姫、我等が姫


「姫。我等が姫」
「守らねば」
 正気に戻ったらしい精霊たちが、口々にそんなことを言いながら何処かへ向かっていく。
 それは、1つの島だ。
 もしかすると、かつては房総半島の一部であったのかもしれないが……。
 島。そうとしか呼びようのないその場所へアルゴーの大船団は向かい、そうすると1つの異常を感じ取った。
「姫!」
「おお、姫!」
 精霊たちが急速に速度を上げ、何処かへと飛んでいく。
 その先……海岸に、なんと人の姿が見える。
 少女。そう、人間の少女に見えるが……離れていても、明らかに人とは違う異質な雰囲気がそこに混ざっていた。
 ……強い。誰かがそう呟き、息を吞む。
 此処で戦った精霊たちと比べても、格が……いや、隔絶したものを感じる。それは紛れもなく強者のみが纏えるものであった。
 もし、この少女が敵であれば。そんな考えが浮かんだ者はしかし、すぐにその考えを否定する。
 少女は纏うものは天使とは違う、何か安心できるような。そんな気配であった。
 そしてそれは、水の上をまるで陸地のように歩いてくると微笑んで、すぐに精霊たちにまとわりつかれていく。
「姫」
「姫!」
「ごめんなさい、精霊たち。あたしはもう大丈夫です」
「おお、姫……」
「その言葉だけで我等は……」
「さあ、散って。お客様をお迎えしなければ」
 なるほど、この少女が精霊たちが盛んに「姫」と呼んでいた存在なのだろう。
 そう呼ばれるに相応しい強大な力を感じるが……敵意はないようだ。
「ようこそ、力あるものたち。あたしは真月里まつり。この子たちに姫と呼ばれし月の神霊。貴方たちを歓迎します」
 月の神霊。
 そんなものがこの場にいたとなれば、なるほど。精霊たちの態度も納得だ。
 あの光の結界も、この真月里まつりを名乗る神霊のものであるとするならば……。
「色々と聞きたいこともあるでしょう。ですがまずは、陸地においでなさい。その方が貴方たちも安心でしょう」