特別テーマノベル『花咲くように笑っていて』

「ねえ、知ってる? 6月の花嫁って幸せになれるんだって」
「ふうん、そんな……変なこと言うんやね」
 ――君が、可笑しそうに笑ってくれる。
 そんな愛しい日々が曇り空の下でもなによりも大切だった。

商品概要:特別テーマノベル

商品 説明
対応商品一覧
  • テーマノベル
  • テーマノベル(複数人)


発注可能クリエイター
  • ゲームマスター
  • ノベルマスター

基本価格 100RC~

商品概要
 本商品は『キーワード』を指定して発注するSSとなります。
 シナリオコンテンツでは描ききれないお客様のストーリーを『キーワード』を添えてゲームマスター、ノベルマスターに発注することができます。

 『キーワード』がいずれか一つは含まれていれば内容はどの様なものでも構いません。
 季節もキーワードさえ含まれていれば無視しても構いません。
 また、発注時にキーワードを必ず指定する必要もありません。

 今回のキーワード:『ドレス』『薔薇』『

日程
・受付:6/1~7/1の8:00
・締切:8/15
・公開:順次公開

プレゼント
本商品の受注が確定したキャラクターには後日、記念アイテムを配布いたします。
※本キャンペーンでは1PCにつき1つのみアイテムが配布されます。


景品


 シーズンテーマノベル限定アイテム『ホワイトブーケ』


サンプルSS:『指先に、飾りはなくて』

登場NPC:栞田 花束(r2n000107)、古月 せをり(r2n000108
「せをりの髪に咲いているそれって――」
「アネモネ、よ」
 タブレット端末で次回の作戦概要を確認していた古月 せをりは突然の問い掛けに目を丸くしながら答えた。
「アネモネ」と呟く栞田 花束の顔を見てから「変なかづ」と彼女は呟くだけだ。
 少しばかり時間が空いてしまったのだと余暇を過ごしていたサークル棟は生憎の空模様であった。
 雨が降っているからと他のチームメイトが帰ってくるまでは暫く時間が掛るだろう。次回任務のための買い出しと言いながら、菓子類を買いに行ったに違いはないのだから。
「で? いきなりなんやったの」
「いや、せをりっぽい花だなあって思って」
「……薔薇とかが似合わんって話?」
「そんなことないよ。ただ、せをりって言えばアネモネって感じだなって思った」
 にこりと笑った花束にせをりはぱちくりと瞬いて「変なかづ」ともう一度繰返す。
 タブレットにまたも視線を下ろしたせをりをじっと眺めながら花束は穏やかな笑みを浮かべた。
「変でも良いよ。だって、普通の感想だし。薔薇は、まあ、でも、せをりには派手かな」
「ふふ……変なかづ」
 もう一度せをりは同じような言葉を繰返してから可笑しそうに笑った。
 偶然、園芸クラブから薔薇の花を分けて貰った――というのが一時間ほど前の話である。
 一輪だけ。綺麗に咲いたのだとピンク色の薔薇をせをりが貰ってきたのだ。
 聞けば、せをりにとっては嘗てのクラスメイトに当たるらしい。流石は永遠の高校一年生だなんて茶化しながらも花束はいい顔をしては居なかった。
 曲がりなりにもが薔薇の花を一輪持ってやって来て、ニコニコとスルーできる訳もない。
 栞田 花束は普通の男子高校生で、訓練だらけで恋するいとまもなかった日々から転がり落ちるように初恋という魔法に囚われたばかりだった。
 目の前のせをりが「花瓶があれへん」とその辺りのコップに薔薇を活けている様子を眺めていたからこその言葉だったのだ。
 きっとせをりには見透かされて居るだろうな、なんて思いながら花束は「おれなら別の花にするのに」と呟く。
「それが、アネモネ?」
「……いや、そういう訳でもないんだけどさ」
 誤魔化すようにそう呟いた花束にせをりはぱちくりと瞬いてから「じゃあ何よ」と首を捻った。
「ラナンキュラスとか……」
「うん」
「あ、でも、百合……」
「うん」
「それから……いや、ううん、おれならせをりの為にブーケでも作って持って行くだけ。
 その中に薔薇も含むかも知れないけれど、一輪じゃ終わらないよ。だって、ほら、おれ――花束はなたばだし」
「そうやけど」
「おれの名前に負けないくらいとびきりのやつ作ってせをりに持って行くからさ」
 花束はそう言ってから額をテーブルにぐりぐりと押し付けた。
 違う、これは普通にただのやきもちだ。残念ながら自分の気持ちというのはきっちりと制御できるものじゃない。
 不思議そうな顔をしてこちらを見ている彼女は、。何時だって青い瞳は優しくてを感じさせるのだから。
「……待っててよ」
「ええよ。待っておいたるから、早く持っておいでよ」
「うん。綺麗な花を見付けたらね」
「そうね、その前にかづが高校卒業できるかなって所からやけど」
「出来るよ。それで、大学に入って……立派な大人になってきますとも。本当に」
 可笑しそうに彼女が笑う。そんな顔が好きだった。
 優しい微笑みを浮かべる彼女を見ていることが何よりも幸せで、ついつい大それた事を言った自覚だってある。
「ねえ、かづ。大人になったら何がしたい?」
「――……分からないよ、そんな先のこと」
 自分が年齢を重ねていって、彼女を追い越してしまって。
 そうして、彼女の中では過去の人になって仕舞うのだろうな、なんて思った。
 花束は「分かんないよ、先の事なんて」と繰返してからテーブルにもう一度額をぐりぐりと押し付ける。
「かづ、おでこ痛くなるで」
「んー……」
「ほら。かづ。皆もうすぐ帰ってくるから」
 せをりが立ち上がった。その腕をそっと掴んでから花束は顔を上げる。
「せをり」
「ん」
「……どこにも行かないで」
「なあに、変なかづ。当り前やろ。皆ずっと一緒よ。大人になっても高等部まで迎えに来て頂戴」
 薔薇の花を花束は「おれが貰って帰る」と自身の元へと引き寄せてから歩いて行くせをりの背中を見送った。

「――うそつきだなあ、せをり」

 何時か、目の前から消えてしまうのならば、きっと君の方なのに。

(キーワード:薔薇、空を使用しています。)
(SS執筆:夏あかね