――アルちゃん。
アルちゃん……!
妹分の――フレデリカ・アンダーソン(
r2p002829)の声が聞こえて。
浮上しゆく意識の中で、浪花 アルネ(
r2n000145)は瞼を開いた。
まばゆい。
海の中がまるで星空のように輝いている。
――
歌が聞こえた。嗚呼、この歌に
助けられたんだと思いながら……アルネは、伸ばされるフレデリカの手を掴むのだ。
「ごめん、心配かけたねフリッカ」
「もう……! 本当に、本当に、っ……!」
「――よしよし。泣くな泣くな」
「泣いてません!」
「わかったってえ」
ぎゅ、とアルネはフレデリカを抱きしめる。伝わる心臓の鼓動は、ぬくもりは、確かに生命を謳っていた。
真月里(
r2n000190)の歌に合わせて精霊達が舞い踊る――その軌跡が光となり、この海に満ちていく。手を繋いだ乙女達は頷きあった。真っ白な翼を広げよう。堕天使の翼。終末に生まれた者の証。その羽先に、精霊達が加護を授けてくれるから。
――比翼連理に飛び出そう。戦場へ、海の上へ!
「アルネ! フレデリカ!」
KPA-WS-53 アルゴーの甲板から声を張る絵空 白紅(
r2p000568)が、嵐の空に翼を広げた二人を見上げた。その無事を確認すると、明らかな安堵をそのかんばせににじませる。
「ん!」
アルネは白紅へ親指を立てると、白紅の待つ甲板へフレデリカと着地した。――その時には既に司令官の顔であり、状況を見回し把握する。
「
来てくれたんだね」
フレデリカと白紅が来たということは――自分達の決死の『時間稼ぎ』が無事に果たされたのだ。アルネの眼差しの先に、新世代精霊力護衛艦ラファエル・ペラルタの勇姿が在った。
「――とうとう、反撃の時だね」
その声と共に、アルネ達のアルゴーの隣にもう一隻のアルゴーが並び立つ。甲板に立っている九相寺・大志(
r2n000122)は、勇壮な笑みをアルネへ向けよう。
そうしてキッと見やる先には、相変わらずこの嵐の海を支配している大怪物クラーケンの悍ましき巨影。あの日――かつて自分の艦と部下を皆殺しにした、悪夢の偶像。
ざわついたものが大志の心の奥から込み上げる。憎悪、恐怖、不安、憤怒、ありとあらゆる暗い感情は……心に刻まれた傷から溢れる黒い淀み、長い時を経ても止まらない
血と膿。それが理性を焼き切らんとしてくる。正気を淀ませんとしてくる。
(なのに、不思議なものだな)
真月里の歌を聞いていると、そんな
陰なる感情が凪いでいく。だがそれは決してクラーケンを赦したわけではない、部下の犠牲を忘れたわけでもない。
大志は白手袋を取り払うと、自らの掌を束の間だけ見下ろした。
憎しみも、恐れも、哀しみも、怒りも、自分の心に浸すのではなく――
この拳に込めて、自分が戦い抜く為の
礎にすればいい。
「
この拳は重いぞ」
握り固める、
金剛拳。
もう二度と負けないと誓ったから。
どうか見ていてくれと
わだつみに呟いた。
誓うように目を閉じ、開く。かくして男は顔を上げ、砲弾の如く跳躍するのだ――振り下ろされんとしていた大怪物の触腕を、全てが最悪に下振れすれば権天使すら塵と変える破壊の権化を、
殴り飛ばしてみせる!
「
旗艦は任せる!」
アルネとレイヴンズへ声を張り、大志は機動防衛浮島アイギスへと着地する。
「さあ――往け!」
「了解! ご武運を!」
アルネは大志へ敬礼を捧げると、アルゴーの水流ジェットエンジンシステムによって一気にラファエル・ペラルタへと前進する。――であれば、その背を決してクラーケンには追わせない。大志は揺らめく大怪物を見上げ睨んだ。
「お前の手足をこうして殴り飛ばすのも久し振りだな。
……あの時は、受け止め続けて骨が肉が砕けたものだが……」
この日の為に備え続けた、鍛え続けた。
海を越える、そんな未来の為に立ち止まることだけはしなかった。
「どうだ?」
拳を鳴らし、九相寺・大志は不敵に笑った。
「――あの時よりも、強くなったろ。
決着の時だ、
超常指定甲級!」
「……よもや
殴り飛ばす者がいようとはの」
戦線へ向かうアルゴー甲板より見えた
闘姿に、白縫 かがち(
r2p000825)は思わずと呟いた。
「うむ、わーも負けてられぬな!」
大小こそあれ、かがちとてクラーケンと因縁を持つ者の一人だ。
(思えば、
ぶりっじ跡で相まみえてから時が流れたものじゃの……)
あの日の夜は、奴の『寝返り』程度に逃げるしかなかった。
それが今――立ち向かっている!
「もう逃げるだけのわーではないぞ、くらーけん!」
「ああ――存分に進め!」
通信機を介し、かがちやレイヴンズへ向けられる勇ましき声はレオパル・ド・ティゲール(
r2n000021)。マシロ市近海の防衛を担っている者らだ。――万が一でも、クラーケンやその勢力をレイヴンズの
帰るべき場所へ通しはしない。
「
前だけを見て戦え、レイヴンズ。我々が諸君らに一点の憂いも与えはしない」
共に勝利を! その声に、通信機を介してキャンプ・パールコースト軍人の鬨の声が湧き起こる。この嵐にだって掻き消せない、今を生きる者らの命の声。
「さて」
ラファエル・ペラルタの戦闘指揮所に到着したアルネは、ホログラム展開される数多の情報をその目に映す。
艦は万全。士気も最高。真月里が解き放った『光』の力に、備え続けてきたキャンプ・パールコーストやKPAによる技術力に、第五熾天使すら退けた最精鋭のK.Y.R.I.E.レイヴンズ。
対するは
大怪物。超原始的生物欲求――『生存』こそを至上とする、完全なる『個』の生命体。
クラーケンはとうとう人類を「生きる為に排除せねばならぬ外敵」と判断した。
だから殺す。そこに譲歩の余地も躊躇もない。
それは古代より連綿と繰り返された弱肉強食。他種を淘汰してでも生存せよという
遺伝子の命令。世界で一番シンプルな闘争理由。
だから――後はもう、どちらかが動かなくなるまで戦うだけ。
「我々は。
こんなところでは止まれない」
アルネは自らの手にあるサファイアのアミュレット(
ils00049025)を見下ろした。白紅から渡された、アルネの明日を祈る願い。それをぎゅっと、握りしめて。
ここまで積み重ねてきた。
ここまで、戦い続けてきた――たくさんの想いに、命に、託されて、生かされて、生きてきた。
征こう。
この海の向こうへ。
もっと広い世界へ。
どこまでも自由になる為に――
「総員に告ぐ!
目標、超常指定甲級――
大怪物クラーケンを討伐せよ!!」
いざ。
青き受難の海を越え――
ロストアーカディア二周年!
