4月1日 - Part3


「こ、これは一体……ううん、今はとにかく、この場をなんとかしなきゃ……!」
 4月1日。上京したばかりのエクシア・リース(r2p002931)の眼前には地獄があった。
 異形の襲来。人々の悲鳴。
 何があった? 分からない。分からない、けれども!
「お師匠様……どうかお許しください、ね!」
 今は自らに宿りし力をもって生き残ろう。磁戒流魔術。火急の事態ならばお師匠様もこの力を振るうのを許してくれるはずだ……多分、きっと、恐らく。うん! 自らの下へ刃を向けんとする天使へ術式によって瓦礫を投じようか。

「う……ぐッ……う、ぉ、ああああああ!!」

 同時刻。横浜の街を駆け巡る一人の姿があった――
 御ノ皿 壬(r2p000902)だ。眼前に見える天使があらば五指を固め殴り倒す。
 その瞳には怒りが宿っていた。天使からの刃で己が祖父が倒れたのだから。
 しかも己を庇って、だ。意識も朦朧としながら只管に暴れ回る。
 それは彼の身に新たに宿った何かがあったからかもしれない――が。
「はぁ! はぁ! く、そぅ、ここま、で……か……」
 それも無限ではない。偶然見えたコンビニに入り込んで、意識を落とす。
 泥の様に疲れ果て眠りに落ちるのだ。彼が次に目覚めるのは――さて。今か、未来か。
 だが天使を屠り続けた彼を見逃す理由はない。彼を追う天使がコンビニに入りて……
 と、その時。
「……羽付き? ふぅん、成程、ネ」
 天使の首が一瞬で断たれた。それは――シャファク(r2p001174)だ。
 建物の中を見据えれば先程暴れていた壬の姿が見えようか。
 天使ではないのか。だったら別に良いか、と。彼は視線を再び外へ向ける。
 彼の今の行動は正義感によってのものではない。人の助けの為に行ったのではない。
 ――何もないのだから。異形の襲来によって奪われた日常に、価値は。
 ただ天使の襲来によって自らの使命を思い出したが故に戦うだけ。
 『強い者から奪う』。強い天使の狙いを阻害する――その為に。
「さぁ、って。いるのかナ――もっと強いのガ」
 彼は往く。自らの信条を、胸に抱きながら。

「くそ、なんて数だ……! どこまで来る……!?」

 更に絶望的な戦況下でジャスパーク・ロンドリンクル(r2p002024)も抗っていた。
 手に持つは八発装填式リボルバー。幸いにして銃弾が通じる、が。
 数が多すぎる。だがこの後ろには避難所に向かい逃げている者達がいるのだ。
 決して退けない――
「ッ!? 弾切れ、まず――ッ!」
 だが。あまりの数に対処が間に合わなかった。
 刹那の間隙。踏み込んできた天使の腕が――彼を貫く――
 意識が途絶えんとする。もう一撃繰り出されれば死ぬ。その間際に、て。
「お~~ん あァ~~
 ぼォ~~きゃァ~~
 べぇのしゃァ~っとォ……」
 天使が吹き飛ばされた。同時に聞こえるは――金属音。
 それは錫杖の紡ぎ出すモノだ。上野 妙(r2p002153)である。彼女は突如として襲来したこの『災害』に対して避難所の守護をせんとしていた――天からの使いなんぞに誰ぞの命を好きにさせる道理など無い。
「ここはお山じゃアないけれどねぇ」
 それでも。自らに、他を護る神通力あるならば。
「ちっとばかしやらせて貰おうかね! さぁ次はどこのどいつだい!」
 向かい来る天使を打ち倒そう。そんじょそこらの奴なんぞ、さにあらず!

「天使――これが!?」
「……何時かはこの世界にも来ると思っていましたが、まさかこれほど早くとは。
 予想外ですが……彩夏。来てしまった以上は、戦うしかありません」

 そして富士山が近くに見ゆる場にて天使の集団を見据えるのは百目木 彩夏(r2p001374)にアルティオン(r2p001436)か。アルティオンはオルフェウスであり、天使に滅ぼされた世界より至った者……滅びを齎す化身が至れば、戦うしかないと知っている。
 彩夏との訓練はまだ途上だが――
「私に力を貸して――アルティオン!」
「勿論です、彩夏」
 彼女の戦意に呼応し、共に往こう。
 一人でも多くの命を救わんとする為に彩夏は既に決意している。
 思う様にいくとは限らず。賞賛が得られるとは限らないが。
 それでも――見過ごす事なんて絶対に出来ないのだから!

「……まだまだ来るか。尽きそうにないな」
 しかし一方で、どこもかしこも撃退出来ている訳ではない。
 避難所に迫りくる天使をジェイ・フォールド(r2p000598)は一人で抑えていた――いや。もう一人で抑えるしかない、が正確な所か。先程最後の部下も突破せんとする天使を抑える為、果敢に抵抗し戦死したのだから。
 劣勢確実。それでも人々が"誰かとの別れ"を終え、再び立ち上がる時間を稼ぐ為。
 サーベル。その二刀を携え彼は敵を切り伏せる――
 さぁ。俺の戦いを続けよう。

「うう……こ、ここは……いや、今一体何が……
 ――お父さん!? お母さん!! 皆!! ぁ、あああああ、あああ!!」

 市街地の方では黒崎 香凜(r2p001437)が意識を取り戻していた。
 だが眼前に広がるのは絶望の光景。
 天使の攻撃により家ごと吹き飛ばされ……住まう場は完全に崩落していたのだ。
 彼女だけが生き残ったのは運命か、いや或いは何かの力に目覚めたが故か……
 崩れた家。その中にいるであろう両親を、姉妹を必死に探しながら、しかし。
「……生きなきゃ、今は。今は……!」
 決して涙を見せる事は無い。
 家族に救われたであろうこの命と共に、生きなければならないのだから。

