かつり、と靴音が響いた。緩やかに振り返ったローブの娘は「何か用か」とそう囁いた。
Alphard(
r2p005591)は己が身を曝け出すことはしない。まだ嫋やかで幼い少女のなりをしていることは弱みともなり得るからだ。
「折角の共闘相手ですもの。ご挨拶に伺うのは間違いではありませんでしょう?」
朗らかに微笑んだ女のエクルベージュの髪が風で揺らいだ。
ここは第三戦区「東部」――江戸川区と呼ばれていた区画である。氾濫した川の影響を受け、アスファルトは濁った水の下にあり悠々と変異体の魚が泳ぐその区画にAlphardとその女は立っていた。
「側近もつけずに?」
「丸腰で伺ったように見えますか」
「……いや、後ろに誰かを連れているな」
Alphardがそう笑えば、女の背後からゆっくりと旧時代の天使を思わせる翼を有する少女が姿を現した。
「あなたがアルコ・イリスの総帥? 随分と若く見える……と言ったら失礼かしら。
ご機嫌よう。アルマ=ミラ修道院のフランシスカ・クレメンティア・ルミエールよ。お見知りおきを」
「……アルコ・イリス総帥のAlphardだ。挨拶と言ったな。わざわざアルマ=ミラの
最高指導者が来るとは思っても居なかったが……」
Alphardの興味はフランシスカ・クレメンティア・ルミエール(
r2p007229)その人ではなくその背後に立つマリアム・アルマ(
r2p006122)に向けられていたか。
それもそのはずだろう。アルコ・イリスとアルマ=ミラ修道院はそれぞれ終鐘教会の分派や協力者に名を連ねている者の横のつながりはない。例えば――あの劔醒会などもそうだ。
Alphardとマリアムは劔醒会の
会主の顔も存在も知らず、あちらも然程に交友を持とうとも考えてはいないだろう。
「
指導者はコスモスに関して何と仰っておられましたか?」
「我らには手に入れたならば好きにせよ、と。目的は第九熾天使派や偵察に来ている第八熾天使派等に顔を繋ぐことだとも」
「ええ、その辺りは同じようなものですね。此方も天使候補生の確保などを好きに行っても良いと言われております。
然程に目的がすれ違わないのであれば共闘相手と呼ぶのもピッタリでしょう? だからこそのご挨拶なのです」
「今更だな」
「ええ、今更で良いのです。……ご覧になりましたか。第二戦区の
決戦を。
あちらに劔醒会の姿がありました。彼らも第九熾天使様のお目に留まる事を目的としての大立ち回りでしょう?」
マリアムは見かけたという花月 麻柊らの姿を思い出してからそう囁いた。不機嫌面をしたフランシスカが「マザー」と呼ぶ。
「私達は何をするの? お話をしているだけじゃないでしょう。そろそろ、
しっかりと私達も動かなくちゃ」
「……焦らないで、フランシスカ。そのお話をしに来たのです。
ねえ、Alphardさん。第三戦区でも、もうすぐ
決戦が行われるそうです。貴方方はどうするおつもり?」
Alphardは目の前で笑っている女が暗に参加をしないのであればここで手を引けとでも言っているように感じられた。
目的が為ならば手段を択ばずに生きていく終末論者らしい在り方だ。
マリアムは
指導者に従いながらも、素晴らしき世を作る為に奔走すると心に決めているのだろう。
その過程で協力者になり得ぬ存在が居るならば先んじて芽を摘んでしまおうとでも。その為にわざわざ修道院で序列1位と謳われた娘まで連れて来たか。
「……勿論、参加するとも。我らも顔繋ぎをしておきたい。
此処で我らの目的が潰えることは本意ではないが――されど、コスモスが目的に一番近い事は逃れ得ぬ事実だ」
「ええ。そう仰ると思っておりました。ですから、お貸しします。
カタルモイではアルマ=ミラ修道院はアルコ・イリスの手足となり、戦い抜きましょう。
……すべてはヒルダ様のお心の儘に。あなたも駒の数が多いに越したことはないでしょう? それでは、健闘をお祈りいたします」
微笑む女からAlphardはそうと視線を逸らしてから嘆息した。
彼女が背を向ける中、最後までAlphardを睨みつけていたフランシスカの忠誠は高い。
終末論者組織である終鐘教会はコスモスと各熾天使へのパイプ作りの為にこのカタルモイに参戦しているのだから、協力者となれとマリアムが言えばフランシスカは確かに手を貸してくれるだろうが。
(……こちらを信頼する気はさらさらない、と言う事か。終鐘の分派であろうとも一枚岩ではないな……)
第二区での戦いが勃発したばかり。だが、第三区もそろそろ頃合いか。
缶蹴りは実に児戯めいたものではあったが――
「……次は何か……また子供の遊びでなければいいが……」
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