さぁ、待ちわびたろう、厭離衆。君達の頑張りの全てを讃えよう。
歯がゆかろう、廻月堂。君達の努力の全てを無に帰そう。
――墜ちよ、満ちよ、項垂れよ。
穹を墜とす刻だ。
嘲るように、愉しそうに御津那海の
神を名乗る男が、スクナ(
r2n000286)が笑う。
滅びの具現と称され、
そう在るが儘に振る舞った外より至った荒神が笑っている。
「大丈夫か? ほんとなら無理やりにでもその呪詛を祓ってやるのが良いんだろうな。
とはいえ、荒療治をするには、今のあんたは弱すぎる。下手をすればそれをきっかけに爆発しかねない。
もう少しの辛抱だ。きっと、何とかする方法が在る筈なんだ」
ふらふらと少女は歩く。巫女服にも似た衣装を身に纏った、小さな少女。
力なく垂れた緋の髪、何かを耐えるように力に満ちた深蘇芳の瞳。都牟刈之太刀が足取りの険しさの理由を廻月 槐は理解している。
好き勝手に弄られ、殺され、奪われてそれでも彼女は顔色一つ変えずに耐え忍び続けた。
都牟刈之太刀とは草薙剣の持つ制御機能を司る。この子が下手な動きをしてしまえば、スクナはそれを利用しただろう。
そうされないために、この子はずっと耐えてきたはずだった。今もなお小さな体に刻まれ苛む呪詛が忌々しい。
「あんたとスクナの繋がりを断てる誰かか、洗い流してしまえる奴が――きっといる」
そう呟いて――槐は刀を抜き払った。空を蠢く呪いの向く先は、きっとこの弱り切った神様だった。
「――ッ」
全身が熱を帯びていた。じわじわと八重(
r2n000260)を蝕み、掻き立てる熱。
私であってわたしではないあの子の身体は今にも壊れてしまいそう――いや、ある意味ではもう既に壊れてしまっているのだろうか。
ふわりとした緋紅の髪はしっとりと力なく垂れて、子供にしか見えない小さな掌は力が抜けそうで、深蘇芳の瞳を震わせては双眸を瞬く。あの子は今もこの感覚と戦っている。
つながりを強めた
わたし達は、お互いの身体がどれほどに痛ましいのかを嫌でも理解できた。
溢れるばかりの力の奔流は不安定だ。弱り切った私はいつ私自身の手を離れて爆ぜてしまうのだろうか。
分からないけれど、きっとそう遠いことではないだろう。
硝子と鏡で作り上げられた伽藍の町、紛い物の町を紛い物の硝子の人形が闊歩する。
仄暗く、寂しく、逼迫した空気に満ちた深層――空には旧時代そのままの町並みが見えるだろう。
遥かな東京で決勝戦が繰り広げられる中、スクナは状況を進めるべく布石を打った。
呪魂石と呼ばれるそれは草薙剣の半身、都牟刈之太刀との繋がりを辿り深部へと至った八重を、呪創に侵される能力者達を楔として御津那海町を墜とすための起点であった。
御津那海の町はゆっくりと動き出した。美しい瑠璃色の空に包まれた嘗てを彷彿とさせる町がこのまま深層へと墜ちれば御津那海町は瞬くうちに消し飛んでしまうだろう。
「やりようはきっとあるさ。八重と呪創を楔にして御津那海を墜とそうって言うなら、その逆だって出来る筈だ」
八重と呪創を受けた能力者達を楔とし、表層にある御津那海町を深部へと墜とす。そんなスクナの目論見を伝えてくれた廻月本家の当主、槐はからりと笑って言った。
「向こうが八重との繋がりを楔の起点に利用するなら、こっちもそれをしてやるんだ。
人を呪わば穴二つってやつだな……だからまぁ、気合を入れて抗ってくれ。あんたらにとっちゃ危機だろうが、あんたらこそが鍵になるだろうから」
それを八重へと言づけた槐は都牟刈之太刀の護衛や遣り残したことがあると言って動き出していることだろう。
「それだけ済めばいいけど、きっとそれだけじゃすまない」
御津那海町の土地神より力を借り受けた少女、 花蔭 明依(
r2n000056)は静かにそう告げた。
「感じるの、温かい力……御津那海比売様が教えてくれてる。この町は日本の龍脈の臍に当たる場所にある。
そんなところでループで蓄積された力が弾けたら、御津那海町が消し飛ぶだけで済むか分からないって」
双眸に神気を纏った明依はそう言いながら柔らかく微笑んだ。
「祇化は神様が私達にくれた加護、祝福みたいなもの。だからね、
祇化になってる間は深層の力を中和できるの。
ふふ、神様だって御津那海が――人間が暮らしている場所が壊れるのなんて気に入らないんだって」
神霊の多くにとって、人間とは慈しみ愛おしむ大切な隣人だ。
「でも、神様は我儘で独占力の強い子も多いものですから、くれぐれもお気を付けください。
呪創を受けている方は特に……その創を目印に皆さんの身体を貰い受けてしまおうしてしまう子達もいることでしょう。
そうでなくても、呪創が変質したり皆さんを深部へと閉じ込めてしまおうという子がいる可能性もあります」
そう言って笑った明依に対して、八重は困ったお湯に眉を顰めて笑った。
「わたしは、私を助けてあげたいと思っています。あの子と繋がって、あの身体であの子の痛みを知りました。
だから思うんです。何としてでも、今日この日までずっと耐え忍んできたあの子を助けてあげたいって」
ぎゅっと拳を握って、八重はそう言うとその瞳に神性の光を灯した。
空が墜ちようと少しずつ動き出す。
硝子の町にさざめきがざらざらとし吹き付ける。
人と神とが穏やかに共に生きる町の滅びが音を立てて近づいてきていた。
※御津那海町編全体シナリオ『墜穹の兆し』が開始されました――!
※東京編決戦『ラスト・ゲイム:アルケー』が進行中です!
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