 執筆:茶零四

●4月1日
 昨日は、3月31日はとても幸せな日だった。
 幸平かなた(r2p001526)は思う。
 3月31日はかなたの誕生日。友達からも、家族からも、たくさんのおめでとうで溢れていたのに。
 4月1日、深夜。夜中に起きたかなたは真っ赤な世界を目にする。
 お父さんがいたはずの場所には、何も無い。
 お母さんが何か叫んでる。背中を押される。振り向いたときには何も聞こえなくなる。
「――っ」
 ただひとつ、かなたがわかるのは逃げなきゃという思い。
(私はお姉ちゃんだから、あの子を連れて逃げなきゃ)
 ――始まった突然の混乱。逃げ惑う人々。平和を乱す存在。
 鈴音凛(r2p002477)はそれを見て、陰陽師の分家、鈴音家代々に伝わる護燐を手にする。鈴のついたメリケンのようなその武器は、凛の決意の表れ。
 鈴の音を鳴らし浄化の炎を纏うと、凛は手近の「天使」に殴りかかった。
「こんにゃろう!」
 驚いた顔で天使が凛を見る。凛は気を強く持つ。
「平和を乱すならアタシ、鈴音凛の敵だ! さぁ! かかってこい!」
 シャン、と鈴の音が鳴る。啖呵を切って凛は夜を駆け抜ける。
 ロックバンド「THE HUNGRY VULTURES」の4人はSNSで連絡を取り合っていた。
 森下夜澄(r2p000159)は他の3人がいる横浜とは別の場所にいる。
(なんだか暗がりにいると敵から気づかれにくいみたい?)
 それに気づいた夜澄は、思い切って家を出て仲間と合流することにした。SNSに入力をする。
「機材は持った。防災セットと最低限の着替えもおっけー。――重装備になっちゃったけど、ヨシ!」
「楽器は置いてけ馬鹿!」
 勢いよく返信してくる古川透流(r2p001312)の言葉に思わず夜澄は笑った。
「なんか暗がりだと化け物共に気づかれないみたいだから、ぼくもそっちに行くね」
 それきり、夜澄からのSNSは沈黙する。
「澄ちゃん、大丈夫かな……」
 伊志嶺青空(r2p001455)が呟いた。透流と青空、そして七茅悠里(r2p002720)はすでに合流し、避難所を目指している。
「なんか翼生えてきた。でもうちはうちだよ」
 悠里は何故か生えた翼が敵と同じようなものだと思いつつも、気丈に笑った。一方の青空も脚と腕が人のそれとは違ってきていることに気づいているが、透流が怯えるのがわかったので服で隠し、一般人のように振る舞っていた。
「何がどうなってんだよ、あの化け物共も七茅の翼も……!」
 透流は恐怖や日常が崩壊する姿を間近に見るストレスで、精神的に不安定でピリピリとしているようだった。精神的に限界が近いことを、透流自身も、そして傍にいる青空も気づいている。
「透流さん、落ち着いて。自衛隊も動いてるだろうし、きっと大丈夫だよ。だから今はまず安全なところに行こう、ね?」
 青空が穏やかな声で話しかけるが、透流はイライラと泣きそうな声で呟く。
「シングルも出して、こっからだってのに!」
「こういうのも! 曲に活かしてこそ、ってね!」
 楽曲を作る担当の悠里はポジティブに笑って、襲ってくる天使を一人で相手取る。どうにかこうにか負けないくらいのギリギリの戦い。けれども、悠里は音楽記号に似た翼を震わせた。
 3人の避難所への移動は続く。夜澄からのSNSは止まったままだ。
「嗚呼……。”アレ”はこんなところにまで……」
 オパール・ダスティン(r2p001641)は空を見上げ言った。彼女はダレル・ウィシャー(r2p001643)と共に異世界からこの世界へ転移してきた異世界人。異世界から転移してきた力ももとに戻りつつあるが、また別世界へ転移するには足りない。
 それならば、とオパールは決める。
「もう何処にも安寧の地がないのなら、仕方がないわ」
 ダレルはその言葉に静かに頷いた。オパールが決めたことなら、彼は従うまで。
 此処で戦う。そして、生きる。
「さあ、ダレル。行くわよ」
「オパール様、無理はなさらないでください」
 転移で体が小さくなったオパールを気遣いつつ、ダレルは天使と戦うためにオパールの補助をする。魔法を使うオパールが狙われれば抱きかかえて躱し、オパールの魔法でチャンスを引き寄せれば、ダレルが攻撃に回る。
 片時も離れぬ主従――恋人は、戦うと決めた地を走る。
「こう、ちょっと世界とか滅びてみませんこと? そうしたらほら。みどもだって必死にならないといけないでしょうし?」
 それが、光明院・リヒト=光(r2p001080)の口癖だったのは確かだ。
 ならば、光明院財閥の名の為にもその発言の責任を取らねばなるまい。光の決断は、それゆえ早かった。しかも天使の翼が生えてから、常日頃の病弱っぷりが嘘のように活力が湧いてくる。
 やるしかない。
 スマホを大量に用意すると財閥の各支店と連携。急遽購入したオフロードの高級車で爆走する。
「さあ、やりましてよ!」
 慄異・呂露(r2p002697)はこの惨劇が始まる以前から所謂怪異を狩っていた。
 鉄パイプや交通標識、果ては落ちている石まで彼が持てば武器に変わる。彼が持ったものは気を纏い、粗雑に乱暴に文字通り敵を叩き潰すために使われるのだ。
(人間社会で生きる以上社会貢献は必要だろう)
 敵を鉄パイプで叩き潰し、呂露は冷静に思う。
(これは「天使」か。これまで同様の排除対象だな)
 呂露の振るう手に迷いはない。
 昨日、横浜に着いたばかりの宝逆・楓(r2p003024)は、夜に天使を目撃することになる。
「なんだ、アレは……」
 目が合えばいきなり攻撃され、楓はぎりぎりのところで逃げ出すが、
(いつまでも逃げてるばかりじゃ、駄目だ)
