長雨の季節がやってくることは、七井 あむ(
r2n000094)にとっても憂鬱であっただろう。
雨になれば作業も順延しがちになる。何より、すこし気だるげだ。
しかし、手を止める訳にはいかない。マシロ電鉄とKPAによる提携事業にてようやく着手された御殿場方面への延伸工事も大詰め。
各種関係機関の手を借りながらも鎌倉以西へと公共交通手段が設置されるなど夢のまた夢であったのだから。
「つか、じゅんちも多摩で忙しい訳じゃん? てか、そしたらぼくが
鬼業務。えぐー」
「いや……それ、ぼくに押し付けてただけって言わない?」
渋い表情を浮かべていた逢坂 絢(
r2n000079)はKPAのロゴがしっかりと飾られたジャケットに袖を通し直した。
先ほどまで用意されていた新たな分校制服と
蟻の巣の寮服の試着をしていたこともあり、やや表情には気疲れが見える。
「愛ゆえ」
「そんな愛、熨斗をつけて返してやりたい。
まあ、多摩も落ち着いていきそうだしね。ノエは
相模原の魔女の調査を奏音と継続しそうだけれど……。
シェナの方はマシロ市にも遊びに来たいって言ってたし。
琥珀が言ってたんだってさ、旧人類軍の話とか」
「あー、シェナち、進路的にパールコースト希望っぽかったっけ。
うちは年齢気にしないし? やっぱ、少しモラトリアムって貰って? 編入してもらうとか」
「広告塔って?」
「そーぞーりょくゆたか」
へにゃりと
わるいかおをしてみせたあむを見てから絢が嘆息した。
マシロ市を取り巻く環境は大きく変化して行っていると絢もあむも認識していた。
その為、箱根には刻陽学園との業務連携を行う事で学園のノウハウを生かした新たな工業育成学校の建築を行う事となったのだ。
KPA工科学校は開校に向けて準備中である。より専門的な工業人の育成を行う事で拡大していくマシロ市に
人間の手で対応していくという目標がある。インフララインや生活必需品の開発、そして、戦線が更に激化していくならば武器等の設備も必要不可欠であろう。次代の担い手を育成する事の重要性をKPA技術主任としてその名を知られるあむも重要視しているということだろう。
「箱根分校――いや、KPA工科学校のことはあむに任せるけどさ、他にもいろいろ心配事はあるよ」
「ん? 相模原」
「まあ、それも噂には聞いてるし、諏訪の神々と
御津那海って街の事……。
絡んできてるアーカディアVIIIはてっきり三種の神器関係を追いかけ回してるのかと思えば、東京にもいた」
「あー。
第三戦区」
「そう。あそこに来てるシュウリって天使はアーカディアVIIIの派閥だって聞いてる。
他にもまあ、
東京23区は騒がしいことこの上ない、んだけれどさ」
絢はぐったりしたように肩を落とした。
問題はまだまだ山積みだ。
東京ではカタルモイと呼ばれたゲイム仕掛けの天使による悪戯が蔓延している。
多摩南地区はある程度の問題解決が行われたが東街、西街、それから――
清子、失礼、北街の事もある。
程近い水没都市相模原には魔女と呼ばれる一団が潜んでいるともされていた。
そして、諏訪だ。冬の気に包まれている諏訪にはアーカディアVIII陣営でもそれなりとも思える有力天使の一角、犬の着ぐるみが参戦し、御津那海と呼ばれる別の区画よりやって来ただろう厭離衆なる派閥とテオフィロなる魔術師の姿も見えていただろう。
「あ、眉間に皺」
「うー、押さないで。んな、こめかみをぐりぐりされたら死ぬ。マジで。あむ」
「はは。ま、もうちょい気楽にいこうぜ。休息って大事じゃん。ぼくはそーおもうよ」
「そう言いながら、ぼくの前にあむのやりかけの仕事を詰んでるのは誰?」
「かわょ天使の悪戯じゃね」
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