
「嫌われ者」のラブソング
雷は拒絶のように鳴り響き。
まさに万雷のごとく唸り声をあげる。
それは拍手か。アイドルがやってきたのだ、という。
あるいは悲劇と喜劇の訪れを謳いあげるものか。
いずれにしても。
いずれにしても。
何を語ろうと無益というもの。
なぜなら。過去は過去にしか非ず。
そして彼女たちは亡霊なれば。過去にとらわれ続けていることに変わりはないのだから――
「だから」
呟いた。鳴無 無縁(r2p001271)は前を見て、彼女にそう言ってのけることしかできなかった。
「進むってことは即ち生き抜くこと、足掻くこと。
それは人が持つ本能であり、意思。
尊ぶべきもの、アタシはそう信じてる。
さぁ、行きな。ここはアタシたちに任せて。
うん。場はあっためておくよ。いつかの時みたいに。
面倒なオーディエンスは、そうだね。今日は警備員の真似事くらいはしてあげる。――だから、行きな」
背を押せば、彼女は何処までだって走って行ける。だから、彼女はマシロ市に選ばれた。
期待を胸に、希望を形に、心を躍らせ、夢を語って。
それが無縁の知る藤代 ガーネット(r2n000030)だったのだから。
だから、彼女は光の中に立っていた。
だから、彼女は闇の中に立っていた。
それが繕命 行時(r2p004787)の見た妃野原 いばらだったのだから。
期待などなく、希望を失い、挫け、夢を捨てて。
背を丸めて、彼女はこんな場所にまで逃げ果せた。何故か、彼女はマシロ市に選ばれなかった。
「カゲオミという男を庇い立て、どうしてこんな場所に居続けるのか。
龍妃はお前を追ってやって来た。聖釘がマシロ市を蹂躙し、何れだけの間、苦汁を舐めさせられたのか。
残念だが、お前も、グルガルタも潰さなくてはなららない。
我々は彼女と共に此処にまで来た。これが破滅を告げるものだからだ。
先ずはそこからだ。天使はいずれ殺す。殺さねば、終われん。俺達も、奴もな。
前を向け。進め。
これは、全てを終わらせるための戦いだからだ」
その声は、冷ややかだった。
「――アタシは」
もう、歌えやしない。
柘榴。柘榴。何だって手に入れてしまった、宝石。
椿落つ、梅はこぼれて、桜は散って、牡丹は崩れる。
花にそうやって終わりの時の表現を与えたのは一体誰なのだろう。
少なくとも、それは大輪の花が人の心に与えた感動や感傷を形にしたものだったのだろう。
――なら、アタシは?
咲くことも無かった、崩れ落ちていく薔薇の花。
蕾は蕾のままで萎れていった。いっそ、蕾など着ける事無くただの草木であれば良かったのに。
アレは赤い花を咲かせて、いつかは希望の果実を成らす。それから、その果実は次に繋がる未来を実らせる種を与えるのだ。
何者にもなれず、偶像にだってなれなかった。
大人の決めた「理想的な偶像」になりきることの出来なかった自分は何時だって挿げ替えられる場所に後輩一人取り残して舞台を降りた。
ああ、聖釘が光を湛えた。
――ああ、それが嘲笑っている!
もう。何も、分らないな。