 腹をくくった楓は、偶然持ち込んでいた一族の秘宝である古金の刀を手に戦いに身を投じる。迫害された力を継承していた楓。その力は天使を追い払い、避難所を目指せるほど。
 小さな力。だが、彼の手は竜の鱗が浮き上がり、右目は赤いブラックオパールになっていることに、彼はまだ気づかない。
 廻遊兎(r2p002167)にとっては悪夢とも言える夜だった。
 出かけていたのはたまたまだったのに。
(一体、何が……何が起こっているんだ!? 化け物たちが街に溢れているじゃないか!)
 逃げ惑う人々を見ながら、彼はハッとする。
「まずい! 家にある宝物を……大切なカードコレクションを助けないと……!!」
 そして、自分のデッキセットを見る遊兎。
「今は相手をしている暇はないが……来るなら容赦はしない!」
 戦うことを決めた遊兎は家へと駆け出す。
 自宅が攻撃を受けてカードコレクションごと焼失していることを、彼はまだ知らない。
 近衛伊織(r2p002062)の家にも天使は現れる。
 だが、天使たちは伊織ではなく、伊織の大事な祖父母を狙った。
「じいちゃん、ばあちゃん……!」
 伊織は必死に天使の後ろから二人を助けようとする。そんな彼の背から翼が生え、力が湧いてくる。
 伊織は天使を倒すが、その姿はまるで倒した天使のようで――。
「伊織、無事でよかった……!」
 躊躇う伊織をよそに、祖父母は伊織をしっかりと抱きしめ、涙をこぼす。
 大好きな、育ててくれた祖父母。
(この力で、これからもじいちゃんとばあちゃんを守っていこう)
 大黒禍緋糸(r2p001447)はとあるNPO組織の新人職員だ。だが、その組織が問題だった。人類に敵対する存在に対して陰で対処する――それが組織の裏の顔。
 だから、緋糸は全力で組織と防衛戦を行い、致命傷を受ける。そこに到着したのが、マートル・マーター(r2p000087)だった。緋糸は血を流しながら笑った。
「いや、ちょっとすみませんね。俺もうちょっとイケると思ったんすけど」
 マートルは何も言わない。
「まぁ、最後に美人の顔が見れたからいいかなぁ……」
 緋糸の必死の冗談にも、マートルは表情を変えなかった。
「あー、ちょっと何言ってるのかわからないですけど、あの子達とか」
 緋糸はちらりと保護した子供たちを見る。
「みんなとか」
 緋糸と一緒に戦ってボロボロになった仲間。
「できれば無事に済むように守ってもらえると嬉しいか……な……」
 マートルは小さく頷いた。緋糸には情もあるし、借りもある。故に、末期の願い位は聞こうと思ったのだ。
 冷たくなっていく緋糸。
(えぇ、「他人のために戦わない」というのは、私にとって大事な誓いで、他の世界のためにそれを破る気はなかったのです)
 マートルは静かにうつむく。
(おやすみなさい、緋糸さん。祈りましょう。願わくば、貴方がその無知の報いを受けませんように)
 稲葉煌斗(r2p002965)と稲葉羅美(r2p002625)は餅屋稲葉堂を営む夫婦。一人息子の玉斗がいる幸せな一家――だが、本当は「月兎」と呼ばれる二足歩行の兎そっくりの種族だ。今までは他の種族と月兎の関係を調整する役割を担っていたが、
「ったく、どうなってんだ……。神秘的存在のことは粗方知ってるつもりだったが、アイツらのことは把握してないぞ……」
 襲いかかってくる天使たちを相手に煌斗はぼやく。羅美も四本脚での跳躍と「月の力」を乗せた前足による一撃で天使たちを怯ませる。
「あなた達が何者なのかは知らないけど、平和な生活を脅かすなら容赦しないわよ!」
「この状況じゃ里の奴らも無事かわからねぇ……、取り急ぎ、戦えない月兎を保護してくれる所を見つけないとな」
 煌斗も情報把握に努めながら、「月の力」を身に乗せて天使たちと生身で渡り合う。
「……えぇ、この程度なら対処できるけど、向こうもまだ底は見せてないでしょうし。玉斗ちゃんのためにも味方は必要ね!」
 煌斗と羅美は顔を見合わせて頷いた。
(これは――これは)
 アイシャ・ベルネット(r2p000733)は空を見、天を仰ぐ。
(この状況を、この異常な景色を、見たことがある……!)
 天使のような形をした化け物が襲い来る。アイシャはそれをしっかりと見た。
(かつて恐らく私が居た「別の世界」でも、このような状況があったんです、きっと! そこで私は戦っていたような気がする……それならここでもやることは同じです)
 結論は出た。
(魔法で奴らを倒して、一人でも多く助けなきゃ!)
 アイシャは風の魔法を身に纏う。天使を切り裂き、避難の道を切り開いていく。
 セラ・フルナミクラ(r2p000856)が街に出てみれば、そこは地獄のようで。
 コスプレ趣味の友人が置いていった服を着ていれば、セラに生えた角も翼も「コスプレしてるんですよー」って誤魔化せるかと思ったけれども……。
(そんな状況じゃなさそう)
 衣装を作った友人も、うららちゃんも心配だ。心配をしながらセラは天使を殴って歩いていく。
 時折すれ違う人たちも皆怯えている。
(こんな状況だもんね。……でも、なんで私を見て震えてるんだろ?)
 セラはただ、日々をのんびりと過ごせればいいだけなのに。
「……何、あれ?」
 メリーアリー・エル(r2p000333)にとって、天使たちは「天使」と呼ぶにはあまりに醜い存在で顔を顰める。
(良く分からないけど、襲ってくるなら敵よね?)
 メリーアリーは大鎌を構えた。
(狩って、狩って、刈り取ってやるわ)
 何故なら、メリーアリーにとっては……。
「私とアスの道を邪魔するのは、何だって許さない!!」
 いつか愛する悪魔に会うための人工天使、メリーアリー。夜明けに輝く金色の髪と純白の翼を翻して。
 ――きっとその光景だけ見れば、本当の「天使」とはこんな風に美しいと誰もが感じるだろう。

