「――あ?」
藤代 柘榴(
r2n000030)は思わず声を上げた。というのも、一行の前に現れたのはたぬきを思わせる一人の少女だった。うう、と噛みつかんばかりに威嚇の表情を見せるが、僅かばかりに震える身体は、彼女がなけなしの勇気を振り絞っているのが見て取れる。
「! ドロスからの追っ手か?! せんせいはやらせないぞ!」
少女が威嚇するように此方を睨み付けるのへ、しかし響いたのは、それを制止するような声であった。
「大丈夫です、茶々奈」
――言葉とは裏腹に、どこか警戒する色を載せた言葉。洞窟の奥から現れた声の主は、ゆっくりと一行を見つめるや、
「――ドロスの魔女のようには見えません。
それに、
花蝕の呪いにあらがえている様子なら、あの子達とは敵対関係にあるのでしょう。
となれば、私たちにも、戦う意味はありませんから」
そう、
黒帽子の魔女が言う。茶々奈(
r2p009223)と呼ばれた少女は、コトネの姿に安堵したような様子を見せつつ、しかし此方を威嚇するような視線は変わらぬまま、コトネの前に立った。その様子に、錬金術師ロウは窘めるように目を細めた。
「此方にはあるかもしれない――という可能性は提示するがね。
あいにくと、敵の敵は味方、とはやってこられなかった身分だ」
その言葉に、
黒帽子の魔女は少しだけ目を細めた。そのまま少し、目を逸らす。
「……考えていなかったな? まあいい」
はぁ、と、ロウは両手を挙げた。
「別に、此方もむやみやたらに攻撃を仕掛けるつもりはない。
簡単に、自己紹介をさせてもらおうか」
一行が簡易に自己紹介を済ませるのへ、
黒帽子の魔女は少し慌てた様子で頭を下げた。
「私はコトネと言います。
ドロスから追放された魔女。
少なくとも、私は
天使ではありません」
改めて、攻撃の意思はない、と、コトネは言った。
(……追放? なにかやらかした、って事かしら)
葛井 キセイ(
r2p009062)が小さくつぶやく。立場上、コトネと名乗った魔女も、いわば
敵の敵であることは間違いないのだろう。
(どう思う? 影臣さん)
小声で尋ねるのへ、雀居 影臣(
r2n000218)は、ふむ、と唸って見せた。
(あんまり大きくないな。対象外だ)
(こいつ……)
柘榴が尻を蹴り上げるのへ、影臣は「いてぇ!」と思わず声を上げる。コトネが僅かに身構えるのへ、奥空 奏音(
r2n000250)は、こほん、と咳払い。
「ええと。お気になさらないでください。
コトネさん、でしたね。細かい事情は、今は伺いません。
私たちは、ドロス……相模原の神秘現象を解決するため、そこに行かなければならないんです。
ですが――」
「外は濃霧と
花蝕の呪いで満ちてる。それに、ドロスの魔女達は陰険だから、普通の手段じゃドロスにはたどり着けないようになってるんだよね」
茶々奈が言うのへ、コトネは頷いた。
「……相模原の魔女は用心深い。だから、ドロス市には何重もの結界が張られて、道を知らないものはたどり着けません」
ふむ、とコトネはロウを見た。厳密には、ロウの持つ「
彩心石」へと、視線を向けていた。
「……それは使えそうですね。まるで、心を入れる器のような……」
「わかんの?」
柘榴が尋ねるのへ、コトネは頷いた。
「魔女ですから。茶々奈、アトリエに戻って、明日花と準備をしてください。
あの石を使えば、ラウェルナの香りを採取できるかもしれませんから」
「ええと。
つまり、協力してくれる……って事で、間違いない?」
キセイがそういうのへ、コトネは頷いた。
「はい。
この洞窟には、ラウェルナという花が咲いています。
花蝕の呪いにあてられたものから、『夢』を奪い取る。そういう魔の花です」
「一応確認させてください。
その花蝕の呪い、というのは、私たちが『
花蝕障』と呼ぶもので間違いありませんか?」
奏音の言葉に、コトネは頷いた。
「ああ、皆さんはそう呼ぶのですね。では、これからはそちらにあわせます。
とにかく、
花蝕障に少しでも接触したものから、それを経路にして、ラウェルナは夢を奪い取る。そして、その奪った夢を見せる――。
でも、それ故に、ラウェルナには、
花蝕障の……抗体、といいますか。対抗措置となる神秘の香りを発するんです。
わたしも、その香りを採取しようと試していたのですが、上手く行かず……」
「成程、読めたよ、お嬢さん。
俺たちが持っている、
彩心石――それが採取器に使えるってわけか」
影臣の言葉に、コトネは頷いた。
「ええ。画期的な魔導具です。少し興奮しています。
……こほん。さておき、早速ですみませんが、試してはいただけませんか?
勿論、簡単なことではありません。
ラウェルナに近づけば、夢に囚われる。それに、近寄ることで夢を奪われるかもしれません。
ですが――」
「まぁ、他に手はない。
別に、全面的にあんたを信用するわけじゃあないが――」
ロウが言うのへ、キセイは頷く。
「試せるのなら、何でも試すし――今のところ、そっちに敵意はなさそうだもの。
それに、危ない橋なら何度も渡ってきた。やってやれないことはないわ」
キセイの言葉に、コトネは頷いた。
「では、ラウェルナの群生地を、いくつか教えます。
その
彩心石、へ可能な限り
香りを採取して来てください」
コトネの言葉に、一行は頷いた。
濃霧の湖の果てに見つけた、青の洞窟。その中に、一筋の光が見えたような気がした――。
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