アーカディアVIIIは他の熾天使個体と明確に異なる別種である。
元来、ただの一つが抱くべき支天の宝冠を二者が分け合った――
それは驚くべきイレギュラーであり、それはエイ=ルとリ=ルの双子が真の意味で同一であるという証明ですらある。
この双子は見目通りの幼い勘気を秘めている。
狭窄した視野で永遠に拒絶し、決別した大人を自らの世界の住民とは認めない。
都合のいい夢幻に溺れ、立脚せぬ理想に塗れた。
子供の遊び場を完全なモノと信じ切っている。
詰まる所、他の熾天使と異なるのは成り立ちだけではなく、
戦争に対しての姿勢さえ同じであった。
「……ねえ、エイ=ル」
「何だい? リ=ル」
「ラグナロクだっけ。マリアテレサの言っていた私達の戦争」
「僕達の戦争じゃないさ。リ=ル。これは、
熾天使達だけの都合だろう?」
だから。この双子は多くの熾天使が待ち望んだ戦争を別に歓迎はしていない。
長く、永く――双子の閉じた楽園であった
熾天使時代の終焉は、彼等にとって遊びの終わりを告げる
鐘の音のようなものだったから。
二人がマリアテレサに然程の敵愾心を持っていないのはその辺りの事情もある――
「でも、エイ=ル。日本が随分騒がしくなってきたわ?」
「そうだね、リ=ル。でもちょっかいを出してきているのは下っ端の雑魚ばっかりだよ。僕達の相手になるようなのは居ない」
リ=ルの表情の僅かな曇りを払拭するかのようにエイ=ルは言う。
「例外を除けば精々が主天使以下の連中しか居ないよ。
それで、それに。その例外は、
僕達に力を貸すと言っているじゃないか」
「だけど、エイ=ル」
「うん?」
「
ディオンは信じていいのかしら」
「そんな事」
エイ=ルはリ=ルの言葉を笑い飛ばした。
「決まってる。僕は――いや、僕達は。
大人なんて絶対に信じない。
あんなニヤケ面、誰が信じるもんか。
変に真面目ぶった
格好付けだって同じだよ」
「うん」
「そうだろ? リ=ル。大人は汚いし、僕達を必ず裏切るよ。
そんな事は分かっているんだ。分かっているから、僕達はアイツを利用してやるんだ」
東京辺りで策動を進めるディオンの動きは把握していた。
或る意味で一番有利な、マシロ市の在する日本に展開出来たのは、アーカディアVIIIへ子供の侮りがあってこそのものかも知れないが――各熾天使が日本に尖兵を送り、何らかの橋頭保を築こうとしている現状は双子にとって余り望ましい状態ではない。
エイ=ルは旧京都に準備した
閉じた庭園、絶対の領域に確たる自信を持っていたが万に一つがあってもいけない。
(……そうさ)
エイ=ルは自身の言葉に「そうよね!」と朗らかな笑みを取り戻した
妹を見て柔らかく微笑む。
(
何があってもリ=ルだけは)
彼はラグナロク等と大きく出る――熾天使同士の戦争は幾らでも予想外の事態を生むだろうと知っていた。
なればこそ、準備は幾重にも果たさねばなるまい。
全てはたった一つの目的の為に。
エイ=ルだけが有するたった一つの
大願の為に。それが他の熾天使と少し違おうと――そんな事はこの少年にはどうだっていい事に違いなかった。
※世界各地で熾天使同士の戦いが始まり、マシロ市近辺でも各派天使の動きが活発化しているようです……!