「ミッション:コフィンキーパー……花蔭の連中がうろちょろとしてくれたせいでうっかりと出遅れてしまったけれど、カタルモイも随分と忙しなく動いているようね」
たった今、デバイスを着けた天使を両断した東洋龍の竜人を思わす女――花月 麻柊は事も無げにそう呟く。
「ボーナスステージとは言うけれど、要するに第二戦区が決戦へと移行する前のテコ入れ。
此処は缶蹴りなんて言う特殊ルールのある第三戦区なんかと比べて物足りないと思われてしまってもおかしくはない、そうなったのも当然かしら?」
小さく笑って、麻柊は微動だにしない天使を跨いで歩き出した。
第二戦区、ボーナスステージと称して開催されたコフィンキーパーなるゲームは椅子取りゲームだった。
お客様と呼ばれる仮想死体となった各々の派閥の構成員を墓に入れ、墓に入っているチップを代わりに獲得するという。
墓に入れなかった仮想死亡の「お客様」はデバイスが破壊され、仮想死亡ではない、本当の死が訪れる、かもしれない。
「趣味が悪いと言えば趣味は悪い。たしかに表面的には
死亡遊戯見えるわ。事実、あの方の言動からするとタラリア様もそう思って欲しいのでしょうね……」
ぽつ、ぽつと事を整理するようにして麻柊は思考を巡らせる。後からこの
儀式に参加する者として、先に進んでいる者達に並び、あるいは出し抜くには情報は正しく把握し、整理する必要がある。
「けれど、不明瞭で曖昧なルール、翻弄するようなタラリア様のお言葉、これらは意図あるものとして一歩引いてみると、死者を求め唯一を競い合わせる
死亡遊戯とは言い難い。
すると、これは
願望器の所有者を選ぶ儀式のようなもの。なら、このゲイムの本当の目的は――ふふ。そう考えると、タラリア様は
とても真面目な方ね」
ついつい可笑しくなって麻柊は笑みをこぼして、足を止めた。
――やあ、麻柊ちゃん! 遅れての到着お疲れ様、随分とご機嫌なようだね? 花蔭流の人間達を相手に手こずっていたと聞いていたけど。
そうそう、
デバフ状態の参加者を殺すのは構わないけど、それ以上お喋りをするとインドリの声を此処でお披露目しちゃうことになるよ
ぽんとどこぞから現れた、ふんわりとしたフォルムの奇妙なウサギの人形ベルベルを一瞥して麻柊は「はいはい」と肩を竦めよう。
東京に踏み込んでから傍に姿を見せたこれは十中八九、タラリアによる各々へのメッセンジャーのようなものか。
「その反応をされると貴方が本当に真面目な方だって確信できてしまうわね? だから手こずってたは聞かなかったことにしてあげる。
それで? なにも私の考察を邪魔するだけに来たってわけでもないでしょう?」
――その通り! 美耶ちゃんと、眞依ちゃんだったかな? 劔醒会の子達もコフィンキーパーに巻き込まれてしまったようだよ。
キミのところは本当に自由主義だね、統率ってものがない。
一応、カタルモイでの劔醒会派リーダーの君にはお知らせしておこうと思ってね❤ 私からの優しさだと思ってくれても構わないよ
「そう、アルコ・イリスやアルマ=ミラと合流してないって聞いてウチの先遣隊の子達は何をしてたと思ってたら、第二戦区なんかにいるのね。
本当なら叱って然るべきではあるけれど、今回ばかりは私達が出遅れたのが悪いから許すしかないわ」
――ふふ、今からでも彼女達と合流したっていいんだよ。特別に許してあげようか
「遠慮しておくわ。今のK.Y.R.I.E.がどれだけの力を持っているのかを知るいい機会、あの子達には自力で何とかしてもらいます。
ところでベルベル――貴方は東京以外の事はご存知? K.Y.R.I.E.が東京に辿り着いたってことは色々と変わっているのでしょう?」
――それじゃあ少しだけお話してあげよう! その代わり、遅れてのご登場で色々と察してしまっただろう君にはしっかり協力してもらうからね
「えぇ。構わないわ、第九熾天使に恩が売れるって考えたら会主様も認めてくださるでしょう。とりあえず、この東京の事から振り返ってほしいわ」
それじゃあ先ずはこの東京の事からにしよう。麻柊ちゃんも知っての通り、今はコフィンキーパーというボーナスステージを行なっているよ。
他にも第六戦区西部ではカタルモイッセオっていう闘技場を用意したよ。
マシロ市にあるアリーナという能力者同士の実力をぶつけあう興行施設を参考にさせてもらったんだ。中々反響が良いみたいで私も鼻が高い。
「へぇ、それはまた面白そう。こっそり来てる執行者でもいれば参加してるかしらね?」
くすりと笑った麻柊にベルベルは「さあ、どうだろう!」とステッキを振る。
次は東京は東京でも塩に絶たれた多摩のこと。
多摩を支配していたイーリロスやアヴァリティアたちはK.Y.R.I.E.によって眠りに就いたようだ。
あそこでは今、残された3種類の歯車の解析や、
蟻の巣っていうらしいスペースをマシロ市のセカンドハウスとして開放する為の準備を行なっているようだよ。
あぁ、そうそう。K.Y.R.I.E.は相模原にまで手を伸ばそうとしてるみたいだね。同時に相模原の下見を行なおうともしているそうだ。
花の香りに誘われて、今度は彼らが眠ってしまうのかもしれないね。
「あぁ、相模原の魔女。そういえばそんなのも居たかしら。そこが今どうなっているのかは、確かに少し気になるわね」
他には、マシロ電鉄は箱根にまで伸びているようだよ。もしかしたら新しい学校も立っていたりして? 人間の発展っていうのは馬鹿にならないね。
それから、最後は諏訪と御津那海町のこと。諏訪にあった八尺瓊勾玉は陰の気配を溢れ出して冬を迎えた。
それをフナドノサエっていう神霊が全部引き受けてくれたようだ。
K.Y.R.I.E.はそのフナドノサエを
逐降しようとしているみたいだね。
しかも八重垣剣の半身、和魂、草薙剣の側面まで友達を助けようと諏訪に訪れていたらしい。
八重垣剣を隠していた天使がいたんだけど、その子はK.Y.R.I.E.との対決を望んでその子を奪おうとしているそうだよ。
「諏訪の神様――そう、その報告はもう何処かに届いているのかしら?」
残念だね、私もまだ受け取ってない。多分、K.Y.R.I.E.の彼らもそうだろう。でも、きっともうすぐ届く頃だ。
「それは楽しみね、
逐降――ふふ。私としてもその結末には興味があるわ。えぇ、会主様にもお伝えしたいくらいね。
御津那海町と、京都に居る第八熾天使様にも興味はあるけれど?」
――それはもう少しだけ先のお話だ、また別の機会に楽しみにしておいて!
そう結んだベルベルは現れた時と同じようにぽん、とマジックのように消え去った。
「あらら、隠れてしまったのね」
麻柊はそれを見てやや目を瞠って笑う。
「シスターへのご挨拶が出来なかったのは残念だけれど、東京に来た甲斐はあったとしましょう。あぁ、逐降……とても気になるわね」
遠く西、諏訪の方を見て、今度は不敵に麻柊は笑った。
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