4月2日 - Part5
2024年4月2日。突然に破壊された世界は、未だその脅威の中にある。
避難所へと逃げ込んだ人々は身を寄せ合い、恐怖に震えながら家族や友人へのメッセージをスマホから送り続けていた。
その多くの場合連絡がつかず、不安というストレスが積み重なっていく。
幸いにもと言うべきか、日本には避難設備がそれなりに整っていた。備蓄もそこそこにある。4月のまだ温かい夜であったこともあって、凍え死ぬことも飢え死ぬこともないだろう。
だが、これは地震でも火事でもないのだ。あの天使たちが避難所を襲撃すれば、もはや逃げ場は無くなるだろう。
それだけではない。人間が天使へと変わったという噂は人づてに広まり、不正確なまま混乱や恐怖が蔓延するケースもあった。
「パパ、ママ……」
小学校の体育館。恐怖に震える子供が両親を見上げると、身を寄せ合っていた両親はそれを守ろうとするかのように抱き寄せた。
大丈夫。大丈夫……。そう呟く両親の言葉に、根拠は無かった。
なぜこんなことが起きたのかも。どうしたら助かるのかも。この先どうなってしまうのかも、分からないのだ。誰も、教えてくれなかったのだから。
地元のあやかし達の奮闘でなんとか神社は守れている。
飯縄 戒飛(r2p000662)にできることは、黒龍へと祈ることだけだった。
次々と天使化の噂が入ってくる。
(俺も明日には狂ってしまうのだろうか。そのときは、親父に殺してもらいたいな……)
そんな、暗い祈りを胸に抱いて。
一方、街の避難所では。
「誰でもいいから助けてくれ!」
忠野 真人(r2p002847)のいた避難所が天使に襲撃され、叫び声をあげていた。
彼はただのひとであった。だからこそ、天使と『異形の味方』の区別がつかなかった。だから、石を投げて追い出そうとした。そうしている間に、天使に避難所が襲われてしまったのだ。
「誰か――!」
叫びは空しく、真人は切り刻まれる。
そうして、避難所がひとつひとつ潰されていく。
「くそっ、どうなってやがる!あちこちバケモンだらけだ!
母さんの安否が気がかりだが――勤め先の病院に行きたくても連中が邪魔で遠ざかるばかりじゃねぇか……!」
サイガ ヒビキ(r2p000706)は悪態をつきながら壁により掛かる。
「土地勘がねぇとトコまで来ちまった……出来れば一旦身を隠したい。ナズマさん、このへん詳しかったりしないか?」
問いかけられた乱寿郎 ナズマ(r2p000503)は辺りを見回し、頷いた。
「……確かここらに知り合いの家がある。ちょいと邪魔するか」
本当は家族や他のダチと連絡をとりたいが、それは後回しだ。サイガの母が働く病院が避難所になっているらしいが、行く手には天使の影。
仕方ないと二人は頷き合って、知り合いの家へと向かうのだった。
イヴリン・ルイス(r2p001128)は友人の別荘へと避難していた。
電話が鳴る。とってみると公衆電話からのようだ。
「お兄ちゃん……?」
話を聞く限り、どうやら兄のスマホは壊れてしまったらしい。まったくもう、と呟きながら、しかし安堵する。兄の無事を確認できただけでもよかった。
早くお迎えに来てくれるといいなあ。そんなことを思う。
先に待つ、悲劇の運命を知らず。
一方で、電話を終えたエドワード・ルイス(r2p000459)は受話器を公衆電話へと置いた。
彼は(他国の人間とはいえ)警察官だ。一人でも多くの市民を逃がすべく横浜を走り回っていた最中に、スマホを壊してしまったらしい。
(この状況でホテルを抜け出してたのに思わず叱ってしまったが……悪いのはあの子を一人で残らせた俺だ。会ったらまず謝らないと……)
ふと、気が遠くなる。声が聞こえる、ような気がした……。
これは異世界の話。リリィ・T・プランティア(r2p001016)の住む植物精霊の世界プランティアは突如襲来した天使達に蹂躙され、世界の要である大樹も炎に包まれた。
今まさに世界が滅びようとしていた。
幼い姫であるリリィも大地の崩壊に巻き込まれ、奈落へと落ちる寸前。
大好きな兄が必死に身を乗り出し手を差し伸べ、リリィも必死に手を伸ばす。
必至に伸びた指先同士が僅かに触れるが、引き離され――そして彼女は世界から転移した。
●
2024年4月2日。
前日より、天使症候群によってヴァニタスに目覚めた人々が天使の脅威へと抗い始めている。
手を突きだしたサラリーマン風の男が、ネクタイを乱暴に緩める。頭にはハイロウが浮かび、背には一対二枚の翼。
「俺はお前らみたいにはならない。家族の元に、帰るんだ……!」
背後には横転した乗用車。車体はひしゃげ、炎をあげている。
そんな風景をあざ笑うかのように、無数の天使達が空を旋回飛行していた。
内の一体が群れを外れ、男へと突進してくる。
手にした槍を掴み受け止めながら、男は歯を食いしばった。
抗え――抗え――。
死に滅びたくないのならば。
東雲 アキラ(r2p000050)は覚醒したばかりのヴァニタスの力に振り回されながらも、人々を助けるべく天使と戦っていた。
「あいつらの分まで俺は生きなきゃいけないんだ……こんなとこで、終わるわけにはいかねえんだよ──!」
炎を燃え上がらせ、槍を持った天使を殴りつける。
異形の姿に怯えられることもあった。石を投げられたことだってあった。けれど、それでも……アキラは戦い続けた。
その一方で、白鷺 ネオン(r2p001390)もまた戦っていた。
『初めて見る生き物だな』と思いながらも、魔力を利用した氷魔法を天使へと叩きつける。
そして作り出した爆弾を炸裂させ、天使の翼をもぎ取った。
反撃に槍を投じてくる天使だが、ネオンは素早く回避し魔力を纏わせた金属バットで突撃する。
その強打が、天使の頭を吹き飛ばした。
戦う理由は、人によって違う。
アンジェリア・悠和(r2p001454)の理由は、両親や姉妹、猫たちを守るためだった。
(何で翼や光の輪?が現れたかわからないけど、ずっと憧れてた天使様みたいだもの!)
傷付いた天使めがけ、光線を放ちその白い異形の肉体を貫く。
「敵も、翼が生えてるのは…きっと天使の偽物よ……!」
皆を避難所まで逃がさないと、何が何でも守る! そんな想いを抱きながら、ふと呟いた。
「星夜達とも連絡が取れない。大丈夫かしら……」
人々を避難所へと逃がしたら、彼女たちも探そう。きっと後で会えるはず。無事でいて……。
四月二日、ドイツ。
「天使……ふふ。とんだ『異物』が来ちゃった。
愛してあげても言うこときかないし」
ラストノート(r2p002225)は炎の吐息を用いて天使と渡り合っていた。
「わたし、まだ百年ぽっちしか生きてないの。
死ぬのはまだもったいないなあ。
海割りのノアって何年生きたか覚えてる?
