4月1日 - Part1


 世界的破滅は、日本時間四月一日、午前二時に起こった――と、後の世に記される。
 その時、カルロッタ・スピノラ(r2p000246)は故国にて破滅の光景を目に焼き付けていた。
「天にまします我らの父よ。どうか私達を、パパとママをお守りください。
 守って……くださいますよね?」
 その祈りは、願いは、届くことはないことを――ほかならぬ、カルロッタ自身が、強く思い知らされることとなる。
 鎌苅・サデュラ(r2p001113)もまた、自室でその報を聞いたという。都の方で『何かが起こった』。テロだとか、海外の大国の攻撃だとか、いろんな情報が飛び交って、最終的に父から避難しろ、という連絡だけが届いた。
 母と車に乗って、飛び出した。世界が、酷くざわざわと騒ぎだしていた。
 張本 益徳(r2p002548)は深夜の警報を受けて飛び起きた。関係各所への連絡を即座に取り付ける。
「ほかの部署の連中が噂してたんだ。市長が最近オカルトにはまってるとか」
 役所に向かって駆けだす道中に、すでにいくつもの化け物たちを見ていた。白い、怪物。襲われる人々。持ち前の正義漢で、助けられる人を何とか手助けし、それでも、救えぬものを何度も見た。
「これのことだってのか」
 残酷が現実がのしかかる。非日常が日常にかちりと切り替わる瞬間。
 神薙 焔(r2p001145)は、セーラー服の姿のまま、夜の街を逃げ惑う。一足先に、新しく通う学校の門を、高揚した気分でくぐった昨日のことを思い出す。その気持ちのまま、制服のまま眠りついてしまった焔は、今と、昨日、そのどちらが夢なのかわからぬまま、ひたすらに逃げ続けている。その上空で、なにかが爆発した。それが、東京行の飛行機だということに、地上の人々の大半は気づかなかっただろう。コントロールを失ったそれが、海上へと落下してく。それは不幸中の幸いだったが、
「……帰らないと。何を踏みにじってでも」
 その爆炎の中から飛び出した天使(如月 文哉(r2p002841)の姿は、果たして誰にとっての幸いであり不幸であったのだろうか。
 爆炎が海上を焼く。いくつもの停泊していた船が、その衝撃に体を揺らす。海の上も、地の上も、等しく災禍に飲み込まれていく。
「どうして……!」
 アシュリー・ツヴァイク(r2p000416)はうねる海の上、小型船に乗って祖父と深夜漁に出かけている中に災禍と遭遇した。炎を背後に立つシルエットは、翼の生えた怪物に違いなかった。
「じっちゃん!」
 その怪物が、祖父の頭を握っている。にげろ、と祖父の口が動いたのを覚えている。そしてそのまま、無我夢中で銛を手に、怪物にとびかかったことも。その行為が、結局誰も救えずに終わったことも。
「どうなってのこれ~~~!!! こんなの巻き込まれたら死んじゃう~!」
 ナンカさん(r2p000147)は着の身着のままで、裏道の薄汚れたビルから飛び出してきていた。ビルの中のことは――思い出したくもない。客が一人狂って暴れ出したとか、そんな話を聞いてはいた。外は夜だというのに明るい。それは繁華街の人工の光ではなくて、それを燃やし尽くす破壊の炎の光だということには、ナンカさんもすぐに気づいている。
「ぎゃー! なんであるかあの化け物は!
怖いのだ! 訳が分からんである! 誰か助けてなのだー!」
 そのすぐ近くを、枯茶(r2p001771)が走り回っていたので、ナンカさんは叫んだ。
「うわーー!! 狸だ!!!!」
 化け物。
 そう。化け物が。
 現れている。
「人が化け物になったんだ!」
 誰かが叫ぶ。
「あのカラスもそうだ! 目の前で人間から……くそ、化け物め!」
 騒動最初の混乱は、デマゴーグと狂乱を伴い、虚実区別もつかぬまま走り出して人を駆り立てる。夜に一羽のカラスのようなもの=尾羽 つつじ(r2p001635)が、夜の道を逃げ惑う。先ほどまで一緒に逃げていた男からこぶし大の石を投げつけられるがまま、悲鳴を上げるように泣いた。やめて、私は化け物じゃないの。そう声にあげても、誰も聞いてはくれない。その眼が、激痛と締め付けられるような胸の痛みに、とめどない涙が流れていた。
 絶望か。痛みゆえか。
 誰もが混乱の中に涙を流す。
 妹をあやさなければならない、ということに固執してしまうのは、非現実からの逃避行動だろうか。安達 陽和(r2p000928)は、車を使うこともできず、家の中での待機を続けるしかなかった。遠くの方は明るいが、あれも火災の明かりだということは解る。避難所に移動しなければならないかもしれない。その判断も、泣き叫ぶ妹や、足の悪い向かいの家のおばあちゃんを連れてどうやって……という現実的なストレスに塗りつぶされる。父とも連絡が取れない以上、ここで泣き叫ぶ妹をあやしながら、どうか見つからないで、と祈り続けることしかできなかった。
 悲鳴が聞こえる。叫びが聞こえる。
 化け物どもの笑い声が聞こえる。
 そのすべてから耳をふさぎ背を背け、ただ死にたくない、と何度も何度も繰り返しながら、真っ青な顔で幡宮寺 星(r2p000261)はひとまずの避難所である学園を向けて走り続けた。その背後で、まるであざ笑うかのように、追い立てるかのように、一台の車が爆発し添乗している。
「こんな……なんなんだこれは……!」
 そんな光景を見ながら、甘咲 創介(r2p001294)はたまらず声を上げていた。深夜ということもあり、公共交通機関は動かない。頼みの綱はタクシーなどだろうが、この状況を見れば、道路が空いているとも思えなかった。
「……はやく、戻らなければ。セララ……家族たち……!」
 愛する家族たちのことを想いながら、創介は必死に、最適解を模索し続ける。また遠くで爆発が起きた気がした。そちらの方では、一台の車がひっくり返って、そのままがれきの中に埋もれていたことに気づいただろう。中にはシルビア・ローウェル(r2p001233)が無事に生存していたが、しかし生き埋めという状況は無事とは言い難いのかもしれない。
「……愛車が守ってくれたとみるべきか。棺桶になってくれたとみるべきか」
 先ほどまで見ていた状況を考えれば、救助は絶望的だろう。もはや運否天賦に賭けるしかあるまい……が。
「天使の襲撃。救う天なんてどこに――」
 あるのだろうか。
 十叶 透花(r2p000747)が、弟の手を引きながら、夜の街を走る。背後で巻き起こる、炎や爆発。あるいは悲鳴と、何か聞きたくない音。そういったものから逃げるように、ひたすらに走った。自分がこんなに走れるなんて、思いもしなかった。
「今は弟だけでも、絶対に守る。私はお姉ちゃんなんだから……!」
 目に映る恐怖と混乱を理解しながら、それでも生きるために、走る。
「これが、良くない未来、か……」
 ミラー=レーツェル(r2p001529)が、小さな雑居ビルに身をひそめながらそういう。ビルは築年数はたっているだろうが存外に頑丈そうで、しばらくは隠れひそめそうだ。ビルにはミラーが助けたり、同じような思惑で逃げ来てた人たちが、身をひそめあって『事態の打開』を待っていた。
「あの……あっちのへや、皆で片づけたんで……」
 関西風のイントネーションの椎名 桃子(r2p002751)が声をかけたので、ミラーはうなづいた。
「ありがと……悪いわね、こんな時に」
「こんな時だからこそ、です。顔まで暗くなってたら、ほんと、だめになってまうんで」
 そういってほほ笑む桃子に、ミラーはうなづいた。
 せめて、ここにいる人たちだけでも、『私の占いを外して見せる』。そう、強く誓う。
 だが、辛くも避難所に逃げられた者たちが、ミラーたちのように一時の安全を勝ち得たわけではない。
 とある小学校の体育館では、今まさに惨劇が繰り広げられようとしていた。夜も明けようかという時間帯に襲い掛かってきた天使たちは、体育館内の人々を、いともたやすくに蹂躙し始めていた。
「いや、いや……!」
 泡華 咲夜(r2p002145)が、壁に向かって後ずさる。足元には、さっきまで人間だった肉塊が転がっていた。
 ……幼いころから、ずっと病室で過ごしてきた。長い間病魔と闘い、ようやく追いついた医療技術で、咲夜は確かな自由を得た。輝かしい未来が待っているはずだった。
 それが。
 こんな風に?
 ずぶ、と、天使の突き刺した槍が、咲夜の腹に突き刺さった。
 病気の痛みとは違う種類の、とてつもない痛みが脳裏を駆け巡った。
「やだ、いたい、いたい! やだやだやだ! 死にたく」
 うるさい、とでもいう様に、天使は彼女の首をはねた。それで終わった。
「う、う……」
 海馬・楸邨(r2p002324)は地獄のるつぼと化した体育館から飛び出した。多くの人が、散り散りになって逃げだすのにならう様に、楸邨もまた着の身着のままで走り出す。
 どうして。どうして。どうしてこんなことに。
 何もわからないまま、走り続けた。希望の光は、いまだ見えることはなかった。

