4月3日 - Part4

●4月3日
 星空を覆う、白い翼。
「しろくて、きれいで……でもおぞましい。あれが天使などと呼ばれているのですか」
 アステル・ウーラノス(r2p002465)が呟く。
「まるで……」
「悪魔だ……」
 アステルの言葉を受け取ったのはヨフィラ・ウラノ(r2p000045)。同意するようにエウレカ・カルヴァド(r2p002196)も呟いた。
「ほんと、最悪の景色ね」
 どこへ逃げても追いかけてくる天使。最年長のエウレカはしっかりしないと、と言い聞かせ持ってきた消火器と包丁を握りしめた。
(気休めになればいいけど)
 安全な場所を求め、さまよい歩く三人。避難所は壊され、身を寄せた次の避難所もまた。
(今この世界に、安全な場所なんてあるのかしら)
 アステルは嘆くように歩を進める。絶望に包まれる三人に、絶望という名の天使が襲いかかる。
 護身術程度しか使えぬアステル。自分の身を守るのが精一杯。でも、二人のことは守りたいから。
 狙われたヨフィラを庇うように、アステルは身を挺して。
「だめ……ッ!」
 天使の爪がアステルを深く切り裂く。真っ赤な血が溢れる。
「アステル! なんで俺を……」
 眼の前で倒れるアステルをヨフィラは呆然と眺めて。エウレカはアステルの血を止めるためにハンカチで傷を抑えることしかできなくて。
(ヨフィラにアステル。未来ある子供を守れない、馬鹿な私)
 エウレカはぎゅっと目をつむる。
(死にたくないのは、皆一緒なのに、守れなくて、ごめんなさいね)
 ふらりとエウレカは立ち上がる。その背に天使の羽。まるで囮になるかのように、エウレカは天使のほうへ進み出る。
「エウレカ、何処へ行くんだ……?」
 ヨフィラの声に、エウレカはふわりと微笑むとまっすぐ天使のほうへ。群がる天使たち。そしてエウレカの姿は見えなくなる。
 気が付けば、アステルの姿も消えていた。
(星よ、聞こえますか……オレに力を貸してください……二人をお守りください……)
 けれども、星は何も応えることはない。
(何度唱えても、何故何も聞こえないんだ? ……オレひとりじゃ……何もできないのか……? オレは……!!)
 それは、本当の絶望。ヨフィラは空を仰ぐ。
 九重セナ(r2p001747)は他の安全地帯を探すために多人数をまとめて移動していた。
 皆を励ますセナを嘲笑うかのように現れたのは複数の天使。多くの者が蹂躙される中、セナは小さな子どもたちを先導して走り出す。
「こっち、こっちへ早く!」
 けれども天使は嗤いながら子供を狙う。セナはその場にあった消火器を手にし、ぶち撒けた。自ら囮になり、子供たちを託してセナは別方向へ。
 怪我を負いながらも廃墟に転がり込み息を潜めるセナ。けれども。
「ぐっ……!」
 天使症候群の急変。顕現する翼や天輪。その激痛に声をあげれば、天使がセナを殺しにくる。天使の顔が迫る。
(殺される……!)
 その寸前、セナは座標消失した。
 壬生暁兵衛(r2p000501)は妖混じりの家系に生まれ育った少女だ。元々妖怪狩りをしている家系、その頭。鬼の角と雪女のような色素の抜けた髪から、人里離れた山間の集落で暮らしていた。
 だが、そんな集落にも天使は等しく来襲する。とは言え、暁兵衛は「天使」という概念もない。
(天狗か!)
 災いをなすもの。暁兵衛は天使を狩り、時に食べ、集落を守っていた。守りきれると思っていた。
 自身が、座標消失しなければ。
(消えていく……?)
