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Lost Arcadia
©️ Re:version
Lost Arcadia
#0428

瑠璃色の町

 空には瑠璃色、硝子を通したようにややぼんやりとした光は遥かな頂より燦燦として降り注ぐ。
 八重に連れられて御津那海町の中へと足を踏み入れた達の目に映ったものは旧時代とさほど変わらない生活の風景だったろう。
 車こそそれ程には存在していないが、建物は旧時代の物をそのまま使っている場所が多く見えた。
 住宅と、商店街らしきものと、ロードサイドに点々と存在する個人経営の店舗。
 行きかう人々はちらりと能力者達を見ては、少しばかり不思議なものを見る目をした。八重の姿を確認して、手を振ってくる子供いれば、物々しさからか子供を抱えるようにして制止する親も居ただろうか。
 それだけこの町にとって、八重の存在は自然な物として受け入れられているのだろう。
「大破局の後、わたしが此処に来ることになる前から、この辺りは元々あんまり天使達の襲撃を受けなかったの。
 どうしてなのかは分からない、特に理由はなくて、ただそうだっただけなのかも」
 八重はそんな人々に手を振ってみせたりして反応を返しながら、御津那海の町を突き進み――そうして、不意に立ち止まった。
「着いたよ……菱さん」
 そう言う彼女の視線を辿るようにして目をやれば、草書体で描かれた木彫りの看板に廻月堂の文字が見える。なんだか、旧時代であれば歴史ある和菓子屋の屋号のようにも見える佇まいであろうか。
「……何者だ」
 その店の前に立ちそう声を掛けてきたのは茶髪の青年だ。声色は硬く、片手に錫杖を持つ彼の顔には明確な警戒があった。
「八重様」
「大丈夫、この人達は廻月堂の敵じゃないよ……寧ろ、わたし達にとっては心強い助っ人になってくれるかも」
「しかしですね」
「この人達は、わたしの友人の恩人――八尺瓊勾玉を救ってくれた人達なの。
 だから大丈夫。わたしを厭離衆や天使から守ってもくれたわ……それだけじゃ不足?」
 少しだけ険しい顔をしたまま渋る彼に八重がそう食い下がれば、彼は逡巡した様子ながらに「分かりました」と頷いた。


