「何だ、寂しかったのかい?」
彼我の間に流れる空気を完全に無視した軽薄な言葉は想像以上の耳障りでフレアの心を苛つかせた。
「突然、連絡をくれるなんて――嬉しいよ。
夜の誘いなら何時でもOKだぜ?」
「下品ね」と口にするのすら鬱陶しく、面倒で――フレアは大きな溜息を吐き出した。
熾天使の奇跡による遠隔通信は余人の関わり得る余地すらない
秘匿通信だ。
画面の中でにやつく
嫌な男にフレアがわざわざ連絡を取ったのには当然、意味がある。
「おっと! そっちは
騎士クンに頼んだ方が適役かな!?」
「二度と言わないで」
第九熾天使の品の無い軽口には慣れたものだったが、この
暴言は流石にフレアの勘に触れた。
フレアという女は誰よりもマーカスの事情を理解している。
自分の事を言われるならばまだ良いが、彼に対しての侮辱を受け入れる訳にはいかない――決して!
「ごめん、ごめん」と相変わらずのニヤケ面を崩さないディオンは咳払いを一つして「じゃあ真面目な話の方だ」と切り出した。
「マジな話、この連絡の動機は何だい、フレアちゃん。
一応、オレとキミは戦争中の相手の筈だけど。
キミは南米だっけ。オレは未だ南の島でバカンスだけどね?」
「これからの事を確認したいと思ったの」
「確認?」
「ええ。
ラグナロクは始まってしまった。
既に地上の各地では熾天使の尖兵同士が小競り合いを展開している。
それは絶対的な事実だけど――貴方がこれからどう動く心算なのか聞きたかったの」
「変な事を聞くね? どうも」
「
策謀のディオンがマリアテレサの思惑通りに動く心算なのかを知りたいのよ」
切り込んだフレアにディオンが口笛を吹く。
「
黄昏が熾天使同士のゲイムである事は分かってる。
だけど、貴方は本当に私達とやり合う心算なの?
エデンにマリアテレサだけを残して――私達が戦えばそれはただの消耗戦になる」
「……………」
「ただでさえ薄い勝ち筋を捨てる事にもなりかねないわ。
マリアテレサは
あのアレクシスを寄せ付けずに粛正したのだから――」
静かな口調ながら強く自身を見据えるフレアにディオンの口角が持ち上がった。
「つまり」
「……?」
「
フレアちゃんはこの期に及んでも誰かと戦いたくないって訳だ。
それで出来たらマーカスだけじゃなくオレとも協力したいって……
いや、ハジメテなのに三人で何て、魅力的な提案にくらくらしちゃうぜ?」
フレアの頬が紅潮する。即ち強い怒りの色で。
「こんな調子じゃあ、他の連中にも声掛けてるんだろう。
リーゼロッテお嬢様に? それともアレクサンドラママに?
返事の方は想像がつくけどね?」
「……っ……」
唇を噛んだフレアにディオンは愉し気に言葉を続ける。
「あの双子には声を掛けた? あの子達は大人が嫌いだけど、一番話を聞いてくれるかも知れないぜ」
「……日本に派遣した天使の消息が消えたわ」
弄るようなディオンにフレアの声色が冷えた。
「断片的に届いた情報によれば、現場に貴方の子飼いの姿が見えたという話なんだけど」
「さあねえ。ウチは君の所と違って
放任主義だからねェ」
「……早速動いているのね」
「さあねえ!」
くくっと鳥の鳴き声のような笑みを零したディオンは話を仕切り直した。
「フレアちゃん、お誘いには生憎NOだ。
オレはオレなりにこのゲイムを愉しむ気満々でね。
仮に皆協力してマリアテレサを何とかしようー何てなったって。
出し抜き合う存在同士、どうして信頼が出来ると思う?
……いや、キミは案外真面目に同盟を守るかも知れないな。
それは否定しないが、例えば。
重大な局面でディオンとマーカス、どちらかしか取れないなら……
……キミはオレの手を取っちゃくれないさ。
悔しいけど、男は
そんな関係にはぐっとこない」
無言のフレアにディオンは畳み掛けるだけだ。
「だから、この戦争は止まらないのさ。他の熾天使が
そう言った通りに、ね。
フレアちゃんがまともな性質でも、オレ達はキミとは決定的に違う。ズレてる。
大願を望む母は全てを犠牲にしても愛を貫くだろう。気まぐれな奇跡の薔薇は他者の意見何て聞かないさ。
だから、キミはね? ああ、これは心底親切からのアドバイスなんだけど――」
ディオンは破顔した。
「――やっぱりとっととヴァージンを捨てちゃった方がいい。何ならオレが手伝うけ――」
――ブツン、と。
耐えかねたフレアはディオンとの通信を打ち切った。
※世界各地で熾天使同士の戦いが始まり、マシロ市近辺でも各派天使の動きが活発化しているようです……!
