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Lost Arcadia
©️ Re:version
Lost Arcadia
#0443

宿焔と残響

 第三戦区「東部」――そこは缶蹴りゲーム(ウォーターシグナル)が行われていた。
 攻撃側と防御側に別れ、防御側が隠した缶を攻撃側は捜索し、クリアゲートと呼ばれるエリアに持ち込んで蹴り飛ばす。
 まさに缶蹴りと称するに違いない子供の遊びめいたゲームだ。
 第三戦区、廃墟としたビルの屋上で犬耳を生やした少年――シュウリは脚を放り出すようにして縁に腰を掛けている。
 むすっとして不機嫌を隠さない少年はぷらぷらと足を外に遊ばせていた。
『やっほ~~~~~~シュウリくん! きみはハシビロコウって知ってるかな?
  そう! あのやけに大きくって全然動かない鳥のハシビロコウ! ほんと全然動かなくって試しに近づいてみたんだけどさ!』
 そこへとぴょんと跳ね現れた兎の人形――ベルベルはシュウリへと何とも気安く声を掛け、刹那に発火し業火に巻かれて焼け落ちる。
『も~~~~~不機嫌なのをぼくに当たるのは良くないんじゃないかな!?
 そんなに乱暴するならせっかく持ってきてあげた耳寄り情報もあげないよ~~~~』
 ぽんと跳ねてまた姿を見せたベルベルはステッキをぶんぶんと振りながらそう抗議の声を上げる。
 シュウリはそれを冷めた目で見つめ不機嫌に尻尾をゆらと揺らした。
『うっさいな、ベルベル。何しに来たんだよ』
 不機嫌を隠さずに眉を顰めた少年は純白の翼を羽ばたかせながら人形を見る。
 まだ10代も前半程度にしか見えぬ幼い少年はこれでも『焔狗』と呼ばれる派閥の首魁であった。
 第八熾天使(アーカディアⅧ)派でありながらカタルモイに参加する彼らは東部に置いて大人を手駒にゲームを楽しんでいる。
『あらら! ほんとにご機嫌斜め! あ~~! もしかしてこの前のゲームの事!? 勝ち負けはゲームでは当然でしょ!
 攻めきれなかった君のとこの子に文句いうべきじゃないかな~~~~~!』
「……また燃やすよ」
 黄金の瞳をちら、とベルベルに向けて不機嫌にシュウリが言えばベルベルは白々しくも『お~~こわいこわい!』などと声を上げる。
『ま、きみらがK.Y.R.I.E.に負けて戦功点を取られたのも含めて――ぎゃっ!』
 ぼぅ、と燃え上がった人形はまたも消し炭に変わり、新しい個体がぽんと姿を見せる。
『短期なんだから! ま、きみもアーカディアⅧ派、タラリアくんなんて嫌いなんだろうね、仕方ないな!』
「……分かっててやってるゲームマスターやオマエが悪いだろ。速く要件を言いなよ」
『だから言ってるじゃないか! きみらがK.Y.R.I.E.に負けて戦功点を取られたのを含めて――もうそろそろいい時間だな~~~ってね!』
 む、とした表情をしたまま、同じ煽り文句を作ったベルベルを睨んだならば、人形はそう続けた。
『何だか相模原なんかに浮気をしようとしてるみたいだし、てこ入れも必要だよね!』
「テコ入れ?」
『そう、てこ入れ! 第二戦区の決戦に参加した呪術師の人間達(シパ・バルド)にゆめかわ軍のおじさん天使達、後は仙豹の人達がこの第三戦区に入ってきたみたいだね。終鐘教会に連なる人間達もまだ東部に残ってる。
 モイッセオでは東部で活動してた図書館の子達に良い感じの好成績を上げてる子もいるみたいだよ!
 うんうん、感心感心! 彼らの記録がタラリアくんの望むものであるように祈るばかりだね!』
「……あぁ、言いたいことが分かった気がする。要するにあれだ、第三戦区でも決戦を開始するんだ」
 眉を益々ひそめてシュウリがベルベルを見る。
『だいせ~~~~~か~~~~~い! その通り! この第三戦区でも決戦(レイドバトル)を開始するよ!
 焔狗の皆も精々頑張って決戦に楽しんでね~~~~~!』
「……次のゲームは何するの?」
『へっへ~~~~ん! 2回もぼくをこんがり焼き兎にしたきみには教えてあげないよ~~~~~!』
 ぶんぶんとステッキを振って言ったベルベルは都合3度目の業火に巻かれ、それっきり姿を見せない。
「まぁ、いいや……いよいよ決戦なんだ。
 次はどんなゲームになるかな……派閥の皆に声を掛けなくっちゃ……ウルはどうしてたっけ?」
 もうすっかりとベルベルから興味を失い、少年はぼんやりと空を見上げた。廃墟の空は憎たらしい程に青々と美しい。


