと行かせない。
それに、シェナを――オレにとってはあの子は家族です。あの子を取り戻さなくてはならない。もう
二度とは家族を失いたくはない」
その言葉にカゲオミが小さく息を飲む。ノエにとって
少年はきっと家族だったのだ。
――ノヴェル! こっち、こっち!
彼は多摩にやってきて、フォーカポーカ達と出会った。多摩を護る為に、ポルカ・ポルカ達と相対した少年はその腕を
食いちぎられた。
巨大なアザーバイドは「人間っておいしくない」とそう言ってから、少年へと無力さを与えたのだろう。
――ノヴェル、ごめん。僕じゃやっぱり――
「……イーリロスの事は、ここで打ち倒そうと思います。
彼がどれだけ叫ぼうと、彼が求めるものはここにない。
コスモスなんてものを欲して東京に行き貴方方の害となる姿だって見て居たくはない。
協力して、頂けますか? 皆さん」
静かに問い掛けた青年は、魔術師としての姿をしていた。ぎらりとその琥珀色の宝石瞳に魔力が宿される。
錬金術士の老爺は「まあな」と肩を竦めてトロプフェンの量産に戻り、影臣はやれやれと言わんばかりに嘆息する。
「……シェナちゃんのサポート役兼KPA多摩研究所所員って肩書にして俺の監視状態を取ろうとしてくれた男を責めらんねぇな。
サポートはしてやる。まあ、安全圏からノエ博士とセットでだけどな」
「お目付け役だろう。任せろ。ウチの弟子らはこの男の世話位なら出来る」
鼻先をふんと鳴らしたロウにイライジャは「面倒事押し付けたね?」と拗ねた様子で言った。
エルモア(
r2p008634)は「此処の防衛は僕達が。でも、戦線が破られた時、護りきれる自信はないかも」と能力者達を見回した。
「なあ、ノエ、約束だぜ。
この戦いが終わったら――……
シェナちゃんのセクシーすぎる水着姿を頼んだ」
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