「なんだよもう、ニホンのエイプリルフールってのは、ちょっと本格的すぎない?」
 ロジェ・サンドリヨ(r2p000054)がその手を振るった。小型の天使と呼ばれる怪物が、その体を断裂されて横たわる。すぐに、ぶじゅ、と気持ちの悪い音を立てて消滅した。
「否定 四月馬鹿 違」
 島風型駆逐艦 一番艦 島風(r2p001632)は、手にしたおでんのくしをぺい、と捨てて、続けた。
「緊急事態 作戦是『天使殲滅 及び 国民保護』。
 島風ハ抜錨ス」
「ははぁ、君も別世界から来たタイプだね? いい世界だよね、ここ!」
 笑うロジェに、島風もうなづく。
「いせかい? 知っているぞ。トラックにひかれたのか?」
 ククカ・クカクカ(r2p001124)が、手にした槍を振るう。人型ではあるものの、まるで化け物然とした異形の下級天使が、手も足も出ずに首を落とされた。
「大変だな。チートはもらったか?」
「……?」
「……?」
 島風とロジェが同時に首を傾げた。ククカも首をかしげる。
「ないのか、チート」
「き、君たち」
 と、声がかかった。そこにいたのは、一人の警察官……野分 銀四郎(r2p000278)だった。
「君たちの正体が何なのかは、今はいい。
 あの、化け物と戦えるのならば、力を貸してほしい!
 まだ、助けられる人たちがいるはずだ……!」
「当方 任務 国民保護 問題無」
「私はこの面白いキモいのと戦えるなら何でもいいぞ」
「そうだね、当てがないより当てがあったほうがよさそうだ」
 三者がそれぞれ同意を示すのへ、銀四郎はうなづいた。
「よし、では、こっちに来てほしい! 近くに病院があったはずだ。けが人も集まっている……!」
 絶望の中にも、抗い、戦おうとする者たちは確かにいるようだ。銀四郎が指した病院――小石川クリニックにも、また別の形で戦う者たち、医療技術者たちがいた。
「重傷人は奥に連れて行ってくれ! 軽傷者は治療はちょっとまってくれ!」
 小石川 恵(r2p000181)が声を張り上げる。クリニックの中は多くのけが人であふれかえっている。
「先生、本格的な設備のある大病院に移送しないと……!」
 看護師が叫ぶのへ、恵はうなづいた。
「分かってる……だが、今はここでやれるだけのことをやるしかない……!」
 そうだといって、けが人を移送できるはずもなかった。結局、ここで必死に戦い、少しでも延命と応急処置をすることしかできない。
 だれもが、生きるために必死で戦っていた。終わりの日の、最初の一日の事である。