ほら、炎はお好き? わたしは嫌い。
みんな炙られて死んじゃったんだって! ジャンヌも! あはは!」
炙られて死なない場所に逃げないと。
そうね……日本とか、どうかなぁ。
はるか高い空の上でも戦いは始まっていた。
「MARCH2-1より北空SOC,もう一度頼む」
伊藤 毅(r2p001020)はスクランブルを受け三沢基地よりF-35戦闘機にて発進。空を飛ぶ天使との戦いに発展していた。
「!?、撃ってきた! MARCH2-1エンゲイジ、FOX2!」
兵器が空を裂き、爆発が天使を包み込む。一体の天使を撃墜したものの、更に現れる複数体の天使に目を剥いた。
そんな毅の機体に目をつけたのは天使の聖ヨセフ(r2p002688)であった。
(あれが速さ、あれこそが速さの現身、より鋭くより薄く、いや、薄いだけではだめだ、風を切り空気に乗らなくては、そして我はこの形に至った――)
戦闘機というものに、心を奪われたのだ。
(今しがた撃ち落とした男もまことに速く強かった、妙な手ごたえだったがそれはいいだろう、あのような存在とまた戦いたいものだ)
複数の天使を前に、仲間と交代し帰投していく毅の機体を、聖ヨセフは目を細め見つめるのだった。
「こりゃ何かバズっちゃった? すまねえな、凸はお断りしてんの!」
来蛇穴 秋良(r2p000013)は横浜に構えた陣地で、襲撃してきた天使を迎撃していた。
秋良は自分をヒーローだなどと思わない。
人を守ったりないし、腹をすかせた子供に食料など与える事が出来るわけでもあるまい。
ただの異界の存在である。
喰らう、砕く、すり潰す、狂わせる狂わせる狂わせる狂わせる狂わせて。
「あははっ! ほらほらピースピース! 一緒に写真撮ろうね」
そんな戦いは各所で起きている。
クーヴェンリヨル(r2p000465)は生えた互い違いの竜翼を、産まれた時からあったように操り市街を駆ける。
(輪付き共、どれだけ殺そうと湧いてくる、己の世界を災禍に突き落とした忌々しい光輪……)
ひとつ吠える度に数匹、振るう拳に感じる重みが破綻を伝える。初めて触れる、なのによく馴染む力を憎悪のままに振るう。
「今度は此れが追う番だ、輪付き共」
輪付きも、ヒトからなった者も区別なく。光輪に死を。
ある集落では、金望成 太象(r2p002704)が天使を相手に戦っていた。
「エレファント・インパクトナッコォ!!」
強烈な拳が天使を殴り飛ばし、家屋へと激突させる。
「社長! 集落の皆を集めて頂きたい、ここはワタシが食い止めます!」
太象は封印していた戦闘出力を解放し、会社と集落の人々を統率。指揮し、戦っていた。
こっそりやっていた日本の戦闘力調査によって、上位勢力が存在する場所と目していた横浜を目指す。後にマシロ市へと合流することになる一団であった。
灰色に煙るスクランブル交差点。天使の剣が弾き飛ばされ、空を回転した。
「こんな力、使える場所なんかねぇだろって思ってたけどよ……使える日がくるとはね」
天道 零慈(r2p003102)は獰猛に笑い、がら空きになった天使の顔面を拳で粉砕した。
埒外の身体能力をもって生まれ、それが故に恐れられてきた。
唯一自分を恐れなかった祖父だけは、『お天道様から与えられたその力を正しく使え』という言葉を残して2年前に亡くなった。
使う時が、今まさに来たのだ。
「ハハッ! やってやろうじゃないか」
腕を振り回し暴れる天使へ、望愛(r2p002131)が組み付き腕をもぎ取る。凄まじい力だ。
その傍らで、路上に転がったペンダントのようなものを拾いあげる。
一緒に路上生活していた仲良しホームレスのおっちゃん達の、遺品だ。呆気なく彼らは死んでしまった。そんな彼らの遺品を回収して回りながら、望愛は街をうろついていたのだった。
「そっちへ行ったぞ」
「うむ」
天使の一体が頭上を越えて飛んでいくと、九重 伽耶(r2p000700)が空へと舞い上がりそれを一撃のもとに撃墜した。
「こういう日が来るとはの。
やれやれ、平和とはかくも容易く壊れるものか。
今しばらくは気ままにオタクライフをエンジョイしたかったんじゃがの」
腰の錫杖型アクセを本来の背を少し超える程度のサイズに変え、車輪のアクセは分割させ、火を纏いつつ回転しながら両足の横へとつく。
狐の尻尾を生やし狐耳もピンと立てた、伽耶本来の姿である。
地面に叩きつけられた天使が剣をとり立ち上がると、別の天使達が交差点中央へと集まってきた。
そこへ突撃していくのは銀のコンバットスーツを纏った重電流僧・浮悪救参(r2p001397)だ。
「やれやれ、流石に歳じゃの。ばあさんと悪党共を成敗しておった昔程には、体が動かんの」
言いながら、股間部のパイルバンカーが天使を貫く。
「さりとて若者達の未来の為、少しでも此奴等を討っておかねばならん。もう少しばかり、老体に鞭打って働くとしようかのぉッ!!」
リーダー格とおぼしき天使が割って入ろうとしたところで、ニャーエル(r2p002316)が猫の姿から変身を解き、黒髪ツインドリルで片目眼帯をつけ赤いスリット入ドレスを着た妖艶美女となり立ちはだかった。
「天使とやらに挑むのも悪くはないぞえ。地獄の女王としての力、とくと見よ!」
複数の魔方陣を展開し、黒き闇の炎を放つ。
「闇の炎を受ける名誉を受け取るが良いぞ」
その援護をして回るのはシャラ(r2p002317)の役目だ。腕装着ガタのボウガンで魔力の矢を放ち、ニャーエルの魔方陣の底上げ魔術を付与する。
「ニャーエル様は飛べるが、俺は受肉してる関係上飛べないから、地上からの援護しか出来ないんだよなぁ。あぁもう、なんで受肉したんだろうなぁ!?」
「ん?」
「はい、文句言ってないで援護しますよ、我が愛しの女王様!!」
振り返るニャーエルにハートの語尾がついた声で叫ぶシャラであった。
横浜にあったと噂される収容施設が破壊され、XI(r2p002826)は自由を得た。
「こんな気持ち、ワタシ初めて。とっても、とっても、アナタ達を食べたい気分」
笑い、天使との戦闘を開始するXI。
「甘いかしら? 苦いかしら? しょっぱいかしら?辛いかしら? ……おいしいかしら?」
全身に『ギチギチと鋭い歯を鳴らして嗤う口』を発現させ、天使の突き出してきた腕を逆に食いちぎってしまった。そのまま咀嚼し、呑み込む。
門司 司(r2p001053)はそんな光景を目の当たりにしながらも、別の天使へと向き直った。
