4月2日 - Part6
高台の公園。そこより眼下を見据えれば……海より飛翔しながら至らんとしている天使の群れが見えた。このままであればもう間もなく上陸し、周囲を蹂躙せんとするだろうか。
――させない。
「見晴らしが良いって最高ね? あちらもこちらも窺える。
さて、と。一時の時間稼ぎに過ぎなくても……ここは通さないわ!」
「まずは私が行くよ、リナーリアちゃん。零れたのは任せるから」
それらに立ち向かわんとするのはシェニユア・クィリシスソード(r2p000548)にリナーリア・ステラ・グレイ(r2p000796)であったろうか。シェニユアが跳躍すれば超速の軌跡を描いて天使らへと先制する――彼女の指先に纏う神秘が敵を切り裂くのだ。
一体、二体三体……それでも数が多ければ抜ける天使もいる、が。
そこはリナーリアが穿つ。輝く矢を顕現し、流星の如き一閃を紡げば撃ち落とそう。
「私の宝物を怯えさせるな!」
「――サヤちゃん!」
そして。一喝しながら天使を切り伏せるのは館御堂・JJ サヤ(r2p002871)だ。
漆黒の直刀。己が得物を手に、破滅を齎さんとする者達に抗うのである。
傍には七星・葛葉(r2p001123)の姿があったろうか――
……しかし残念ながら天使達はあまりに多数だった。
自身の持つ店を、そして葛葉やその家族をこのままでは護り切れない――ならば。
「葛葉ちゃん。これを持ってて。
これは葛葉ちゃんが守る為に……
生きる理由ね、必ず返さないと」
「――うん。あーしだって、護られるだけじゃない!
絶対にまた会おうね、あーし待ってるよ!」
渡すは警棒。貸すだけだ、と。必ず返してほしい、と。
生きる約束と共に一端別れようか。
サヤは残り敵を引き付ける。葛葉はまた会う場所を決め、そこへ先に避難する。
待っている。必ず行く。
そう、両者共に堅く決意しながら――別れ往くものだ。
……だが。彼女らが再び出会えるのは、遥か遠い未来での話となる。
はたして長く、永く『待つ』ことになったのはどちらの事であったか――
執筆:茶零四
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4月2日。
各地の混乱は収まる様子がない。
【黒白虹】ペア、黒画 ネラ(r2p000293)も友達である絵空 白紅(r2p000568)を連れ、天使が暴れる街を逃げていた。
向かい来る最下級である天使級程度を、ネラは鋼の硬度に高めた触手で貫き倒す。
「大丈夫、きみだけなら、守れる……」
自信をつけるネラに対し、白紅は悔しさをにじませる。
「俺ぁ守られてばっかだな、くそっ」
その時、ネラの後ろ、白紅の真横の建物が延焼によって崩壊し始めた。
(……っ、捻っちまった足じゃ逃げられねぇ、か)
ネラは建物が崩れる音に気付いて振り返る。
(ネラ、お前と一緒で心強かったぜ。守る、とかじゃなくて友達が居てくれた事がさ)
落ちてくる瓦礫に埋まってしまう前に、白紅は一言。
「ありがとう、ネラ」
「びゃっこーくん……?」
ネラは必死に腕を伸ばす……が、
轟音に巻き込まれた白紅は瓦礫の下敷きに……。
――守れなかった。
「どう……して……! なんでだ、よ……ぉオ!」
絶叫をこだましたネラはすぐ、瓦礫を除去し始めた。
――絶対、絶対に助ける。
ネラの強い想いは白紅を助け出すことが叶う。
しかし、危篤状態の白紅は昏睡したまま。
目を覚ました彼の記憶がなくなっていたことをネラが知るのは少し先の事だ。
花嵐 かなえ(r2p000351)はなんとか、避難所へと駆け込めたが。
この状況で憂うは、4月に開催予定だったかなえの初ライブのこと。
地下アイドルである彼女は、『花嵐かなえ1stライブ!チケット』の余りを鞄へと入れたままにしていて。
思わずそれらを握りしめ、ぐしゃぐしゃにしてしまう。
「あはは。こんな時に私は自分のことばっかり」
