――この国には未来予測に優れた悪魔が居た。彼は幾つかの預言をし、当てた事により日本政府の信頼を勝ち得ていた。
そして、その悪魔は破滅の日を予見し、恐るべき破滅に対しての初動対応で驚くべき程に被害を軽減したのだ。
そして、その男は旧横浜市街の一部に新規拠点設立計画をも行ったそうだ。
大手町から関東全域が撤退した戦いの陣頭指揮までもをとったその男の功績は驚くばかりのものであったはずだ。
されど、そこから振り落とされた者も多くいる。
今やその組織は
救済機関の名を謳い、世界救済に名乗りを上げているのだそうだ。
「なーんてね」
くるくると回る
冬青の動きに合わせて無数のデバイスがじゃらりと音を立てた。
その様子を詰まらなさそうに眺める栞 咲願(
r2p008061)は「少しくらい落ち着いたらどうかな、冬青」と呆れたように目の前の
幼馴染を見遣る。
「まあ、ぼくは落ち着いてるけどね。ゲイムに参加して、人を殺して、そんでデバイス奪いまくって。
そんなことしてて今更
墓守ゲイムで仲間を亡くして恨み節何てしないよ。そういう因果は回るもんでしょ」
「……そうだね」
「咲願もそうだよ。ぼくら、そうやって生きて来たじゃないか。
気が付いた時には、おまえの周りにはたくさんの人が居て、家族ごっこを始めちゃって、寂しいよ。
昔はぼくら、お互い様に誰かを救う英雄気取りで好き勝手してたってのにさ。音楽性の違いってやつ、感じちゃうぜ」
「僕は別に冬青を嫌ったわけじゃないし、冬青を排斥したつもりはない。
けれどね、僕はそうあれかしと望まれて生きているんだから、家族は大事にしなくてはならないんだ」
「ぼくが先に一緒に居て、好きだよって告げたら傍にいたって? まあ、言わんが。
――ぼくはね、傷の舐め合いとかして優しい世界で負け犬になりたかないんだ。
ぼくらは置いてかれた、救済行きの片道切符が手に入らなかったぼくらは敗北者としてここで野垂れ死んでも誰も気にしなかったんだぜ」
「でも、僕達は生きている」
「それは偶然だ。何人死んだ。ぼくも、おまえも。仲間を喪い続けて漸く手に入れたチャンスだろ。
カタルモイはぼくらにとっての救いだ。ザコがデバイスの効果でイキがって
英雄様をブチ殺す手段まで得られたんだぜ」
咲願は目の前に立っていた幼馴染を――かつて、歌舞伎町の街を共に歩き、大破局を一緒に乗り越えた戦友をじっと見つめ続けるだけだった。
「ぼくは、プシュケーだって容赦しない。そこで甘さを見せりゃ、K.Y.R.I.E.にブチのめされるだけだからだ」
「冬青、僕達は――」
「今更デバイス泥棒のティティフィティアはプシュケーから枝分かれしたんだって言うかい? 阿鼻叫喚だぜ。
ぼくらは殺し合いをしてたんだ。家族を殺したって精神崩壊を誘うだけだ。まあ、どっちでもいいぜ。好きにしなよ咲願」
冬青はゆっくりと咲願に近づいて、その頬に触れた。
その掌は何時だってひんやりとしていて、咲願は思わず思い出すのだ。
――体温が低くて冬の日は手を繋いでくれと強請ってくるような甘えただったな、なんて。
「ぼくらは同じ罪を背負ってるだろ。はじめて殺した相手は、ぼくらを助けようとした大人だった。
それから、何人も殺して来ただろ。……綺麗じゃないんだよ、ぼくらは」
「分かってる、けれど」
「清廉潔白さを望まれるからそう振舞ってる? ザコで聞き分けの良い子供で居たらK.Y.R.I.E.が助けてくれる?
――本当に? プシュケーであることを放棄して、救済機関のイヌになり下がりたい?」
「冬青」
「ぼくは嫌だね。決めなよ、咲願。
これからどうするか。
あいつらは恵まれた人間だ。どれだけ不幸な境遇に身を置いていたって今は暖かい布団で眠り、食事だって特権の様に与えられる。
完全なバックアップ体制と羽化や告解へのケア。衣食住だけじゃない、教育だって与えられる。
その癖に、敵対者は人間であろうとも容赦はしない――自分たちが生き残るためなら、別の意見を持ち得る人間は排除するんだ」
「悪し様に言うものだね」
「いうよ。ぼくは、きらいだから」
冬青はゆっくりと咲願を抱きしめた。デバイスだらけで肉体に触れている部分は少ないと、咲願はぼんやりとその横顔を眺める。
「ぼくらだって、そろそろどうするか決めなくちゃならないぜ。
あの頃の様にただただ、流されるだけじゃいられない。もう命がbetされたんだからさ」
命空骸戯 - 旧展示場要塞システム/ゲイム・ルール
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