人間社会で生活するために隠していた獣の力。それを発現させ、天使へと立ち向かう。
(この力で生き残った人間を守る為に……。
例えその怪物が人間から姿を変えたものだとしても。元の姿が誰であろうと)
狼の人獣化能力を用い、小柄な体格を生かして天使の懐へと滑り込む。そして、強烈な一撃を相手の腹へと叩き込んだ。
「倒さなければボク達が殺されるんだから」
その一方で、エリストリス(r2p002795)は複数の天使相手に豪快に立ち回っていた。
「感情があるのか、わかりやすいな。痛覚など神経類はどうだ? 面白い、内臓器官はどうなっている?」
などと笑みすら浮かべながら、どこか遊んでいるようにすら見える振る舞いで天使達を引き裂いていく。
天使がいかなるものか。それを知ろうとするかのように。あるいは、好奇心のまま突き動かされる無垢なる子供のように。
そうした中にあって、月夜見・宵(r2p001006)は天使の前に立っていた。
「我は永遠の闇に喰われし一輪の徒花」
その言葉は、臆病な心を偽る仮面のように、傲岸不遜に放たれる。
友達も家族も家も全て失った、自分も同じ様に死ぬはずだった。
しかし死の直前、力が目覚め少女は生き残った。
生き残った彼女は後悔した。
使う機会があるわけないと超常的な力を鍛えてこなかったことを。自らを嫌悪した友達や家族を助ける為ではなく自分が死にたく無いがために覚醒したことを……。
だが今は、前を向くしかない。贖罪の戦いが、始まった。
酷く血が流れている。神門 伊佐也(r2p000681)は座り込み、槍を握る天使を見上げていた。
「……ハァッ、クソっ、何してんだ、俺。糞親父と違って魔術も使えねーってのによ……全く、バカみてぇだぜ」
天使に襲われそうになっていた子供を庇って、いまはこのザマだ。これで終わるのか。死ぬのか。そう考えた瞬間。
(なんだ? こんな時に体が、焼ける様に、熱い!
クソッ、こんなとこで死ねるか! 俺は、まだ何にも成れてねーんだ!)
死への恐怖か、生への執着か。それとももっと別の感情なのか。伊佐也はヴァニタスへと覚醒し……。
「だからよぉ……テメェはとっとと、そこをどきやがれーー!!」
翼とヘイローが現れ、強烈なビームが伊佐也から放たれる。
天使を貫いたそれは空に消え、そして伊佐也もまた意識を失った。
他の天使が集まってくる。だが、集まるのは天使だけではなかった。
天使を屠るもの。荒羅屋 羽生(r2p001867)だ。
「ずっと平和なら良かったのにねぇ」
どこか甘い声で囁くと、手にしていたスマホをしまい込む。
魔剣アーバレオスを抜き、こちらへ振り返った天使をまず一体斬り伏せる。
『戦い続ける限り身体能力全てが増幅し続ける能力』と幾百年の戦闘経験は、並の天使を屠ることを容易とした。
「束の間の休息をくれたお礼に一人でも多く助けるよぉ!」
気を失った伊佐也を庇うように立つ羽生。
そこへ藍宮(r2p002216)が現れた。
「まぁ、頼まれたものは仕方ないさ。
ただし引率者のボクの指示に従うように。
治してる余裕なんてなさそうだ」
どうやら藍宮は縁者の危機を察知した骨董品達の頼みで、近い所から順に天使の災害から人々を助けて回っていたようだ。
歴史的な価値がある月歌堂の付喪神になった骨董品達も総出での旅路は、さながら百鬼夜行のようだ。
そして、藍宮もまた付喪神だ。少年の姿をとった彼が、不思議な力で天使をはねのける。
「『天使』? 否、あの醜悪なる怪異は御使いに非ず。誓言に従い討つのみ。主よ、憐れみ給え!」
そこへ更に現れたのはエルウィン・フォレスター(r2p002300)だった。
名乗りと共に矢を放ち、天使の翼を撃ち抜く。
空へと飛び上がろうとした天使は墜落し、そこへ更に矢を打ち込み頭を貫いた。
(敵の強さは然程ではないが数が多い。状況も情報も混乱している。
個々人が戦うだけでは、やがては物量に押し潰される……)
次なる矢を放ちながら、エルウィンは呟いた。
「主の憐れみ(キリエ・エレイソン)を体現する、勇者達の組織があれば……!」
「信頼すべき筋からの情報だったが、正直半信半疑だったさ。
軍は常に有事を警戒するし、抜打訓練の日程を知った程度の意識だ」
リック・サンダース(r2p001605)は肩を竦め、そして目の前の光景に叫ぶ。
「だが、ここまでだと誰が思う!?」
ブラックホークの武装は満載。天使の群れにガンポッドを乱射し、巨大な天使に19連装ロケット弾をぶちまける。
隣の同僚はヴィラン共を倒してヒーローになり放題だと強がるが……。
「自分はこんな活躍、望んじゃいない!」
軍による苛烈な攻撃が天使へ行われる中で、D.E.N.K.A(r2p002943)は左腕を押さえていた。
いや、厳密には『切り落とされた』左腕だ。
見上げると、黄金の剣を振り上げる天使。その剣が血濡れているのは、先ほど手を差し伸べた男を両断したからだ。
「やだ……やだよぉ……」
命の危機に、声が漏れる。振り下ろされる剣。
瞬間。
(いいの? 死んじゃうよ)
頭の中に声が響き、封じたはずの自分が、禁断にして唯一の選択肢が開かれる。
『電火』が目を覚まし――振り下ろされた剣をつかみ取った。
強烈な熱と衝撃が走り、天使がくの字に曲がって吹き飛ばされる。
そんな中で、緋翠 アルク(r2p000810)は自らの手を見つめていた。
「俺もまた錬金術が扱えるようになったようだな。あの天使達のせいか? わからないが……」
アルクは市販の薬を媒体に魔力を込め、回復薬をいくつも作っては戦う者たちのサポートに回っていた。
アルクの目から見て、戦局は芳しくない様子だ。助けの手は、いくらあっても足りないくらいだろう。
戦いは、一体どれだけ続くというのだろうか……。
ソラ(r2p000558)は戦い続けていた。
人より強いわたしが、逃げ惑う人々を助けなきゃ……そんな思いで立ち向かってきた。
だが、それもここまでだった。
天使の繰り出したハンマーがソラをとらえ、吹き飛ばす。回転する視界。叩きつけられる感覚。手足を動かし起き上がろうとするが、無理だった。折れているのだと、直感できた。
首だけを動かすと、助けようとした人々が同じように殴られ、殺されていくのが見えた。
恐怖が、思考を塗りつぶしていく。もうできることは、泣き叫ぶことくらいだった。
「…………」
そんな様子を、アルシエル(r2p003062)はじっと観察していた。
自分の姿によく似たソラを見付け、苛立ちと興味から観察を続けていたのである。
