
凋落の薔薇
稲光はスポットライト。雷鳴は注がれる拍手。激しさを増すそれは誰ぞの心をようで、酷く不快だった。
この双眸に映り込む青白い光は世界の破滅を思わせるようだ。
――いいや、最初からこの世界はお終いだった。
マシロ市及び警察庁がその動向調査を行って居る終鐘教会は幅広い活動を行って居る。
その一つがマシロ市の同士を救出し、あの最悪の場所から救出をすることだった。
その手を掴んだのが間違いであったと言われれば妃野原 いばらは乾いた笑いを滲ませることしか出来ないだろう。
その手を掴む事しか出来なかったおまえが愚かだと指差されたならば妃野原 いばらは「そうだ」と頷くだけだった。
それでも彼女を守りたかった。自分は子供で、何の力も無かったことが悔しかった。
悔しかった、のに――
歌が聞こえた。歌っていた。彼女は何時も通り晴れ晴れとした笑顔を浮かべて人類の希望となったのだろう。
「……なぁんだ」
いばらは呟いた。ちり、と聖釘核が揺らぐ。
「アタシなんか居なくっても、アイツ……やっぱりアイドルじゃん」
いばらは俯いた。ちり、と聖釘核が音を立てた。
「おまえの事を分ってやれるのはアタシだけだった――筈、なのにな」
いばらは呻いた。ちり、と聖釘核が光を帯びた。
「じゃあ、どうしてアタシは――」
「妃野原」
呼び掛けに、いばらの思考がストップした。顔を上げれば隻眼の男が立っている。
「カゲオミ」
女は呻くように男の名前を、聖釘売人グループ『グルガルタ』のリーダーである男の名前を呼んだ。
「何を難しい顔をしてるのかな。お前がやるべきは決まってるだろうにさ。
柘榴が他のお友達と歌っていて嫉妬でもした?
だよなあ、柘榴には自分だけだって思ってたのに?
そんな子供みたいな事を言っている場合じゃない。龍妃が来てる。お前と俺を殺す為だよ、妃野原」
「テメェだけだろがよ、死ぬのは。
煩い。煩い。柘榴は猫被ってるときゃあ友達がどうだファンがどうだって着くんだよ。
昔っから……アイツ、気ィ弱くってザコい癖にそういう所は要領良くて、何かありゃローズちゃんつって泣きついて。
それで、アタシが守ってやらなきゃならなかったのに。
いくらだって換えがいるアイドルじゃなくて、もっとアイツに似合う舞台を用意してやりたかったのに」
「そう、だから、君は街を出た。マシロ市の大人が嫌いだったから。
どんな理由があったって人為的に印象操作をされた希望の象徴というものが受入れられなかった君は俺達の所に来た。
君が大人の意を汲んで素敵なアイドルになっていたならば、柘榴は苦労しなかっただろうね」
「ッ――だから!」
「ああ、だから、壊そう。マシロ市を。殺せば良い、柘榴の友達一人残らず。
あの子が一緒に誰かと歌っていたのを見て、気持ちがざわついたんだろ。
それは君を包む聖釘核の力になる。
使おう。妃野原。力を使えば良い。
そうすれば、柘榴をアイドルとしか知らない奴らから引き離せる。あの子を護れるのは君だけだよ、妃野原」
甘い言葉だった。聖釘核が光を帯びていく。
妃野原 いばらの意識が急激に冷めていく。ロサ・ガリカの胸の中に満ち溢れたのは、ただ、ただ、苛立ちと怒りだった。
この男に協力をしているつもりはない。
ただ、それでも、力を与えてくれたヒルダ様の為にこの男達を守っているだけだ。
いつか、アタシと柘榴にとって安心できる居場所を与えてくれると約束した……約束、した?
ああ、もう分らない。
アイツは誰かと歌っている。
アイツは誰かと笑って居る。
アイツは――居場所を与えられた……?
アタシは、二度とは戻れやしないのに。
「アタシはおまえの事が大嫌いだ、クソ柘榴。
今も、昔も……おまえはいつだってアタシをダメにする。
とっとと消え失せろ――!」