 執筆:さとう綾子


 初動が大事なのだ。
 よりにもよって、四月一日でなくてもいいじゃないか。
 ヒトは自分の都合のいい情報だけを信じたがる生き物だから、これは手の込んだフラッシュモブ的ドッキリで、襲っている方も襲われている方も、三秒後にはいやいやドーモドーモと言い出すんじゃないかと足を止めた奴からなます切りされていく。
 もちろん、懸命に逃げる奴も背中から刺される。
 どうあがいても死ぬ。
 でもせめて、全力を尽くしてからでなければ浮かばれないではないか、せめて最後の瞬間くらい。
 やり直しは効かないのだから。無慈悲な天使に「ちょっと待って」は利かないのだから。

 ハーキマー=クロサイド(r2p002632)は、繁華街でデート中に天使襲来に巻き込まれた。
「リア! 離れるなよ!」
 突っ込んでくる天使の横っ面を強化した拳でぶん殴る。魔術に恋人の前での火事場のなんとやら加味。
「ん、大丈夫。はーちゃんから目逸らしたりしない」
 ラストリア(r2p002631)大きな体に見合った太く大きな尻尾を使って、ハーキマー君に迫りくる敵を薙ぎ払い、威嚇のため揺らめかせた。
「はーちゃんが怪我するの、俺、いや」
「うん」

 神秘の世界に近いモノから動き始めた。この場から撤退するのが最善だと魔術師たちは撤退を試み、やがて気付くのだ。
 どこもかしこも天使だらけだ。撤退できる場所などない。と。

