「それで、東京だ、諏訪だと引っ張りだこか。忙しない事だな」
Barソムニウムであなたを出迎えた男は開口一番にそう言ってから、ティーカップを傾けた。
草臥れた表情をした錬金術師は『召喚士』イーリロスらを始めとする多摩南陣営との戦いに助力してくれた。
――曰く、男はフォーカポーカ達が毒性を持つ前にこの世界に不意に転移してしまったアザーバイドなのだという。
フォーカポーカ達の世界には人類がいた。されど、世界が毒に侵される中で人類は絶滅し、フォーカポーカという毒に適応した生物だけが残ったという。されど、錬金術師ロウ曰くは
毒アザラシが適応しても世界は腐って行ったのだから意味はなかったそうだ。
「まあ、あの毒アザラシの事なんざ、どうでもいい。イーリロスやらアヴァリティアとの戦いではお疲れ。
怪我をしたのであればノエやらシェナやらに手当てして貰え。あれらは一応医師の真似事もしてるわけだしな。
それで――お前たちの中に
歯車を拾った者がいただろう。まあ、それも毒に汚染されている可能性があったから、引き受けさせてもらった。
今は少しKPAとの技術確立の為に時間を貰っているが……ああ、そうだな、あと数日すれば、お前たちにもある程度の案内が出来るだろうよ」
彼はテーブルの上に幾つかの歯車を置いた。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
トイフェルの歯車、ディヒターの歯車、そして壊れた歯車だ。
「このトイフェルとディヒターに何らかの情報が内蔵されている事が分かっている。
毒だけは一応除去できたから元の持ち主に返しておく。ノエが返しに行くから、届いたものは受け取ってくれ。
ああ? 拾った覚えがない? 安心しろ、お前のもんだ。
まあ、この辺をアイツら……カゲオミやら絢やらと技術確立をするまで少し預かっていてくれ」
そこまで言ってからロウがそうと視線をソムニウムの奥に立つ娘に向けた。
露出度の高いナースを思わせる衣装を着用している少女は自身の保護者であった青年をじっと見つめている。
悟桐 紫恵那(
r2n000219)は未だ行き場のない感情をその胸に抱えているかのようだった。
「アイツか? 霧が晴れた時、アヴァリティアの死骸は残っちゃいなかった。勿論、イーリロスもな。
毒が暴発して霧が包み込んでその場に残っていた死骸はきれいさっぱり消え失せちまったんだよ。
……まあ、その分、南街も浄化されつつある。身体的な負荷もなくあの場所を自由に歩くことができるようになりゃ、フィールドワークの
斡旋も頼む事になる――いや、こっちの話だが」
ロウは少し話しすぎたかと頬を掻いてから緩やかに顎を動かした。
「シェナの事だ。あと数日もすりゃいつも通りだろう。ノエも今はそっとしておきたいとは言ってたが、お前たちに感謝も伝えたいってな。
まあ、こっちの研究も間に合わすから、その時にゃ、お疲れ様会とやらに付き合ってやれ」
「ロウ、そっちの話は終わったか」
ひょこりと顔を出した雀居 影臣(
r2n000218)は真剣な表情をしていた。
此度の多摩への助力により、マシロ警察から晴れて
監視の立場を解除され、KPAの技師の一人として名を連ねる事になったらしい。しかしながら、市民感情などを配慮した影臣自身はマシロ市に容易に立ち入ることは控えるべきだろうと今しばらくは拠点を多摩に置くそうだ。
某かわょ主任に言わせれば「んじゃ、KPA多摩支部はかげちでおけ」という判断なのだが――先ほどロウが言っていた歯車の中に内蔵されたデータのサルベージに何か問題が起きたのだろうか。
「……実は、戦いに行く前に、シェナちゃんが無事に帰ってきたらセクシーすぎる水着を着せてほしいと願い出た」
「……はあ」
「ノエに覚えているかと詰めて、一応はシェナちゃんに話を通して貰った」
「ああ」
「俺の希望は出した。
セクシーすぎても問題ない、ってさ。
ノエはシェナちゃんにカーディガンを着せるって言っていたが真夏の太陽の下ならあの子はきっと惜しげもなく脱ぐ」
「……はあ」
「ナナイがかげち、ついでに海で使用する製品テストして来いって俺にも海に行く権利をくれた。
分かるか。その場にシェナちゃんとか、マシロ市の
でっけぇ自慢が海に来る。
いや、違うんだって。実は最近
悲しい事があったんだが、それの反動じゃない」
「……ああ、もう話を終えていいか?」
「忙しいか? んじゃ、また後でな。おまえも気を付けて帰れよ。俺はもう少し仕事していくから」
――影臣曰くは、シェナの心が落ち着くだろう数日後に改めて
お疲れ様会をする際にはあなたにも連絡をするそうだ。
箱根側でもマシロ電鉄の延伸工事が続いている。KPAもそちらで大忙しという話は聞いたが、さて、そちらは――
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