4月1日 - Part4


 2024年4月1日。
 突如として現れた天使の襲撃に、人々は恐れ戦き逃げ惑うばかりだったのか?
 その答えは、否である。
 世界各地。表社会から姿を隠し生きてきた異能者、怪異、逸脱者たちがその力を奮い、世界の脅威となった天使達を前に戦い始めたのである。
 彼らはイレギュラーと呼ばれ、この世界における貴重な対抗戦力となって天使に立ち向かい始めた。
 またその一方で、異世界から来訪した異能をもつ者たちもまた、この世界のために戦っていた。彼らは総称してオルフェウスと呼ばれ、この世界の希望となろうとしていた。
 だがしかし、空を覆う天使の数は多く、異常な強さを持つ彼らをもってしても、そのすべてを拭えるわけではない。
 それでも、手を伸ばせば届く人々のため、彼らは戦い続けてた。

 天使から逃げ惑う者もいれば、立ち向かう者もいる。
 世界の裏側にあった異能の者たちが、その力を奮い始めたのだ。
 それは三斬 美琴(r2p000092)が『三斬 恵』を名乗っていた頃。
 サンダーブラストが天使の翼を焼き、日本問いにコインを乗せ発射するレールガンが天使へと突き刺さる。
 だが……。
「多勢に無勢、か」
 集まる天使を前に、力は不足するばかり。
 そこへ。
「天使とやらに世界が壊されるのは気に食わないね
 しかも私に辛酸を舐めさせた三斬恵がピンチだって話じゃないか。
 敵とはいえ、有望な超能力者をこんなところで失うのは惜しい。
 彼の五倍は強い私が助けるのは自然なことだ」
 クレハ・アークライト(r2p002762)とアークライト ルビー(r2p002517)が現れた。
「天使……超能力者の僕がいうのもなんだけどファンタジーやメルヘンじゃあるまいし。
 僕には無理……ってカチューシャが急に!?」
 意識を切り替えたルビーが笑う。
「ったく、『僕』ってあんなのにビビってるの? ご主人様(クレハ)が居れば楽勝よ」
 顔を見合わせ、そして頷き合う。
 敵対していたはずの彼らは力を合わせ、クレハは竜の力を、ルビーは闇の炎を操り天使へと襲いかかっていく。
 渋谷の街で、戦いは激化していった。

「――ちゃん……愛里珠ちゃん……!」
 呼びかける声が、不思議と遠い。近いはずなのに、遠く聞こえる。
 くぐもったようなそれが明瞭になってきたところで、東雲・愛里珠(r2p000413)ははたと目を見開いた。
 両手は血にまみれ、自分の姿を映すような大きなガラスには、天使の輪と翼をもつ自身の姿。そして、転がる天使の死体。
 自分の腕を掴む宮原 千景(r2p003172)に、そろそろと目が向く。
「……チカ姉?」
 見回せば、自分を恐怖の目で見つめる避難民たちがいた。
 何があった? 何が……。
 記憶が、木組み細工を開くように蘇っていく。
 自分の家族と千景の家族、それぞれ一緒に横浜の避難所にいた時のことだ。
 母が突如苦しみ始め、その姿が天使へと変わる。
 天使となった母によって父と弟、そして多くの避難民が殺されていき、その中で自分もまたヴァニタスとなった。
 突然のことに動転していたのだろうか。暴走したように天使と戦い……そして。
「愛里珠ちゃん」
「私……」
 そうだ、天使となった母を、この手で……。

 青原 アクア(r2p002595)はなんとか千代田区までたどり着いたが、既にあちこちは天使だらけだった。
「私は恵ほど強くないし、しかも恵は渋谷区で天使と交戦中で身動きできない。こうなったら死ぬ気であの天使を押し留めなければ……」
 目の前には無数の天使。アクアは冷気の力を発動させ、天使達へと挑みかかった。
「『我が祖国日本に栄光あれ!』」
 命を賭したその力は爆発的に辺りを包み込み、何体もの天使を凍てつかせ、砕いていったのだった。それはまさに命がけの、そしてアクア最後の戦いであった。