乾いた笑みを浮かべるかなえの目から、ほろりと涙が零れる。
――皆、無事だといいな。
明日は、もっと楽しいものだと思っていた。
こんな明日が来るなんて、思ってもいなかった。
「どうして、どうしてどうして……」
畑中 雄二(r2p002270)は、妻……畑中 結(r2p002383)の亡骸を抱えて歩く。
もはや、温もりすら感じぬ彼女は約束してくれた。
――ずっと一緒だって。
結はそう告げ、雄二を護って1人、死んでいく。
お爺ちゃんになってから迎えに来てと、一方的に新たな約束を取り付け、雄二を置いて逝った。
残された者の辛さなど知らぬまま、幸せなまま。
さらに、雄二は追い打ちをかけられるように、たどり着いた実家で崩れ落ちてしまう。
無残な姿となった両親、そして、義父。
大切な人が皆いなくなってしまったとしばらく放心する雄二。
彼が義母の遺体が無いことにきづくのは、少し後のことである。
月櫻 ルキ(r2p001550)はわけもわからぬまま、本家の敷地にあった地下へと連れてこられた。
秘匿されていたはずのその場所には、非常用物資が用意され、家人他数名がいた。
とうさまがかあさまをつれてくると言い残して数名の男性と外へ。
きっと、何かが起きたんだと幼いルキは確信する。
(ぼくは残った唯一のおとこのこだから、ちゃんとみんなをまもらないと)
すごく怖いけれど、体の中の血ががんばれって言ってくれている。
ルキはそんな気がしていたのだ。
「しかし、突拍子もいい所ですよ」
アーネスト・マルトラバーズ・シートン(r2p001297)もまた天使による多数の死者が出た状況と合わせ、各地に天使が現れていることも考慮し、腹をくくったようだ。
リカオンの姿へと変貌したアーネストは、なるべく孤立した天使を襲撃して噛み砕き、少数の天使を相手にしつつ安全確保に努めていた。
天使から逃れ、避難する途中で負傷した人々を、羽取 アヅサ(r2p002794)は救護に動いていたのだが……。
声をかけたのは運悪くというべきか、人間に擬態した天使。
若い頃は甲斐の雌虎とも呼ばれていたアヅサ。
そんな彼女であっても、天使の前では赤子も同然。
愉悦の笑みを浮かべたそいつの圧倒的な膂力を持って、アヅサは叩き潰されてしまう。
周囲の被害者と同じく、人としての形状すら残さぬ残骸となり果て、一体どれがアヅサだったのかがわからぬ状態に。
それでも、確かなことは、ぶちまけられた脳漿で羽取家一同が再び笑い合う未来を希望していたことだけ……。
天使と対する人々の状況は様々。
各地の状況は時間を追って具体的な情報として入ってくる。
その中には悪の大魔王の仕業だとか、どこかの強国の生物兵器とか、色々なデマが出回っており、百合草 瑠々(r2p002138)はどうしようもないと頭を振る。
「いよいよ人類も終わりか」
此間、異世界から帰ってきたばかりという瑠々は、運が悪いと半ば諦めの境地で天使相手に先日入手した刀を手に奮い立つ、が。
「生憎死なねえのがウリだったんだが……こっちじゃそうもいかねえな」
ネクストによる影響もあり、不利を悟った瑠々はすぐにその場を後にしていた。
戦地に向かう母親の傍へ密かについてきていた此之森 マモル(r2p002986)。
その緑色ふわもふドラゴンはまだ3歳だったが、幼いながらに天使の群れに立ち向かう。
「ぼく、ここ、まもる!」
本名が発音できなかったのか、それを元に避難民から名付けてもらったマモルは天使に立ち向かう。
『彼らを守りなさい』
……過酷な戦闘に赴いたまま帰らぬ母親の言いつけを守りながら。
とある教会の神父……を隠れ蓑として活動する魔術師であるオルクス(r2p000443)。
アマチュア無線により、彼は外の状況……天使の侵攻を知り、結界を張って教会に籠城していたのだが……。
「……馬鹿げた話が傾れ込んでくるわね」
嘆息する彼は、天使なる者の姿をくだらないと一蹴する。