 執筆:洗井落雲


 2024年4月1日。
 世界はこの日、一変した。
 この日……ドゥームズデイを境に、以前を旧時代……アーリーデイズと呼ぶ。
 突如として虚空より現れたのは、天使と呼ばれる異形の群れ。
 それらは、平穏な日々を送っていたはずの者達の人生を悉く破壊していく。

 何かを察して飛び起きた月宮 まこと(r2p000591)は、アパートの自室窓から外を見えたものを見て確信する。
「どうして、どうしてアレが居る、居るの。嘘、嘘、全部嘘だ」
 そして、彼女は慌てて逃げようとしたが、どこにも逃げ場がないことに気づく。
 天使の襲来。
 「悪魔(オルフェウス)」であるまことはかつて自分の世界を滅ぼした連中と同じ種類のものだと理解する。
「嫌、いや、助けて、助けて、たすけて…………ゆるして、ごめんなさい」
 まことは震えながら、赦しを請い続けていた。

 飛来してきた天使達は空を飛ぶ航空機に狙いをつける。
 天使らはそれを見過ごすことはせずに翼を破壊して墜落させた。
 それに乗っていた薬剤師(r2p001368)も、共に地面へ。
(まだやるべき事があるはずなのに……)
 だが、航空機の残骸の下敷きとなった薬剤師はどうしようもない現実に抗えず、むなしく瞳を閉じてその命を終えた。

 羽取 陽一(r2p002793)は出版社の泊まり込み作業中だった。
 連絡網を手に陽一は社員らの安否確認を1人ずつしていた。
 それが進み、あと3割といったところで、窓ガラスが割れる。
 社内へと乱入してきた天使はすぐに陽一に狙いを定めたが、ごくごく一般人の彼に抵抗などできようはずもない。
 そいつの繰り出す炎熱の一撃で、陽一は体を蒸発させてしまう。
 死体どころか、肉片、骨片すら残さず消し飛んだその体。
 直後に天使は飛び去り、壊れた机の上には陽一が別所より呼び寄せた妻、娘とその大好きなうさぎのぬいぐるみが写った家族写真だけが遺されていた。

 守らなくては。
 そんな気持ちを、荒れ果てたコンビニで竹下 良多(r2p001699)は抱く。
 沢山あった商品はすでに奪われ、僅かばかりの雑貨が残るのみ。
 せめて店を守らなくてはと、良多は暴徒へと抵抗していたが、なすすべなく……。
 しばらく意識を失っていた彼が目を覚ました時、店内へと踏み込んでいた異形の天使が。
「あぁ、お迎えっすかね……?」
 そいつが武器を振り下ろす瞬間、良多は思う。
 ……もういちど、あのおむすびが……食べたかったな……。
 彼もまた、この混乱で命を終えたありふれた被害者の1人だった。

 事件が起こった混乱の中、ラピス・ラーズリー(r2p000280)は水鏡 透(r2p000903)と共に街の避難所へ避難しようとするが……。
 突如、近場の瓦礫が崩れ落ち、砂埃が周囲へと巻き起こる。
 その間に、透とはぐれたラピスは、彼がいることを信じて避難所へと駆け込む。

(怖い、どうして、こんな……)
 混乱する状況の中、宵 小羽(r2p000876)は襲い来る天使に恐れを抱く。
 今日は、彼女にとって、最悪の誕生日となった。
 友達が誕生会を開いてくれる予定だったのに……。
 街中を逃げ惑う小羽は途中、物陰の隅で蹲る白猫を見つける。
 それは、いつも声をかけていた近所の野良猫だった。
「怖がらないで……大丈夫よ」
 最初は怯えていた白猫も、小羽の優しい声で身を起こし、差し出された彼女の腕に自らの身を委ねる。
 自分もこの白猫のように、きっと助けが。
 ――それまで頑張って逃げなくちゃ。
 小羽は白猫を抱えたまま、混乱する街中を駆けていく。
「何でこんな事に……」
 玻璃 あやめ(r2p002972)もまた、今週に誕生日を控えていた。
 勉強を頑張って合格した高校の入学式だってあったのに。
 依然として、街中で天使は暴れ続けている。
 それらから逃げ惑っている最中にあやめは家族と離れ離れになり、1人怯えながら避難所へと向かう。
「いたっ……」
 途中、あやめは背中に突然の激痛を覚えて、一瞬足を止める。
 その痛みに加え、内から湧き上がる吐き気を感じさせるような気持ち悪さ。
 ――早く両親や友達と再会したい。
 泣きそうになりながらも、あやめは唇を噛み締めて走り出す。
 家族との対面……。
 花白 此花(r2p000133)は入院先の病室の隅で、恐怖に震えながら待っていた。
『動かずここにいろって。かならず駆けつけるから、待ってて』
 スマホで、2人はそう伝えてくれた。
「怖いよ、怖い……」
 頬をつたい、零れ落ちる涙。
 パパもママも、嘘は言わない……だから此花は待つ。
 言葉通り駆けつけてくれた両親が自分の目の前で殺される。
 そんな未来など、想像だにせず、信じて。

 魔術師の力を持つ聖ヶ崎 アリサ(r2p000371)は就寝していたところを両親に叩き起こされて。
「まったく、誰かのこの状況を説明しなさいよ!」
 状況把握もままならぬまま、彼女は魔術師の母親と共に天使と交戦していた。
 戦闘は激しく、入り乱れる天使に、逃げ惑う人々、倒壊する建物……。
 混乱の最中、母親を見失いつつもアリサは魔術師協会へとたどり着く。
「天使だかイレイサーだか知らないけど、厄介な連中ね」
 平時、アリサは組織と距離を置くスタンスだが、さすがに有事となればと、彼女は魔力を高めて。
「まあ、可燃性なら私の敵じゃないわ! 大人しく消し炭になりなさい!」
 具現化した炎を投擲し、アリサは天使を燃え上がらせる。