「4/2までここで暮らせばいいって話だったじゃない。なんでこんなことに~」
 レディ=D・M(r2p002281)は冷静な仕事人。
 多少のイレギュラーがあろうと任務を遂行する。
「何か武器~。 誰か~銃とか持ってない~? こんな平和な国で銃とか持ってきてるわけないじゃない」
 蛇の道は蛇。非合法に入手したモノを有効利用できなかった誰かさんから永久に拝借する。
「サンキュ~、この国にもあるものね」
 明日までマシロ市に。それが仕事だ。生きねば。
「何か来る。吐息、隠れて」
 わたしに指図しないで。と、いつもなら言う。そういうのいらないから。と。
 だが、今の姉は吐息に有無を言わせなかった。路地とも言えない隙間に吐息を押し込め、自分の背で蓋をするように覆いかぶさった。
「静かに。大丈夫。ジャケット黒いから」
 空飛ぶ化け物がそんなものでごまかせるはずがない。言いつのろうとした唇に姉の人差し指が押し当てられた。
 姉のシャンプーの匂いがした。
 姉のすぐ後ろを何かが通り過ぎる。地獄のような数秒間。唇を押す指と回された腕の力が強くて身じろぎもできない。
 理想のお姉ちゃんとみんな言うけど、何考えてるかわからない。吐息がどんなに生意気な言動をしても怒りもしない。怖い。
「――行ったみたい。今の内に」
 ここしばらく自分のせいで下がっていた姉の口角が今は吊り上がっていて、吐息は目を伏せた。吐息には笑顔には見えなかった。
「――これで終わりだ!」
 日高・立己(r2p001344)は、龍人戦隊タツレンジャーのレッドとして仲間達と共に挑むサイヤークの怪人【災厄獣大凶おみくじ】に挑んだ。
 一般人の協力もあり、とどめの一閃からの竜神の加護的雷撃エフェクト爆発四散。
 仲間とも別れ、奥多摩に帰る途中だった立己が目にしたのは、混乱。
「――タツチェンジ!」
 初陣後無理をおしての再変身。タツレンジャーは龍脈と国を守るのだ!
(しろくて、こわいものがまちにたくさん)
 カーテンの隙間から少しだけ見えた。
パパとママは見たことがないような服に着替え、一色 心(r2p001744)をクローゼットの中に隠してこう言います。
「パパたちが帰ってくるまでここから出てはいけないよ」
「きっと迎えに来るから、まっててね」
パパとママに行って欲しくはないけれど、良い子の心はちゃんとお返事をしました
「うん。わかった」
 魔術師の夫婦は愛娘を隠して、地獄の中に出て行った。娘の活路を開くため。
「世界の滅亡、って……こんな感じ」
 睦生 優也(r2p002589)は避難所で途方に暮れていた。
(困ったな。何したらいいか分かんないや。僕、ヒーロー志望じゃないし。運動も別に得意じゃないし)
 一介の小学生には荷が重い。
(それでも、何かしたいって思うのは、やっぱりあの晃輝 ヒーローバカの影響)
「ちょっとだけ、頑張ってみよう、かな」
 その頃、ヒーロー――日野原 晃輝(r2p002534)は避難所の隣の部屋にいた。
(クソッ! ヒーローだってこんな量のバケモン退治なんてできねーぞ!)
 壁を背に膝を抱える。
(……かーちゃんはとーちゃんさがしに行っちまうし……オレだけヒナンジョなんて……)
 壁一枚はさんだ向こうに相棒がいるとは夢にも思っていない。
 バリバリバリッ! ギャアアアアアア!
 突然の轟音と叫び声にざわざわしていた避難所が一瞬静まり返り、思わず身体が震える。
(~~ッ!!)
 震えた自分が許せない。
「……やるぞ! オレは、ヒーローになるんだ!」
 教室から抜け出した二人が再開するまであと15秒。
「びっくりしたなぁ。この世界にもクリーチャーって出るんだね……?」
 アマタ(r2p000226)それでもふんわり笑った。
「うーん。半分困るけど、半分は助かるかな。混沌の中でこそ私達への信仰心は高まるものだから」
 敵味方問わず転がる死体を抱きしめる。抱擁の数だけ目標に近くなる。
「平和な世界も素敵だけど、私達が『安息の地』に至る為には沢山の灰が必要なんだ。有難く稼がせてもらおうかな」
 異界の邪神の理。身を潜めていた来訪者もまたそれぞれの思惑で動き始める。
 椎葉 桜子(r2p001127)は狂喜乱舞した。
 大学教授の事務室にて、徹夜での作業中立った彼女は踊るように外に飛び出したのだ。
(こんなこれほどまでに興奮するのは人生で初めてで家族友人の安否確認や自分の身の安全も全て頭からすっ飛んでああ素晴らしいです綺麗な肩甲骨から生えてる翼があれ何かこっちに剣を――)
 人とは違う心の在り様への懊悩は消し飛び、生来身に宿っていた異能が顕在――推論に過ぎない。
(気が付いたら素手で殴り殺してました。あぁ……、達します)
 いきさつを問われたなら、夾竹桃(r2p001439)――この時点では桜桃桔梗という名だ――は、父と使用人は屋敷の崩壊に巻き込まれた。と、答えただろう。
(天使になるのに抗いながら誰かを襲う事を忌避した父は人のまま終わらせて欲しいと願い、私はそれに応え、槍で殺した)
 槍術を得意としていたが、もう握れそうにない。
(生きてと願われた。何が何でも生きなくてはならない)
 だから、残った日本刀を手に取り、さやから抜き放った。命ある限り戦い続けると空を見上げた。
 観音打 海西(r2p000046)槐・來夢(r2p000471)昴(r2p000120)は、電動自動車で移動中。
 朝比奈峠のバス停付近で自動車を止め、魔除けレベルでカモフラージュすると三人は得物を構えた。
「デカブツ」
 来夢は戦闘用ナイフを構えた。調達方法は追求しないでほしい。
「強そうね。打ち合わせ無くてゴメンだけど、連携、合わせて」
 海西は柄の両側に穂先がついている『双頭槍』を取り出す。
「じゃ、ボク、2人をサポートするね」
 二人の年齢のほぼ半分の昴は手甲からするすると伸びた赤い縄を生き物のように操り始めた。
 縄は空気を切り裂き、天使の足に絡みつく。さらに胴、腕。空中で傾ぐ体。手繰られ、高度を急速に失う。
「戦闘なんて即興アドリブの詰め合わせでしょっ!」
 スポーツチャンバラが趣味という女子大生はコンクリートで固められたのり面を駆け上がって強く蹴った。
 推定弱点。ヒトで言うところの盆のくぼ。
「――――っ」
 昴の足が浮いた。
 赤い縄を握り、天使は昴を宙に投げ地面に叩きつけようとしている。振り上げられようとしている腕をからめとるように突き入れられる双頭槍。ざっくりとひじの裏側をえぐる穂先。その間に昴は縄の拮抗を調節し、地面を踏みしめる。
「大丈夫?」
 海西は守備を心掛けての立ち回りに徹している。
「もちろん!」
 ぞむっ。
 戦闘用ナイフの切っ先が天使の咽喉を貫通する。
「よっし!ダウン攻撃追加!」
 来夢は、地面に激突するはずみでナイフを引っこ抜く。
「目標沈黙――だよね」
「ええ。じゃ、行きましょうか」
 三人は再び電動自動車に乗り込んだ。今度があるならせめて峠より戦いやすい所で出くわしますように。
 避難所まであと少し。一般人の数も増え、天使の数も増える。
「日本旅行最終日にまさかこんなことになるとは……!」
 ケイレブ・ミア・チェザーティ(r2p000314)は、天使にとどめを刺し切れず冥途の土産にされかけていた。
「……うわぁ、人間よっっわ。雑魚すぎ。先が思いやられますね」
 ぶぐちゅ。死にかけの最下位とはいえ化け物を無造作に爪でひっかいてすませる異世界から来た怪異によるマウント。
「何です? 生き残るつもりあるんですか、貴方。もっと真面目にやってくださいよ」
 それ、あげたでしょう。と、自分の血で作った刀を指さす。自分だけが良ければいい辰巳としては破格だ。
「それでも、囮になって注意を引くぐらいならできます!」
 何をすると藤間もあらばこそ。
 大柄かつ恵まれた体格にものを言わせて大声を上げる。
 ただ逃げ惑う人と天使の間に割って入る。
「さぁ、今のうちに逃げて!」
 ならばお前だと迫る天使を後ろから辰巳の爪が掻き裂いた。
「もう少しやり様があるでしょう――まあ、ちょっとはできるようになってるのでいいことにします」
 ケイレブの足元にとどめがさせた天使が転がっていた。
「なんなんですーか、このよくわからないものーは??」
 根月コン太(r2p002075)は天使の多さに辟易していた。
 狐火投げつけて燃やしまくる。
 奮闘しているうち、狐火が目印になったか砧ポン吉(r2p001787)と出くわした。
「マチの方でもこの変なの一杯だよー! なんだよこれー!!」
 わかんない、わかんないを繰り返し野生動物は天使のいない方に逃走する。
「小動物舐めないでくださーいよ!」
 火の玉をぶつけてひるんだところを逃走。ヒットアンドアウェイだが決定打にかける。このままでは追い付かれてじり貧だ。もっと距離を稼がなくては。
「――」
ふと、ポン吉が葉を頭にのせて変化。
 狸は知っているうちで最も巨大で強い鳥――鷹になって天使に向けて滑空した。天使たちがぶつかり合い、場に混乱が生じた。
「――今の内!」
 狸は狐の火の玉に隠れるように山犬だの熊だのに変化して少しずつ距離を稼ぎ、二匹は森の奥に逃げおおせた。
「な、何してるですか。こんな時になんで街の人を襲ってるです!?」
 望月 愛実(r2p002879)は、声を荒げた。被害者のバックを物色している。
「や、やめるです!」
 血濡れのゴルフクラブをぶら下げ、目を血走らせた男は、毒づいた。
「子供はひっこんでろ!」
 愛美は石ころを拾い上げた。
「う、うるせーです! 貴方達みたいな悪い人、許せねーです!」
 石ころを男達の足元に叩きつけ、避難する人の流れと反対側に逃げた。自分を追ってくればいいと思った。そうなった。逃走劇の始まりだ。
 秋妃(r2p002976)は、右も左もわからない異邦で道に迷っていた。天使たちが降りてくる。それがこの世界の崩壊に直結していることをこの世界の人のほとんどは知らない。その情報をどうするかさえ考えも及ばないまま一日が終わろうとしていた。

 執筆:田奈アガサ



 轟音が響いた。崩れ落ちる瓦礫は、無差別に――その場にいる母娘を――圧殺する。
「するわけないですねぇ!」
 する、かと思われたが、瓦礫は圧死寸前だった母・猪市 緋沙子(r2p001341)の手でたやすく解体され、下敷きになっていた娘をも引きずり出す。肉体に多大な変質を来した娘はしかし、自我も理性は以前と変わらない。なれば、この事態を引き起こした糞鳥共を片付ければ解決する。緋沙子は取り戻した力を確認するように、天使達へと襲いかかった。