破けた服からのぞく異質の肌に、人間ではないことを知る。つい嬉しくなって、そして執着を覚えた。
ずっと見ていよう。そう、アルシエルは静かに呟くのだった。
極棘 龍煙(r2p001393)の手から、煙草が飛んで行く。
空中で回転するそれは、くの字にへし折れ水たまりへと落ちていく。
だから、である。
龍煙は目に殺意を灯して振り向き、襲いかかってきた天使を一瞬のうちに返り討ちにする。
「わたくしの至高のひと時を邪魔するおまえは例え元人間だろうと存在する価値などありません」
そうして潰れた天使を見て、別の天使が槍を構える。
瞬間、彼岸 ほろび(r2p002223)がその側頭部を殴りつけた。凄まじい勢いで吹き飛び、回転する天使。奇遇にも先ほどの煙草と同じように折れ曲がり、水たまりへと落ちる。
「壊体、あるのみ!」
ほろびによる拳主体の格闘技は、その辺の天使であれば鎧袖一触。強力な個体にさえ太刀打ちできるほどだった。
「全て、壊体してくれましょう!」
その一方で、土御門 筅(r2p001619)が炎を放ち起き上がろうとした天使を燃やし尽くす。
――ひふみよいむなや こともちろらね。
――ゆれる 狐火 狂狂と。
「……燃えろ」
呟き、振り返る筅。天使は未だ空を埋め尽くす勢いで攻め込んできている。
「数が多いのはめんどいけど、信仰が無くなるのは困るし、土地が無くなるのも困るし。
なにより、人間を守るのが拙の御役目だからね」
そんな風に呟いて、筅は戦い続けた。
「血も骨も灰も、残さず燃やしてあげるよ」
その後ろから襲いかかろうとする天使へ、クックドゥ=G・クックドゥルドゥルドゥー(r2p002403)が大声を出して天使の不意を突いた。
あまりの大声にびくりとなった天使が振り返り、クックドゥへと剣を向ける。が、その隙に振り返った筅が炎で天使を燃やし尽くす。
突っ込んでくる天使の一体を、エリオット・景・ロックウェル(r2p002304)がサバイバルナイフで斬り付ける。
「何だ、こんなものか?」
更に剣を生み出すと、血を流す天使の首を撥ね飛ばす。
勢いよく血が吹き出るが、素早く離脱したエリオットの服に血がかかることはない。
そうしていると、天使のうちの一体が黄金の剣を振り込み襲いかかってきた。
新たに生み出した剣で受け止めるが、その手が痺れるほどに衝撃が走る。
「――面白いヤツが出てきたな」
にやりとした笑顔が、火花に照らし出された。
結界術によって作られた防壁が、天使の叩きつけるハンマーをはねのけた。
手を突きだし、結界の力を強める水月 鏡花(r2p001917)。
(傷つく姿なんて見たくないし、死ぬ姿なんてもっと見たくないから……)
そんな想いで、一歩踏み出す。
いつも一緒にいる妖怪は「みんなのために戦うように」と力を譲渡し送り出していた。だから自分の身を守ってくれる人はいない。むしろ、自分は守る側だ。
そんな鏡花に守られる形で、守口 レイラ(r2p002588)は走って行く。
レイラは自身が経営するカフェスタンド『mum』から食料や医療品といったものを一通り持ち出していた。
(……『mum』は襲撃で崩れちゃったけど、大丈夫。
いつかまた、皆が心を休められる場所を必ず作ってみせるから)
レイラが避難所へと駆け込むと、不安そうな顔たちが出迎えた。その中には知った顔もある。
頷き、知った子供の頭を撫でる。
「これから不安も多くなるだろうけど……まずは、ここまでよく頑張ったね」
ふと見ると、知らない顔もあった。
ライラ・I・ラスクサクサク(r2p000504)がラスクを配って回っていたのだ。
「あの! えっと……これ! パン屋さんの崩れたとこで見つけましたの! どうぞ!」
レイラたちは気付いていないが、このラスクはライラが特殊な能力によって加工したものであった。
こんな困窮時に菓子なんて、そんなものどこにあった等と言われても困るし、異能によるものと知るとニンゲンには気味悪がられてしまう……と本人は思って隠しているらしい。
(わたくしにできる事は、これだけなのですわ)
ラスクを押付、去って行く。
四月一日未明から、ずっと観音打 法悦(r2p001216)は戦い続けていた。
可愛い姪っ子である、観音打 真理耶(r2p000405)とだ。
真理耶の背からは翼が生え、その人格は歪んでしまっている。既に天使と化してしまったのだ。
(明らかに拙僧は手加減されている。遊ばれている……)
法悦はそんな確信と共に、覚悟を決める。
(この子を止めるのではなく、殺めねばならない。殺めた後、自害して果てよう)
決死の覚悟が力となり、足を踏み出した――その時、法悦の身体は跡形もなく消えてしまった。
突然のことに首をかしげる真理耶。
だが、深く考えることはしない。
「……そうだ、海西ちゃんを殺しに行かないと」
ふと思いついたように言う。
「海西ちゃん、どこに行くって言ってたっけ? 南の島だったかなあ」
翼を羽ばたかせ、空へと飛び立っていく真理耶。目的地は、南の島。
猪市 晴樹(r2p001342)は拳銃を連射し、天使を遠ざける。
警官である晴樹は、崩壊した街を前に安全確保をするべく走り回っていた。
幸い、それができる装備とフィジカルはあった。
ふと嫁と娘の心配がよぎる。
連絡を入れようと思ったが襲撃で携帯が壊れて出来なかった。
(大丈夫と信じよう。嫁は体が強く、娘は頭が良い)
「警察です! 誰かー! 怪我してる人が居ませんかー!」
倒壊した家に呼びかけるが、返事はない。晴樹は頷き、また走り出す。
雪音(r2p000339)の背からは、氷の翼が生えていた。
痛みと熱に気分が遠くなりそうになりながら、雪音は天使へと踏み出す。
避難していた公民館が天使に襲われたのだ。運良くと言うべきかヴァニタスに覚醒していた雪音は、氷の力をふるい天使の足元を凍り付かせる。
「はぁ、ふぅ……守る力が、あるなら、利用するだけ、です……」
そして動きの鈍った天使の胸へ、氷の剣を突き立てた。
途端――物陰から飛び出したRF・3rd=Z1X(r2p002110)が手斧で天使の翼を切り落とす。
RFは、いわば復讐の鬼だ。
記憶も身寄りも無かった己に手を差し伸べてくれたホームレス達。彼らを殺した天使に復讐せんと覚醒したばかりの重力軽減の異能と形見の手斧で天使達を殺して回っていたのだ。
(どの個体が彼らを殺したのかなんて分からない。なら……全て倒してあの人達の仇を討つ!)
