白雪の頃


 真珠海岸にひらひらと白雪が舞い落ちてくる。
 冬の寒さも極まる頃だ、学生たちは進級や進学の準備に追われるような時間を過ごしている。中には、これからの進路に対して決めかねているという学生たちがK.Y.R.I.E.やアガルタに頻繁に顔を出しては悩まし気な声を上げていた。
「ううーん……学年末テストとか聞くと、一年が終わる感じがしちゃうよねえ」
 年度末、というのは学生たちにとってはそれなりに大きな節目だろう。
 匂坂 愛(r2n000011)がうんと伸びをしながらそう告げれば三羽 那珂(r2n000118)は「そうかな」と呟いた。
「でも、そうかも。進学とか進級とか、節目だものね」
「だよねえ。でも、その前に大きな戦いが繰り返されて行って、クラスの人数が減って……ってなるのかな」
 何気なく呟いた愛に那珂が渋い表情を見せる。
 真珠海岸沿い、マシロ新道一号をのんびりと歩いていた那珂はぴたりと足を止めてから海をぼんやりと眺めた。
「そうかも……横須賀、とか」
「うん。海の暴威クラーケンとか。でも、諏訪の方もまだまだ調査頑張ってるし、新しい発見があるかもだよね!
 それに、多摩。……行き止まりって聞いたけど、いろんな場所があるんでしょ? 北のとか……」
 暗い表情を浮かべた友人に慌ただしく愛は「今思い出しました」と言わんばかりに取り繕った。
 ――恐ろしい事は、何時だってついてくる。この世界で生きていくならば戦わなくてはならない。
 第五熾天使との戦いが終わり、小田原の管理を開始して、平和に生きていけます。戦う必要はありません、なんて事にはならない。
 少女たちの手には武器が握られている。シャープペンシルを握るような当たり前な気軽さで、少女たちはを倒すのだ。
「……怖い事がなければいいのにね」
「そうだねえ……」
「さむいね」
「……そうだねえ……さむいねえ……」
 那珂が白い息を吐き出すその光景を愛はぼんやりと眺めていた。
 それから楽しげに笑ってから「多摩の、西の話は聞いた?」と問いかける。
「うん。巨人って呼ばれていたアザーバイドが残していった大きなお屋敷の話でしょう?」
「そう! あの中に、色々なアザーバイドや、それから人間が住んでいるって聞いたんだ。探索もできるといいよね。
 ……東側の空は、ずっと星空だって聞いたよ。だから、それも見てみたいねえ。
 シェナさんが、少ししたら案内をするって言っていたんだって。わたし達にとってその場所での冒険がばかりじゃなければいいのにね」
 行き止まりの地、多摩はそうして様々な姿を見せるらしい。
 南に誘ったサーカス団は今は行方をくらませているが、南街で公演を続けているものも居るそうだ。
 サーカス団はゲイムの時間が近いと言った。その参加者に能力者達は数えられているのだとも。
 その会場は東京であり、マシロ市は東京という政治中枢地の奪還を目指している。
 東京は横浜マシロ市の目と鼻の先、放置できない場所であるのも確かな事。しかし、ゲイムと言われてしまえば――
「……那珂ちゃん?」
 暗い表情をしてしまっていたね、と那珂は困ったように笑ってマフラーで口元を隠した。
「ううん、大丈夫。バレンタインデーも近いし、楽しい事がたくさんだといいね」
「うん、そうだね」
 白雪が降る。真っ白に世界を染め上げてくれる。
 ――そうして、恐ろしい事も、何もかも隠してくれたらいいのにな、なんて願いながら。


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