終わりなき世のめでたさよ


「まさか、一年ぶりの正月がこんなことになるなんてね」
 竹箒で神社の境内を払っていた紫崎 天子(r2p001137)が、額にそっと手をかざす。
 冷たい外気は冬そのもので、清々しい朝のにおいがした。
 境内を払うだけあって天子の格好は誰もが想像するような巫女服なのだが、細部のアレンジがちょっとばかり違う。
 赤い袴には薔薇の模様があしらわれ、裾や胸元には黒いレースが用いられている。
 そうした印象を突き抜けてさえ印象的なのは、背に広がる白い翼だろう。
 (天子の主観において)昨年まではなかったものだ。
 翼だけに留まらない。たった一年で何もかもが変わってしまった。
 なかった翼が生え、無かった都市が建設され、なかった歴史が積み重なってている。
 つい最近まで卒業後の進路を気にする程度で済んでいた平和な日常は、いつの間にか人類文明の黄昏れを迎えていたという。
「そうね。あの三日間も大変だったけど、その後の28年を聞かされて流石に驚いたのだわ」
 猪市 鍵子(r2p000636)もお手伝いロボットに箱を運搬させつつ、閉ざしていた社務所を開く。
 鍵子のほうはそれこそオーソドックスな巫女服だが、頭から被った薄布や特徴的な機械翼は人の目を引く。元々特徴的な鍵子なのである。
「けど、必ず失われたネットワークを取り戻してみせるわ」
「それって今年の抱負?」
「今年中には無理かもしれないけど、いつかは必ずね」
「じゃあ、私も偽りの天使共をひとつ残らず駆逐してやるわ」
「大きく出たわね」
「似たようなものでしょ」
 顔を見合わせる二人のもとへ、ぱたぱたと足音が近づいてきた。
「あ~、もう始めてる~」
 ふわふわ蕩けるわたあめみたいなその声に振り返ると、ヒュプリル・ヒュプノス(r2p000012)がやってくる所だった。
 彼女もまた巫女服……なのだが、アレンジの幅は二人以上だった。カラーリングと袖の特徴がかろうじて巫女服のそれを成しているが、殆どクラシカルな洋服である。胸元は妖艶に開かれていて、けれどそれらがふしぎとヒュプリルの可愛らしさによくマッチしていた。
「みんなでやろうって言ったのに~……」
「まだもう少し寝ているかと思いまして」
 どこか眠そうな様子で言うヒュプリルに、社の奥の方からやってきた岡止々支 紫音(r2p000036)が答えた。
 色鮮やかな飾りのついた神楽鈴を手に歩けば、しゃらしゃらと落ち着いた音が鳴る。
 巫女服の上に鳥の模様をあしらった上着を羽織り、背筋を伸ばして歩いている。目を閉じていても、その足取りは確かだ。
「起きてたよ~。紫音ちゃんもずっと目を瞑ってたから、眠たいのかと思った~」
「それは元々です」
 言ってから、周囲の様子を今一度確認する。
「さて、今日のメンバーは揃いましたし、そろそろ始めましょうか?」
 紫音がヒュプリルたちに顔を向けると、皆一様に頷いた。
 ややあって、準備が出来たことを察した町の人々が社にぽつぽつと入ってくるのが見えた。
 まずは整列し、四人は小さく頭をさげる。
 彼女たち四人にとって、28年ぶりの年明け。
 毎年当たり前に訪れていたそれが、当たり前でないと……彼女たちはもう知っている。
「新年、あけましておめでとうございます」
 生きていてくれて。
 町を守ってくれて。
 そうして今があることを、喜び祝う。
 さて――今年はどんな一年になるだろう。

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