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横須賀基地奪還作戦報告書04
緊張とも不安とも、興奮とも歓喜とも違う。
パールコースト部隊の大部分が機関した氷取沢拠点には一種独特の空気が漂っている。
無数の部隊に別れ結構された旧人類軍横須賀基地奪還作戦。それは剣の権能という圧倒的な力を持った力天使ラファエラ・スパーダの率いる軍勢はあまりにも強力であったが、市長の予想だにしない一手によって戦局が覆っていた。
この影響もあって、大部分の作戦が成功し多くのレイヴンズや支援部隊が無事な帰還を果たしている。
強力なネームドとの戦いもその一つだ。
「『私は至上の一つを探しに行く』……か。なるほどのう」
エミリア・マクロプロス(r2p003477)は膝の上にのせたちびエミリアをぽよぽよと指でつつきながら、戦いの記憶を思い返している。
白鍵の天使アドネティエルが率いる天使部隊は、その圧倒的な戦力をもってこちらを迎え撃った。大天使級ですらたくさんと数えるほどのそれに勝利できたのは、全員の力を最大限に発揮したからだろう。
結果としてアドネティエルは彼女の使命――至上の一つを探すことを優先し、あの戦場を去った。
ふと、エミリアは視線を部屋の奥に向ける。
甲斐 つかさ(r2p001265)が黙ってソファに座っていた。
俯き気味の彼女は、いつもの彼女よりなぜだか小さく見える。
「どうした? プライム・メタル・ビーストの軍勢には勝利したのじゃろう?」
もっと堂々とせんかと言外にいってみると、つかさが顔をあげてあははと笑った。
いつものSGSGSKTJKの顔に戻ったようだ。戻ったが、それが表面だけのものだとエミリアにはすぐわかった。
「なにかあったか」
「あったといえばあったけど、無かったといえば、無かったかな」
曖昧な言い方をするつかさ。
メタル・ビーストは大岡川遡上作戦の折から常にぶつかってきた敵アザーバイドである。しかし……いや、だからこそと言うべきだろうか。プライム・メタル・ビーストことゼロ・ツーに共感する者はそれなりにいた。つかさもまた、その一人である。
『背負えるよ』と呟いたのは嘘でも強がりでもない。けれど、叶わぬ壁があったことも確かだった。『君には背負えない』という言葉がセットになって、心のなかで残響みたいにゆれている。
けれどそれを隠して、つかさは笑うことにした。
「とにかく! メタル・ビーストとの戦いもこれで勝利! あっ、そうだ。モニカさんの方はどうだった? 勝ったんだよね」
明るい声でつかさが訊ねると、モニカ・アドルナート(r2p000840)はグッと拳を握りしめてそれを顔の前に掲げて見せた。
「はい、勝ちましたとも! そして叩きつけてやりました。激想・爆炎拳を!」
その不敵で元気な笑顔は心からのものだ。握る拳からは今にも炎がたちのぼりそうな雰囲気すらある。
聞くに、天使アチャラナータとの戦いは相当な激戦であったらしい。
恐ろしい数の天使部隊を相手に、こちらもまた大部隊でぶつかった。
特にアチャラナータは強力で、立ち向かうだけでも勇気が要った。
だが。勝ちたいという気持ちだけは、生きたいという気持ちだけは、負けるつもりはなかった。
その気持ちは確かにアチャラナータ軍を退け、彼らを撤退させるまでに至ったのだった。
「と、いうわけで。残るはラファエラとの戦いだけ」
モニカがまるで自分に言いきかせるかのように言うと、周りのレイヴンズたちも肯定の意思を見せた。
戦う意思は変わらない。抱く気持ちも、勇気も。
「さあ、行こう! 生きる為に!」
それが人類の総意であるかの如く、モニカたちは再び立ち上がる。
最後の、そして最難の戦場へとむけて。