――もっと悍ましい姿でもしていれば、天使と認めてやったのに、と。
装甲しているうちに、天使の猛攻に結界が限界にきている。
「下がってなさい」
持ち堪えられるだけ持ち堪え、結界が破られてすぐ、オルクスは迎撃に打って出る。
「その命、この銃と私に、預けて頂戴」
中の人々の肯定を視認し、オルクスは構えた銃に魔力をこめた弾丸を込め……発砲する。
放った弾丸と合わせ、結界の展開で天使の突入を食い止め、オルクスは後方の人々に防御魔術を施す。
後はやれるだけやるのみ。
オルクスは総力を使って、襲い来る天使を撃退する。
逃げながらも交戦する者も少なくなかったが、面と向かって天使へと立ち向かう者も少なくない。
紫水 シューヴェルト(r2p000582)は父からのメールに従い、天使に応戦する。
「僕の名はシューヴェルト・ルビーブラッド。人々を守るために力を貸そう」
名乗りを上げたシューヴェルトは、その辺で拾った鉄パイプと、とある商店で入手したサーベルを獲物とし、仕掛ける。
しかし、なおも襲い来る天使は容赦なく腕を振り下ろす。
「うわあああああ!!」
ヴァルグ・ナット(r2p001876)は今まさに少年へと手を掛けようとしていた化け物をがむしゃらに殴り飛ばす。
こんなにも力を込めて、何かを殴ったのは初めての事。
「っは、っは、っは……!」
手に残る感触が実に生々しく、気持ち悪い。
もともと、人より少し力持ちだったのは把握していたヴァルグだったが……。
「いや、そんな事より! だ、大丈夫で」
「う、うわああああああ!!!」
ヴァルグが声を掛けようとした少年は、悲鳴を上げて逃げてしまう。
明らかに怯えたあの目に困惑し、ヴァルグは彼を追うことができなかった。
「僕達の大好きな人類の皆が殺されてしまう! 守らないと!」
その戦いに、ケイティ・ノース・ノース(r2p000901)も人類を守るべく加わる。
(ああ、こんなことになるなら世界の目を気にせず人体改造を進めるべきだったよ)
天使たちが蹂躙してくるこの惨状に、ケイティは思う。
――僕達みたいに、多少の攻撃なら無傷で済む丈夫な体を与えてあげられたのに!
……と。
「吸血鬼というのは意外とタフなんでね……さあ、反撃をしようか」
シューヴェルトは天使の攻撃を順調に捌き、持ち前の剣術に加え、吸血鬼としての力も覚醒しており、天使相手にうまく立ち回って人々を守り切る。
そんな共闘相手の前線ぶりを見つつも、倒れる天使を見下ろすケイティは。
「ありがとう」
聞こえないだろうけどと小さく呟いた後、彼女は小さく笑って。
(……この光景を見て心躍らせるなんて、僕はそういう奴だったんだなあ。ふふふふ)
人々を守れたことよりも、素材に目を輝かせるケイティだ。
この事態に、アルエ・ツバキ(r2p002618)は一風変わった形で対する。
(非常事態というのは身寄りのない汚い餓鬼にとって旨味も多くあるが、一番に切り捨てられ生贄にされやすいというリスクも存在している)
とある避難所へと擦り寄ったアルエは、そこの人々に『資材の回収、行方不明者の捜索や遺品回収』を売り込み、スカベンジャーとして活動するよう自らの価値を売り込む。
灰と泥に塗れ、まだ燃え盛る廃墟の中を突き進み、アルエはしばらく街を駆け抜ける。
「なんか知らぬが、またバケモノのいる世界に飛ばされてしまったか」
この世界へとやってきたLuxuria様(r2p002398)はまあ善い、許すと寛大な態度をとって。
「前の世界は歯ごたえがなくて退屈していたところだ。この世界では楽しませてくれよ?」
彼女もまた人外の1人。
Luxuria様はバケモノに突っ込み、その生命エネルギーを喰らっていく。
しばしの交戦の後、天使を屠ったLuxuria様。
人々に例を言われるが、彼女は尊大な態度を崩さない。
周囲の人々を助けたつもりなどなく、Luxuria様はただ殺し合いをしたいだけなのだ。
執筆:なちゅい