
歌は聞こえない
――私達は、何時の日からか道を違えた。
そこに居たのはアイドル・ガーネットではなくて、藤代 柘榴と名乗る一人の少女だった。
「なぁぁぁにが!」
我武者羅に叫んだって希望の光だなんて呼ばれちゃ居ない少女には喪うものは無かった。
「ロサ・ガリカだ! あいっかわらず!! 夢見がちな!! 命名を!!」
――変な名前、あんんて笑ったくせに柘榴の名をガーネットと呼び変えた彼女は誰よりもこの名を気に入ってくれていた。
ガーネット。紅色の宝石。きらきら、輝いて綺麗な姿。
棘だらけのいばら姫は大輪の薔薇だった。だから、彼女はローズ。
命名の理由も子供みたいで、指差して笑っちゃうような、そんなものだった、けれど。
「解釈違いなんだよ!!!」
叫んだ。
「そもそも、さぁ! ローズ先輩ってのはさぁ!」
叫んだ。
「アタシと同じくらいバカで、泣き虫で、一人じゃ何にも出来ないくせに強がってさあ!
それで、歌もダンスもなんかアタシより上手で、アタシ以上に夢見がちで、アタシの事が大好きで!」
唇を噛んだ。拳を固めた。
痛い。痛い。こんなに痛いのに答えてくれない。
何なんだ、この拒絶は――どうして、見て見ぬ振りをするの。
「だから」
膝から崩れ落ちてわんわんと泣いたならばバカだと笑ってくれただろうか。
「出て来てよ」
あの時、何処へだって連れて行ってくれていたら苦しいことなんて無かったんだろうか。
「聖釘核……聖釘の中でも特に力を内在し、天使の力を強める効能でも存在するものであろうよ。
成程、奥の手を駆使して閉じこもる結界を作り上げるとはなあ。しかも、藤代を拒絶して。
それもまた仕方があるまいて。入れ知恵したものはさっさと逃亡を決めたというならば、追うために殺さねばならぬか」
華氷 ヒメリ(r2n000018)は腕組みをしながらじいとその領域を眺めた。
代わる代わる風景は変化していく。妃野原 いばらの領域に無数の聖釘核が佇み淀んでいる。
この場のヒメリはK.Y.R.I.E.の協力者でもなければマシロ市の仲間とも言えぬ。あくまでも第三極の人間だった。
グルガルタを追うために早期に妃野原 いばらを撃破するポーズを取る。
そうする事で外部的に「龍華会とはマシロ市とあくまで利害関係でしかない」とイメージ付けるのだ。
このような状況で、と非難する者が居ようともヒメリは構うまい。
誰も殺せぬならば己が妃野原 いばらを殺し恨みを買って出るとも決めて居た。
マシロ市に生きるならば誰しもその様な薄暗いことを否定はせぬのだ。
「ッ――ああ、くそッ」
女は呻いた。ロサ・ガリカ。桃色の髪の天使。妃野原 いばらだった者。
アクセサリーとして身に着けた聖釘核がその身に多大なる影響を及ぼした。
正気と呼ぶべきは何処にもない。狂乱の最中に佇む女はぎらりと睨め付ける。
「柘榴も、マシロ市も、何もかもを壊してやる――ッ!」
――もう、なにもわからなかった。だって、もう、お前のことを護れない。