 立花 空葉(r2n000034)は死んでいる――
 もちろん、それは生物的な意味なんかじゃない。ただそんな風な心持ちで生きてきたというだけだった。
 30年前の4月1日、世界は突然に壊された。数え切れないほどの惨劇から始まった3日間が終わる頃、立花 空葉という一人の人間にはそれまで持っていなかったはずの戦う力があった。
 手入れを欠かさなかった綺麗な黒髪は大空のような青色に、黒真珠のようだった瞳は深い水の底のような青色に。
 気づけば耳は物語の中でしか知らない妖精のように尖っていた。
 水かがみに映った自分の顔を初めて見た時、そこに私は映ってない――そんな風にしか思えなかった。
 4月2日、既に故郷は燃え落ちた。私が知る家も、私の知る家族も、私を知っている知人も、誰もが炎に巻かれて奪われた。
 痛みに呻く人の声も、熱にあえぐ人の声も、私の手足を掴んで事切れた人も、その多くを私は知っていた。
 ドゥームスデイの2日目、立花空葉は故郷で家族や知人と一緒に死んで、あの町で眠っている。
 そう思っていなければ、戦う力の代償みたいに、家族も何もかもを奪われた私は前を向くことなんて出来なかった。

 ――そら姉ぇ

 そんな風に、私の事を呼んでくれていたあの子の事を覚えている。
 あの日、きっとあの町で死んだと思っていたあの子の声が、懐かしく甘えるような声がまた聞こえた。

 ――また会えたよ、そら姉。良かったね――あぁ、それとも
 あの日、燃え落ちた故郷で生き残ったのは自分だけだって、特別だって思ってたかった?

 ――ねぇ、狼みたいな耳と尻尾のお姉さん。どう思う? たち悪いと思わない?
 考えたこともないんだってさ、自分以外の生存者の事

 再会したあの日、甘えるように、蔑むようにあの子が言った言葉が、ずっと頭から離れない。

「私は、生きている。私は、戦える――私は、あの子を殺せる」
 弟のように思っていた。慕ってくれるあの子の眼差しはいつだって熱を帯びていて、それが心地よくて微笑ましくて。
 いつかその目を向けてもらえなくなる日が来ると思えばどこか寂しくさえあった。
 それでも、殺せる。殺さなくてはならない。何人もの天使を殺してきた。
 それが今の空葉になってからできた新たな友人であっても、新たな教え子であっても。
 天使になった人々を、何人も殺してきた――今更、それが幼馴染でも殺せる、はずだ。
 殺せなくてはならない――だって、そうやって私は沢山の子達に教えてきたのです。多くの子達を、そうやって送って来たのです。

「ふふふ、次の戦いがもうそろそろな気がしますね……次こそ……それが出来なくとも、いつかは倒さなくては」
 明るんだ空を見上げて、そう呟くのは幾度目だったろう。
「……シュウくん」
 目を閉じれば、甘やかに笑うあの子の顔を思い出す。

 ――ねぇ、狼みたいな耳と尻尾のお姉さん。どう思う? たち悪いと思わない?
 考えたこともないんだってさ、自分以外の生存者の事

 あの子の声が反響する。
 もしかしたら、私は自分だけが生き残ったと言い聞かせ、みんなを見捨てる自分を正当化してただけだった?
 本当の私は、あそこで死んだなんて言い訳して、のうのうと生きてきただけだった?
 否定したいのに、否定できなくて、目を閉じていた私はまた眠れぬまま目を覚ます――最後にぐっすりと寝たのはいつだったろう。




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命空骸戯(カタルモイ) - 旧展示場要塞システム/ゲイム・ルール

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