「……! この世界にも天使がやって来たのですね……!」
 巨大な白い鳥、ミーナ(r2p001928)は混乱に巻き込まれた人と天使達の間に割って入ると、自らを狙わせるべく空を舞い、天使を翻弄する。一般人なら対抗し得る天使級など、逃げに徹すればものの数ではない。避け、惑わせ、全力で飛び回る姿は舞踏にも似るが、長続きはすまい。
「……こ、これは何が起きているっていうんですか……!?」
 切迫した状況の最中、その場に現れたのはヘカテイア(r2p001587)。状況をいまいち飲み込めていない様子だが、直後、その姿は機神とでも呼ぶべき人型ロボットへと変貌した。
「戦ってくれるのです……ね……?」
「ぅぐううう……、ふんっ……!」
 ミーナはその姿に勇気を貰い、より疾く舞うべく身を翻す。直後、苦悶の力み声とともに横薙ぎの円柱が襲いかかってきた。ヘカテイアの振るった電柱だ。天使は敢え無く叩きつけられ、地面へと落下。新たな敵の襲来に沸き立つ天使はしかし、撹乱と撃滅の即席コンビの前になすすべなく消えていく……。

「暁燕、大丈夫ですよ。俺が守りますから」
「……シャオ、無理は……」
「喋らないで。悪化したら大変です」
 暁杰(r2p000104)は天使症候群の亢進で弱った烙・暁燕(r2p000448)を背に庇いつつ、襲い来る天使を鋼線で次々と引き裂いていた。片割れたる暁燕の為なら、自分を磨り潰すことも厭わない。彼は今日までその為に、その為『だけ』に生きてきた。
 彼の覚悟はしかし、暁燕にとってどれほど重かったことか。心の中に溜まり続けた忸怩たる想いは、暁杰が差し出した小指と決意、その重さの前に決壊した。
「俺がお前を治す方法を見つけます。約束」
 指を絡めた瞬間、暁燕の背から羽根が生え、羽撃きひとつの間にその姿をかき消した。
「……俺のこと。忘れないでね、シャオ」
 呪いのような一言だった。
 助けるべき相手は、この日何れ倒さねばならぬ敵へと変貌した。助けるという言葉が、永劫空転する滑車のごとく。

「パパもママも、お兄ちゃんも……あの化け物に襲われて……! キリエ、は……あたしは……!」
 キリエ・ヘルクヴィスト(r2p000153)の脳を激しい感情が駆け抜ける。燃え上がるように跳ね上がった体の熱は、復讐のための力の萌芽でもあった。
 肉体の変化を度外視し、肉体の負担を無視して放たれたのは爪状の雷。キリエの野性的、いっそ野獣めいた立ち回りは余りに粗雑で暴力的だった。内に秘めた悲鳴が聞こえるかのように。

「クソ、何だこいつらは……!」
 三珠 鋼真(r2p001094)が外に出た時、既にそこは天使達の蹂躙の痕が色濃く残る惨状だった。突然の頭痛に蹲った彼に殺到した天使は、しかし彼の的確な反撃で次々と蹴散らされる。
 頭痛、それに続く身体能力の向上。何がおきたかわからぬまま力を振るう彼は、周囲の視線と言葉に色を失った。
 背の羽根。バランスが崩れたのはこれのせいか。
「天使だわ……『本物』よね?」
「そっちも同じ、じゃあ……」
 エシャメル・コッコ(r2p000378)はつい今しがた、背と頭部に現れた異常をざっくりと説明した。
 そして同時に、鋼真が知らず避難所の前まで足を運んでいたことと……コッコの手から孵った謎のひよこが、天使達を貫いて撃破したこと。
 彼女自身は何が置きているか理解できていないことから、自覚的に戦える鋼真がいかに貴重なのかが分かる。
 避難所から不安げに顔を出す人々を見た彼は、新たに現れた天使達に立ち向かうべく向き直った。

(…………思えば、随分とぼくは「刀として錆びついていた」ようです)
 安藤 優(r2p000141)は、すっかり瓦礫と死体ばかりになった街角に腰掛けると、更地になった住宅街を見やる。自宅があった場所だ。
 思えば彼が赴いた異世界はかなりの修羅場だったが、溢れる神秘と共存するこの世界も大概だった。平和を謳歌した結果がこれなら、最初から――。
「キミ、道に迷ったのかい? 避難所まで案内しようか? っていうか元気そうなら、手伝って欲しいかも、だけど……!」
 そんな優に声をかけたのは結城 翼(r2p000117)だ。軍手を嵌めて今まさに瓦礫と格闘してたといわんばかりの服装、生存者を見つけた時の安堵の声。そのやり取りで彼女は善人なのだと一瞬で優に理解せしめた。
「いや、ぼくは……」
「とにかく行きましょう! ここは危ない!」
 言葉に詰まる優に、翼は急かすように言葉を重ねた。
 多分、話しても伝わらないだろうけど……彼女を信じることだけは、してもいいと今は思えた。

 ロサンゼルス・西海岸。
 楽玖奈・冷極光=十楽院(r2p001245)の視線の先には、海上に聳える竜巻と、それを従える強力な天使の姿があった。彼女はそれを知っている。海を巻き上げ、サメを降らせる。
 チェーンソーに似た武器を持つ男の名を。
「……随分と様変わりしましたね、団長。いやさ伏或真!」
 かつての友の変わり果てた姿に叫ぶ。因縁を断つ為に。

「……なんなんだこのバケモノ達は……どこから現れている?」
 他方、日本とは異なる大陸側にて。
 李・知浩(r2p000352)はすでに、天使達の襲撃と人々の犠牲を飲み下しつつあった。軍属であった彼なればこそだが、実力はそうもいかない。数に任せた攻勢を抑え、何とか現状を凌いでいるが、何時まで保つか、助けは来るか……。
(壱縷……君は、最悪を回避して欲しい……)
 ここに居ない相手を想い、知浩は深く息を吐きだし、構え直した。

