「来てたんだ」
静かにそう言ったシュウリへと振り返ったのは
それなりに大きな犬の着ぐるみであった。
何処からどう見たって、それはただの着ぐるみである。布の塊であり、ふかふかとした毛質が分かりやすく、触り心地が良いものであると実感できる。
「はい。
刻陽学園の学園長先生たちと鬼ごっこしてたので。楽しかったで~すよぉ~。
ほんっと面白かったです。八尺瓊勾玉を追い掛けてる目的ではありましたけどぉ~、逃げる逃げる、上手上手です!」
おまぬけな姿をしているが、この着ぐるみはアーカディアⅧ派に所属している主天使の一人であり、第八の座に就く熾天使の
片割――エイ=ルの側近にあたる存在なのだ。
「でも、追いかけて来てたのはちゃちゃまる、じゃなかったって思ってたけど……?
八尺瓊勾玉の追撃はカランフィルの仕事じゃなかった?」
「えへぇ~~?? そんなわざとらしく~」
ちゃちゃまるの
中の人に関してはアーカディアⅧ派閥の人間であれども、全員が把握している訳ではない。
寧ろ、エイ=ルに近しい存在しかちゃちゃまるの
中の人については承知していない実情がある。エイ=ルによる手の込んだ
準備のお陰もあり、リ=ル始めとした彼女の傍に居る天使達はちゃちゃまるの中に誰が
入っているのかは気が付いても居ない。
シュウリは知っている側だ。
ちゃちゃまるがその着ぐるみを脱いでカランフィルの姿で御津那海を離れ、諏訪から八尺瓊勾玉を追い掛けてマシロ市近郊にまで到達したことも。
八尺瓊勾玉と呼ばれた神器であれば
コスモスの制御に役立つ可能性がある為にアーカディアⅨ側の思惑は兎も角もアーカディアⅧ――いや、エイ=ル派として少々それを拝借しておくことを目的としている事も。
シュウリ自身は認識しながらも、合流した
ちゃちゃまるがカタルモイの観戦に乗り出すというならばそれに付き合うだけだろう。
「あくまでも観戦でしかないですからねぇ~? シュウリ君たちはもうリタイア済み!
ちゃちゃまるたちが何をしたって、相手を倒したり、嫌がらせ以外の意味はありませんっ。
でもでも、あんなに面白愉快な生き物だったんですよぉ。んひひひ、ちょっとくらいイタズラしたってバチはあたりませんよぉ」
「タラリアと合流するつもり? それとも――」
「ん~、
無事にタラリアさんが元気いっぱいだったらメイちゃんの所にお供しますよ。
お友達枠は遅れて来たっていい筈ですからねぇ。状況が変化したら
あの学園長たちもここら辺まで来るんじゃないですか?」
ちゃちゃまるは
自分の部下に「油断し醜態をさらすことはないようにしろ」と指示をされたことを思い出す。
自分の方が上司で偉いんですよぉとばいんばいんと跳ねまわっていた着ぐるみは「人間さんたち、束の間の平和とか味わってくれましたかねぇ~?」と首を傾いだ。
「え?」
「学園祭ってのがあったらしいんですよぉ! いいですよねぇ~、ちゃちゃまるも遊びまわりたかったです。
八尺瓊勾玉はそんな楽しくて愉快で元気いっぱいなマシロの話を今頃聞いているんでしょうか?
あ~あ、いいな~、いいな~。皆楽しく元気いっぱいお腹も膨らんで今日もいい気分でしょうか~」
「そうだったらどうする?」
「とぉってもうらやましいので、やっぱり、イタズラしましょ?」
※東京編決戦『ラスト・ゲイム:アルケー』が開始されました――!
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