ハッピーエンドじゃ収まらない


 愛と恋は何が違う?
 由比ヶ浜の戦場を後にして。穢れた妖刀、鬼哭刀・銀月は廃墟となった街を風のように走り抜けながらおもう。
 愛は与えるものだ。触れて、掴み、時として齧り付くような乱暴さで、銀月は『愛しいそなた』を愛そうとした。
 秘めた刀身からだを露わにし、相手の肉を裂いて、裂かれた。
 夢のような、それでいて、夢ではない時間。
 甘い痛みが、熱い血が、ふれあう全てが愛おしかった。
 だから。
 だから!
 けれど!
――」
 銀月にとって、愛することと殺すことは同じことだ。
 ただ一方的に愛することは、できる。
 その間たった一瞬。愛されることは、可能だ。
 けれどいつまでも愛し合うことは、満足に愛し合うことは、きっとかなわないだろう。
 全力で銀月が愛せば、終わってしまうのだから。
 だがそれを曲げることは、妥協することは、ゆるさなかった。
 だって。
「愛し合おうと、言ってくれたろう」
 『おおいなるもの』の糧になどなるなと。
 上様のものになどならなくてよいと。
 言ってくれたのだから。
 我慢しなくて、いいと知った
愛し殺し合いたい。愛し殺し合いたい。愛し殺し合いたい――嗚呼、どうか。夢でなく、現実で、わらわと――愛し殺し合ってくりゃえ。
 わらわの全てを受け入れて、喰らって、掴んで、噛んで、絡んで。
 どちらも壊れてしまうような、全て溶けあってしまうような。
 そうやってわらわを愛し殺してくりゃえ。
 そうすればわらわらは、もうなにも求めぬから。どうか、どうか、それだけを――」
 崩れかけの屋根を蹴って、月夜に跳ぶ。
 目を瞑り、嗚呼と気付いた。
「ああ、これが――求愛か」

 敗者の首を切り落とし、死と怨念を喰らう刀。
 それはさながら屠殺者のように、持ち主へと死が絡みつかぬよう用いられる穢れの塵箱。
 己の刀身からだには名も覚えていないような無数の死と怨念による穢れがため込まれ、凝縮していた。
 その一端を発露させただけで、銀月は圧倒的な暴力を、殺傷力をもってしまう。
 だが仮に。
 仮にだ。
 鬼哭刀・銀月に込められた全ての穢れを発露させ、触れれば殺してしまうほどの凶刃と化してもなお、『愛し殺し合って』くれたなら。
 きっと、己は
「待っておるよ。夢もうつつも境無く、わらわとそなたの『約束の場所』で。のう――『愛しいそなた』」