雷の領域迎撃作戦報告書02


 刹那の雷が、誰かの夢をさらってゆく。
 神奈川県大和市から続く『雷の領域』は、そんな者たちの流れ着く場所だった。
 失われた青春が。叶わなかった夢が。奪われた栄光が。
 この、雷鳴轟く廃墟街には漂っている。
 地上 真珠星(r2p001838)は古びたベンチに腰掛けてチカチカと明滅する空を見上げていた。
 大箭 朝香という天使も、おもえばそんな存在であった。
 逃げて、逃げて、逃げ込んだ先で彼女は言っていた。
 『私は、どうしたいのかしらね』
 彼女はこの行き止まりみたいな街で、生きる理由を見つけるだろうか。
 それとも、ただ死にたくないだけの存在として討たれるのだろうか。
 生きたいと願うことは恥ずかしいことなんかじゃない。たったそれだけの存在であっても、いいのだけれど……。
「ローズさんって人は、どうなのかな」
「ロサ・ガリカのことか?」
 水の入ったボトルを片手に、暗道 灯熾(r2p000128)が隣に座る。
 赤いコーラ飲料のベンチは随分くたびれていたが、ほこりをはらってみれば存外風情があるものだ。
 ボトルを受け取って、真珠星は頷く。
「ローズさんは、生きようと抗ったのかな……って」
「『抗う』、か」
 灯熾は自分のぶんのボトルを開くと口をつけ、こくこくと水を飲む。
「生きることは抵抗だって、俺の師匠も言ってた。メイガスと戦った時も、そんな風に思ったっけな」
 ロストエイジ世代。マシロ市で育った二人は、アイドルというものを知っている。
 歌って踊って煌めいて、みんなの心を明るくする存在。藤代ガーネットに代表されるそれが自分達の……ひいてはマシロ市の心の平和にどれだけ貢献しているのか。
 そしてだからこそ、アイドルに『なれなかった』存在を知らなかった。
 妃野原いばら。天使となり、ロサ・ガリカ(ローズ)と呼ばれる雷の領域の主。きっとなりたくてなったわけじゃない。
 そして今、彼女は抵抗している。K.Y.R.I.E.という存在に、全力で抗っている。
「……いずれ、この雷が晴れるんだろうか」
 J・D(r2p000927)はいびつに混じり合った大天使との戦いを思い出し、声音を苦いものに変える。
 その言葉で連鎖的に焦がれた少女達との戦いを思い出したワダチ(r2p001103)も、どこか遠いものを眺めるように空に目を向けた。
「溶けない氷も溶けたんだ。止まない雷だってきっと止むよ」
「そう……だから、あの人もローズに理想アイドルを見たのね」
 ベンチの横に立つドロシー・リデル(r2p004663)は、不自然なくらい綺麗だった。白い帽子はよごれひとつなく、ワンピースの裾はそよそよと靡いている。
 理想的な少女は、この荒れ狂った空に目を向けた。
「人はだれでも、なりたい自分にはなれないの。
 だから逃げるし、仮面を被るし、誰かに理想を押しつける。
 そんな天使達にとっていま、ローズはきっと偶像アイドルなのよ。
 悪態をついて暴れて、ライドラに怒鳴り散らす彼女が、いまはただ……」
 鳴り響く雷は、街を壊し続け行く手を阻む雷は、そんな彼女の一部なのかもしれない。
 だとしたらあまりに皮肉で。あまりに報われない。
 そして自分達の役割は、そんな彼女を討つことなのだ。
「『ゆるして』なんて言わないわ。だって私たちも、生きていくのだもの」
 抗うことが人生ならば。
 折れた者が、滅びるさだめだ。