「やだ、やだ、いやだ……!」
 天使の襲撃の中、ルナ・トレイン(r2p000206)は、何が起きたのかわからず困惑する。
 母親だった人が犠牲になったことで、辛くも命を繋いでいたルナ。
 それを、基地に詰めていたはずの軍人の父親に伝えたかったのだが、姿が見えようはずもない。
 そんなルナへと1体の天使が迫る。
「ああ、またこいつらは私から大切なものを奪おうとする!」
 とある場所へと急行していたはずのレイラ=フォーリィ(r2p000515)はそれに気づいて激高した。
 かつての故郷を壊され、妹は行方知れず。
 それでも、この世界に流れ着いてようやく得たはずの安寧を。
「壊すならば容赦しない!」
 主の事も脳裏に過ぎったが、あのお嬢様は強いからと思い返して虚空へと許しを請う。
 そして、レイラは急行する。
 この世界で手にした大切な物を守る為に。
「レイラ、さん!」
「ルナ……さん……」
 ルナの手を取って天使の強襲から逃れる。
 手を引かれるレイラは状況把握もままならぬが、この場から共に避難する。
「私は、魔法だけは強いから!」
 その辺の下級天使なら、不意を突かれなければ大丈夫と、ルナは胸を張った。
 ルナに……目の前の少女に救われたレイラの……止まりかけた小さな命は進み出す。
 一歩ずつ、地獄に向かう足取りを。

 外は天使が次々に飛来し、現代社会の全てを破壊していく。
 住んでいたマンションが倒壊しそうになり、エリナ・I・アシュビー(r2p000549)は急いで脱出した。
 両親が留守だったこともあって、エリナは指定避難所へ移動することに。
 だが、目の前を塞ぐように1体の天使が降り立つ。
 持ってきた雨傘をエリナは魔術で強化し、鋭い突きを食らわせる。
 攻防を繰り返し、なんとか撃退した……が。
「災害時はとにかく初動を生き延びるのが大事って聞きますけど、この初動っていつまで続くんですか……?」
 まだ天使と戦うことになりそうだが、傘はどれだけ持ってくれるだろうか。
「……お家が、ないの」
 同じく、天使によって住んでいる家を追われた1人、籠鳥 漣歌(r2p000357)。
「お母さんと、お父さんと、シュマロがいないの」
 両親と飼っていた兎が見当たらず、悠然と宙を舞う天使を漣歌は見上げて。
「……ねえ、どうして。貴方たちが奪ったの?」
 答えは返ってこない。
 どうやら、目の前の天使は知性に乏しいらしく、漣歌の言葉を理解することなくただニタニタ笑うのみ。
「返して、返してよお! 私たちがなにをしたっていうのよぉ!!!」
 その怒りによるものなのかはわからないが、天使化症候群が加速して漣歌は堕天使に。
 素手で天使と向き合い、交戦する漣歌。
 自身がソレと戦えることに衝撃を受けながらも、相手を叩き伏せるべく戦い続ける。

 夢宮 苺歌(r2p001666)は住民の避難誘導に尽力していた。
 『情熱の魔法少女ストロベリー☆ブレイズ』として活動する苺歌。
 親しい人の無事は確認していたし、家族も神秘関係者とあって皆強いと、彼女もひとまず安心して動く。
 やはり、皆が危険な場所に天使が現れれば、苺歌も張り切って新体操やバレエで培った身軽な動きで翻弄して。
「こっちよ、ウ・ス・ノ・ロ・♡」
 多少手強い相手だろうが、苺歌にかかれば問題ない。
 武器と足に炎の魔力を纏わせ、連撃を叩き込んだ彼女は素早く詠唱し、天使の体を爆散させた。
「ふんっ、汚い花火ね!! ざぁ~こざぁ~こ♡」
 見事にトドメをさし、苺歌は相手を嘲笑すらしていた。
 戦場にふらりと迷い込んだ運搬用一輪車のネ=コグルマー(r2p001272)は、人々を襲う天使を直接撥ねる。
 生憎と空中を走ることができぬ、ネ=コグルマーだ。
「オラオラオラオラァ! アスファルトとオレで挟み焼きにしてやるゼ!」
 丁度、誰かが叩き落とした天使の翼を捥ぐ勢いで、車輪を回す。
 1体を完全に伏したネ=コグルマーは手近で敵を倒した苺歌に呼びかけて。
「次の場所に行くんだロ? 乗ってケ乗ってケ! 特別料金でタダで乗せたるワ!」
 同意した彼女を乗せ、一輪車は疾走していく。
「僕、あんなのと戦えるほど強くないんだけどなあ……」
 一方で、リューゲ=ハイムヴェー(r2p000213)は己の力をそう客観視するも。
「まあ僕も人間ってやつじゃないんだから、逃げる手伝いぐらいできるでしょー」
 リューゲは人々を狙う天使へと軽く攻撃し、救出できる人を助ける。
 あくまでリューゲは足止め。
 彼も撃破はもっと強い人に任せる構えだ。
「あんさん撮影の邪魔やで、なにしくさってんねーん」
 この状況の中、動画撮影をしていた銀娘々(r2p002165)が難癖つけた相手こそ、天使だった。
 動画配信でちったー顔の知られた銀娘々だ。
 一目銀娘々を見ようとしていた者によって足を止めている者もおり、周囲は一時的に静まっていた。
 未だ正体が明らかになっていない部分もある天使なる存在に、彼女は啖呵を切る。
 ――もしかしたら、勝てんじゃね?
 そんな視聴者の期待が広がるのもむべなるかな。
 空の青さを知る銀娘々は中華武術で相手しつつ、天使を牽制する。
 猛然と腕を薙ぎ払う天使だが、銀娘々が軽やかに避ける様に喝采も巻き起こるが、だれからともなく今のうちだと声が上がり、人々もその場から離れていく。
「ま、時間は稼げたかな」
 まさかこの場に天使がいようとは。
 そう考えつつ、銀娘々は空中から敵を蹴り倒して地に沈め、自身もその場から逃れていった。