攻撃を受けてよろよろと後退する天使。
その天使の首を、進藤 清景(r2p002539)はいとも簡単に刀で切り落としてしまった。
「まったくなだいこの状況は? 地獄の扉でも開いたっていうのかい?
……それで出てくるのが天使もどきの化け物共っていうなら笑えない話だ」
しけた煙草をくわえつつ、振り返る。
人助け、なんて高尚な事をしているつもりはない。
(……俺としては、誰かがオレの目の前で死なれるのは迷惑なんだ。否でも彼女と娘の事、思い出すからさ)
●
2024年4月2日。
世界が壊れた日。人々を襲ったのは天使ばかりではなかった。
天使に乗じて悪事を働こうと暴徒化した集団が現れたのである。
行き詰まった生活。抑圧された人生。狭苦しい社会。そんなものを天使が壊してくれた。そう考える者たちだ。
彼らは手に武器を取り、刹那的な欲望を満たすべく略奪へと走る。
だがそれを、黙って許す者たちばかりではない。
同じく武器を取り、悪を討ち滅ぼさんとする逸脱者、異能者、異世界からの来訪者たちがいた。
初日は身を隠しながら様子をうかがっていた宍戸 椎名(r2p002780)だったが、彼は動くことを決めた。一丸となって戦わないといけない時に人間が争うことを彼は許せなかったのだ。
「――!」
ナイフを手に避難所を襲おうとしていた日本製バイカーギャングらしき集団を、人狼化した椎名が殴り飛ばす。
それだけではない。近藤 イサミ(r2p000852)が飛びかかり、木刀を翳した男を蹴り飛ばす。
「さあ、今のうちに」
避難所へと駆け込もうとしていた見知らぬ家族へと呼びかけると、慌てて家族が避難所へと走って行く。
ふと周りを見回した。司誠調停委員会の仲間たちとは、どうやら離ればなれになってしまったようだ。
(永倉さんが別行動を申し出ましたがまぁあの人なら問題ないでしょう)
「あらあら、まあまあ。災害に乗じて悪だくみをする愚か者がぎょうさん」
そんな時に、声がした。
狐美(r2p000781)のものだ。
「そやな、あんたさんらのして名やら恩やらお大尽さんらに売っておくのもよろしやろ。ほな、掛かってきい。うちみたいな、別嬪に倒されるやなんて嬉しい事やろ?」
手招きする狐美に、男たちがにやりと笑って襲いかかる。が、力の差は歴然であった。
まるで遊ぶように男たちをなぎ払い、蹴散らしていく狐美。
そこへ、ミラ・キャプシーヌ(r2p002254)とMarceline(r2p002253)がやってきて足を止める。
「おいおいこの世界も壊れんのかよ! 魂は不味いが折角住み心地良かったのによー」
「あらあら、困った事になってしまいましたねぇ。居心地は悪くなかったのに、残念ですぅ」
緊張感のない語りに、男たちが振り返った。中には、どこからどう入手したのか拳銃を持っている者まで居る。
「リーネ、いーこと思いついたよ。
殺し回ってる奴らに天誅して回ろう。
暫く精気は食えそうに無いが魂はたっぷりある。
この身体、大砲ぶちかますとすっごくキモチイイみたいだし」
余裕をもって身構えるミラ。
「ミラの提案に乗りましょう! 天誅を下すのが夢魔だなんて面白いじゃないですかぁ。
私、ご馳走が食べたいですっ! 量と質どちらもいい物が理想なんですけどそうも言っていられないみたいですからいっぱいの魂でガマンしてあげますね♪」
かと思えば、Marcelineのスカートがめくれ上がり無数の触手が顔を出す。
驚く男たちの身体を絡め取り、地面へと叩きつけた。
「ヒヒ、さぁ、ミラ様の魂バイキングだ♪ 自分の罪を悔いやがれ!」
そこへ襲いかかるミラ。
男たちにとって、これが地獄の始まりだった。
「ククッ、バケモノ同士が争ってやがるぜ。愉快愉快」
サカサ・インヴァース(r2p002389)は天使と異能者が戦うさまを撮影していた。
明らかに邪魔をしながら撮影をするその姿を見とがめて、クラクラ・クライン(r2p002073)が杖を突きつけた。
「真剣に戦ってる皆の邪魔、しないでもらえる?」
顔をしかめたサカサだが、すぐにその表情を笑みに歪める。
「邪魔してくんじゃねえよ。
……と思ったら、愛しい愛しい俺の妹じゃねえか。
逢いたかったぜ10年間」
「? 何言ってるの、こいつ」
意味はわからない、が、見過ごすわけにはいかない。なぜなら――。
「落ちこぼれのお前が魔術で人助けなんていいご身分だな。
いいぜ、“また”お兄ちゃんと遊ぼう。
俺の魔術、ぜーんぶ受け止めてくれよ?」
サカサがカメラを下ろし、恐るべき魔術を放ってきたのだ。
魔術をなんとか防御し、杖を構え直すクラクラ。
(死にたくない。大切な人達とまた平和な日常を過ごす為にも――!)
因縁と言うべき戦いが、始まった。
●
リーベル・リリエンタール(r2p002605)は建物の屋根から屋根へと飛び移りながら、町の様子を探っていた。
「あっちの方は安全そうだね」
屋根の上から呼びかけると、不安そうな避難民たちが見上げてくる。
危険は気配を色で感じ取ることのできるリーベルの能力はこのようなときほど役に立つらしかった。
そして、リーベルの誘導によって安全そうな避難所の一つへとたどり着く。
同時に、興ノ宮 セマリ(r2p002129)もまた避難民たちを連れて避難所へとたどり着いたところだった。
(僕は記者だ。
そして僕のモットーは皆を楽しませる事!
でも! セマリちゃんは思うんだ!
『皆』が死んだら意味がないって!)