(んー、今すぐ逃げたいな。まだ飲んでないお酒とかあるんだよ)
 大江 ガラクシュ(r2p002143)はビデオ屋『大江山』の入口から顔を覗かせたそれを見て顔を顰めた。羽根の生えた『迷惑客』には帰ってもらわねば。店主としての意地とばかりに立ち上がり、手にした酒を呷った彼女は深く息を吐く。頭部に違和感……角の存在を覚えるが気にしない。
 ビデオ屋と共に引き継いだ格闘技、今使わぬ意味はなし。

「やれやれ……いくら狩ってもキリがないわね」
 桐条 刀弥(r2p000476)は次々と襲い来る天使達を、剣で、槍で、或いは銃で次々と薙ぎ払う。或いは、この混乱に乗じて暴れる不逞の輩を撃退する。
 地獄の巷など、悠久を生きる魔女の前には「いつものこと」だが、罪なき人が傷つくのは見ていられなかった。……にしても、数に押し潰されそうだ。にわかに危機感を覚えつつあった彼女の前に、着物姿の女性が天使の亡骸を伴って降り立った。叩きつけた、というのが正しい。
 その女性、西条 ききょう(r2p003039)は刀弥を視認すると恭しく頭を下げ、手にした――女性が持つには余りに重厚な銃剣をまっすぐ立てた。
「お邪魔したなら申し訳ないです! わたくしも人々を助ける為に戦っていました!」
「君は結構戦えるみたいだね。こんな状況だ、お互い無理はしないようにね」
「はい! 経験がありますから!」
 こんな修羅場に経験など――と刀弥が顔をしかめるより早く、彼女らの死角から天使が襲いかかる。或いは二人なら対処できたろうが、知覚するよりも早く、それは羽根を切り落とされ、もんどり打って倒れた。何が起きたのかわからぬままとどめを刺した二人は、新たな天使の襲来を見た。
「魔法少女……っぽくはないよね。でもあの態度は、慣れたものだね」
 攻撃の主は、エリステル(r2p000742)。魔法少女として、魔法少女を探す者……そういう意味では、刀弥に目星をつけたのはあながち間違いではなかったのかもしれず。

「おにぃ、もう疲れた、足も痛いし……帰りたい……この先にもまだバケモノがいるの……?」
「はるか、ごめん……はるかだけでも逃がしてあげたいけど……」
 杜里ひなた(r2p000103)と杜里 春香(r2p000169)の兄妹は、この混乱の中をなんとか二人で逃げおおせるべく立ち回っていた。既にまる一日以上動き回っているのだ。少女である春香に限界がくるのも無理なきこと。ひなたもそれは察しつつ、一人にしておけぬ状況を歯痒く感じていた。そして、その一瞬の懸念が彼の反応を遅らせた。
 助けられなかったという悔い、最後まで共にあろうとする決心。それぞれが走馬灯のように駆け巡った直後、あらぬ方向から飛んできた拳が二人を救った。
「……僕の友を狙うとは、良い度胸だ」
 それは魂(r2p000385)と名乗る、謂わば鬼人とでも呼ぶべき姿の個体だった。真紅の一本角を生やしたそれは、殴りつけて殺しきれなかった個体を今度こそ叩き潰す。
「えっ? ……魂くん、だよね? どうしてここに……? はるかたちを助けてくれるの?」
「きみは……きみが、はるかの『友達』の魂君、なのか……?」
「また、会えたな、はるかよ。助けるとも、手を貸そう」
 偶然にしては出来すぎていた。だからこれは運命なのだろう。
 魂は二人に力強く頷くと、振り向かずに天使が一体を裏拳で吹き飛ばし、後ろ回し蹴りで次の個体の首を刈り取る。
 猛然と走り出したその背を、二人は追う。もう迷わない為に。

「死ぬ気でやれば、意外と何とかなるじゃない……!」
「そうですね、どうしてか分かりませんが……戦えるなら、倒すしかありません!」
 モニカ・アドルナート(r2p000840)と赤井 朱音(r2p001714)は、行きがかり上偶然出会い、互いに自分の力を理解しきれぬままに天使達と対峙していた。モニカは既に天使症候群が発症した影響で、朱音は自覚なき能力で、間に合わせの得物で天使達を次々と倒していく。助けた人達の視線は一様に怯えと敵意が入り混じったそれで、同士討ちだとかに見えているのかもしれず。きっと、自分達への称賛など得られないことを知っていた。
 見返りのためではなく自分達の想いのため。生きるため。
「君達は戦えるかい?」
 そんな時、物陰から天使の残骸を振り払い、影が一つ歩み出た。その女、ナハト(r2p002000)は大鎌を杖代わりにして身を預け、モニカに視線を移す。
「まだ正気は残しているようだね。……行き掛けの駄賃だ。君が正気を保っていられるなら、手を貸そう」
 思いがけぬ協力者の登場は、少女二人の緊張を解きほぐすにはあまりにも十分だった。戦えるという事実と仲間という支え。それらは今、少女達に最も必要なものだから。

 天使の首が、一刀の下に両断される。続いて襲いかかった天使も、上下泣き別れとなり、倒れ伏す。
 桐島 "秋水" 玲理(r2p002921)は無表情にその亡骸を確認すると、怯えた顔の避難民に向けて、顎をしゃくって避難を促した。
 誰かのためとか生きるためとか、そういった感情は今の彼女にとって不純物だ。日本刀を振るい、力を思い出すような、馴染ませるような動きは次第に熱を帯びていく。倒せる、戦える。その感覚はあまりにも、彼女には甘美であったらしい。

「……お? おお?」
 アオイ(r2p000023)は空に『それ』を見た。降り立つ厄災。崩れる日常。およそこの世のものとは思えぬ羽根の生えた存在が降り立ち、次々と人々を、建物を蹂躙していく。
「ははっ! こりゃいい! ポップコーンもパンフレットも無え事が悔やまれるが、こりゃ面白くなるぞ!」
 唐突に訪れた世界の終わりはしかし、既に命なき彼を狙おうとはしなかった。だからこそ彼は、ふんぞりかえって終わりを満喫できるのだ。