 水無瀬夫婦、水無瀬 海陸(r2p001560)、水無瀬 実結莉(r2p000541)も混乱の坩堝となった街を逃げ惑う。
 海陸は妻を護りながらも、デス&マジックのカードを媒体として呼びだしたモンスターに戦わせ、進路上の天使を排除していく。
 他の人の支援などする余裕もなく、海陸は実結莉を最優先にしつつ敵を撃退し、なんとか避難所へと駆け込むことができた2人。
 だが、実結莉の体は天使化症候群に侵され、足が蛇へと変化していた。
 天使、そして、天使化症候群、異能を持った人々。
 ミスト・クラウン(r2p000922)は死を悟っての遺書代わりなのか、あるいは情報整理の為か、日記を綴りながらも心を落ち着ける。
『僕はおそらくダメかもしれません。でもどうかこの……』
 ミストの日記はそこで終わっていた。

 執筆:なちゅい

●それは、悪夢のような
「ねむ……ねむい……」
 宮本 沙華(r2p000122)は自分が東京まで"逃げて"きた理由を剣道場で思い出せていた。
 だからこそ図書室が工事で閉まる春休みを使って故郷へ帰ることにした。
 そして今は深夜バスを待つ深夜2時。
 こくり、こくりと寝ぼけていると……空から羽が降り落ちた。彼岸花の如く鮮血が舞った。
「……ぇ?」
 今の沙華は『不至徒花』。まだ、戦えない。そして、同時多発的に「それ」は起こっていたのだ。
 4月1日。それはいつも通りのはずだった。二星 亜希(r2p000001)にとっても、空港で夜を明かして朝一で地元に帰るつもりの、ちょっとだけ特別な時間。
 けれど。始まりは響いた声。
「うう……ヴ……」
 隣のおばさんが、白い化け物へと変化していく。何も分からないまま……偶々あった鉄パイプで必死に叩いて逃げる。走って……空港の外。両足を斬られたと、そう気付く。もうお終いだと。そう思って見上げた空には。
「火の玉……」
 大きな火の玉。いや、それは飛行機だ。
「あ、そっか。世界……終わったんだ」
 世界の終わり。自分の世界の終わりを、藤乃宮 聖(r2p000667)は感じていた。
 そう、終わっていく。色々なものが。変わっていく。全てが。
「ウチをこっち側に引き込みやがって!」
 愛川 恋(r2p001040)はブチ切れていた。実家の弁当屋を襲ってきた天使。殺されてしまった母親。
 その怒りを調理場にあった肉切り包丁を手に、隠していた身体能力頼りに敵討ちだと暴れ始めたからだ。
 平和だった日常を奪われた怒りは、護れなかった悲しみでもある。
 誰かを護れる程度には鍛えていたと思っていた。けれど、この現実は。
「……何が公安警察だ。せめて、君と共に」
 その言葉を、梅雨時 時雨(r2p000668)が止める。もう時雨は助からない。流した血が多すぎた。
「お母さんが作ってくれたヴェールだけでもって持ってきたけど、血で汚しちゃった。ごめんねぇ、聖君。
聖君、すごく優しいから。きっとわたしの後を追ってしまうでしょう? だから、最初で最期の呪い(おねがい)をあなたに」
「何を……」
「しぃちゃんの事、お願いね」
 わたし、世界で一番幸せやったよ。そう言ってこと切れる時雨を、聖は抱きしめる。
「ずるいな。紫陽君のことを出されたら、俺は死ねないじゃないか」
 冷たくなった唇と左手の薬指に口付けて、時雨が抱えていたヴェールを拾い上げる。
「何がなんでも生き残り紫陽君を探しだす……時雨。共に生きられなかったとしても俺は君を愛している」
 共に生きたいけれど、生きられない。それは欧州における火元素魔術の名門『ヴェンダース家』でも起こっていた。
「お母さま……!?」
 片思い、とでも言うべきか。娘であるエルヴィカイネ・ヴェンダース(r2p001598)の存在でさえ、精神的に絶望したフランメリア・ヴェンダース(r2p001598)をこの世に引き留める楔にはならなかったというべきか。
「……天使様」
 それがどれだけ異形であっても、空から舞い降りて来た天使たちが救いに見えたのか。フランメリアは身を捧げるように進んで殺されにいっていた。救われたというかのような笑みで天使たちに群がられるフランメリアは。けれどエルヴィカイネにとっては悪夢のようだ。
「いけません、お嬢様……!」
 次は自分たちだ。そう直感したお付きのメイドに引っ張られるようにしてエルヴィカイネは逃げ出していく。もうフランメリアはあの状況で助かったとも思えない。
 どうして。そんな終わらない疑問は、絆の脆さを証明しているかのようで。
 そんな中でも絆と死の恐怖の中でかろうじて自分を保つ金合歓 文彦(r2p000268)のような者もいた。
「あ、ああ……」
 子を抱え、妻の手を引き逃げる文彦だったが、長くは続かなかった。
 起こった爆発で離れた手。天使に襲われる妻。
 妻を置いて子を守るために逃げるべきか、子を置いて妻のために抵抗するか。どうすればいいかわからなくない。
「逃げて……生きて」
 それは、確かな願い。その言葉が文彦を突き動かす。少しでも安全な場所へ。
 助けて、と。そんな声も最後に聞こえた気がしたけども。
「あぁ、この世界にも現れるか害鳥共が」
 そして、リーラ・ツヴァング(r2p000085)のように恐れない者もいる。
 天使。けれどそれは正確な意味で彼女の知る天使ではない。だが、似ているのならば同じ事。
 リーラは擬態を剥いで本性を現す。それは蜘蛛の異形。
「天使は全て殲滅する」
 剣の様に鋭い足で跳躍すると、軽々とビルをも超える大ジャンプを見せそのまま天使を蹴り砕く。
「次」
 肉片を足場に次の獲物へと襲いかかる。目につくものを全て肉片にしてやると。一切の容赦をするつもりはない。
「わあ……凄いですね」
