夢想
轟轟と音がする。吠吠と劈いて。翩翩と揺らぎ、靉靆と雲が行く。
耳障りな事ばかり。誰も彼もが騒ぎ立てては、藹々を言葉を交わし走っていく。
ホームルームの教室で誰も号令の音には気付いていないような、町中に響くサイレンの怒声のような叫声など無視してしまうような、喧噪と廃頽した街がそこにはあった。
朗々と喧伝し続ける者たちと、強欲に急き立てる者たちに手を引かれながら堕落していく街は今や色彩をも失ったように静かで。
だからこそ、彼女はその地で眠る事にした。
何にも害されない。誰にも邪魔されない。絶対的な安全と安寧のゆりかご。
熾天使のことなんて、知った事ではないと目を閉じて眠り続ける筈だったのに。
うるさい。
その言葉しか持っちゃいなかった。
うるさい。
誰も彼もが邪魔をする。静かに眠っていただけなのに。
うるさい。
わたしは耳障りな音を聞きたくはないもの。
うるさい――うるさい、うるさい――
「おはよう、姫君」
むらさきいろは嫌いじゃない。何時だってわたしを笑わせてくれる。
サーカス団だってきらいじゃないの。彼らはわたしのためにあるのだもの。
「東京の街は騒がしくて厭になる。君もそうじゃないかな」
「……いいえ……いいえ……けれど、海の怪物が揺さぶり起こされてしまった。
あの怪物は、波のように迫りくるの。
恐怖心のようなさざなみに、歓喜の遠吠えに、それに、強欲で傲慢な程の暴食が溢れてる。
いやよ……あれは、きらい。きれいじゃないもの。わたしは、きらい。
きらきら、きらいなものがすき。きらきら……近くにあった勾玉……そういえば、何処かに……」
「勾玉?」
「そう、ずぅっと前……忘れちゃった、いつなのか、わからない……。
けれど、無くなってしまったの。いつからかは、わからない、けれど」
むらさきいろはわたしの頭を撫でる。優しい掌、あたたかい、太陽みたいな気配。
この街は冷たい。塩に覆われ、脆く崩れ行く。人も、天使も、争うばかりの恐ろしい場所。
わたしは、それならばずっと眠って居たかったのに。
「安心すると良い。まだ怪物は起きたばかり。
それに、君の玩具だって健在だ。勾玉は……どこに行ってしまったか。
それでも心配はいらないさ。何も恐れることはない。信じてくれたならばそれでいい。
……ほら、もう少しだけお眠り――子守歌は必要かな?」
――深い、深い夢に落ちていく。
わたしは、誰かの背中を追いかけるの。
けれど、追いつかない。
あなたは誰よりも早いから。
待って、待って、おにいちゃん。おいていかないで、おにいちゃ――
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