東京第二戦区。かねてより予告されていた『レイド』ゲームがじき始まろうとしている。
そんな中で、あえて。
昔話をすることを、ゆるしてほしい。
むかしむかしあるところに、ご主人様が大好きな
ネコがおりました。
ネコは『お手伝い』が好きでした。
ネコは『嘘』が得意でした。
だから嘘を使って、お手伝いをすることにしました。
お金を右から左へ流しながらこっそり奪い取ったり、人を踊らせて土地や権利を奪い取ったり、人と人の関係をこじれさせては立場を奪い取ったり。
その全部をご主人様に捧げました。
お金も権力も名声も手に入れて、ご主人様は大満足です。
ネコは沢山褒められました。
とってもとっても、嬉しかったのです。
ですが。
嘘はいずれ、暴かれるのです。
虚偽が。詐称が。陰謀が。すべて白日のもとに晒されたとき。
ご主人様はすべてを失いました。
喪失のあの日。警察に包囲されたオフィスの最上階。ネコのネクタイをつかんでご主人様はこう言いました。
『――お前さえいなければ、俺はマトモでいられたんだ!』
「ああ、嫌なことを思い出したものですねえ」
東京、カタルモイ第二戦区。旧上野駅の建物の上は、ひどく強い風がふいていた。
灰色の猫耳をやはした天使、エルシャーは風に細めていた目を開き、黄金色の瞳をかなたの空へ晒す。
あるときは、嫉妬に狂った男を利用した。
あるときは、権力を求めたアザラシの王を利用した。
あるときは、情愛に溺れた女を利用した。
彼等はひとつのこらず破滅して、
お手伝いのネコは――もとい、嘘吐き天使のエルシャーは、口笛をふきながら大事なものだけ持ち去っていった。
すべては偉大なる御方のため。いずれ障害となるであろうK.Y.R.I.E.に戦力をぶつけ続け、利益だけを持ち逃げし続ける。そのつもりだったのだが。
「それにしても、
あのガキ……」
エルシャーにとって、取り入ることは特技のひとつだ。
相手の欲望を見抜いておだて、力を与えて増長させ、暴走させてけしかける。いつもの手だ。それが、『どうぶつさんファミリー』の
園長リフィネには通用しなかった。本能的に感づかれたのだろう。恐らくリトライの機会は与えられまい。
「ですが、構いません。私は既にいくつも得た。充分に対抗できます。
もう、
逃げも隠れもしなくていい……」
力は、集めた。
利用こそできなかったものの、取り入るべき派閥に協力者として入り込めた。
あとはただ、迎え撃つだけでいい。
エルシャーは誓いを立てるかのように胸に手を当て、目を瞑る。
ここにはいない、偉大なる御方を瞼の裏にうかべた。
「ご安心下さい。私はもう間違えません。私はもう侮りません。
嘘がいずれ暴かれるとしても、盗んだ力は本物なのです。それを今こそ、あなた様のために使ってご覧に入れましょう。
これは『お手伝い』でも『嘘』でもございません。
これは。
私のすべてでございます」
どうか。
どうか。
願わくば。
「あなたのお役に、たちますように……」
ふと、鳥が飛んできた。
リフィネが召喚した鳩である。足に結ばれた可愛い手紙を開いてみると、『きてー』と書いてあった。
ため息をつき、不可視の
暗幕をひく。
すると、エルシャーはほどなくして旧動物園エリアの一角へと現れた。
目の前に立っているのはフェネックの耳をはやした天使、リフィネである。
あどけない少女。わがままな少女。そしてそれだけのわがままが許されるほどに強大な力をもった少女。
第二戦区有力派閥『どうぶつさんファミリー』のリーダー。
「人を呼び出すためだけに伝書鳩を使わないでください、リフィネ様。ですがあなた様が私の『お手伝い』をご所望とあらばいつどこからでも駆けつけましょうとも」
「ん~、それはいらな~い」
「はっはっは……このガキ」
笑顔のまま毒を吐くエルシャーに、リフィネはにこにこ笑ったまま言う。
「でさ、
えるるん」
笑顔のまま。
そのままで。
「選ばせてあげる。
何がしたい?」
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