わたしは薄情だ。
血のつながりなんてものが大事だと思えなかったから。
わたしは薄情だ。
あの人が兄だと、そう紹介された時、何とも思わなかったから。
わたしは薄情だ。
何もかもを喪って、コスモスと
ひとつになれていたら、きっとこの卵は長持ちしたのに。
――わたしは、薄情だ。
こうしてカタルモイのゲイムを見ていて知ってしまった。
人と生きる事、人を思う事、それから、生きるために何かを犠牲にすること。
それを理解したのに、わたしは自分と一緒の時間を過ごしてきたあの馬鹿げた人を犠牲にすることを選ばなかった。
「殆どの戦区のゲイムが終わったのね。残るは――……もう、決勝がすこしと、考えるべきなのかしら」
少女は抱きしめている
卵に小さな亀裂が入っていることに気が付いた。
そっと指先でそれを撫でる。
――もう、長くはないかもしれない。
コスモスは余程、自分を気に入って居ていたのだろう。
無関心、無感動、無気力。何もかもが無い無いずくめだった少女の清廉潔白で純真無垢な魂に惹かれたか。
十一番目という特質性に満ち溢れた個体から零れ落ちた欠片だ。
それが、どの様な効果や作用を齎そうが何らおかしくはない。
何かが起きても致し方がないものだ。
そんな
卵に愛されてしまった少女は不運であったか、それとも幸運であったのか。
からっぽでなくなった自分から引き剥がされたくないとでもいうように、それは一気に膨れがあっていく。
「お帰り」
そこに佇んでいたのはいつも通りの男であるはずだった。
派手な装いに4枚の翼、変装をも得意とした変幻自在なエンターテイナー。
無関心で無気力だった少女を笑わせるためにありとあらゆる手段を投じてくれる、メイにとっての
同居人。
「ただいま、タラリ、」
名を呼びきる前にメイはその男の姿を見た。
蜃気楼のようにその姿が揺らいで見える。深まる笑みは何時も通りだというのにメイはいつもの通り近付こうとはしない。
――お帰り、メイ。キャロットケーキを作っておいたよ。君が喜ぶと思ってね!
わたしは薄情だ。こんな時、目の前にいる
彼が別人であることを喜んでいる。
「こんにちは。お話をしてくれるのね。会いたかったわ」
「それはよかった。
俺も君と話をしたかった。少し久しぶりかな? 寂しかったよ。メイ」
「わたしもよ。さみしかった。ねえ、今度は何を教えてくれるの?
あなたと話すと嬉しくなるわ。だって、人間ってものなど犠牲にしてもいいって教えてくれるもの。
花園に行きたいわ。はやく、素敵なおうちの一員になって、わたし、幸せになりたいもの」
「ははは、そうか。そう言ってくれるとうれしいよ」
メイは眼前の男に向けて微笑んだ。彼ならば、きっと気が付いているだろう。
コスモスに入った罅は制御という箍が外れそうになっていることを。
それに、メイは理解している。この人は自分に興味などない。
十一番目の落とし物の行く末だけを気にしている。自分と
彼がどうなろうが、興味などない筈だ。
――その癖に、自分の世話役として
あんな男を送り込むのだ。
卑怯な人。わたしに枷をかけるように、あんな莫迦みたいな人を送り込んだ。
家族なんて知らない子供に、家族の愛情を与えなさいとそう言い聞かせて、彼が来た。
彼は嘘をつかない。彼は愛情深く、家族のように振舞う。
彼は嘘をつかない。彼から向けられる感情はある意味で真摯で、己に感情というものを如何して与えようかと苦心してくる。
彼に一つだけ、失敗があるとするならば。
カタルモイと呼ぶ儀式の中で
メイという主天使の
何もないな容れ物に莫迦らしく陳腐な感情を満たしてしまった事だ。それはきっと、彼の目指す目標に大いなる影を落とす。
あなたは知っているから話に来たんでしょう?
「メイ。好きな人は出来た?」
当たり前のように、その唇でそう言うのだ。
分かってるくせに、意地悪な人。
目の前にいるのは確かに、タラリアだ。
けれど、彼の唇を借りて話しているのは他人。
――きっと、ただの
小細工でしかない。僅かに感知されたとしても直ぐに形跡を掻き消すだけの器用さを持っている。
「知っているでしょう?」
メイは目の前で笑ったその人を見た。
カタルモイのようなフィールドをコスモスと、
ただの座天使が作り上げられるわけがない。
最初から、このフィールドには一枚噛んでいて、真にこの戦場を眺めていたのは彼に他ならない。
「――いじわるね、ディオンお兄様」
もう一度、罅割れる音がした。
命空骸戯 - 旧展示場要塞システム/ゲイム・ルール
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