セマリは記者としての本分を一度脇に置くことにした。恐怖をそのまま『今』伝えるのはまずいと、そう気付いたために。
避難所ではミリー=天草(r2p002269)が助けた人々を集め、配給品の分配や簡単な治療などを行っていた。
「助けるよー助けるよー」
クラゲやクリオネの雰囲気が感じられてふよふよと浮いている感じしているが、見た目は普通の人間である。それが違和感をかきたてる。が、その性質はかなり善良なようで、人助けを本能的に行っていた。
一方。山裾 嘉臣(r2p002849)は治療を行う治療を行うスタッフにくってかかっていた。
「おい、誰でもいいから怪我の手当てをしてくれんかね。痛くてかなわん。
なに!? 軽症の子供の手当てを優先するのか!? ふざけるなッ、私の方が重症ではないか!」
そうしていると、イドリス(r2p001664)が助け船を出すようにやってきた。
「お前の傷は既に止血しているし、よく口が回るほど元気だ。私は子供の治療を優先するのは妥当と判断する」
「この若造が……私はなあ、貴様らのような落ち溢れと違って替えが効かんのだぞ!」
キッとにらみ付けてくる嘉臣に、しかしイドリスは涼しい顔をする。
「お前は面白いな。人間とは支え合わねば生存できない生き物と聞いたが」
チッと舌打ちをして会話をやめる嘉臣であった。
ヴェノ=アイン(r2p001163)は、「樹の中の研究室」で生み出したエネルギーに自らの命と魂をのせていた。
後に仮想霊子なるもののコアとなる、『竜の心臓』へ流し込む。
今ある災厄から逃れるため、あるいはこれから起こるかもしれない未知の災厄を逃れるため。
巨大な樹の上でエネルギーを纏い始める『竜の心臓』。
それはゆっくりと消えていき、遠いどこかへと転移していく。
ヴェノはそれを見送り、永遠の眠りへとついたのだった。
行 透流(r2p000925)の身体が再構成されていく。如何なる神秘か、それはゆっくりとだが確実に和泉紗帆としての人格を失わせ、行 透流へと変えていく。
意識のないまま、人格と共に記憶までもが消えていく。
そして目を覚ましたときには、すべてが塗り変わっていた。
透流のもった異能は、彼女を守る神の祝福にして呪い。『花葬の寵児』。腕を切り落とされても再生するその様子はあまりにも異様で、混乱する人々から恐怖すら抱かれたという。
どこから血が流れているのか、痛みの原因は何か。それすら分からぬほど、玖威 良秀(r2p000566)は瀕死の重傷を負っていた。
最も酷いのは脇腹からの出血だ。手で脇腹をおさえていると、強烈な吐き気と共に蹲り背中から軟体生物を想起させる触手が突き出した。
触手は激しく動き周囲の天使達を捕食した後、満足したかのように沈静化した。
「あぁ、腹減っタなァ……」
自分の中でナニカが激しく変容しているのが、分かった。
「深夜にケーキが食べたいと我儘を申したこと怒っていらっしゃるのでしょうか。
お人形の可愛い我儘なのに意地悪です」
シャンパーニュ(r2p002366)は店主が帰ってこない中、外の騒がしさに気付いて出歩いていた。
「ママ……パパ……どこぉ……」
家族とはぐれたらしい茶屋(r2p002910)を見つけ、優しく声をかける。
「ごきげんようごきげんようボク。泣かないでください、大丈夫。キレイで可愛いお人形が安全なところまでご一緒しましょう」
泣き声がやむ。
(お行儀良くしていれば買ってきてくださるんですよね? 苺のシフォンケーキ)
などと考えるシャンパーニュの一方で、茶屋は目元を拭った。
手を差し伸べるシャンパーニュ。その手をとり、頷く。
それが、二人の出会いだった。
これは四月三日の配信アーカイブ内容である。
天海 まいん(r2p002279)は画面に向けて苦笑した。
「うん。これはエイプリルフールなんかじゃなかったんだね。
みんなも気をつけて!」
――まいんちゃんは逃げないの?
「そう、だね……。
ホントにヤバそうなら逃げるよ。
でもリアタイの話し相手、欲しい人もいるじゃん?
初配信から4日なのにね。
どうしてこうなっちゃったかなー……」
そんな風に話していると、突如周囲に光の輪が現れた。
「えっ、ちょっと待って。
なにこ――」
そして、まいんは突如として消失した。
配信は、そこで終わっている。
アルケ プルシオス(r2p002247)は幸運な女……と言えるのかもしれない。
朝の11時半に目覚め、朝のコーヒーに砂糖を六杯、ミルクもたくさん放り込み、インターネットへと接続する。
「あれ? インターネットが繋がらない!」
Listenerの生活習慣を乱すために昼ラジオでもと思ったのに! ちくしょー!
そんな気持ちでふて寝。
幸いにも天使の攻撃を受けぬまま、気付けば四月三日の座標消失の瞬間を迎えるのであった。
目の前で妻と娘を殺された。
今の自分に、何ができるだろう。
入江 鮗(r2p002934)は地獄の三日間の中で自問自答をくり返していた。
人のため、そして復讐のため。
天使を狩る力などない。だから末端でも、自分の手で、天使を一体でも多く。
心晴れる日はきっと来なくとも……。
そんな想いを胸に抱き、鮗は軍への志願を決意したのだった。
場所はイギリス。
白の図書館の首魁カルロサ・ツェロル(r2p001513)は天使の襲撃に対し、遅かれ早かれ世界は崩壊すると判断した。
「 『司書長』より施設内の全構成員へ通達。我々は之より封印処理を開始する。備えよ」
それは崩壊後の世界においての優位権を握る為、組織を施設ごと封印し、外界との接続の一切を断つというもの。
「……一つだけ心残りがあるとすれば、我が愚妹は何処で何をしているのだろうか」
「不老不死の研究の実験体として使っていた実子の身柄を確保するつもりでいたが、それ以上に興味深い研究材料が降って湧いてきたではないか」
氷室 ヒロト(r2p002744)は不敵に笑い、街へと出た。
「あの天使と言われる怪物を構成するものを採取し研究することで私の目的である不老不死が手に入るかもしれない。
小さな物から大きな物まで、天使の構成物質で手に入る物は全て持ち帰るぞ」
混乱する世界の中で、ヒロトの目はいきいきとしていた。
「竦んだおれなんかを守って、目の前で死んだ! おれのくせに人を守るなんて考えるから! 近くで戦ってたのがおれじゃなかったら!」
蒲木 トウマ(r2p000490)もまた、天使との戦いに敗れた一人だった。あまりに多くの天使に応戦しきれず動けなくなったところを、ナチュラルの青年に庇われた救われたのだ。
「もう、いや、最初からずっと。戦うことなんて、できやしないんだ……」
失意に沈み、トウマはずるずると壁によりかかり座り込むのだった。
忌み肉(r2p002590)は死体である。正確には、放置された死体の一つから産まれた怪物である。
崩れ肉塊となった死体が動き始め、周囲の死体に肉の触手を伸ばす。それらは一体化していき、やがて大きな肉塊となった。
それが……忌み肉である。
龍神 帝(r2p002805)は親族のすべてが犠牲になったという惨状を、失った左目の代わりに右目だけに刻み込む。
