シーズンテーマノベル『鶫は鳴いていたか』
――囁くように、冬が来る。
君の傍にも、彼の傍にも。わたしと、あなた、きみと、ぼく。
暗く湿った空は、木枯らしと共に何もかもを攫ってしまっただろうか。
空を駆りやってきたあの鳥の名前を、僕達はきっと知らない。
商品概要:特別テーマノベル
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基本価格 100RC~ |
景品
シーズンテーマノベル限定アイテム『縺れた冬』
サンプルSS:『帰路』
登場NPC:るうあ(r2n000029)、天羽・アオイ(r2n000026)
――るうあって、元の世界に戻りたいとか、そんなことを思う?
何気なく問い掛けたアオイを炬燵に座ってアイスクリームを食べていたるうあはじっと見詰めた。
「え? え? どうしたんですか? センチメンタルアオちゃん先輩?」
「ああ、いえ……何だか最近寒くなったでしょう。それに、大きな戦いもあったから……どうなのかな、って思って」
車椅子から降りて座椅子に腰掛けたアオイは肩を竦めてから年の離れた小さな親友を見た。
異世界よりやってきたこの友人は世界を――強制的であったとは言うが――渡った旅人同士の間に生まれた子供であるらしい。
負けん気と勢いで突き進む父親と、こちらも負けん気と勢いで突き進む母を持った彼女は兎の穴に転げ落ちるようにして唐突に異世界へとやってきた訳だがさして気にする事も無くこの世界での日常を謳歌していた。
余りにあっけらかんと「お父さんとお母さんもそうなので」と言ってのける彼女を見ていればアオイだって心配になるものだ。
強がっている様子では無いが、まだ幼い少女である。不安や寂しさを抱いていたとしても当然であるとアオイは認識していた、が――
「ふふー、大丈夫ですよ。アオちゃん先輩を一人にはしませんって!」
「ええ……そういう事を言って居るんじゃ無くってね?」
「るうあは寒い日にアオちゃん先輩の足をマッサージする大役がありますし、アオちゃん先輩の連れてきたいい人に対して厳しいお父さん面する仕事もありますし」
「ないわよ??」
ぱちくりと瞬くアオイにるうあがむふふと堪えたように小さく笑った。アオイがセンチメンタルな心地でるうあにそんな問いかけを投げ掛けたと思い込んだ様子の彼女はちょっとした寂寞の一つも滲ませちゃいなかった。
「帰り道があったとしたって、るうあは帰りませんよ。この世界のお友達が大好きですからね!」
「……そういうもの?」
「だから心配しないでくださいよ。アオちゃん先輩。
あ、でも、アオちゃん先輩も連れて帰れるんだったら、一緒に帰ろうかな~? るうあの友達ですって紹介しないと!
るうあはお父さん似ですから、きっと吃驚しますよ。似てる~! って。お母さんっぽいところもあるんですけどね。ふへへ」
ふにゃふにゃと何時も通りに笑って居たるうあの頬をアオイはむにりと掴んでから「もう、何時も元気なんだから」とアオイは困ったようにそう言った。
――もし、帰りたい、寂しいと泣かれていたら自分はどうするべきだったのだろう。
いつだって傍に居てくれるこの友人の頭をわしわしと撫でてからアオイは「その時は是非誘って頂戴ね」とだけそう告げた。
「はーい!」
炬燵を抜け出してアオイの開けた足の間にちょこりと座ったるうあのぬくもりが今はとても心地良かった。

