「何処に出かけるって言うんだ、
丫头?
そっちはマシロ市外……いくら磯子が人類圏になったって一人歩きは危険な年齢だろ?」
男の前を歩くのはキャスケット帽を被り、今はまさにショッピングにでも言って来たと言いたげな服装をしていた子供だった。
その後姿を見る限り齢にして10代前半、華奢な体つきをしているのだろう。武器の一つも似合わぬような痩せた娘だ。
男――神寺 一弥(
r2n000019)は嘆息する。
そう声をかけてみれば彼女が足を止める事を知っていたが、居心地が悪い。
「散歩じゃよ」
天を衝く龍の角。緩やかに大地を叩くその尾の先までもが女を構成する物質だ。
何時かの日の
後遺症により聊か低下した視力を表す如く色違いの双眸が悪戯めかした光を帯びて男を見る。
「散歩にしちゃあ、仰々しいな。買い物袋の振りして何入れてる?
……
追いつけるように出かけようとしてくれただけ有難いって言うべきか?
大姐」
「ちょっとした悪足掻きでしかあるまいよ。わらわが
行くべきではない事を知っている。
ちゃんと追いかけて来てくれたんじゃな、一弥。やはり、貴様は良い子だ。本当は、一番に飛び出したかったのは小僧じゃろうに」
小さく笑みをこぼした華氷 ヒメリ(
r2n000018)を見つめてから一弥はやんわりとおのれの唇を噛みしめた。
一弥は大破局以前、刻陽大学附属中学校生徒会に所属していた。同級生であった忍海 夏帆(
r2n000020)は帰らぬ人となり、木ノ崎 美夢(
r2n000053)は負傷により帰還、そして嘉神 ハク(
r2n000008)は指揮官として
カタルモイも参加し、実の妹と対峙している。
ヒメリの言う通りだ。本来ならば、一弥とて友人の手助けを行うべき、だっただろうが。
「……おいおい、オレはアンタの
所有物だぜ。
帮主の傍を離れるもんか」
「……難儀な子じゃな」
それは、アンタもとそう言いかけてから一弥はゆっくりと振り返った。
杖の音がかつりと響く。いつも通りの朗らかな微笑みを浮かべている化生の男は「こんなところで奇遇だな」とそう囁いたか。
「助太刀に向かいたい気持ちが山々で逸る心を抑えられなかったのだろう。
されどな、この街を護る者や日常の象徴も必要だとは思わないかね? 龍妃」
「……そうさな、棟耶。学園祭は楽しませてもらったとも。
そう――ほら、ふふ……。思い出すたびに愉快にもなる
諒真に辛味を足した時の絶望した表情もそうじゃが、
眼鏡が割れたあやつも、思い出せば、くっ、くく……」
「
ヤシロ君など唇が真っ赤に腫れていただろう。
久遠君の鉄の胃袋も悲鳴を上げていた」
「……
あの女はオレにほぼ押し付けてたが……今でも胃が痛い」
一弥が腹のあたりに手をやれば、それを愉快そうにヒメリが見遣るのだ。
刻陽学園学園長である棟耶 匠(
r2n000068)は「学園祭は楽しめただろう。あれが、私があの子たちに与えたい日常だ」とそう言った。
「……御津那海に残してきた八重も、我々と共にマシロに辿り着いた
八尺瓊勾玉にも味わってほしい」
「そうじゃ、アオノ。八尺瓊勾玉の守護者はこれからどうする」
ヒメリの問いかけに匠は緩やかに頷いた。東京に向かう事になるだろう、と。
ただし、その行く手を遮るように
第八熾天使派がちょっかいを駆けてくる可能性もある。
「彼女の護衛も必要となる。……さて、そこで、龍妃に質問なのだが。
龍華会は運び屋の役割などはしていないかね? 少し、後ろ暗い話なのだが、とある娘と大事な品を届けてほしい場所があってな」
「ふむ。その荷の準備は?」
「今しばらくの時間を貰えるとありがたい、が」
「ふうむ……そうじゃなあ。
ちょっとだけ可愛くってお茶目な女の子が運んでやることもやぶさかでは――」
「
帮主」
「なあ?」
「
帮主!」
「やぶさかではぁ~ないんじゃが~なぁ~?」
「
大姐!」
声を荒げる一弥を見遣ってからヒメリは「そう憤るな」と肩を竦めて見せた。
「安心せよ。わらわが安易に出るとは言っておらぬ」
「言ってただろ」
「ふふ、さて、わらわの可愛い可愛い
小童よ、拗ねる暇はあるまいよ。
わらわの可愛い
構成員に戦場に動きが出たならば、それに備えよと通達するがよい。
暇も祟れば龍も涎を垂らし、
待てが出来なくなるものじゃ。それが
かわいい女の子じゃろう?」
※東京編決戦『ラスト・ゲイム:アルケー』が開始されました――!
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