 同時に集落が襲われていく。何もできない悔しさ。何が起こっているのかわからない混乱。
 最後に暁兵衛が見たのは、義弟が天使に襲われている姿。そして、彼女は座標消失する。
 錆びた金属が擦れるような音。それは月音涙(r2p000814)から絶えず響いていた。
 彼は廃材や壊れた金属部品などで構成された竜人のような姿をまとい、それでも、一人でも多く助けるべく、天使に立ち向かう。
 人を助ければ石を投げられる。
『化け物の仲間が、寄ってくるんじゃねぇ』
 手を差し伸べれば怯えられる。
『来ないで』
 それでも、助けるために。
『死ね、化け物』
 拒まれ、避けられ、果てには人からも攻撃されて。
 それでも、それでも。
(あの子なら、きっとそうするから)
 涙は、人を助ける。
 目に入ったのは降り注ぐ瓦礫の下、逃げ遅れた子供。涙は走り、助けるように子供を突き飛ばし、自分は瓦礫に潰され――。
(何を為すべきだったんだろう)
 座標消失、した。
 炎藤あやめ(r2p001143)はAdalfried Luitharding(r2p000118)に守られるように、けれどもいざとなったら自分でも戦えるように鉄パイプを握っていた。
「俺はお兄ちゃんなんだから、俺がやらなかったら誰がやるっていうんだ」
 いまいちまだAdalfriedのことは信用できないながらも、守ってもらう立場、彼の死角を警戒する。
 Adalfriedはあやめを背に、ひとり血路を切り開いていく。ラインの黄金に呪われた肉体は、並の天使ならば両断できるほど。数多の戦場で培った技能を駆使すれば、大天使だって立ち向かえる。
 だが、一人では限界もある。
「アダル、上だ!」
 対空警戒が緩んだ瞬間、あやめの声が響く。Adalfriedは視線を上に、そして素早く印地。放った石は天使を撃墜させた。
 けれども危機は危機を招く。今度は背後からの不意打ち。
「あやめ!」
 Adalfriedが動く寸前に、あやめの体から炎が上がった。燃え盛る炎はあやめに襲いかかった天使を撃退する。
(これは……?)
 混乱するあやめを宥めるように、Adalfriedは言った。
「獅子公が臣、騎士アダルフリードの名に懸けて、君を安全地帯まで守り抜くと誓おう」
 崩壊した甘咲家内。二人の姉妹がずっとここに隠れていたが、天使に気づかれてしまった。
 天使は幼い姉妹だからといって手加減はしない。先に攻撃を受けたのは妹の甘咲セララ(r2p000056)のほうだった。真っ赤な血が飛び、セララは吹き飛ばされる。
「セララ!」
 姉の甘咲クリス(r2p001682)が駆け寄り、抱き起こす。
「血が止まらない。死ぬな、死なないでくれセララ!」
 泣くクリスに、セララは微笑むのだ。
「お姉ちゃんが無事でよかった」
「セララ、セララ……!」
 クリスはぎゅっとセララを抱きしめる。セララは幸せそうに目を閉じた。
「大好きだよ、お姉ちゃん。ばいばい」
 セララは光に包まれた。クリスがそのまばゆさに目を閉じた次の瞬間には、クリスの手の中にセララのぬくもりも、存在もなかった。
「セララが光になって消えてしまった。死んでしまったのか? 嘘だろう?」
 涙がこぼれる。腕の中にあったぬくもりを探すクリスにも容赦なく天使の攻撃が迫る。
 クリスは、絶叫した。悲しみと怒りと妹を守れなかった情けなさと。
 全てを内包した声と同時に翼が広がる。覚醒。クリスはセララを消した天使へと立ち向かう。
 遠い未来でまたセララと会えることを、今のクリスは知らない。
 犬社養護院。そこには「ヤシロ様」を祀る小さな祠があり、犬社家を守る神として大事にされていた。そのせいだろうか、養護院に隠れる者は天使の襲撃を受けていない。
 養護院で育った者たちも、守るために戻ってきていた。それを犬社光理(r2p002319)はとても嬉しく思っていた。同時に……犬社燕青(r2p000362)に生えてきた翼を気にもしていた。
 養護院の子供たちが燕青を怖いものを見る目で見るようになっていく。まるで「天使」みたいだ、と。
「どうして皆して怖い目で見るんだ? どうして怯える。守るために来たし、4月1日からずっと一緒にいたじゃないか」
 燕青の言葉に子供たちは何も言わない。光理の後ろに隠れるようにして怯える。それが燕青には疎ましい。
「そんな目をするなら殺してしまってもいいよね?」
 それは狂気をはらんだ声だった。光理は首を振る。
「駄目よ……」
「だって、君達が羨ましいんだ。燐の愛情を受けている」
 燕青がずっと恋していた、愛していた、犬社燐(r2p000225)。クリスマスにようやく恋人同士になるまで、彼女は燕青の想いに気づくことはなく。
 ただ燕青は、彼女の愛を欲して。
