雷の領域迎撃作戦報告書01


 ――貴女達にマシロ市が救いの手を差し伸べられなかったことは……ごめんなさい。
 ――それでも! 本官はマシロ市とそこに住まう人々が好きなんです! だから!
 ――貴方に大好きなマシロ市の人々を奪わせたりはしませんっ!
 神奈川県大和市を超えた、通称『雷の領域』。
 雷鳴轟く廃墟の街を進みながら、新島 環奈(r2p000029)は自らが発したその言葉を思い出していた。
 天使となってしまった元K.Y.R.I.E.の能力者イリス。彼女との戦いは熾烈なものだったが、なんとか勝利を収めることが出来た。無論、そのために負った傷は深いのだが……。
「ここを越えれば、グルガルタの拠点がある……。そうでしたよね」
「なら、今回襲いかかってきていたのはその仲間ってことでいいんですか?」
 九重 縁(r2p001950)と葉許 譲葉(r2p004149)が立ち話をしている。
 丁度休憩地点にと確保された廃墟の一角だ。安全な場所とは言いがたいが、周囲に警戒と守りを固めているだけまだマシである。
「どうでしょう。私の戦ったルミーリスという天使はグルガルタに好意的な様子じゃありませんでした。むしろ、ローズ……ロサ・ガリカを慕っているようでしたよ。なにせ、女王様と呼ぶくらいですから」
「言われてみればそんな雰囲気でしたね。わたしたちがライブバトルをしたエメラルドフォースというヘヴィメタルバンド風の天使たちだったんですが、やっぱりローズの信奉者って感じでした」
「なるほ……え、ライブバトル?」
 浮かんだ疑問符を押し流すように、Lieluck Rusk(r2p004701)が勢いよく扉を開けた。
「こちらの勝負はつきましたよ。天使イザーベルの撃退に成功しました。逃げられてはしまいましたが、戦果としては充分でしょう」
「わたしたちも、かった。ばっとにゅーす、さがみ
 チェルキオ ギルトレック(r2p004722)がその後ろからひょこっと顔を出すと、環奈たちがお疲れ様ですと頭をさげる。
「バットニュース? 何者なんですかその人は」
「ん……おどる、ひと?」
「ん、んん?」
 チェルキオなりの精一杯の説明に、しかし首をかしげるLieluck。
「ローズの部下には変わった天使が多いですね。そういう意味ではイザーベルはマイノリティだったんでしょうか」
 イザーベルは『まともすぎる』天使だった。穏やかで、慈しみ深く、人類の幸せにつとめていた。その方法が、人類を滅ぼすことだったというだけで。
 一方で、月音 涙(r2p000814)は「そうとばかりは言えませんよ」と腕組みをした。
 彼女たちが戦った鳳城 朱魅を初めとする天使たちは、天使になってしまった今もローズを最高のアイドルだと語っていた。
 それはともすれば、大好きなアイドルを語るごくふつうの女学生の姿にも重なった。
 けれど、共通点がないわけでは……ない。
「そう考えてみると、今回の天使ってみんな変わった経歴のひとばっかりかも」
 頬に指をあててうーんと考え込んだ水代 さくら(r2p000777)。
 彼女が思い出しているのはディアスポラ・インダストリー代表との共闘であった。
 敵はライドラや帯電した槍をもった天使といったシンプルな具合だったが、磯兼 空(r2p004640)が戦った大天使ルミエルは元々星乃アイリという名の地下アイドルであったらしい。
 ベーシスト、ヘヴィメタル、ダンサーに地下アイドル。
 流石、マシロ市で元トップクラスのアイドルであったローズの部下といった顔ぶれである。
 共通しているのは、誰もが『叶わぬ夢』の下にあったことだ。
「きっと、今もステージにたっていたなら、応援していたでしょうね」
 センターで歌いたかった。そう弱々しく曲を口ずさむ彼女の最後を思い出し、空は目を瞑る。
「時代が悪かった、間が悪かった、巡り合わせが悪かったって思う部分はあるけれど、全部がもう遅いんだよね」
 大天使ハスと戦う前にも呟いた言葉を、安達 陽和(r2p000928)はあえてもう一度口にした。
 形は違えど、彼もまた報われぬ者のひとりであったという。
 目指したものも、その正しさも、陽和は理解できる。
 天使として相対しても、『尊敬すべき先輩』であったことは変わらない。
 そんな会話を、ガーネット(r2p000597)は壁に背をあずけたまま黙って聞いていた。
 『虚飾探偵』バルミロ・ラス・イエナスはある意味で厄介な敵だった。並べたハッタリ、嘘と虚構。知恵をもつ天使というものは総じて厄介だが、あれは毛色が違った。
 不幸だったのはガーネットのように感情を殺せる人間が相手だったことだろう。
「ローズ配下の天使も確かに厄介だけど、今回手を焼いたのはやっぱり聖釘所持者たちだね……」
 雲壌 竜(r2p004250)は終末論者たちから聖釘を手放させる作戦に心血を注いでいた。
 その甲斐あって邪魔な天使を打倒し、終末論者たちから聖釘を奪いとることができた。
 聖釘、そしてグルガルタは今回の事件を語る上での両翼のひとつと言って良いだろう。
「いずれにせよ、これで一歩……いいえ、十歩は前進したかしら。久しぶりに龍華らしい仕事ができたわ」
 大天使級ルサド率いる天使の軍勢を撃破したアデル・Ⅰ(r2p000632)はどこか満足げに頷くと、割れた窓から外を見た。作戦に同行してくれていた龍華会の構成員たちはいま休憩ポイント周囲の警戒にあたってくれている。
 アデルたちも休憩を終えたらすぐにまた出発するつもりだ。
 雷鳴は未だ荒く、空を暴れていた。
 ローズの軍勢との戦いは、未だ続いている。