シーズンテーマノベル『すべてのはじまりとおわり』
呆気ない程、唐突で。
無秩序にくじを引いて、席替えでもしたような朧気な気分でやってきた。
前触れなんて何処にもなくて、まるでまだ夢でも見て居るような浅い足取りだった。
それがすべてのはじまりで。
これが
――後の世で、この事象はドゥームスデイと呼ばれている。
illustration:キンイロアロワナ
商品概要:シーズンテーマノベル
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発注可能クリエイター
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基本価格 100RC~ |
景品
シーズンテーマノベル限定アイテム:『刻陽大学入学式のお知らせ』
サンプルSS:『変わってしまった私達』
登場NPC:忍海夏帆(r2n000020)、マリィ・ニールセン(r2n000016)、ウィリアム・ペンスフォード(r2n000022)、石動 結斗(r2n000024)
白い羽根をふわりと揺らしたその人を天使と呼ぶ事を知っていた。
勿論、天使なんて実在して居らず神様に付き従う白い羽をした不思議な存在だと認識していた。
――なんたって、世界というのは代わり映えもせず詰らなくて、アニメやゲームの中の出来事が起こるわけがないのだ。
魔法なんてない世界で忍海 夏帆は生きてきた。
4月1日は刻陽大学中等部の生徒会の友人と学校でお泊まり会をして、起き上がってから生徒会の仕事をこなしながら幼馴染みの母親が出産するのを待つつもりだったのだ。
幼馴染みの母は3月31日に入院し、いつもは大人びている幼馴染みもどこかそわそわと浮き足立っていた。
「大丈夫だよ」と皆で励まし合いながら、他愛もない話をしておやすみなさいと布団を並べて眠った――筈だった。
母からの連絡は無く、学校には無数に避難を行なう生徒の姿があった。暫くの時間が経ってから、幼馴染みは「母さんの様子を見に行きたい」と辛抱できないと言った様子で言ったのだ。
だからこそ、少女は街に居る。
見たことのない場所だった。見慣れているはずの景色が全て大きく変化していた。
友人達と歩き回った商店街も、大好きな精肉店に、時折立ち寄った本屋も、何もかもが瓦礫に変化した。
戦車なんてものが跋扈しているわけでもない。存在するのは白い翼の生えた天使と呼ぶべき存在だった。
けれど、あまりにも天使らしからぬ行動で世界は瞬きをする度に姿を変える。あれが、幸福の象徴だと思い込んでいる人間がいたら頬を張って「ばか!」と叫びたいほどの。
そんな世界を、息を切らして夏帆は走っている。手には護身用だと適当に拾った鉄パイプが握られていた。
世界の崩壊は唐突で、何を見ているのかも分からなかった。災害の映像をテレビで遠い世界の話しだと眺めて居るような妙な気分に陥りながらも夏帆は幼馴染みのために走っていた。
――大丈夫だよ。ハクは生徒会室に居て。皆の事を支えてあげてね! 私が行ってくるから。
少しだけの強がりだった。彼が学校に集まる生徒の誘導に当たるべきだと考えたのは確かだったけれど、幸いにして刻曜大学附属中学校の周辺は被害がまだ少なかった。
幼馴染みだけでも安全な場所に居て欲しいだなんて、度が過ぎた正義感だと呼ばれればそうだ。
「……ッ」
彼の母が入院する総合病院に向けて走った。バスも電車も、車も、何もかもがない。
鉄パイプを持っていたって荒唐無稽なバケモノに勝てるわけなんかない。
少女の眼前にはそれがいた。翼を広げた異形。天使様、なんて綺麗な呼び名の似合わないバケモノが。
「ひ」と引き攣った声を漏した夏帆の前に眩い魔術が奔った。
「――大丈夫かい!?」
ウィリアム・ペンスフォードの掌の前には魔術の紋章が輝いていた。ぎょっと目を見開く夏帆は其の儘、彼の後方を見る。
真っ白の髪をした少年が蹲り彼に庇われるように存在して居る。
「……美夢?」
「美夢を、知ってるの……?」
つい、と顔を上げたのは生徒会会計の少女にも良く似た少年だっただろうか。石動 結斗は柔らかな空色に変化した瞳を瞬かせて不安げな表情を浮かべている。
「あ、ええと……」
「美夢は無事?」
「ぶ、無事。学校に居るから」
慌てた様に言う夏帆に結斗はほっと胸を撫で下ろした。『親戚のお兄ちゃんと良く似ている』と友人は言っていたか――もしかして彼がそうなのだろうか。
それでも、人形のように白い肌に良く似合う柔らかな白髪も、ガラス色のような綺麗な瞳も友人とは違う。
(――似てないよ、全然)
美夢は綺麗なぬばたまの髪をした女の子だった。そんなことをぼんやりと思う夏帆に「危険だよ」とウィリアムは静かに言う。
「人の姿も変化している。君は……?」
「私は何も変わらない、かな。お兄さんは?」
「……彼がね」
不安げに結斗を見遣ったウィリアムに気遣われて少年は息を吐く。彼は姿が変化したのだろうか。何があってそうなったのかを夏帆は理解出来ない。
歩いている人だって姿が変わっているモノも多く居た。「うわっとっ!」と声を上げたマリィ・ニールセンだって以前街で見かけたときには『人間』だったのに、長い耳に変化している。
「……何が起こってるの?」
呆然と夏帆は呟いた。マリィは「分かりません!」と溌剌に言ってから「でも、唯一分かることがありますよ」と言った。
「――きっと、戦わなくっちゃ死んじゃう」
そう言った彼女に夏帆は頷いた。人が天使になって行く、私達も、そうなるのかもしれない。
それでも、諦めたら死んでしまう。ただその現実だけが目の前にはのっぺりと横たわっていた。
「戦いますか?」
「RPGのはじまりみたい。でも……うん、ちょっと死ねない理由があるみたいだし」
不思議な力が芽生えたとするならば、守る為にあるのかも知れない。
これが――すべてのはじまりで、