「この世界には『エイプリルフール』というものがあるが、いくらなんでも笑えないジョークすぎないかい?
 いいお店を見つけて気分がいいんだ、お引き取り願おうか?」
 レディア=マレウス(r2p002058)は機神醒臨『嗤う道化師』へと乗り込み、天使へと対抗し始めていた。
 最大出力の破壊光線が天使へと直撃し、槍をもつ天使が後退する。
 そこへイグナイト・ネメシス(r2p000058)が現れ天使を殴り飛ばした。
 天使を全て塵殺して回る憤怒の化身として。
 飛ばした天使に光線を放ち、凍てつかせ、爆発させ、蒸発させる。
 天使を殺す為に動き続ける機械が今、2次被害を意に返さず完全起動したのだ。
「これは、どちらも化物にしか見えないな」
 『嗤う道化師』の中で肩をすくめるレディアだった。

 敵がくる。そんな不確かな情報から、子細を知らされぬままバニラ・プランフォニア(r2p000574)は日本にいた。
 壊滅状態にあった日本の街を、魔術式を操りながら駆け回る。
 そしてついに、混乱の原因を見つけるのだった。
 天使。
 幼い日に失われた姉のような親友、その死を天使が連れて行ったとおとぎ話のように信じていた。
 今目の前にそれが居る。
 狂気にも似た歓喜が沸き起こり、震えながらバニラは魔術式を操った。

 執筆:黒筆墨汁


 その日起きた大災害は、決して横浜だけのものではなかった。
「クソッたれ! 華羅は、娘は!」
 山梨県甲府市、櫻月 瑠偉(r2p002037)は娘を探して町の中を走っていた。だが、道を曲がったところで出会ったのは娘ではなく天使であった。
 一瞬の思考の空白。それが致命的な遅れとなり、瑠偉は逃げる間もなく無慈悲に斬殺された。

「愛以ちゃんも、家も……電話は繋がらないしシロトークも返事ないし……。で、でも探さなくちゃ……!」
 首都東京。旅行に訪れていた逢野 鎖子(r2p002551)は炎上するホテルから、着の身着のまま命からがらに脱出していた。
 偶然見つけた金槌を護身用に握ってはいるが、はぐれた友人とは連絡も付かず心の中は不安で埋め尽くされている。

「何が起きてるの……こんなのは嫌だよ……!」
 日本国内某所、百鬼 容(r2p001022)は襲い来る天使から必死に逃げていた。ほんの少し前までの楽しい時間など嘘のようなだ。
 人ごみをかき分けとにかく前に。今押し出したのは老人だったかもしれない。或いは子供か。だが、自分が生き残ることに必死で容は足を止めることが出来ないず涙を流しながら進み続ける。

 ある避難所では、隅で四月朔日 八重香(r2p002874)が膝を抱えてぶつぶつと何かを呟いていた。それは自分を偽るための”設定”。天使に家族を殺された少女が自分の心を守るために作り出す幻想。
 生き残った自分は特別な存在なのだと自分自身へと言い聞かせる。

「茉奈!!」
「お父さん!?」
 魔法を使い天使と戦いながら逃げていた天宮城 奏斗(r2p002050)は、不意を突かれて娘の天宮城 茉奈(r2p000173)に天使が迫るのを察知すると、娘を守るためにその身を挺して庇いに入った。
 悲鳴のような声を上げる茉奈に向き直ると、奏斗は優しく声を掛ける。自分はここまでだが、それは茉奈のせいではない。生きて母を探せと。
 奏斗の体には深い傷が出来ており、出血量から致命傷なのは明らかだ。
 幼い少女には到底受け入れられない。夢であると思いたいが、目の前の光景はどうしようもなく現実だ。
 震える茉奈に天使の凶刃が迫ったその時、腕を振り上げたまま天使が静止し、一拍遅れて脳天から両断されていた。
「早く逃げるのですわ」
 鉄火場には似合わぬ高級そうなドレスを血と埃で汚した空木 紫乃(r2p003139)は、そう言って刀を振って天使の血を払う。
 両親を殺した『化け物』とその仲間は殺し尽くす。その一念で町中を駆け回っていたのだ。
「こっちのほうに避難所があるらしいよ! 一緒に行こう!」
 そこへ届いた声は遥羽 七風(r2p001434)のものだった。戦える力を持っている訳ではないが、胆力だけは人一倍。
 こうして逃げる人々に声を掛けて回っているという。
 七風に保護された茉奈は紫乃が天使相手に大立ち回りをしている隙にその場を離れ、近くにいた別の一団と合流する。
「もう大丈夫。とは言えないけれど、一緒に逃げましょう」
 茉奈に声を掛けたのは澤島 エリカ(r2p001470)。警察官の父から避難訓練があると聞いていたからか、比較的冷静でいられている。或いはそうしようと必死なのかもしれない。
 母とは一緒に逃げられたが、友人たちとは連絡がつかず不安は大きい事だろう。しかし、自分より年下の少女を不安にさせないために精一杯微笑むのだった。