「挨拶が遅れた。俺は廻月 菱。今は故あってこの廻月堂(かいげつどう)の管理者と堂主代行をしている。先程の態度も、謝罪しよう、済まなかった」
 廻月 菱(r2p008654)と名乗った青年はそう言うと素直に頭を下げた。
「この町には凡そ一万人の人々が暮らしている……実際の数までは分からないが、廻月堂には彼らを守る責務がある。
 当然の来訪者、それも多くの武装した戦士となると、此方としても警戒しないわけにはいかない、分かって欲しい」
 そう、彼は静かに告げた。さらりとそう告げた彼の言葉は一部の能力者達に驚くべき情報として受け止められただろうか。
 凡そ一万人の人々が暮らす町。それはK.Y.R.I.E.にとっては探し求めた物の一つ、大規模な人類コロニーと言わずになんといえるのだろう。
 旧時代そのままとまでは言えずとも、限りなくそれに近い状態で自分達で暮らしを成り立たせてきた人々がこの町には沢山いる。硬化した態度がその人々を守る為の防衛反応であるのならば、その態度は寧ろ自然な事と言える。
「菱さん、みんなの中からも行方知れずになった子が居るの。多分、繰り返しに巻き込まれてしまったんだと思う」
 顔を上げた菱へと八重が告げると、彼は少しだけ目を瞠り視線を能力者達に向けた。
「兄様、また新しい人の名前が――」
 そんな声と一緒に廻月堂の奥から顔を出したのは少しだけ苦い顔をした美しい黒髪の娘である。
 能力者達の姿を見つけて小さく会釈した彼女は廻月 薇(r2p008636)と名乗った。
「薇」
「後にした方が良いかしら」
「いや、彼らにも聞いて貰おう。この方々は八重様が信頼しておられる方々だ。それに、彼らにも関係がある話だ」
「……また、繰り返すの?」
 下がろうとした薇を制して菱が言えば、八重は苦しそうにそう呟いた。
「では、こちらに皆様が……分かりました。八重が皆様を信頼できるというのなら、わたくし達も皆様を受け入れます。
 ですが、町の中を見るのならば、お気を付けくださいませ。この町には繰り返しの現象発生している場所がありますから」
 薇はそう言うと、手にしていた巻物を広げた。人の名前の羅列されたそれの意味は一見すると分からない。
 繰り返しと、3人は言葉を重ねている。
「厭離衆は……あの人達が崇めている滅びの予言の神様は繰り返しを続けていきたいの。
 大穴はわたし達の力が開いたもの。あの中でだけなら、繰り返しの中でだけ巻き込まれた過程で死んだ人も生きていける、ように見えるの。
 あの穴の中でだけなら、死んだ人と一緒に居られる、ように思っていられる……あの中に居るのなら死んだ人とありきたりな一日を過ごし続けられる」
 それはきっと、大切な人を失った人にとっては代えがたい日々になる。それでも、と悲しそうに眉を顰めて八重は苦しそうに息を吐く。
「……此処に名前があるのは、繰り返しの中で亡くなった方の名前です。亡くなった方々は、此処に名を記され繰り返しの一部となります。繰り返しが終わるその日まで、永遠に」
「死者を愚弄しているようなものだ。くそったれな神様は、そうやって厭離衆に繰り返しを促している」
 そう言った薇に菱が言った。
「繰り返しの理由の起点は、わたし達……スクナのところには、別たれたわたしがいるの。
 繰り返しが行われるたびに、きっとあの子は神格を奪われてスクナに呑まれていく。それは、あの子が、その度に殺されているってこと。
 今は穴の中に閉ざされているけど、完全にあの子を取りこんだら――あの子を、殺しきったのなら。あいつは外に出るでしょう」
 今にも泣きそうになるくらいの声でそう言って、彼女は息を吐く。
「わたしは、廻月の本家当主に穴の外へ逃がして貰えた。でも、あの子は、今も繰り返しの中。あの子が、生きている限り、繰り返しは起こる。
 でも、繰り返しの旅に、あの子は殺されてる。それはわたしには耐え難いの……だから、どうか、助けてあげて欲しいの」
 眉をきゅっと困らせて、八重はそう続ける。
「呪創は神霊(わたしたち)があなた達に付けた印。
 あなた達を繰り返しから助けてくれるでしょう……でも、同時にあなた達を連れていこうともするかもしれない。
 神様って、わたしが言うのも変だけど、身勝手なものだから……くれぐれも気を付けて」
「皆様の中にも印を受けた方がおられるのですね……兄様」
「此処に滞在するのを許可しよう。
 その代わり、繰り返しの解除を手伝ってほしい。八重の言う通り、スクナに草薙剣を奪われるわけにはいかない。
 それから……こちらは良ければ出構わないが、町の中で困っている者達も助けてやって欲しい。
 俺達も情報があればお前達に提供しよう……厭離衆や天使には気を付けることだ」
 静かに菱はそう告げた。
「改めまして。みんな、ようこそ……っていう言われて素直に受け入れられるような状況でもないかもしれないけど」
 八重は、少しだけ申し訳なさそうに微笑んだ。
「わたし達はあなた達を歓迎します。この町に囚われたかもしれないみんなの仲間を探すのを手伝います。
 もしも、みんなに刻まれた呪い(まじない)をスクナが利用しようというのなら、それを解呪するためにも。
 ……だから、みんながこの町とわたしの片割れを助けてくれたら、わたしも嬉しい」
 行方知れずとなった幾人かの能力者達の捜索、そうして穴の中に居るという、もう片方の草薙剣の救出。
 やることは多く、けれどまずは一歩ずつやっていくしかないだろうか。











命空骸戯(カタルモイ) - 旧展示場要塞システム/ゲイム・ルール

旧展示場要塞内「カタルモイ」専用ツールアクセス

ワールドトピックスいま世界で起きていること
過去のトピックス

逐降を完了し、神霊フナドノサエが諏訪の地で眠りにつきました。 諏訪に「御津那海への穴」が開いたようです……?

2054年6月11日

諏訪方面での戦況報告が届きはじめています――

2054年6月8日

カタルモイにて「旧展示場要塞net.」が開設されました

2054年4月29日

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