神送


 木枯らし吹き荒み、帰り花の頃。そんな冬が諏訪を閉ざした。
 薫風など忘れてしまったかのように、青々とした草木には雪が降り、柾の花の蕾さえも知らぬ顔をしてしまった。
 神璽結界の内部より漏れ出でる冬の気はじりじりと甲州街道を伝い水没した山梨へもその冷たさを運ぶ。
 時期忘れの冬がこの地を包み込んだというなれば、終わりの時は近いのだろうか。

「弥栄ちゃん……」
 少女は八重垣剣。三種の神器が一つに名を連ねる草薙剣のその半身。
 憂うように名を呼んだのは友人であり自らと同格の存在である八尺瓊勾玉の名であった。
「弥栄ちゃん……ッ」
 彼女は器だ。勾玉は受け入れるものである。故に、陰の気を受け止め世の正常化を図っていたのかもしれない。
 大破局より30年年もの月日が流れ、人々の信仰が途切れてしまったが為に神々はその在り方を大きく歪めてしまったという。
 神は正しくあらねば呪となる。その疚しさが勾玉の元へと流れ込み、そうしてこの冬がやってきたのであろう。
 冬は、次第に大きくなり八尺瓊勾玉諸共を飲み込んで行くだろう。
 そうすれば彼女に訪れるのはとこしえの眠りだ。八重が切り払えばよいが、そうは出来まい。出力も不安定なが何をできようものか。
 諏訪の神々が受け入れつつあった能力者あなた達ならば、弥栄の元に手を伸ばせるのかもしれない、と。
 八重はそう思わずにはいられなかった。
 冬を受け止め、弥栄を護らんとする大祝おおはふりフナドノサエ――それは全ての陰の気を受け止め冬として能力者に討たれる事を望んでいた。
 全ての陰の気を受け入れ、荒神となり、神の座を返上するために討たれること。つまりは逐降かんやらいの時がこの場にはやってきた。
 神より膨れ出した陰の気に呼応する荒神たちをも鎮め、この地に夏を取り戻さねばならぬ。

「荒神ですかあ。うんうん、厭離衆の……その中でも過激派な伊佐々の皆さんに言わせれば、それを受け入れる器がたくさんいるそうですね。
 あ、でも、そうか! 凄い事に気が付きましたよ! を荒神の器にしてもらって、戦力減らしてこっちの味方に付けたらちゃちゃまるたち元気いっぱいに勝てるのでは!?」
 アーカディアⅧの配下である犬の着ぐるみがぽいんぽいんと嬉しそうに跳ねまわった。
 その為には更なる呪創あとを刻み込み、荒神たちを使役して往かねばならない。
 この場では所詮は伊佐々派も外様でしかないのだから、御津那海に引き寄せたならばそれも叶うか。
「わあ~賢いですね、伊佐々さん! 娘さんを千鹿頭神……? なんだか神様の名前で呼ぶのはちょっと頂けないですが!」
 自分も全く別の飼い犬の名前で呼ばれていることを棚上げにしてちゃちゃまるはふにゃふにゃと笑った。
 ちゃちゃ、と呼んでくれる可愛い主たち。早く帰ってボール遊びをしたい。冬は寒いし、結構辛い、なんてそんな事を言ったちゃちゃまるはふと、視線を領域の片側に向けた。

 ――さぁ、八重。この街を夜に鎖しましょう。
 アーカディアⅧからも、厭離衆からも、大祝からも――K.Y.R.I.E.からも。
 私は貴女を攫って逃げてしまう……けれどそれは、きっと彼らにとっては都合が悪いわね?

「ぎい」
 ちゃちゃまるは驚いた様子で指を差す。
 夜が広がって行く。霧原 夜宵の、暗き夜が。
「あ、あ~~、あの中に八重ちゃんいませんでしたか!? ダメですって~~! 八重ちゃ~~ん!
 うんむむむむ、仕方ないです。弥栄さんをゲットしたら八重ちゃんも貰い受けてやるぞ~! えいえい、お~~!」
 冬の中にて、夜が全てを閉ざしてしまう。
 この冬は、終わりを意味する。
 何もかもを閉ざすような季節は、ただ、夏の朗らかささえも忘れ去った儘に――神は送られる事ない停滞を求むるかのようであった。
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