「シュティル! どこにいるんだい!?」
 大きな声を上げながら走りメオ・フィグノス(r2p001975)が探しているのは、同じ故郷から地球へとやってきたシュティル(r2p001980)だ。
 故郷の世界も地球と同じく天使に襲われた。恐らくそれが原因で飛び出したのだろう。
「こっちに来なさい、天使たち!!」
 漸く見つけたシュティルはわざと自分の下へ天使を集めていた。危険は承知の上で、それでも一人でも多くの人を救うべく。
「シュティルー!!」
 メオが目にしたのは、そんなシュティルが天使の群れに囲まれ、天使ごと爆炎に飲まれたところだった。
 決してただではやられない。そんな強い決意を宿したシュティルの瞳が強くメオの印象に残る。

 執筆:東雲東

⚫︎四月一日の始まり/混乱
 その日は突然やってきた。
 ダーツ&ビリヤード『BLUE』。その店舗の二階部分にある自宅で就寝していた古澤 浩二(r2p001210)は、異変を感じ取り目を覚ました。
 窓からチカチカと光が入り込み、轟音が響いている。何が起きているのだろうか。そう思い、起きあがろうとしたが、それは叶わなかった。
 グシャア、と建物が崩れ、寝ている浩二の上に瓦礫が降り注ぐ。そのせいで身体が動かず、血が抜けているからか酷く寒い。
 そんな目の前に現れたのは天使だ。
「た、すけ――」
 だが、その声は誰にも届かず力尽きた。
 翼に天冠を持つ天使たちが、街を破壊し、人々を蹂躙している。
「そんな、本当に終末がくるなんてっ……!」
 駅前で路上ライブをしていた冬冴えの フーゴ(r2p002768)は天使の襲撃に、ただただ逃げ惑うだけだった。周りにも、フーゴと同じように逃げ惑う人たちの姿が。
 確かに、フーゴは何度も世界の終わりを歌った。だが、それはあくまでも歌の中での話だ。現実になるとは思ってもいなかった。
 命の次に大事なギターを抱えて、フーゴはあてもなく逃げる。
 同じように、あてもなく逃げる者がいた。
 丁度、日本へと観光に来ていたアルミリア・ミゼリア(r2p002424)だ。治安が良いと聞いて日本に来ていたにも関わらず、この有様である。
(落ち着いて状況を把握したいのだけれど……)
 明らかに人ではない何か。空を飛ぶ様子を見る限り、空港に行っても帰国などできなさそうだ。
「観光に来た先で、独り寂しく死ぬなんて御免だわ!」
 状況を把握するために休める場所を探す。
(とりあえず、あの建物に……!)
 アルミリアは目に入った新しい建物に逃げ込む。ほぼ同じタイミングで、西台 智晴(r2p002089)が友人の川角 隆竹(r2p003142)と竹沢 恵道(r2p003143)もその施設に逃げ込んだ。
「一体何なんだ……!?」
 綱島に遊びに来ていた三人は、突然異形の者に襲われここに来たのだ。
「おい、これからどうするんだ? 智晴、恵道」
「外には、あのよく分からないのが居るからなぁ……」
 三人が逃げ込んだ施設は、綱島に新しく出来た商業施設だった。春休みということもあり、施設内には人が多い。
 幸い、食事処やスーパーがあるため、立てこもったとしても二、三日はもつだろう。とはいえ、長くは滞在できなさそうだ。
「とにかく、混乱が収まったらもう少し安全な場所に移動しよう。……それが、何処にあるのかは分からないけれど」
 神妙な顔つきで智晴はそう答えた。
 事実、安全な場所というのは少ない。何処もかしこも突然現れた天使のせいで混乱が起こっており、街中人々がごった返している。
 生まれたばかりの八神 和久(r2p002802)は、『平和よ永久に』という名の由来とは真逆の状況になっていることなど知らずに、母に抱かれて逃げていた。
 和久が生まれた病院は、天使の襲撃によって倒壊した。その上、一緒に逃げていた和久の父は、母を天使から庇って亡くなった。
 和久の母は、傷つきながらも逃げる。その様子を見ていた一人の女性――井澄 このか(r2p001159)が、バリケードの設営を手伝っている手を止めて彼女に声をかけた。
「大丈夫? 赤ちゃん抱えながらじゃ、大変でしょ?」
 こくん、と頷く和久の母。すると、メモを取り出して何かを書いて渡す。
