神璽結界
――人類は変わらず天使と戦わねばならない。彼等の野望を挫くではなく、己が生き残らんとする為に。
2054年の幕開けと共に市長、涼介・マクスウェル(r2n000002)より齎されることとなった熾天使達による本選の在り方は能力者達に大きな衝撃を与えたことだろう。
しかし、凶報ばかりではないと言われていた。最も自由な戦力であり、本選には絡まぬ彼らにとってのイレギュラー。
そうであろうとも、無理やりにもデスゲームに参戦しろと首輪を嵌められてしまったならば堪ったものではない。
それは分け身で降臨した第五熾天使との戦闘が終結した御殿場地区であなたを待っていたK.Y.R.I.E.司令官の嘉神 ハク(r2n000008)とて同じであった。
「お疲れ様です。マシロから御殿場はマシロ電鉄で鎌倉まで向かってからポルトゥヌスや護送ユニットを使っても骨が折れるでしょう。
もう暫く進みますが、今しばらく辛抱していただけると幸いです。富士橋頭保につけば休息は出来る筈ですから」
2024年から――生まれてくるはずの妹と出会えぬまま――地続きで生きて来た彼とて、降臨した六つの宝冠に思わぬことがないわけではないだろう。
それでも、彼は口にはするまい。神の身勝手さに怒るよりも生き残るための道を模索し、この地に能力者達を呼び寄せる事としたのだろうから。
「この先に旧自衛隊が使用していた駐屯地があります。そちらを富士橋頭保とし我々の前線拠点の一つとすることになりました。
此処までの道中整備は申し訳ないです。そちらの安全確保でKPAも我々も掛かりきりで……これから、なのですが」
肩を竦めた彼は、その確保と整備と同時進行で広域地理情報管理システム『アストラチカ』にアップデートされた日本地図の現状を照らし合わせて確認したそうだ。
情報通り小田原以西、御殿場以南にあたる部分は沈み、伊豆半島は孤立した状態となっている。
その上で当初は進軍ルートとして提案された太平洋周りのルートは富士川近辺辺りの土壌汚染の影響により進軍不可能だと結論付けられた。
「幸いにして、霊峰は機嫌を直してくださったようですね。一先ずは高まっていた神秘エネルギーがある程度の水準で抑えられていることを確認しました。
その事もあり、急ぎ橋頭保を設立しているのですが……進軍ルートとして山梨を経由、そのまま、中央の山岳地帯の中から取りえるルートを選び名古屋方面に向けるべきではないかと考えられています。
あくまでも、案ではありますが……それと同時に、その周辺の霊的反応の調査を神祇院――鎌倉と一緒に行いました」
簡単な術式を使っての探知である。その際にはラプラスや教授を含めてある一つを狙い撃つように調査を行ったのだ。
そう、八尺瓊勾玉。嘗て、三種の神器と呼ばれたそのひとつ。
本来ならば東京で管理をなされていた神器は、大破局の動乱の際に喪失したという。
東京を管理していた神祇院の役人曰くは、動乱で失われたというよりも神璽自身が危機を察知し、神聖なる場に転移したのではないか――
「……あれは強大な力を秘めています。もしも、神璽自身が転移を行っているならば、その身を守るための結界を張っている事でしょう。
神璽結界の反応を掴むことが出来ればと調査を行った結果、甲府方面にそうした反応が存在していることが判明しました」
ハクはそこまで口にしてから唇を引き結ぶ。あくまでも、そこまでしか分からなかったのだ、と。
未だ整備途中の富士橋頭保へと到達したハクはそうと霊峰富士より続く道を見つめた。
「近距離に存在する忍野八海周辺までこの橋頭保は広げてゆくつもりです。
……ある意味、マシロから地続きで迎える場所の関所の意味合いとして。
ですが、この先に神璽の存在があるというならば向かわないわけにもいきません。それに、です」
ハクは自身の前方にモニターを投影する。AIオペレーターの応答を経て、画面が切り替わった。
――Operational Reliability and Computational Logistics Engineより、KPA-OS-M001 広域地理情報管理システム『アストラチカ』へ中継します。当システムは新人類圏における各種情報の点と点を線でつなぎ星図を描くものです。ご希望はございますか?
「世界地図へ」
――承知しました。
ハクの指先はそのまま日本地図をズームする。位置は、京都。
「……アーカディアVIIIが京都地区近辺に降臨しているというならば。
神璽を放置しているわけにはいきません。あれが今後の戦いに役立つ可能性があるからです。
しかし、この先を僕たちは知りません。K.Y.R.I.E.は斥候隊を出すのではなく志願者の編成部隊による街道整備と並行しての探査調査を計画しています」
そう、マシロ市から大きく離れる事となるこの先は、想像もつかぬ完全なる未踏地域である。
この富士橋頭保を出立し、志願能力者部隊は山を越えて甲府盆地方面へと抜ける。
甲府盆地に何の反応もなければ、次は長野方面へと向かう事となるだろう。
道は荒れ果て、地形など想像だにできない状況であることが推測される。
山が削れ歩きやすくなっている場所もあれば土砂が崩れ回り道を求められる場所もある。
その場所がどうなっているかというのも判断がつかない。その為、拠点から出来うる限りの用意を整えていかねばならないのだ。
「この作戦には完全に志願を行った方のみで行きます。
何があるか、分からないからです。K.Y.R.I.E.は作戦成功と皆さんの全員生存を担保できない。
これまでもそうでしたが……我々が思っている以上に世界は変容し、我々が思っている以上に人類は存続を危ぶまれている。
マシロと言う安息地は現実でありながら、我々という人間を包み込んでくれる真綿のような場所なのです。だから……僕は皆さんの作戦参加を強制しません」
それでも――それでも、だ。あなたが無事であればいい。
ハクはそう願いながらも真っ直ぐにあなたを見つめた。
「貴方の選択を、尊重します。もしも、ご興味があれば力を貸してください」
※広域地理情報管理システム『アストラチカ』のメジャーバージョンがアップデートされました。
更新内容
・日本地図掲載←New
・新人類圏地図掲載←New
・世界地図掲載←New


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