「うん、動きやすいね」
手袋をぐっと嵌めこんでから指先の動きを確認する。いち、に、握っては開いて。繰り返してから逢坂 絢(
r2n000079)はくるりと振り返った。
「動きやすいし、伸縮性もあるし、それに涼し気だよね。
多摩中央街の
衣装屋さんが作った織物を使ってるんだよね。一人一人に合わせてカスタムされてて着心地がばっちり!」
多摩南街に持ち込まれた文明をも思わせる
可愛らしい寮服を身に纏っていた羽崎 楓奏(
r2n000036)がくるりとターンをする。
その様子を眺めてから絢は「本当だ。ぼくと少しデザインが違うね」とそう頷いた。
「絢の場合はポケットも多いし、凄く活動しやすそうだね」
「楓奏も冒険家らしく動きやすそ――」
二人の間に割って入る様に雀居 影臣(
r2n000218)が「ナイスコルセット!」と叫んだ。絢が白んだ目で彼を見ている光景が楓奏は可笑しくて堪らない。
「でも、嬉しいね。
衣装屋さんたちはアザーバイドで……どちらかといえば人間なんてどうでもいいって感じの人たちだった。
多摩中央街代行政府とか、少ない人間の事は受け入れてくれていても、それはその人個人へと好意的なだけで人間全員にじゃない。共生するって難しい事なんだろうなって思ってたから」
「そうだね。ぼくたちが蟻の巣に住む事を許容して歓迎の意味で寮服を用意してくれたんだからそれは嬉しい。
純にも同じように寮服を用意してやらなくちゃな。ぼくは
カゲオミの為にこっちにも顔を出してたけど……弟は、ノエに師事するって決めたらしいから」
寂しげな顔をした絢をちらと見てから楓奏は「世界が広がると、皆代わって行っちゃうね」とぽつねんと呟いた。
マシロ市という空間だけで過ごしていると、選択肢とはあまり広くはなかった。
磯子、横須賀、鎌倉に小田原、富士に、そして諏訪。この多摩だってそうだ。そうやって
選択肢が増え続けると、人々は新たな道を見つめるようにもなる。
共に過ごしていた双子たちがそうやって別の道を歩もうとするのは何とも人類が新たな道を手に入れたという証左のように楓奏は感じられて仕方がなかったのだ。
「ねえ」
楓奏と絢は振り返る。「おお!」と声を上げた影臣の首根っこを掴んでから絢は「どうしたの? シェナ」と呼び掛けた。
「これ、着方あっているのかしら。その……やっぱり少し暑い、けれど、
衣装屋さんは流石ね。
出来るだけ私が着用しやすいようにと整えてくれていて……でも、どうかしら? 似合う? あ、あまり慣れない服装なのだけれど」
緊張した様子でそう言った悟桐
紫恵那(
r2n000219)が少しばかり頬を赤らめた。
中央街代行政府が拠点とするBarソムニウムの地下――
蟻の巣の寮服を着用したシェナは視線をあちらこちらへとうろつかせる。
蟻の巣にK.Y.R.I.E.の能力者を受け入れるようになった。セカンドハウスとしてでもいい、秘密基地や本当に拠点を移り住むために利用しても構わない。どの様な人間にでも一部屋を貸し与える事に決めたのだ。
その名前の通り蟻の巣の様に地下へと広がっていく
寮の部屋。多数ある部屋を自由に使っていいと決めた時からシェナは自分もK.Y.R.I.E.の皆と同じように寮服に身を包むと決めていたのだ。
「天才」
「ありがとう、カゲオミ」
「蟻の巣は勿論、誰が来ても可愛らしいから天才だが、シェナちゃんの為にデザインを改めたやつも天才」
「……そうね、
衣装屋さんに感謝しなくっちゃ」
動きやすいのよ、と嬉しそうにそう言ったシェナに影臣は「うん、素晴らしい。実に素晴らしい」と手をぱちぱちと叩いた。
微笑ましそうに笑っている楓奏と白けた顔の絢をちらと見てからシェナは肩を竦める。
「お揃いの服を着て、新しい冒険って気持ちね。マシロ市にも、交流会に行くし……ああ、あと、それに相模原」
そう言ったシェナに楓奏は大きく頷いた。
今も、錬金術師ロウや奥空 奏音(
r2n000250)は相模原の調査に当たっているだろう。
これまでの調査データに基づいて、更に
奥に進めそうだとは耳にしていたが――さて、それはどうか。
「……これから、何が起こるかだよね」
「ええ、そうね。東京だって大変なのでしょう? ……ねえ、怖い事が起こらないといいわね。
私、折角こうしてみんなと過ごせるようになったのだもの。皆と、もっと笑いあっていたいわ。蟻の巣でお泊り会とかして……!」
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