黄昏より、夜が来て、巡る、巡る。世界の欠片が毀れるように。
草薙剣の欠片はパズルのピースのように集まった。八重はやんわりと吐息を漏らしひとつひとつを摘まみゆく。
すっかり、眠れなかった。
草薙剣のことが心配だったけれど、それ以上にK.Y.R.I.E.よりやってきた能力者達の事が心配で。
「容態は、どうですか」
「大丈夫、です……ありがとうございます。
でも、
千鹿ちゃんのことは捕まえる事はできませんでしたね……」
肩口から胸元へ。斬り下ろされた後は肉体を動かすたびに暫し傷んだ。
攻撃を避ける事が出来るだろうとそう踏まえた威嚇の一撃だっただろうが、匂坂 千鹿(
r2n000011)からの攻撃を面と向かって受けた親友――セレーネ・ローザ・フォレスティ(
r2p000402)は唇を噛みしめる。
「あの後、そう、千鹿ちゃんは、」
思わず起き上がったセレーネが痛みに呻く。そっとその背に手を添えたマートル・マーター(
r2p000087)は「大丈夫ですか」とそう囁いた。
「千鹿さんも、
祇化したときいたわ。
此方でも
明衣さんに同様の変化が起きたの。
……御津那海の神々の力をお借りする。祝福と加護の形であるとそう、聞いているけれど……。
されど、それは
呪創による侵食の始まりであるとも」
「侵食……」
マートルの言葉を続けるように八重は厳かに頷く。
「
呪創は神々のマーキング。……なので、それは神が器に定めたものをしるす証そのものです。
結びつきは神への相互理解を生みますが、それでも、度が過ぎれば神がその肉体を侵し、蝕み、我がものとするとも言います」
八重がそう口にしたならば、月之瀬・レナ(
r2p000688)が「相互理解」とぽつりと呟く。
彼の――スクナの心に触れようとした。
あの人の一端を覗く事はきっと、やってはいけないことだった。
神様というのは侵してはならぬ場所がある。それは神名備か。されとて、磐座そのものか。
レナは深く息を吐き出してから、浅く息を吐いた。思い出すたびに指先がしんと冷たくなっていく。背筋に嫌な気配が走る。
「……大丈夫ですか」
「はい、大丈夫。大丈夫です。……祇化のことも、考えなくては」
御津那海の、そして諏訪の神霊や精霊は能力者に力を貸してくれることだろう。
何人にでも平等に、国津神は手を貸そう。時に天津神が微笑む事もあるかもしれない。
天神地祇は何れにせよ人の身には大それた力である事には違いない。
「
祇化はこの御津那海であれば、皆さんの何れにも祝福として力を分け与えられると思います。
けれど、神々による
呪創がその肉体に刻まれているならば、どうか、気を付けて……。
神による侵食はあなたのお心を惹きさしてしまう可能性だって、ありますから」
花蔭 明依(
r2n000056)は「私は、大丈夫。
御津那海比売様は見守って下さっているから……」と深くそう息を吐き出したか。
「神様の、御津那海比売様の手を握り締めた時に分かったの。……私はもう、大丈夫。
御津那海に平和を取り戻さないと。神々にお声掛けをして、私達がこの街との向き合い方を決めていかなくっちゃ――」
「祇化……教えの異なる私がどうなるのやら、気になりますが」
マートルは静かに祈るように言った。
「えぇ、平和を目指すために進まねばなりませんね」
滅びを目指す、ただそれだけは厭離衆とスクナの本音であろう。
彼に従い、滅びの為に邁進しても、己の信ずる者の為に戦う者がいた。
去って行った少女もいた――結局、此処から先は己の信じる正しさのための戦いになるのだろうか。
雫の音がする。緩やかに顔を上げた匂坂 千鹿はぼんやりとした瞳を天に向けた。
「ねえ、ちゃちゃちゃん」
「どうかしましたか? ちかちゃん」
「……歌が、聞こえたんだ。なんだろう、どこからか、歌が」
「歌~? きこえましたか~? んー、ちゃちゃは聞こえてませんねぇ」
「そっか……ふふ、なんだろな。懐かしいような、もっと聞いていたいような……ふふ、……ふふ……」
※イラストオプションに『
祇化』が実装されました。(用語説明:
呪創/
祇化)
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