 シュニア・ノクターン(r2p002692)はその様子を横目に困っている一般人をなるべく助けようと試みていた。
「荒事は苦手なんですけどねぇ」
 頑丈な傘でぶん殴って戦うシュニアは、なんとか普通の天使程度であれば倒せる力を持っていた。
「天使ってもっとこう、可愛らしいものじゃありませんでしたっけぇ?」
 壁や天井を歩いたり走りながら、なるべく相手の視界外からの奇襲を狙っていくが、強そうな相手にはガン逃げだ。
「ひ~~! 私は食べても美味しくないですぅ!」
 もっとも、忠野 範治(r2p002318)のような者もいる。
「オウオウ、クソやろうが何でこんなことになっちまってるんだよ?」
 中華鍋で天使を殴る姿はヤンキーの如くだ。
「……オン? 今にも天使に連れてかれそうな坊主が居るなぁ。おっと、決別かぁ? あー…天使に掴みかかられそうだな……っとよっとコラーゲン!!」
 意味は不明だ。
「ホウ、家も家族もコイツにやられちまったってか? とりあえず米軍基地に戻ろう。アッチならまだマシだろ。オン? 俺はそこのコックだ」
 それは、心の強さなのだろうか?
「あちらもこちらも忙しない。こんなに煩くちゃ博物館にも行けやしないわ。一体何の騒ぎなの? ……あら。あらあらあら。実に素敵な生き物。私、アナタのことを知らないわ。名前は? 種族は何と言うの? 展示ケースのプレートに書くから教えなさい。見たことのない剥製の素体がこんなにたくさん!! 生きたままくり抜いて嘗めして観察するわ。私の蒐集箱で永遠に可愛がってあげる。光栄と思いなさいな。イヒヒヒヒッ」
 そんなことを言っているマレアンヌ・T=ボルジェ(r2p000802)は……ちょっと違うかもしれないが。
「ええかんじやん!」
 漂う死の気配が心地いい、と言う二兎もやはり少し違うタイプだ。
「普通のヒトのフリはおしまい。おれは穢れを喰らえば腹が充ちる。ついでに周囲も浄化される。いっせきにちょー、やな」
 そう楽しそうに二兎は笑う。
「ヒトの災厄を引き受けるんがそもそものおれの在り方やし、今の所有者(あるじ)からは「ヒトを護れ」っちゅー命令が出てるからなあ」
 だから蓄えた穢れを解き放ち、天使を「呪う」。
「今日のおれは喰らうもんに困らへんからな、ありったけの「呪い」でどついたろ!」
 ちなみに鈴橋=アナスタシア千栄子(r2p000209)も独特のテンションを維持している1人だ。
「天使とのいざ戦いの刻! 地球部族の諸君!! 第三銀河系から助太刀に来た! 共に戦おう」
 何処ともしれぬ空指差すその姿は、まさにオルフェウス。
「エンバウーラッッ」
 空舞う天使に向け光線銃を撃ちまくり、近づいてきた天使はシベリア杉をなぎ倒してきた斧で片っ端から仕留めていく。
「行け、シベリアわんこ! 倒れている地球部族の皆さんをさがし出すぞ!」
 まあ、良い人なので結果OKという感じだろうか。
「うおおおおおお!」
 アーデルハイト・フォン・エーベルシュタイン(r2p003087)もまた、抗っていた。
 使えるのは一般的な人間より多少強い程度の戦闘技術。
 けれどドイツ出身の軍人家系の人間として、逃げることを己が許さない。
 何が何でも生き残る意思を持ち這ってでも延命をするつもりのアーデルハイトは、連戦ですでに戦える力が残ってはいない。それでも、その意志は未だ折れてはいない。
 負けた。それでも負けを噛み締めてリベンジする事を誓う。
「次は負けぬ」
 天を仰いで気絶して。そこを襲おうとした天使を、輝村 寧音(r2p002090)の傘から放たれたビームが砕く。
「あー、もう。世紀末って感じ?」
 この状況だと広島には帰れそうにもないし、自分の命すらも危うい。
「確かに私も二月頃から光魔法使えるようになって非日常に憧れてたけど……これは違うって!」
 とはいえ、やらざるをえない。
「私の力はみんなを笑顔にするもの。この天使を退ける為なら魔法……使って良いよね? 天使なんかやっつけちゃうんだから! 帰れなくなった責任、取ってよね?」
 しかし、そう前向きになれる者ばかりではない。花邑 玲(r2p000079)などはまさに、その典型例であるだろう。
「どうして……何が起きているの……」
 自宅を兼ねた花屋で、花に埋もれて息絶えた両親を目撃し天使症候群にかかってしまった玲は、現実を受け入れられないまま彷徨い歩き戦っていた。
「こんなのは現実じゃない。そうだ、夢なんだ」
 夢見るように、無意識に。
「……殺されたら、いつもの朝を迎えることができるのかな」
 現実は見えていない。その行動が誰かを助けたとしても。
 勿論、正気を保ち平和を守ろうとする者もいた。新島 環奈(r2p000029)だ。
「暴徒……!? 天使……!? 一体何が起きてるんですか!?」
 あちこちで悲鳴や破壊音が聞こえてくる。この街は平和でいい人たちばかりだったのにどうして、と環奈は思う。
「……でも。今はこんなことしてる場合じゃないですよね。本官は……誰かを助けるために警察官になったんです……! 警察官として、人を救うために動かなくては! 市民の皆さんを一人でも多く安全な場所に!」
「バハハハハハハハハ!」
「あ、ちょっと!」
 環奈の制止を無視して日ノ出・心太郎(r2p002016)は突っ込んでいく。
「すまぬ人々! すまぬ皆の者! 俺は今――歓喜(うれし)い! ついぞ真価を発揮することなかった技術を! 力を! 奮ってよいのだ! 斬ってよいのだ! バハハハハハ! ならば往こう! ならば逝こう!」
 刀一本担いで天使に向かって突撃していく心太郎はそれなりの数を討ち果たし、それは無辜の人々を多数救うことになる。勿論心太郎もかなりの無茶をしているが……まあ、死ぬことはないだろう。
