「ポルカ・ポルカ。随分な顔をしているね。不服そうだ。まるで……うん、お腹が空いたのかな?
君は何時だって食いしん坊だから、僕達だって美味しそうに見えるのかもしれないけれど……ああ、そういえば、前に
摘まみ食いしようとした天使は不味かったのだったっけ?」
多摩南街。霞む空の下に佇んでいたマスクの男はやけにフランクな口調でそう言った。
無数の傷痕を有する青年は硬質な翼を揺らがせて振り返る。自身の重みに少々苦しそうに体を動かしていた
フォーカポーカの王――だいだいおうポルカ・ポルカは「んあ~~」と間延びをしたような声を出した後、ゲップを一つ。
「だって~、イーリロス、人間は美味しくないんだよ。天使もね。
だって、綺麗好きなやつらって気が狂ってる! ばっちっちであるべきだよ。そう思わない?」
「思う~!」
「わかる~!」
きゃいきゃいとはしゃぎ回ったフォーカポーカの幼体たちにポルカ・ポルカはうんうんと頷いた。
その大きな肉体より吐き出されるのはこの世界には存在しない
名前のない毒だ。
フォーカポーカ達は不浄を好む。その肉体を維持する為に自身らが持ち込んでいる異界の文明を駆使してこの街一帯を汚染したのだ。
この世界では全くもってみられぬそれは
異世界の遺物が引き起こした異常である。
人類が生き残れやしない程に汚れ切った街でしか生きていけない彼らにとって
綺麗好きは最も忌むべき存在なのだろう。
「……まあ、そうだね。君たちはそうだろうね。
ふふ、サーカスの伝書鳩から連絡があったけれど、彼らは海の怪物への対処や
勾玉探しで西に東に大忙しらしい。
僕らのような行き止まりから目を逸らしてくれているうちに君の願いをかなえてあげたいなって思ったんだ」
「ほんと~? もっと広い場所に住みたい! おとなり……相模原は?」
「相模原は駄目さ。あそこの
魔女たちは怒りんぼうだって言っただろ? 君、これ以上怒られたいのかな」
「やだぁ~……ふう~ん、じゃあ、じゃあ~、町田!」
「ああ、そうだね。そっちなら、どうせ人間しかいないだろうし……そうしようか」
ポルカ・ポルカは
召喚士へと喜ぶように
両鰭を上げてばんざいをした。
やった、やったと体を左右に振り動かすその仕草――何とも奇妙なものである。
「……あの、イーリロス? 少し、騒がしくはありませんか」
「ああ、お帰り。アヴァリティア。そうだね、ポルカは何時でも元気だから……」
困り切った顔をした少女、アヴァリティアはじっとポルカ・ポルカを眺めてから視線を逸らした。
「それで、何かあったかな?」
「ああ、そうです。エーデレッセンたちがお腹を空かせているみたいで。それに、『人攫い』もそろそろ」
「ああ、そうだね。
飼育者達にもそろそろ頼まなくっちゃ。アヴァリティアも手伝ってくれるかな」
アヴァリティアは自身が引き連れて来た花弁を思わせる竜を振り返った。その腹の中には美しい宝石がきらきらと輝いている。
きれい。これは、誰かの心のいろだ。
竜――エーデレッセンは人の
感情を食う。それを宝石にして腹の中に溜め込み、徐々に自らに溶け込ませる性質があるのだ。
多摩南に居る天使の中にはこのアザーバイドが作り出す宝石欲しさに人間や他のアザーバイドを襲う者もいる。人の心を奪い、自身を飾り立てるアクセサリーにする者だっているほどだ。
「……ええ、もちろんです。だって、調査にシェナが出ているでしょう?」
「幸運だね。ツイてる!」
イーリロスは両手を叩いて笑った。わらわらと近寄ってきた
人食いの小鬼たちが「腹が空いた!」「メシは?」「肉が一杯街に居たはずなのに!」と文句を言い始めたか。
「はいはい……食事の時間にしようか。フォーカポーカ達の領域を広げながら、適度に君たちの飼育スペースも確保するなら、やっぱり
場所を広げた方が良いね。
西に東に大忙しだというならば――うん、仕掛けておこうか。アヴァリティアがシェナをどうにかすれば、ノエ先生だって引きずり出せるだろうからね」
「私は別にノエ先生には興味はありませんよ。イーリロスじゃないんですから」
そう言ったアヴァリティアは一匹のエーデレッセンの頭を撫でてから、深く吐息を吐き出した。
――じゃあ、すぐにでも会いに行きますね。貴女がこんな場所にまでやってきてくれるというならば。
ロストアーカディア二周年!
