
いざ、クエスト!
「つまり、より短期的かつ簡素な任務形態による弾力的であり遊撃的なレイヴンズの運用形態が確立したワケ」
と、あむががじがじと棒付きのキャンディを齧りながら、あなたへとそう告げたのである。
K.Y.R.I.E.のオペレータールームの一室に、あむ――KPAの技術主任である七井あむ(r2n000094)が詰めていることは、なんというべきか、稀に良くあるとでもいうべきか。普段はKPAの自開発室で辣腕を振るい阿鼻叫喚を齎しているあむがK.Y.R.I.E.のオペレータールームに詰めているときは、おおむねその成果をK.Y.R.I.E.にて運用するスタート時点であることが多い。
つまり、ぶっちゃけていってしまえば、あむがいるときは『これからなんかやる』タイミングであり、そういう時は、あむもK.Y.R.I.E.に詰めていることが多い、というわけだ。これが稀に良くあるという、なんとも矛盾したようなわかりやすいような、そのような表現の理由である。
そんな状況のK.Y.R.I.E.にあなたが呼ばれたのは、つまり『これからなんかやるよ』というお達しに間違いあるまい。
『……! わけ! ですの!』
と、VALKYRIE(r2n000098)は、モニターの中でうんうんとうなづいて見せた。KPAからのネットワークを通じ、K.Y.R.I.E.データベースでその性能を発揮するVALKYRIEは、新規クエストシステムの運用実装のために、データベースの中をえいえいと走り回っているようなもので、それを目にした(というか感知した)O.R.A.C.L.E(r2n000101)などは、『データベースを走らないでいただけますか。あなたが走り回るたびにデータはぐちゃぐちゃになるのです、それを私が何度デフラグしたと思っているのですか』と、端整なその顔をピクリと歪ませずに苦言を呈していたわけだが。
AI同士の微笑ましいやり取りはさておき、七井あむのいう所の『より短期的かつ簡素な任務形態による弾力的であり遊撃的なレイヴンズの運用』のためのシステムは今まさに完成と実装の状況に到達し、その裏ではKPAやK.Y.R.I.E.の職員たちが総出で血を吐きながらのデバッグも進行中なわけなのだが、とにかくそういったいくつかの犠牲の果てに、そういったシステムは今まさに完成と実装の日の目を見た、というわけである。
「ちゅーても、そんな変わったわけではなくて。
今までの、長期的にレイヴンズを拘束する依頼システムに比べれば、それこそ一瞬で結果が出る様なものだけど。
まぁ、レイヴンズの皆が必死に現場で働くのは一緒なのだよね。
そこはごめんちなんだけど、まぁ、前に比べれば気軽に仕事に出られるはず」
『それから、お仕事の内容も、色々取り揃えておりますのよ! 例えば、メロディアス(r2n000110)ちゃまからはデートのお誘いなどが入っておりますし……。
普段のお仕事もいろいろですけれど、よりたくさんの、ちょっと個人的な依頼のようなお仕事も運用できるシステムになっておりますの!』
「これが可能になったのは、ひとえに人類に多少の余裕ができてきたから」
あむが言った。
「横須賀を奪還し、鎌倉を奪還。磯子や氷取沢のエリアは人類の手に取り戻した。
東京方面への北上も絶賛進行中。これ、いっとくけどそーとーすごいことやってるからね。えらいぞ。ほめてあげよう」
ふふ、とあむは笑って、あなたへと棒付きのキャンディを差し出した。受け取ってあげるのもいいだろう。
「そんなわけだから、ぼくらにも余裕ができて、より短期的かつ簡素な仕事にも目を向けられるようになったんだよね。
それが、まぁプロジェクト名で、クエスト。
依頼っていうか、冒険っていうか。
まぁ、普段より気軽にお仕事できると思うよ?」
『というわけで、いくつかピックアップされておりますの!』
と、VALKYRIEが、いくつかのクエストの一覧を、あなたへと提示して見せた。
『さっそく、向かってみてほしいですの~!』
そういうVALKYRIEへと、あなたは、あむから受け取った棒付きのキャンディをひらひらと振って、頷いて見せた――。