「こっこの、状況……えっと、あっ、ど……どど、どうしま、しょう……! と……とりあえず、06i、全機に通達お願い、します」
「Emergency! Emergency! 全機に通達。研究所周辺にて、未知の生命体の存在を確認。同時にそれらから逃げているヒトの姿も多数。02iから08iは、現在の作業を止め彼らの救助を最優先。当機、09iはモニターにて周辺状況を警戒。変わり次第随時報告」
 09iことASSEMBLER(r2p002428)は天使達の襲撃をいち早く観測すると、僚機たる06i・TOOL(r2p001475)に指示を促す。即座に状況判断を終えたTOOLの通信は、【QPTシリーズ】の他機へと即座に下され、その行動を定義した。
『当機は比較的怪我の少ない方の保護に当たります!』
『ワタシはケガをして動けないヒトを手当して、最低限動けるようにするね。処置が終わったら他の機体にお願いして、支えてもらいながら避難してもらうよ』
『あ、そうだ。研究所には緊急用の防衛隔壁があったっす! アレを起動すれば……急げ急げーっす! 避難誘導は任せるっす。その代わり研究所を長持ちさせてみせるっす!』
 TOOL等へ帰ってきた通信はそれぞれ、04i・DISK(r2p001453)、05i・ACCESS(r2p001563)、08i・GENOME(r2p002427)のものだ。医療用のACCESSが最低限の治療を行い、DISKによる避難誘導で生存率を大きく上げる。GENOMEは研究所の設備を防衛用にシフトさせ、外敵の侵入を阻止すべく行動を開始し、以て研究所を即席の避難所へと組み替えようとしていた。
『ワタクシは研究所入口に待機し、避難の際の目印になりますわ』
 07i・ARCHIVE(r2p002293)はせり上がる隔壁の外側に立ち、やがて訪れるであろう避難民達に対し目印となるべく立ち回るべく動き出す。ヒトは死なぬように此方で厳重に管理せねば。そして管理された人々に微笑む自分がいる――考えただけで背筋を震えが駆け上るのを、彼女は否定できない。
『研究所の周辺が比較的安全と言っても、未知の生命体の襲撃がないとも限らないわ。こちらに気付いたいくつかはきっと来るわね。当機はそれを抑えるわ』
『であれば、拙者は捉えられない所を警戒するでござる! 勿論救助や避難誘導にも助力いたすでござるが、未知の生命体の動向が変わった際は即座に連絡を入れるでござる』
 03i・SHELL(r2p002351)はARCHIVEとやや離れた位置に立ち、避難民や研究所周辺を指向する天使を迎撃すべく身構える。同型機のなかで殊更に大きく、そして頑丈な彼女の運用としては最適解だろう……問題は現れる数だが。
 02i・ALIAS(r2p001841)はTOOLやASSEMBLERとは別のアプローチから周囲の警戒・監視へと立ち回る。こと、SHELLが天使と交戦した際の急激な行動パターンの変更は、最悪彼女のみならず避難民の、ひいては研究所の危機にも繋がるからだ。未知の相手に、針の穴ほどの妥協や甘い見通しも許されないのだ。
「逐一、状況報告を、ください……出来るだけ、早く、次の指示内容を、作成し、します!」
『お仕事だお仕事だー!』
 ASSEMBLERは返答がてら返ってきたGENOMEの大声にビクリと身を震わせつつ、それでも油断なく情報を纏めてTOOLに回す。
「05iは怪我の状況に合わせて、軽症か自立歩行が可能なら04iに引き渡しを。02iは研究所外も勿論、内部への侵入に最大警戒。08iは隔壁の稼働状況を09iに共有、03iと07iについては、避難するヒト達におかしな点がないかを警戒して誘導、迎撃……避難するヒトが見当たらなくなったら、可能な限り戦力を投入し未確認存在の撃破を優先。行動開始」
 TOOLのはっきりとした声にあわせ、QPTシリーズはさらにその動きを活性化させた。……最悪の日々は始まったばかりだ。

 商火 冬棊(r2p000172)がその崩壊に最初に覚えた感情は、「面倒臭い」だった。何も考えず眠っていられればよかったのに、あちこちから喧騒が邪魔をする。こたつとみかんを手際よく詰め込んだ段ボール箱を抱え、怠惰そのままに、身体を引きずるようにして危地へと身を乗り出したのは、なにしろ安住の地を求めてである。偶然横切った神社では、本殿が煌々と燃え上がっているが、彼は目にも留めなかった。
 ――そして、その本殿に収められた一本の刀が揺れている。
 白木の鞘や拵えなど、刀を構成する装飾のおおよそすべてが奪われた後に、それはカタカタ、と震えていた。あたかも己が無念を訴えるかのように震えるそれは、この惨状において為すことがない。白羽 薙(r2p002868)という名も、ここで語られることはなかったものだ。刀のままに、絶望と相対するだけだ。

「あいつら最初に天使だと言い出したの誰だよ。悪魔の間違いでしょ」
 アルブルナ(r2p000758)は横浜・日吉の地下深くへと向かっていた。隠形の術で天使との接触を只管に断ち、かなりの距離を経て地下拠点に戻った彼女を待っていたのはただただ静寂のみであった。『天使』がどれほどの嗅覚を持つかは分からないが、戦いたくはない――拠点にも施された、複数に及ぶ隠形の術による結界は、底なしの拒絶の意思を孕んでいるように見えた。

「……いっくん?」
「ひみつ、準備するからここでじっとしてて」
 午前二時、夢の底から強引に引き上げられた黒森・秘蜜(r2p000247)に向けて、乾・依心(r2p000803)は事実のみを短く告げた。
 深夜だというのにテレビはノイズ混じりの緊急映像と惨劇を映し出す。撮影者の影も見えぬ垂れ流しの映像は、仮装や手品でないことを雄弁に秘蜜に告げている。父親の顔を思い出す。友人たちを思い出す。無事だろうか? という不安に押し潰されそうで震えた肩を、依心が抱いた。事態の深刻さをいち早く察した彼は、素早く準備を整えた。きっと秘蜜は恐怖で動けないだろう。分かること、できることの優先順位をつけなければと義務感が持ち上がり、彼女を生かさねばという使命感が胸を打つ。
 少年は周囲の予想より遥かに早く、大人にならざるを得ないらしい。一分一秒の躊躇も惜しいくらいには、世界は混乱し始めていた。

 執筆:ふみの

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