シーズンテーマノベル『いつかの夏の日』
――ねえ、明日は何をする?
汗を掻いたラムネ、蝉時雨にさんざめく波の音。
駅のホームから遠く続いた地平線。いつかの日ならばその向こうだって知ってた気で居られたのだろか。
当り前の様な夏がやってきた。
戯けるような汽笛の音に顔を上げればがしゃん、と背負っていたマスケット銃が音を立てる。
私達はこの場所で生きている。だから、当り前の様に問い掛けるのだ。
――ねえ、明日は何をする?
それがいつかの夏の日。当り前の毎日の一頁。
商品概要:シーズンテーマノベル
商品 | 説明 |
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発注可能クリエイター
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基本価格 100RC~ |
景品
シーズンテーマノベル限定アイテム:『空になったラムネ瓶』
サンプルSS:『さんざめく潮騒』
登場NPC:匂坂 愛(r2n000011)、ラフィ・ア=フェイメラン・マリスノア(r2n000017)
「ねえ、ラフィちゃん。あの海の向こうってどうなっていると思う?」
「どうって、……どう?」
問うたラフィ・ア=フェイメラン・マリスノアに匂坂 愛は「どう、だよ」と首を傾げた。
例えば、驚かんばかりの未知の冒険が待っているとか? それとも、悪の組織が居るだとか?
……当り前の様に天使が跋扈していて、人間なんて一人も残っていないだとか。
「わたしは、そうだなあ。塩の山があって、削ると生ハムが出てくるとかがいいかなあ」
「それは……怖くない?」
「え、そ、そうかなあ」
頬を赤らめて困った顔をした愛に「怖いよ」とラフィは肩を竦めた。
寮暮らしのラフィと愛は同じ方向へと帰っていく。時々通学路でこうして顔を合せるのだ。
実習で使用した私用のマスケット銃を背負って、根岸駅でぼんやりとした時間を過ごす。さんざめく潮騒は日常の象徴のようでラフィは好きだ。
そんな心地良い潮騒に勢い良くスパイスをぶっかけるが如く現れるのが愛だった。
「あ、そうだ。さっき羽カフェでドーナツ貰ったんだ。食べる?」
「んー……晩ご飯食べれなくなるから」
「えっ、小食だね。ラフィちゃん」
「そうでもないと思うよ。何方かというと、ううん、ごめん、何も無い」
「が、がーん……このまま、まん丸で出荷するかもってこと……!?」
「出荷。ふふ、ふふふふ、出荷」
ラフィはからりからりと笑って見せた。立ち上がって、駅の傍の自販機にクレジットを投入する。
この自動販売機は中々レトロなもので、瓶のラムネを取り出せるのだ。ラフィはこの瓶ラムネを気に入っていた。夏らしくて、爽やかで、季節をぐっと感じられるから。
「飲む?」
「飲む~! ドーナツも食べようよ」
「それはいいかな。炭酸でお腹たぷたぷになっちゃうし、本当に晩ご飯食べれなくなるよ」
「大丈夫だよ。だって、晩ご飯も絶対に美味しいし、食べ過ぎちゃうくらい!」
明るく笑った愛を見て「出荷?」とラフィが囁いた。
「ち、ちがうよぉ~」
「されちゃう」
「やだ~」
しおしおとした愛にラフィはくすくすと笑う。
時々顔を合せて何気なく話しで電車に乗り込んで。座席に腰掛ければ眠気がぐっと爪先から頭のてっぺんにまで昇り来る。
「電車に乗って寝たら起こしてね」
「わたしも寝るかも」
それから夢の世界に向かう――これが私達の代わり映えのしない毎日だ。