 ギュスターヴ・ドラクロワ(r2p001707)も大暴れしているうちの1人だ。
 そう、ギュスターヴはこの世界が大嫌いだ。どいつもこいつも人を外見で判断する。
 その外見も自分で選べず、生まれた親でほぼ決まる。誰かこんな世界壊してくれ……そう思っていた。
 今回の事件には歓喜した。ふと思った……これが俺の望んだ事なのだろうかと。
 だから、コイントスで人類に味方するか決めたのだ。
「ヒャッハァァァァァッ! 天使は轢き殺しよーーーーー!!」
 そうしてバイクで天使を轢き殺すべく暴れているのだ。
 シンディー・"ヒンキーパンク"・フォーサイス(r2p000146)とアドルフ・ロウ(r2p002047)の主従コンビもまた、独特と言えるだろう。
 ランタンの姿で執事たるアドルフの腰に提げられ、地獄のような場所を駆けながらお友達の姿が見当たらないか探すシンディーはアドルフに1つの命令をしていた。
「あたしの友達を、これから友達になるかもしれないひとを、ひとりでも多く救いなさい」
「はい、お嬢様」
 勿論アドルフが救助した人が怯えているようなら、物陰で人間の姿になり、ランタンの灯りで照らし話しかけながら、こっそり能力を使うつもりでもあった。
(あたしが「大丈夫、落ち着いてくださいまし」と言えば大丈夫な気がするんですのよ)
 そんなことを考えているシンディーの命令のままにアドルフは救助活動を行っていく。
 今にも崩れる瓦礫の下敷きになろうとしている者を、持ち前の瞬発力で抱きかかえ救助して。
 モノクルをかけると狼になれることを利用し、助走無しでも素早く大きく飛び上がり、雑魚天使を噛み殺していく。
 ただ、やはりそんな強い者ばかりではない。
「ママ……みんな、どこなの〜……? ま、またでたぁ〜……っ!?」
 行方不明になったママや音信不通のお友達を探して街を駆け回るヒュプリル・ヒュプノス(r2p000012)は襲ってくる天使をえぃ、って魔法を使って倒していく。
(魔力の弾みたいなのを飛ばすしかできないけど、天使級には効くみたい〜……)
 勿論沢山来たら「わ〜」となってしまいそうだし、怖い。
 それでも、何もしないでいる方がもっと怖くなってしまいそうだから。
「大丈夫か……!?」
 そこに坂城 陽斗(r2p001908)もヒュプリルを見つけ合流する。
「まったく……何が起きている」
 陽斗自身にも理解は出来ていない。だが自分に抗う力があるならば戦えない者に代わり力を振るおうとすでに決めていた。
 だからこそ八極拳をベースにした近距離戦で天使の攻撃を躱しつつ戦闘を繰り広げていく。
「あいつらは僕から多くのモノを奪った。許しはしない。数は多いが弱音を吐いてる場合じゃない。倒すべき敵だ」
 アルフレート ベイル(r2p002836)もまた、似たような結論に到っていた。
「天使……まさか我々が崇めていたのがこんな生き物だとは。いや、頭では判っている。別物ではあるんだろう、しかしそれにしても醜悪に過ぎる! 無辜の民悉くを殺め、あまつさえ生き残った人間すら天使にするなど……例え矮小だろうとも、俺にはまだ武器を振るう手があるのだ。偽りの天使の血にいくら汚れようとも。我らが大いなる父は許しを下さるに違いない。民間人を守る為だ、奴らの力を利用しようとも構わないさ」
 まあ、抗い方は色々だ。吾菱 八雲(r2p003061)と葦夜坂 いづな(r2p002573)もまた、協力して抗っている。
 警察官である八雲は混乱する警察官をまとめ上げ、避難誘導の陣頭指揮をとるなか、暴徒の襲撃に対処するいづなと合流していた。
 敵は天使だけではない。こんなときだからこそと暴れる暴徒もいたのだ。そんな場合ではないけども、正論が通じない者もいる。だからこそ、いづなは怪我をしつつも抗っていた。
「助かったよ、少年……!」
「そんな年でもないけどねえ……!」
 署に保管されていた押収品の武器を手に、周りの警官隊と協力して市民の安全を守るため奮闘しなければならない。何しろ、天使は善人だろうと悪人だろうと区別はしない。そんな中で市民を守ろうというのであれば、横浜に古くから伝わる怪異と協力してこの場を乗り切る程度は普通のことだ。もう「申し送り事項」では終わりはしない。
「さあ、陣形を崩すんじゃない! おまえさんたちの頑張りにかかってる!」
 そんな警察の援護をペネロペ・三要(r2p000025)はしていた。
 玄夜とは、同行しないけど安否を気にしていたからこそ、玄夜と、たぶん一般の人も避難すると考えられる警察や米軍基地への導線を確保するように天使を倒して道を作っていたのだ。
「天使かぁ……言いえて妙な姿の怪異だねぇ。アーツガンナーの攻撃と制圧の表現をありったけ重ねてようやく倒せる相手が空を覆うくらいいるのはちょっと大変だけど、少しでも倒さないと街も人も大打撃を受けちゃうからねぇ」
 そういうやり方も、あるということだ。
「同族……では厳密には違うのでしょうが、どちらにせよこの様な事態を放っておく訳にはいきません
微力ながら、皆さんを手伝いましょう!」
 ハルカ(r2p000163)も同様に手助けをしていたが、こちらは人の気配、戦闘の気配等を探って逃げ遅れた人の救助や対天使戦の加勢などが主だ。
「この剣技を以て敵対天使を斬って捨てます!」
 救助の邪魔をする天使に容赦はしないし、この先に警察が防衛線を敷いているのは、まさに渡りに船だ。
 勿論、我関せずな者もいる。
「参ったわね。こうなると一族を纏めないといけないけれど……ヒュプリルはどうしようかしら」
 誰かと合流したのをクリスティーネ・ヒュプノス(r2p000862)は見ていた。悪人を魅了して止めていき、決める。
