逸れの魔女、と。そう呼ぶべきであろう射干玉の髪の女は大きな魔女帽にその手を添える。
すうと細められた紫苑の瞳が興味深そうに見つめているのは
彩心石と呼ばれた錬金術師ロウの
魔道具であっただろう。
多摩南街で
飼育されていたアザーバイド『エーデレッセン』。それが感情を肉体より
分離して宝石にするという性質を探求した結果、感情の一部のみを掬い上げる上で空の魔道具に流し込む事を可能とした。
心の採取器であり、一種のアクセサリーでもある。そんな彩心石を
つかえると、彼女はそう言ったのだ。
「改めて……錬金術師のロウだ。そっちのたぬきは、茶々奈……と、言ったかな。
私の研究に興味を持ってくれて感謝をしている。ドロスとやらから追放された魔女、コトネ?」
「ああ……ドロスに関する説明から先――でしたか。
ドロス……それは即ち
相模原地区に存在する魔女の国家のことです」
国家、と敢てその言葉をコトネが当てたのは彼女たちが日本国の法律に従っていないという少しの言葉遊びなのだろう。
ロウは「はあ、国家」と一度繰り返してから視線を雀居 影臣(
r2n000218)へと向けた。
「おう、おう。そうだな、相模原がドロスって呼ばれていることはなんとなく察していた。
それにしても、相模原市内に魔女にとっての国があるってのは予想外ではあったな」
影臣はじっとコトネを見てからつん、と肘で藤代 柘榴(
r2n000030)を突いた。
(……んだよ)
(さっきは大きくないなといったが、こいつ案外可愛くないか。美少女レベルが高っっ――)
柘榴は「おまえ」と影臣の尻を摘まみ上げて捻る。「ぎい」と呻いた男にコトネはそっと視線を向けてから首を傾げた。
「なにか、疑問がありましたか」
「あ、ああ……そう、だな……濃霧と
花蝕の呪いで満ちてるのは、魔女がドロス市とやらを護るための、結界で良いんだな?
んで、それを破るためにはラウェルナとやらを利用する。……対処装置を彩心石でやる、為に俺達は協力関係だ」
「ええ」
「それは理解したんだが、……その、だな……」
カゲオミはどうしたものかと言いたげにロウを見た。ロウはカゲオミという青年を見て意外なものだな、とそう物思う。
彼はドロスを追放されたという魔女を慮って言葉を選ぼうとしているのか。
だが、ロウはそんなことをしない。もっとも単純な解法を持って答えに近づいておこうと考えるタイプだからだ。
「追放された魔女がこちらに協力する理由は復讐か何かか」
「お、おい、せんせいに失礼だろ!」
「……手の内を明かせとは言えやしないだろうが、そこに何か理不尽があってこそ追放がされたと考えている」
コトネは茶々奈をなだめるように視線をやってから、そっとロウを見た。
その紫苑の瞳が柔らかに揺らいでいる。少し、困惑を滲ませているように見えたのはロウが暫くの間、彩心石と向かい合い続けたからだろう。
「……ドロスの魔女……取り分け、
集会のリーダー格である魔女は自信の意に反するものを容認しません。
ラスピが、何を考えているのかまで私は理解をしていませんが……少なくとも、私はあの都市で作りあげられていく
花人達を見ていられなかった」
「花人はドロスの魔女の作品か何かか?」
「……そう、言うべきなのかもしれませんね。私は
集会の一員とまでは言い切れませんから、その詳細を知りません。
けれど、昨日笑っていた友が、明くる日には花に埋もれ、微笑むだけのけだものになっていたならば、誰がそれを喜べましょう。
少なくとも、私はそうではなかった。
それだけです。それだけなんです」
「それでいいよ」
柘榴はそう言ってからにんまりと笑った。
「我慢ならないなら徹底的にぶっ潰せばいい。彩心石に夢を集めればいいんだろ。
誰かが眠って眺めた夢に、未来への展望に、夢って言葉には色々な意味が込められている。
――なら、夢を追いかけて来たアタシが山盛り集めてやる。そんで、挨拶に行こうじゃん。ドロス市の魔女!」
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