横須賀基地奪還作戦報告書03
人類が新たに手にせし氷取沢橋頭保――先日から報告のため一時帰還したレイヴンズやパールコースト部隊の面々が大きく賑わいを見せているが、そこへ更なる一報が寄せられる。
どの面々も表情に喜色を浮かべている、とまではいかないが。それは作戦が上手くいかなかったからではなく、戦いの先で各々に複雑な感情が宿っているからであろう。
「エストダールは倒れたよ」
ワッフル(r2p000016)は握りしめていたドッグタグを見下ろす。
ローガン・ディアス。キャンプ・パールコーストの軍人だった彼は、ヴァニタスとなって仲間を守れると喜んでいたはずだったのに。
(ローガン、君は慎重になるべきだった)
自分たち一人一人は弱く、脆い。だから力を合わせて戦うのだ。
よかったと心の底から安堵して逝った彼が、安らかであるように願うばかりだ。
「ダスティリアとアスティリアも同じよ。全く、人間なめんじゃないわ」
九重 セナ(r2p001747)はふんと鼻を鳴らす。傷だらけだが、どれだけの痛みを伴うモノだったとしてもセナは、仲間たちは歩みを止めなかった。前へ進もうという気持ちを止めなかった。故に――負けなかったのだ。
この先だって変わらない。警告を出されようが脅されようが、それで歩みを止めるほど人間は潔くできていないのである。どんな屍だって超えて、世界を取り戻しに進むのだ。
「大天使・スミスとその取り巻きも問題なく打ち倒せました」
黒緋 三四郎(r2p003226)たちも13のドッグタグを持って帰ってきたと追加で報告が上がる。スミスと、その部下たちの、最後の人間性の拠り所。
マリィ・ニールセン(r2n000016)はもう泣き止んだだろうか。スミスは彼女と、彼女の失踪した父親と知り合いであったようだった。
――ジョシュア大尉は生きている……きっと……。
その言葉にどのような意味込められたのか、三四郎にはわからない。元が何であれ、誰であれ、今が敵ならば殺すだけ。感傷はウェイトに過ぎないのだ。
「いい調子だね。俺たちの物語の幕引きには早い」
麻果 麻玖(r2p004748)は頷いた。自分が相手取ったストラティオンは過去に囚われ、『禍根』を残していた。そのエンドロールを彩って、自分たちは先に進む。人類のエンドロールにはまだ早いから。
「あとは――」
誰からともなく見たのは、まだ任務から帰ってきていない者たち。報告の上がっていない作戦の一覧。
まだ大規模な作戦群も残されており、いまだその勝敗はわからない。
自分たちが参加していれば全力を尽くすことができるが、そうでなければあとは祈るばかりしかできない。
いいや、祈ることはできるのだ。ヒトの想いは時として力になる。
勝敗がつくまで今しばらく――近いようで、遠い。