「ここ、今避難所になってるから行くと良いよ。さっき直しに行ったけど、結構人が集まってたみたいだし。
 混乱に乗じて悪いことする奴もいるみたいだからさ、気をつけてね」
「ありがとうございます……!」
 礼を言うと、彼女はメモに書かれた避難所へと向かった。
(さて、あの親子のためにも、悪さする奴はしばかないとね)
 このかはバリケードを築き上げると、隠し持っていた武器を構えた。
 同時刻。
「はぁ、はぁっ……! 間に合うといいけど!」
 閖島・恵実(r2p000040)は家の中で防御魔法を行使し続けていた。
 恵実は、絶対に失いたくないものがあった。それは先祖代々守り続けてきた、魔法が扱える一族の血だ。
「途絶えさせるもんですかっ……閖島家を!!」
 外の異変に気づいた恵実は、魔法の器物たちが見守る中、すぐに防御魔法を展開し今に至る。魔法の器物の中に剣や盾もあったが、そのことまで頭が回っていなかったのだ。
 しかし、ある意味では家に籠っていたのは正解だったのかもしれない。
「何だろう、これ……?」
 破棄される家から、次の家へと逃げ惑う住民たちの中に灰崎・皇瑠(r2p000488)もいた。
 皇瑠は逃げている最中に、ある違和感に気づく。それは、一枚の羽だ。しかし、その羽は天使が落とした物ではない。その羽を眺め、瞬きした瞬間に、異変が起こった。
「ひっ!」
 手から羽毛が生えてきたのだ。何が起こったのか理解できない皇瑠は、怯えながらも逃げる。
「僕は……死ぬんですか……!?」
 その問いの答えを知るのは、もっと先の話だった。
 混乱が起こっているのは、都会だけではない。
 とある村では、今日はお祭りの日だった。
 その村にある神社で巫女をしていた宝竜 舞花(r2p000785)は、自らの両親が天使に殺されるのを見た――見殺しにした。生贄として都会からやってきた人を殺した両親だったから。
「やっぱり、巫女がソトツキになった村は滅びるんだ」
 そう言ったのは、舞花の双子の妹だった。
 たったひとりの大切な妹。自由でかわいい天使みたいな子。
 舞花は持っていた祭具の矛で、天使を突き殺した。
 混乱は広がるばかりで、収束を見せない。その様子を・・・(r2p000675)は見ていた。
(ああ、見覚えがある。私の故郷を、家族を、壊し、殺し、散らしてくれた――)
 ついにこの世界にも来てしまったのか。そう思ったおわりだが、諦観するにはまだ早い。
 自らの家族がしてくれたように、おわりも戦う。
 初歩的な魔術の矢だが、天使に襲われている人を助ける程度ならば問題ない。自身の無理のない範囲内で、手助けを行なった。
 そんな彼女の近くにあった、とある避難拠点。そこにいたサイレント(r2p001222)は、妹であるトーキー(r2p000439)に避難所を任せて生存者の捜索に出た。
(戦う機能なんて付いてないけど……私も、人を助けるために作られた機械なんだから……!)
 天使たちと鉢合わせしないように、その辺に落ちていた鉄パイプを片手に、生きている人を探す。
「あっちに、避難所があるよ!」
 一人でも多く生き残ることを願い、サイレントは邁進した。
 同じく、避難所となっている教会の周りでは、ルーファス・オルブライト(r2p002581)と東雲 豪(r2p002582)が戦っていた。
「まさか、こんなところで見るなんてな!」
「本当に。胸糞悪ぃ!」
「胸糞悪いのは、酒のせいじゃないのか?」
「違う! お前も、アレを見て気分悪くならないのかよ」
「なるに決まってるだろ」
 豪が大剣を振り、ルーファスが援護するように銃弾を放つ。今は犬猿の仲とはいえ、元バディ。息はぴったりである。
 逃げている人たちを、とりあえず神宮寺 聖(r2p002707)が神父を務める教会へ口頭で案内する。
 教会内に入れば、そこには、怪我をした人たちが集まっていた。
 聖は、そんな彼らを治療している。
「今は悲観している場合ではないですね……私にやれることをやらねば」
 外の惨劇は、教会から出なくても分かる。聖は避難してきた人たちの治療を終えると、皆のために祈った。

 執筆:萩野千鳥


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