
かくも生き汚きものたちよ
もはや、ヒトは死に絶えたと思っていた。
九頭龍大社に訪れるのも天使や蛇と成り果てた動物共のみ。
栄華を極めたフリをしようと、それはある意味では当然であったのだろう。
ヒトには限界があると云う。
そしてヒトの言説ではヒトは神に似せられて作られたものだとも云う。
ならば――他称をして神とされた事がある私に限界があるのもまた必然なのだろう。
私は既に呑み喰らう災厄だ。
天の遣いを自称する痴れ者共が洗った世界を虚ろに眺める暴力装置だ。
腹の底に溜め続けた澱を、呪いを無作為に吐き散らす――かつての毒龍に違いあるまい。
その呪いもすでに吐き尽くしたかと。
人の死に絶えた世で、私の呪いも空しく世界を覆うのみかと思っていた。
だが、見よ。ヒトは生きていたのだ!
我が身から呪いを剝がすほどに強く、忌々しく!
死に絶えたかと思えば、なんと生き汚い。あの日から何も変わらぬ!
忌々しい。相も変わらず救いの無い塵芥共!
嗚呼、奴等はきっと私の社に来るだろう。
私とお前の思い出の地に、また図々しく足を踏み入れるに違いないのだ!
許せぬ。赦せぬ! 私がやらねばならぬ。呪い尽くさねばならぬ。
嗚呼、嗚呼。
――、お前は何と云うだろうか。
今まさに零落の極みに居るこの私を寂しく見つめるのだろうか?
快活なおまえらしくも無く、その目に悲しみの泉を湛えるのだろうか?
この身より生じた呪いは剥がれ、芦ノ湖に潜った。
だが、それでもどうだろう。未だこの身より呪いが溢れ出そうとしている。
憎い。お前が好きだと言った人間を、私はもう愛せない。
それでも、嗚呼、それでも人間に私の目には見えぬ輝きがあるというのなら。あの子が信じた何かがあるというのなら。
この私を止めるがいい。
願わくば、叶うなら、止めて見せるがいい。
私はほら、こんなにも人間が憎い。あの呪いが剥がれて尚、私は再び呪いの化身となろうとしている。
永きを生きる私が、瞬く程の時間に堪え難い闇を感じている。
応えてくれ。私の――。お前以外の人間なんて、私にはどうでもよかったんだ。
――。私の――。お前の居ない世界になんて……私には、何の意味もないと言うのに!
ああ、許せない。此の世遍く全てが腹立たしい。
呪われてしまえ。人も獣も天使も。朽ちて死ね。
どれもこれも、何もかも。
貴様等が恐れた蛇に、成り果ててしまえばいいのだ――