「恋人になったのに、その愛が僕だけを見てくれないなら、君達を殺すしかないだろう?」
 燕青は当然のように、子供たちを手にかけ始める。
 ――数時間後、到着した燐が見たのは、殺された子供たちと光理に手をかけている燕青の姿。
「どうして……」
 眼の前が暗転していく。燕青は光理から手を離す。どさりと光理は転がった。
「ああ、燐。遅かったね。君が悪いんだよ。僕を見てくれないから」
 燐はそこで後悔を抱く。自分は燕青のことを真剣に考えていなかったのではないか――。
「おいらの、せい……?」
 世界が色を失っていく。その時、光理の最期の祈りが聞こえた。
「土地神よ、どうか、彼女を御守りください」
 瞬間、光が溢れる。燐は後悔の中、座標消失に巻き込まれていく――。
 奥見侑汰(r2p000478)と藤園茉莉(r2p000466)、久留須カナタ(r2p000101)の三人は同じ施設で育った幼馴染だ。
 施設を出て東京で過ごすことにした侑汰。そして施設の地元で想いを通わせ同居を始めることにしたカナタと茉莉。三人はそれぞれの場所で、新しい道を歩み始めるはずだった。
 だが、侑汰は壊滅した東京にて理不尽な怒りと憎しみを抱き、それが罹患した天使症候群の症状を劇的にまで亢進する。例外的といえるほど「素早く」「華やかに」「著しく」天使化したした侑汰は、3日には大天使と肩を並べるほどの存在になっていた。
 一方で、カナタと茉莉は侑汰を心配し、危険な中を東京までやってくる。
 そして、二人は天使と化した侑汰と再会する。
「侑汰……」
 カナタの声に、侑汰は狼狽する。聞きたかった声。聞きたくなかった声。
「僕を、見ないで」
「侑くん」
「見ないで!」
 侑汰の力が暴走した。手を伸ばした茉莉を吹き飛ばす。紅が舞った。茉莉は地面に叩きつけられ、転がる。
「茉莉!」
 カナタは茉莉に駆け寄り抱き起こす。侑汰は困惑し、狼狽し、後ずさった。声を上げて去っていく。その声は泣いているようにも聞こえた。
 茉莉はその侑汰をカナタの腕の中で見送りながら、心配そうに言うのだ。
「カナくん……侑くん……二人にはずっと……笑っていて欲しい、な……」
「茉莉」
 カナタも侑汰の背を見送りながら、ただ茫然と呟く。
「茉莉……俺、侑汰に……なんて言えばよかったんだ……」
 茉莉からの返事はない。カナタだけ光に包まれ――そして、カナタと天使になった侑汰は、未来で出会う。
 立花汐(r2p001218)と立花椛(r2p001244)は年の離れた義兄妹だ。最近兄妹になったばかりの二人はぎこちないながらも少しずつ「家族」を構築していっていた。GWには旅行も予定している。すべてが幸せへ向かっていた――はずだった。
 突如襲来した天使から、立花家は逃げ惑う。義父と共に安全な場所を探し走る汐。義母に手を引かれその後に続く椛。そんな四人の背後から天使が襲ってきた。
 椛が転ぶ。天使が槍を椛に向けて構えるのと汐が椛へ手を伸ばすのは同時。届かない。間に合わない。汐が歯がゆさを覚えた時、椛の義母、汐の母が椛を庇っていた。
「っ母さん!!!」
 目を見開く。椛の頭上から降り注ぐ血。崩れ落ちる母の盾になろうと立ちはだかる父。
「お父さん」
「いきなさい、椛」
 最期の力で、義母は、母は、椛を汐のほうへと押し出す。行きなさい、生きなさい。
(まだ大丈夫、早く助けなくちゃ)
 汐は椛を抱きしめながら思う。でも、体は言うことを効かない。
 汐の焦る思いを嘲笑うかのように悲劇は続く。椛が汐の腕の中から垣間見たのは、父ごと串刺しにされる母の姿で……。
「いや……いやぁあああッ!!!」
 悲鳴は未来へと遠ざかっていった。
 すべては、未来へと続いていく、思い――。

 執筆:さとう綾子


●3rd day
 悪夢は続く。天使たちが人を見つけては殺していく。
 目立つ大きな建物は沢山の天使たちにあっという間に壊されて、天使に直接攻撃されなくても落ちてきた瓦礫で大量に人は死んだ。家族も知り合いも、死んでいく。諦めて死を受け入れる者も、恐ろしさに自ら死を選ぶ者も、みんなみんな死んで、命の儚さを思い知る。
 けれど生きねばと抗い続ける者たちもいる。救わんとする者たちもいる。――志半ばで命を落とす者も、様々な突然の『アクシデント』に見舞われる者も……3日目でも、人はまだ、生きている。
(何がどうなってンだ?)
 ガロウズ(r2p002543)の廃ビルに避難してきた近所の老人が天使となった。
 この数日で天使は敵だと言う認識が既にある。
「丁寧に、送るから……許してくれバーサン」
 他の避難者を守るためにも、ガロウズは手斧をかつての知人へ振り下ろした。
 ああ、いつになればこの悪夢から抜け出せる?