忘れることはない情景を、超常の理不尽と不条理による日常の焼却を。
「お母さんもお父さんも……みんながいたんだ…ねぇ、どうしてこんなことするの?」
世界を背負う一人となった少年は静かにそして確実に戦いに身を置いていくことになる。
何も見えない未来を、突き進むのだ。
「そこを退けや羽根付きどもぉッ!」
牛山・安和(r2p000258)は路上に立ち塞がる天使を手製の金砕棒で殴りつけると、その身体を吹き飛ばした。
そして乗ってきた大型アドベンチャーバイクへと跨がると、高知の秘境をめざし再び走り始める。
「あそこの爺さん婆さんらに世話になってんだ。都会には勉強しに来てたんだが、『天使』どもの出現となりゃ緊急事態だ!」
だが、この後に知ることになる。到着した頃には村は炎に包まれ、安和は以降長らく墓守として過ごすことになると。
一方で、そんな安和を工藤・御粮(r2p001420)は中型バンを運転しながら案じていた。
「俺はともかく牛山の野郎は大丈夫かねぇ。あとは御粮軒の留守を任せたスミネも……」
などと言いながらアクセルを踏み込む。
彼のこの世界における『親』といえば、先代夫婦だ。
「だから、押っ取り刀で駆け付けるのも道理ってもんだ!」
バンは、長くくねった道路を突き進んでいく。
そのまた一方。御粮から留守を任された廿日下・スミネ(r2p001739)は御粮軒の地下部屋にて潜伏生活を送っていた。
「ゴリョウのおっちゃんや牛山のおっちゃんにも留守は任せろと言い切った以上はね。ちょっとは情報集めないとねー」
外の情報を探るすべは、ネクスト能力だ。無数のネズミを使って外の情報を探り、時に逃げ遅れた人々をネズミを使って避難所へ案内することもあった。
それは四月三日、スミネが座標消失するまで続くこととなった。
藤白 ユウ(r2p001153)は他の民間人と共に屋内に潜伏していたが、あるとき事件が起きた。
一般人が天使化するという情報がデマと共に屋内の民間人たちに広まってしまい、疑心暗鬼による争いが起きてしまったのだ。
「ま……待って! そんな確証も無いのにあれこれ疑っても……!」
ユウが呼びかけるも、争いは収まる様子がない。
そしてユウ自身もまた、不安に苛まれていた。
●
2024年4月2日。
人々が逃げ込んだ避難所のいくつかが襲撃された。それは天使によるものが多数であったが、中にはこの世界の存在が意図的に起こした破壊も含まれていた。
異界より訪れた悪しき存在が、社会の闇に紛れていた悪党たちが、夜の向こうより覗いていた異常存在たちが、人間という獲物を求め暴れていたのである。
無論それを天使達が見逃すはずもなく、逃げ惑う人々は天使の犠牲となっていく。
悪は暴力を生み、暴力はまた別の暴力に呑まれていく。
世界は混沌を極めつつあった。
「さあ、燃やすわよ!
人間だろうが天使だろうが、何だろうが、この世に混沌を齎すんなら何でもかんでも燃やさなくちゃ!」
世界が壊れた日、ドゥームズデイ。そのさなかで、火々神 くとか(r2p001650)は恐るべき炎で平和だった風景を火の海へと変えていた。
「アタシ――私――この憎悪と憤怒で世界を焼き尽くさなければならぬ!
それに加えて何処かの魔術師と約束した『激烈な闘争』!
これを成さねば『悪魔』としての名折れ!
其処の貴様、なりかけかなっているか、人間かは知らないが、私の為に燃え尽きると良い――あはは」
その一方で、クローネンブルク・V・シェーンハイト(r2p002812)は燃える街の中で逃げ惑う人間の首筋に噛みつき、血を啜る。
「ああ、とても素敵!
神秘を隠さず、弱者を蹂躙しても良いのね!
ふふふ……あっはははは! これ以上、何を邪魔する必要があるというのかしら!」
歓喜に声をあげながら、力尽きた人間を放り捨てた。
(フロレンティーナ…奴も日本にいるはずよね
見つけたら…どうしようかしら?
攫ってしまうのもいいかも!)
そんな光景の中で、ドゥーム=寿司デイ(r2p001762)が『シャリィ!』とか叫びながら回転し唖然とする人々の口へと突っ込んでいく。
燃えさかる街と殺される人々という背景がなければ、可愛い見た目ゆえにスマホで写真を撮る者が現れたかもしれないが、今はそれどころではない。
無理矢理に口に寿司を突っ込まれ、苦しみに藻掻く人々で一杯だ。
そこから逃げようとする者がいても、エンジェルドーナツ(r2p001774)が逃がさない。
DDはドーナツデイのDDだとばかりに走る人間へ体当たりを行い、次々に転倒させていく。
単体では弱く知能の低いエンジェルドーナツではあるが、群れを成して一気にぶつかってくればそれはもう暴力の波だ。常人ではひとたまりもないだろう。
「おぎゃあ!」
一方でオマエヲ=ママニスルエル(r2p003058)はわざと親と死に別れてしまった赤子のフリをし、騙されて抱え上げた女性に洗脳の力を行使していた。
そうして次々にママを増やしては、そのぬくもりに埋もれようとする。
(いっぱい愛してね、ママ)
そんな波の中にはエンゼルホーネット(r2p002855)の群れもまた混じっていた。
力無き人々を蹂躙する天使蜂の群れ。針で突き刺し大顎で喰らい、毒液を飛ばして人々を苦しめる。
これもまた個体ごとの戦闘力こそ低いものの、群れとなれば暴力の波となる。このエンゼルホーネットが『ある家族』の悲劇を生むのは、また少し後の話であった。
その一方で。
「「ヒャッハー!」」
港北区の荒廃都市、略して「北都」の ならず者やモヒカン達(r2p002889)が怪物達に交じって略奪を行っていた。
「天使様々のおかげで貴金属店までもがノーガードになってやがる!」
「昨日は天使の連中に滅茶苦茶ビビッてたじゃないですか、センパイ」
「便乗するんだ、頭を使え!」
いいながら鉄パイプで頭を殴ると、『ドぅムスっ!』とか言いながらモヒカン男の頭がへこんだ。
「おめーら、金属に価値はねぇ……水と食料を奪い、それらで支配する!」
「「ヒャッハー!」」
かと思えば、イルザ=ローレライ=フロイト(r2p001903)は神に祈る少年少女を誘致し、恐怖に震えるさまを眺めていた。
聞けば人間は天使になるという。そのさまを、この目で見られるかもしれないのだ。
「天使は貴方達を選んだの。その祈りは届くでしょう」
イルザは笑う、震える子友達を前に、そして抗う者たちを水魔法で殺し、足元に横たえて。
街が燃えている。
倉本 有希(r2p000043)の家もまた、燃えて瓦礫となっている。
両親は目の前で火の海に消えていった。
友人や弟と連絡は取れない。
「嗚呼、なんて最低/最高の日なんだろう!
アタシはこんなにも絶望で満たされている!
何処を見ても絶望する人々で満ちている!」
今は唯、この最低で最高の絶望に浸りたい。
有希は歌い出し、踊るように燃える市街地を歩き始めた。
シーナリー バエル(r2p002920)はそんな恐るべき街の様子を、どこか楽しげに写真で撮影していた。
『映え』るなら何でも良いとばかりに、天使や悪人達が人々を苦しめる様を撮影して回る。
その新たな被写体となったのはデュナミス(r2p002074)だった。
「今なら天使の材料も選びたい放題だろう?
