アガルタを信じろ


「アガルタにだって真面目な研究者はいるのですよ。
 ただ、そうした研究者はを起こすことがないから……まあ、目立ってしまうのが存在なのだろうけれど」
 というのはシェス・マ・フェリシエ所長の言である。
 アガルタ研修会はアガルタに親しみを持って貰い未来の研究者育成にも力を注ぐ意味合いでの学園行事の一貫だ。
 本年度は遠征任務が行なわれることから持ち込み用の兵糧の試食や案の提出などでも能力者の意見を求めて重要視されていた。
 そう。シェスの提出したアガルタ研修会の実施関連資料はまともだったのだ。
 研究室内には変異体を食用に転用する実験や、変異体の凶暴性を下げて愛玩動物とするといった実験も行なわれて居る。
 勿論、水産物や野菜など食材の調達を担っている事や遺伝子保存の観点からもアガルタの研究はマシロ市にはなくてはならないものなのだ、が。

「カリフラワー!」
「ブロッコリー!」
 ――能力者達の中には野菜に対して並々ならぬ情熱を注ぐ者も居るらしい。
 もうすぐ文化祭だ。例年アガルタでは文化祭に使用される食材協力も行なっている。その準備の最中に度々野菜に対する情熱を抱いている者も居た。
「これがカリフラワー。分かる? ブロッコリーにストレスをかけ続けて白くなったわけじゃない。カリフラワー」
 刻陽学園の乳児院の1歳児たちのでやってきた水原 たまき(r2p001510)に両親を任務などで亡くした子供達が「かいふらわー」と返している。
 大規模な遠征任務は久方振りではあるが、これまでのマシロ市では近郊偵察遠征を行なう能力者がいた。帰らぬ者達の忘れ形見を育成するのがこの乳児院だ。カリフラワーをすり込もうとするたまき先生はさて置いて、何故かアノマロカリスを抱えているのはアリア・IF(r2p000115)。
「カリフラワーを教え込む……私は許そう。だが! こいつアノマロカリスが許すかな!?」
「アノマロカリスのパワーが強すぎてゴボウが霞みます!」
 沢山の野菜を運搬していたアガルタの研究者、るうあ(r2n000029)を不思議そうに眺めたのは白鷺 ネオン(r2p001390)。
 ぱちくりと瞬くネオンは「そういえば、文化祭ではアガルタが野菜とか食材の支援をするんだっけ?」と葱を抱えて居る。
「この葱も、誰かの胃腸の中に……?」
「そうですね。アガルタは学園行事に全面バックアップですからね。例年この時期の研修会と、後に控える文化祭があるので、文化祭で企画をする人達が食材調達の視察に来たりするみたいですよ」
「責任重大だ、アガルタ!」
 ごくり、と息を呑んだネオン。そう。刻陽学園の文化祭は例年9月21日、22日に行なわれる。
 本年は遠征任務として大岡川周辺地形確認の先遣隊が派遣されている。彼等が帰還し、譲歩が纏められたならば文化祭後に更なる遠征任務が行なわれる可能性があるのだが――
「商機ですねえ」
 トコヨ(r2p000124)はそれはそれは悪い顔をして笑っていた。
「ええ、ええ、詰まりは文化祭で美味しい食材を販売。その後、それを兵糧として持って行けるというアプローチをすることで大量買い付けが起こる、と。
 あと、その際には御守り(効果なし)を販売し続ければ……儲かりますでしょう!? 素晴らしい!」
 明るく声を弾ませるトコヨに「そう上手くいくのかな」とアルフィンレーヌ(r2p000590)は渋い顔をした。
「効果なんて何も無い木札を布の袋に入れただけの御守りを売ったらマシロ警察にお縄にならない?」
「バレないように、ちょちょーいとね?」
「でも、それをアガルタで白昼堂々宣言してたらばれない?」
「ふふふ、告げ口をする裏切者が此処に居なければ大丈夫でしょう! ええ、人にはやらねばならぬ時があるのです。それが今――!」
 堂々と宣言したトコヨ。彼女を見詰めながら「あ」という顔をしたアルフィンレーヌはそっと目を逸らした。
 トコヨの肩をぽんと叩いたのはマシロ警察に所属する青年だった。春名警部その人は「ちょっと署で話しを……」と微笑んで居る。
「み、未遂ですけど!?!?」
「そうですか、では署に」
「ええ、ええ、それではこの方が共犯ですから――!」
「違うけど!?」
 ブロッコリーバリアを張り巡らせるアルフィンレーヌ。トコヨはずるずると引き摺られながら「ア、アガルタの野菜が共犯ですから―――!!」と叫んだ。
 アガルタ研修会を終えたならば文化祭がやってくる。
 その前には能力者達の遠征結果をK.Y.R.I.E.が取り纏め始める頃だろう。報告書と文化祭企画確認を行なうブラックシープ会長は今日も大忙しであるはずだ。
「うーん、今日も平和だなあ」
 人工太陽に照らされてたまきは何気なく呟いた。
 仮初の平穏と、作られた夏の名残。
 ――の世界はどのように変化したか。嘗て賑わった横浜市は、人の営みは、どの様に変化しているのだろうか。
 それは作戦へと赴いた能力者達がその目で確かめてくれる事だろう。