第五裁決シ・ビュラ I
――稲光が、暗澹たる夜空を切り裂いた。
静岡県東部、御殿場市。
オベリスクの存在が通信機を阻むことを考慮し、K.Y.R.I.E.はあらかじめランデブーポイントを決めていた。
戦場となった場所から離れても、時折大地が揺れる。容赦のない風が吹きつけ、万雷が鳴る。――どうにかそれらをやりすごし、RF・3rd=Z1X(r2p002110)は合流地点の一つである建物の中へと到達した。どうやら一番乗りだったらしい。素早くクリアリング。敵影はない。長く……息を吐く。
「改めて、お疲れ様でした」
振り返る先の仲間達へ労いを。無事に天使との戦いに勝利できてよかった。
――周辺警戒を怠らずに待機していれば、次々と仲間達がやって来る。
仲間に肩を貸してもらい、満身創痍の白羽 黒子(r2p000977)は足を引きずりながら屋根の下へ。
「……危ないところでしたわ。まさか天使が我々を攫おうとするなんて」
間一髪、であった。仲間達の助力が無ければどうなっていたことか……。一先ずの安全を噛み締めつつ、改めて黒子は仲間達にお礼を。
「無事でよかったです。……、そちらもですか」
一足先に建物内で小休止をしていた絵空 白紅(r2p000568)は、相対した大天使が有していたアーティファクトのことを思い返す。
「シ・ビュラの檻、と連中は呼んでいましたが」
「あ」
権天使ルフェンドとの激戦を征し、休息していた神代 くるみ(r2p000888)が瞳を丸くする。
「私達が戦った天使も、妙な……ケージみたいなものを持っていました。それかもしれません」
一体彼らは、何の目的を持っているのか。ろくでもないことは確かである。
いやな予感と緊迫に、一瞬、建物内がシンと静まった。
その時である。
「うおーっ! あたし凱旋! デデンデンデデン!」
戸をバーンと開け放って現れる、ワインオール・クラフトラヴ(r2p004817)。
集まる仲間達のビックリした目に、クラフトラヴはピースサイン。それは天使との戦いに無事勝利したことを示していた。
――戦いは御殿場のみにあらず。
先の戦いで制圧した箱根にもまた、天使の手が伸びていた。
御殿場で起きた天災の一部は、箱根へも一部及ぶほどであった。それだけ『アーカディアⅤ』の力は絶大なのだろう――アーシュリーン・アリシャ・プラティマ・チャウダハリ(r2p004501)は砂塵の彼方を見据えていた。その手に雷霆の弩が握られたままなのは、天使の撃退にこそ成功したが大物を逃したからで。
(次こそは……)
溜息と共に、通信機を取り出す。戦況を仲間に報告せねば――
「――えと、こちら、敵勢力の撃退に成功しましたぁ……」
大天使キュロとの遭遇戦を征した千枝 砕華(r2p000288)は、通信機を用いて仲間に連絡を。脳内で「早く帰って寝たいですぅ……」とボヤきつつ。
「ご苦労様。こちらも上手くいったよ」
答える声の主はノア(r2p001745)だ。彼の足元には――天使アリステラの骸だったひとひらの羽根が、血だまりの中に沈んでいる。
次々と届く防衛成功の報告に、D.I社の面々と天使を退けた濡羽・蘭(r2p003229)もまた安堵を覚えた。
しかしこの安堵は束の間のものだ。御殿場方面は未だ暗く、アーカディアⅤという強敵は目と鼻の先。
「……引き続き。警戒しなくてはいけないのでしょうね」
「そうですねぇ……手広くなったぶん、ちょっと大変ですけどぉ」
困ったように肩を竦める様すらカワイイ、それがリーラ・ツヴァング(r2p000085)。彼女がいるのは箱根の温泉街だ。在りし日々の頃はさぞ賑わっていたことだろうが――今は戦いが終わった後の静寂だけが、虚しいほどに横たわっている。
「退いたばっかの土地にまた攻め手を持ってくるとか、天使共も忙しそうだな」
天使共を掃討し終えたばかりのクリスチーナ・マーティン(r2p004035)は、黄金色の前髪を掻き上げ大きく息を吐いた。
リーラのいる温泉街は、九重 セナ(r2p001747)が居る廃墟ビルの上層から見える位置。とはいえ文明という明かりがほぼ滅ぼされたこの世界では、全ては夜の闇に閉ざされているが……。
(無事に勝利できてよかった……)
空を見上げ、ほっと一息。さて、天使に襲撃された簡易拠点の被害状況を確認せねば。
懸念事項は幾重にも。敵は『アーカディアⅤ』だけではない。主天使・崩天のミハイル(r2n000062)傘下天使もまた、能力者へと脅威をもたらしていた。
その一人、ノエルカ(r2p006756)と対峙した王生 暁兵衛(r2p000501)は、彼女が消えて行った方向を見つめている。木々に閉ざされた闇からは、もうなんの気配もしない。
「ちえ」
狩り自体は成功したが――大物は取り逃がしたか。
「――そっか、うん、うん、ありがとう」
閻 暁廻(r2p001539)が救助した仲間達は、無事に安全な場所まで運ばれたとのことだ。通信機を切り、ようやっとの息を吐いた。
「コイツ等鳴かせて、全員マシロ市へ生きて帰るぜ!」――彼らにそんな鼓舞を送って。幸いにして暁廻の周囲で言葉を失うような悲劇は起きていない。
だが、他は……特に御殿場方面はどうなったのだろうか。
「どっと、疲れました……」
防衛した茶屋の一席に腰かけ、オト(r2p000740)はお茶をもう一口。一言では説明しきれぬほどいろいろあったが、なんとかなってよかった。
彼方、御殿場方面は未だぞっとするほどの暗雲に包まれている。さやけき月がかの場所を再び照らすことを願い、青い少女は空を仰いだ。
聖職者の為の外套を乾ききらぬ血に染めて。Fleurette Lesoleil(r2p002742)は自らのことなどよりも、まだ安否が確認できていない仲間達のことを心から気遣う。
(主よ、どうか……我々を護り、お導き下さい)
手を組んで、天に祈る。この願いが、届くことを信じて。