私にとって最高傑作を作るいい機会となってくれるだろう」
そう語るデュナミスはおぞましき作品を作り上げていた。
手を取り合って逃げている者同士をくっつけたり。
大事そうに抱えてるモノの中に詰め込んだり。
興味が赴くままに作品制作を行っている。
それを無視して、ピーケニア(r2p002862)は無数の『素材』から兵隊を作り出し、人々へとけしかけてきた。
その混乱に紛れては弱い人間を襲い、殺す。そして素材が揃ったらまた兵隊を作り出す。その繰り返しだ。
もしかしたらすぐに『狩られる側』に回るかもしれない。だが今は、間違い無くピーケニアは狩る側だ。
「繧セ繝ウ繝灘ィ倥>縺」縺ア縺?▽縺上k縺槭??」
祝福の星(r2p003090)はそうして作られた無数の死体を前に、元気いっぱいに声をあげた。
死体へ手当たり次第に取り憑き、操り、そしてまた人へ襲いかかる。
寄生先には困らなかった。なにせ周りの怪物や狂人たちが次々に生産してくれているのだから。
その一方でヤオヨロズ(r2p002852)は無機物を破壊し取り込み、自らを強化していた。
それを見つけた警察官らしき男が銃撃を仕掛けてくるが、ならばとばかりにヤオヨロズは強化した肉体を駆使し警察官へ襲いかかる。
何体かは銃弾によって弾かれるが、そのうちの一体が鋭い刃のようになった腕を警察官の肉体へと突き刺した。
そんな光景を前に、ミリア・E・テネブラエ(r2p002164)は血の魔術を放ち自分に銃を向ける警察官を串刺しにしていた。
「審判の日、来たれり。そう表現すべきかしら?
でも……素晴らしいわ。こんなに退屈な世界の理が砕け散った。こんなにも簡単に世界は終わった。
嗚呼、だからこそ…この饗宴を楽しみましょう。盛大に」
人間、天使、怪物。
関係はない。ここにいるは血の伯爵夫人。
血を浴びながら、微笑む。
「嗚呼、これこそが私の求める世界」
血にまみれた街。それはブラッドサッカー(r2p002864)にとって楽園のようだった。
人々を襲い、刻み、血を啜る。
無数のブラッドサッカーたちは逃げ惑う人々へと襲いかかり、獣のように血を啜り続けている。
かろうじて抵抗しようとする人間の姿もあったが、考えもなしに飛び込んでいくブラッドサッカーたちを前に次々と犠牲になり、やがては皆呑み込まれていく。
そうした群れから逃れた人間を、グルグルヤンマ(r2p003014)は見逃さない。
虹を出す魔法にかけ、そのまま頭からバリバリとと捕食していく。
皮肉というべきなのか、ぐるぐると風車の回る街を背景にグルグルヤンマは黙々と捕食を続けていた。
無論、一体だけではない。おぞましい光景を目にした者が顔を上げると、無数のグルグルヤンマが羽根をならしながら飛んでくるのが見えるだろう。羽根の音が、絶叫によって上書きされる。
「ヒトを、救ってあげなければいけません」
その一方で、この世界へと降り立ったRamiel(r2p003072)は己の赤槍で人々を貫いて回っていた。
「ルゥちゃん。どこなのですか……」
槍で人々を突き刺しながら、かつて同じ世界にいた妹の姿を探す。
――ヒトには救いを。
――無力なヒトには安息を。
メモリール(r2p002521)の話をしよう。
天使を誰かがバットで粉砕する動画が拡散された。
それは一部の人々に『こいつなら倒せる』という誤認を、与えてしまった。
誰かを守るために棒切れを手に立ち向かうという者たちが現れ、そんな善意を抱いた者こそ集団で狙われ捕食され、守りたいものが次の犠牲者になった。
独善的に広められた希望は、いくつもの犠牲を生み出してしまったのだった。
「まるで天国の様だ! ビュッフェを楽しめる機会もそうそう無い」
夢渡 善次(r2p002118)は歓喜の声をあげ、人々の悪夢を喰らっていた。
『偽りの陽だまり』で眠りに誘い『夢の永逝』で堪能する。それによって自害する者が現れても知らぬ顔をし、どころか食べかすになった人間の心を壊していく。
「もっと上質な悪夢を。深淵から溢れる様な絶望の味を楽しませてくれ」
「かみさま、私は悪いことをしました」
朝日奈 茜(r2p001187)は、この災厄の中で沢山のものを見た。
略奪。殺人。天使になったばかりのひとを殺す光景も見た。
「人って助ける意味あるのかな? 私が助けるものはなんなんだろう?」
『助けを求める人々』の気配は未だ鳴り止まない。
人を助けるために人を殺す、私がなりたかったヒーローはこんなんじゃない……。
「かみさま、私はわるものです……」
「私の傑作、なんか壊れていたけど。でもさ、これってある意味チャンスだよね。
だって世界はこんなにも『材料』で溢れてる!」
赤城 ゆい(r2p000199)が手を広げ、炎と血にまみれた街を指し示した。
「これが天使の吹いた喇叭って言うなら便乗するしかないよね」
その言葉に応じて、Hiltier・Dream(r2p000313)は頷きながら天使を切り伏せていた。
「我が天下無双の太刀筋は何人にも止められぬ」
と、そこへ。"伝説殺し”(r2p001631)が壁を突き破って現れた。
「殺す。奪う。戴く。
なぜ"俺”は倒される。
なぜ"俺"は殺される。
なぜ"俺"は生まれる。
ウゼェ、楽しい、気に入らない。
そうだろう『伝説』共」
その姿に、Hiltierが振り返る。ゆいは『芸術作品』を作ることに夢中だ。
「出たか"伝説殺し"。今はタイミングが悪いんだ、さっさとご退去願おうか」
Hiltierの剣が"伝説殺し"を切り裂いて行く。再生する身体で、"伝説殺し"は全力の殺意を向けた。
(殺し『**』を奪って俺が、"俺達"が……?)
不思議な考えが、よぎる。だがそれは一瞬のことだ。
「……ハハッ どうでもいい くだらん」
笑い飛ばし、"伝説殺し"たちは殺し合いを再開する。
崩壊する世界の中で、岡 賢太郎(r2p001309)は見知った後輩と出会えていた。だが……。
「先輩は早く避難を! 天使は連れてっちゃいますね!」
そう呼びかけ、後輩は非人間的な速度で動き、飛び跳ね、天使をおびき寄せ遠くへと去ってしまう。
何故あいつが……。
口喧嘩もしたが、あいつは仲間だと思っていたのに……。
深い絶望と後悔に思わず叫び、そして……賢太郎の記憶は塗りつぶされた。
執筆:黒筆墨汁