「ひとまず最初の3日まで大人しくしてもらえたら良いわ。慣れ親しんだ街が壊されるのは良い気分じゃないけど、やっぱり私一人でどうにかなる問題じゃないわね」
 だから潜伏しよう、とクリスティーネは決めた。いつか反撃に出る人間達の手助けをする。その時まで……と。
 そして古椿会のように、この事態に備えていた者達もいた。
「これは……異常事態や、神秘の秘匿どころやないわ! 瑠樹、マティエ!あいつらが2つの世界を襲撃した奴等か!」
「間違いないよぉ……『あいつら』だ。マティエの世界を襲ったらしい、そして…オレの生まれ育った世界を襲撃した奴等だよぉ」
「はい……『あいつら』です。私やりゅーきの世界を襲ったのは……! 私の世界も、りゅーきの世界も……あいつらに襲撃されて……」
 曖浜 瑠樹(r2p001645)とマティエ・エニュール(r2p001646)の返事に、古椿 比良尾(r2p001698)は力強く頷く。
「なら……ワシ等がやる事は1つや! 古椿会を招集! 戦闘可能な奴全員で化け物を迎撃! 一般人は安全な場所へ避難させるんや! ワシも戦う……って、なんじゃこりゃーーー!? 背中から翼が生えとるし、頭には輪っかが……羽の生えたチンピラやないか……まだ死んどらんわ! 銃持ってドンパチや!」
「ヒラさん、銃か武器貸して。オレも…『あいつら』相手に戦うよぉ」
 瑠樹は、この世界でのんびり幸せに過ごせればそれでいいと思っていた。
「でも…あいつらが来るなら、この世界も襲うなら…のんびりなんて、してられないよぉ。あいつらを狙撃して皆を守るよぉ!」
「私も……私だって戦います。着ぐるみの意地、あいつらに見せてやります! 私とりゅーきがこの世界に跳ばされた理由……きっと、今なんです。あいつら相手に戦って、皆を守る為……!」
「なら、やったるか!」
 そう、だからこそ怯みはしない。
 とはいえ、覚悟が決まった者ばかりではない。伏見 石蕗(r2p000586)はそんな1人だ。
 天使と相対する石蕗は涙、鼻水、涎……顔から出るもの全て出しぐちゃぐちゃになりながらも握り締めた木刀は決して離さず目に宿る闘志も消えていない。
 こんなことなら才能にかまけて修行サボるんじゃなかった、なんて後悔も反省も後回し。例え虚勢でも倒れぬ事が今は大事だから、顔を乱暴に拭い石蕗は吼える。
「京は伏見、白菊が娘、石蕗。友に仇なす天使を討つため見参いたした! 此処から先は一歩も通さぬぞ貴様ら!」
 そして朝月 玄夜(r2p001149)は悪夢のような現実に足がすくみそうになりながらも足を動かして必死に走る中、結論に到っていた。その決定打は助けを求める声。そして消えそうな同い年の声と欲にまみれた悪人の声。
 勿論怖い。けれど見捨てたら保護者や最近知り合った友人二人に無事でよかったと笑って会えなくなる気がして。
 ……声が、昔の自身と重なって。気付いたら身体が動いていた。
「独りで泣く度に傍に居てくれた名の知らないあの子のように誰かを助けられるのなら魔王として力を振るいます!」
「魔王は知らんがいい判断だ!」
 そこに手助けするべく飛び込んだのは大鷹 冴子(r2p002475)だった。
 刑事としてのお勤めを続行中の冴子は、天使を隠れ蓑に悪い事をする人間をガンガン逮捕してブタ箱にぶち込むべく動いている最中だった。
 こんなときでも刑事としてやることは変わらないという信念に基づき行動しているからこそ、悪人は許せはしない。
「警察だ! 火事場泥棒のような真似が許されると思うなよ!」
 そう、こんなときでも正義を忘れない人間は確かにいる。
 けれど、そんな冷静な人間ばかりではない。
「い、一体何が起こっているというんだ……」
 呉田 学人(r2p002585)などはその典型的な例と言えるだろう。
 地域担当の役所職員である学人は天使災害について避難所の開設やサイレン鳴らしたりなどをしに役所へと走っていたが、役所も被害に合えばもう逃げるしかない。
 そんな状況で斧束 渡私(r2p002433)と斧束自(r2p002018)の姉妹に出会えたのは、学人にとっては幸運ではあっただろう。避難所である廃ビルにやってきた斧束姉妹を「うひゃっ!?」と声をあげて迎える。
「此処は……避難所?」
「え、ええ。そうです。大丈夫ですか、お怪我を……」
「ふー……ひとまず助かった」
 混戦状態の中で瞬間移動してきたが、そろそろ渡私もギリギリであった。自を守り切ったのは褒められてもいい戦果だ。
「ボクはまだ状況が全然分かんない……」
「僕だってそうだよ。まあ、此処がいつまで安全かも……おっと」
 自に答えながらも、渡私は余計なことを言った、と黙り込む。妹を不安にさせても良いことは1つもない。こんな天使が暴れ回っている状況で、安全な場所があると安心させてあげないといけない。
 けれど自としても姉が超能力者であったり天使が暴れまわったりとおかしな状況が連続で頭が混乱していた。どのみち、時間が必要なのだ。それが何処まで許されるものかは……分からないけども。
 そう、何も分かりはしない。渡世 ノルン(r2p002564)はいつものようにラジオをききながら公園のベンチでのんびりとしていた。
 ノルンにとって今がいつでどんな日なのかはどうでもいい、だけど今日はそんな日常とは違うらしい。
(私は馬鹿だから何が起きたのかはわからないけど、それが異常な事態で自分も危ういんだということだけはわかる)
 だけど、と思う。
(どうせなにも私にできることはない。わたしはいつも見てるだけ、ただ凄惨なソレらを見ることしかできない)
 今日だけは瞼を閉じてすべて隠してしまいたくなった。

 執筆:天野ハザマ


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