それからすれば、線路の上を走ることなど当たり前のことなのだろう。
壊速列車 ジャガーノート(
r2p007139)。さながら冗句ようなその名を持つ怪物は、その名の通りに行く先の全てを破壊し、行く後にただただ破壊をもたらすだけの、一個の機構である。K.Y.R.I.E.の分類におけるところの
アザーズであるそれの正体は、結局なんなのかは判然とはしない。異界の何かであるのか、或いは変異体であるのか、それともそうではないものなのか。いずれにしても、彼の目的はただただ
進む事であり、その前進に何が立ち塞がろうとも、一切の躊躇はない。
何か考えているのかすら、我々には分からないのだから、一層、不気味であろうか。
ジャガーノートが粉砕と破壊を振りまきながら走るのは、丸の内は、旧トウキョウ地下鉄に位置するあたりである。かつての人類が築いた
本線と、その後の混乱によって生み出された
支線、それはさながら、地下迷宮のような様相を呈していたが、しかしここを
通路としているものも多い。まるで地下迷宮を歩く案内人のような彼らであるが、しかしそれ故に、この地下の危険性は充分に察していることだろう。例えば先日、アーケダマル(
r2p006335)に追いかけ回されていた
少女はどうなっただろう? 少なくとも、無事、とはいえないのではないだろうか? 仮に命は長らえたとしても。いずれにしても、この地下鉄を歩くものは、おっかなびっくり、命からがらにこの地を行くものだ。それでも、
地上を歩くよりはマシなのではあるが。
さて、ジャガーノートの話に戻そうか。ジャガーノートは、文字通りにあらゆるものを粉砕して進む。人も、イレイサーも、或いは
壁も。ぐしゃり、と音を立てて壁を粉砕し進み、ジャガーノートはその先で、
小さなものを見つけた。
小さいと言っても、人間大ほどの大きさはある。小さな翼は、未だ空を飛ぶには不足しており、しかし小さな牙は、生命を食いちぎるには充分な力を持っていた。それが、いくつも
ぴいぴいと鳴きながら、鉄骨や木材などでしつらえられた
巣の中で、哀れな犠牲者を囓りとっていた。
――バンダースナッチ、と呼ばれた怪物の、それはささやかな営巣の後である。バンダースナッチは、丸の内の地上、あちこちに
巣を作っているわけだが――その最大たるものが彼の赤い電波塔なのであるが――いよいよ地下にもその手を伸ばしてきた、というところであろうか。神の目を持って断言するならば、地下鉄に設えられた巣は未だ多くはない。とはいえ、地下鉄の危険性を些か上げたことは間違いあるまい。
――などという所は、あくまで知性あるものの感想であろう。バンダースナッチ、その怪物の雛。恐るべき障害。それは、知性あるもの感想だ。では、ジャガーノートにとって、これは?
そう。簡単だ。
蹂躙し、破壊する、障害物にすぎない。
だからジャガーノートは、何ら一切の躊躇なく、己の胸の内のアクセルを全開にした。そうなるとどうなるか? 言うまでもあるまい。
ジャガーノートは、速度を全開にして、バンダースナッチの巣に突っ込んだ。かえらなかった卵が、次々と破壊された。人間大サイズの雛たちが、瞬く間に肉片へと還った。鉄骨は吹き飛ばされ壁面に突き刺さり、木々は木片未満へと粉砕される。ぎぃぎぃと雛たちは悲鳴を上げて死んでいく――そうだ。ジャガーノートは、進みゆく先にあるもの全てを粉砕する。なぜなら、そういうものだから。
――!! 突如、鈍い音を立てて、地下鉄の天井が崩落した。そのがれきと共に落下してきたのは、バンダースナッチの上半身だ!
バンダースナッチは、ジャガーノートを威嚇するように、地下鉄にその咆哮を上げた。ジャガーノートは意に介さず、バンダースナッチの顔面に襲いかかる! バンダースナッチは息を吸い込むと、その強烈な
息を吐き出した! それは、強烈な
嵐の吐息となって、ジャガーノートを圧殺せんと吹き荒れる! が、ジャガーノートも大したものである。そのブレスに対抗するように車輪を回転させ、雄叫びのように蒸気を噴き出し、なおもバンダースナッチへと迫った!
――二体の怪物の押し合いは、さながら永久に続くようにも思われたが、しかしバンダースナッチは、僅かにその瞳を細めると、一気に飛びすさった。ジャガーノートがつんのめるように足を止めると、地下鉄の奥から「イケジメッ!!」という声が響いた。
アーケダマルである。本来ここは、バンダースナッチにとっては隠し通していた
巣であった。アーケダマルに巣の場所がばれたならば、あの強欲な怪物は、その
卵と雛を見逃しはしないだろう。バンダースナッチにとっては、この巣はもはや
守る労力に値する場所ではなくなった。故に、バンダースナッチはこの巣を放棄したわけである。
ジャガーノートにとっては――前方の障害であるバンダースナッチが居なくなったのならば、すなわち前進を続行するのみだ。ポッポー、と鳴く蒸気は、いっそ巫山戯ているようにも聞こえたか――だが、ジャガーノートは嘶くように蒸気を吐き出すと、再び地下を前進し始めたのである――。
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