「こんな極東の地で死ぬとか冗談じゃないのよ!」
 気力を奮い立たせて3日間戦い続けてきたアイシャ・ローレンス(r2p001574)も、体力も精神も限界が近い。戦える仲間たちは天使の攻撃か何かで突然消え、戦力は減っていき――アイシャも深手を追い前線で立ち回ることが不可能となった。
 けれども人が諦めない限り、戦いは続く。
「アステル」
「ええ、兄さん」
 兄たるニュクス=ブルーローズ(r2p001836)の声にアステル=ブルーローズ(r2p001545)が応じる。ニュクスが放った氷攻撃で動きを鈍くした天使へとアステルが刀を振るい、胴と首とを切断した。
(まさか故郷を滅ぼした敵がここにも現れるとは)
 義妹に滅びの道を歩ませたくはない。
 兄としてアステルを逃がしてやりたい。けれどアステルも大切な義兄を守るため、守られるだけではない。必死に足掻き、兄を守らんとする。血は繋がらねど、兄妹の絆は確かに此処に。
 ――見知らぬ侵略者と戦う僕。
 かつて夢見たシチュエーションは叶ったが、底が知れぬ戦いに小鳥遊 小夜(r2p000635)は現実を知った。侵攻規模が大きすぎて一個人がどう頑張っても焼け石に水なのだ。
(でも、できることはある)
 人々を救う最中、小夜は人知れず姿を消した。
「こんのやろー、リニューアルしてなんかバグってる莉乃ちゃんの本気を見せてやるってんだぜ!」
 何か知らないけど菅集 莉乃(r2p002831)は唐突に戦えるようになった。まるでゲームみたいだ。
 でも戦えるようになった以上、戦う。暴れる。突然世界から姿が消える、その時まで。

「なかなか使い勝手がいいぞ、カイリ」
 新見 カイリ(r2p001954)の発明品のガジェットは天使を気持ちいいくらいに撃破することが叶い、皐月 ソラ(r2p001953)はシェルターで笑顔を見せた。
 けれどそれは突然起こる。現時点では何が起きているのか誰も解らない現象で、解るのはただ、親友が眼前で消えようとしていること。
「どうにも、いったんお別れみたいだ」
「……貴重なデータだ。取らせてもらうよ」
 薄れていくソラの姿は死ではない……と、思いたい。だからこそ、カイリはそう口にして機材を整えた。
「もう逃げられない……サメが食べにくる!」
 精神病院〝横浜臨海病院〟にて膝を抱えて震えていた山裾 嘉次郎(r2p002275)が鮫の幻覚の恐怖限界に達し、大部屋を飛び出した。その瞬間彼の姿は消え、残されたのは彼を止めようと手を伸ばした職員たちの唖然とした姿のみであった。
「にしゃ、こぎゃんところにおったんか」
「な、なんであなた達が……こ、こんなところに……っ」
 こんな時だと言うのに婚約者と父親が現れ、川内 壱縷(r2p000255)は狼狽えた。
「さぁ帰ろう? 僕の傍に居ればこの脅威から守ってあげられるよ?」
「っも、戻りません……」
「ほら、ワガママもよか加減にせんか!」
 葉加瀬 凪(r2p000372)がうっそりと笑い、川内 忠文(r2p000498)が頬を張らんと腕を振り上げた。その時、まるで壱縷を守るかのように異変が起きた。
「……なんやこれな、どげんなっちいる!?」
「壱縷っ! 僕はね、本当に君の事がっ!」
 ふたりが消えた。壱縷は頭を庇う姿勢を解いて視線を彷徨わせ――ハッと思考を取り戻す。何が起きたかは不明だが、ここに留まるのは危険そうだ。
 危険じゃない場所が、もうこの世界にあるのかわからない。
 けれど人はそれぞれの場所にいる。思い出の場所であったり――此星・ウカ(r2p000601)は公園だった。
「ウカちゃん」
 桜の下。そこへ愛猫を弔っていたウカは声をかけられた。振り返ると、そこに居たのは見知った顔で。けれど何故だろう、日下部・遊楽(r2p002801)には翼が生えていた。
「ウカちゃん、好きだよ」
 立ち上がりかけようとし、ウカはバランスを崩す。
 痛みと熱が足に走り思考が赤に染まる。両足が失われたのだと、すぐには理解に至らない。煩いくらいに危険信号が頭痛となって発せられ、ウカはこれだけは奪われたくないと姉の形見のネックレスを飲み――気を失った。
「アカリ……どこにいるんだ……」
 海道 タクヤ(r2p000055)はもう3日、妹を探し続けていた。天使も、天使を倒している人も恐ろしい。様々なところから聞こえてくる悲鳴だって恐ろしい。
「う、うわ……!」
 天使に襲われたと思った途端、目が熱くなり――眼前で天使が死んでいた。
 妹の海道 アカリ(r2p001575)もまた、目覚めたばかりの力を使って兄を探していた。
 けれど――
「お兄ちゃんの気配が……感じ取れない……」
 絶望がのしかかる。けれども、この力も完璧ではないのかもしれない。探さなくちゃとアカリは再び顔を上げ、兄を探し彷徨うのだ。
 混乱の最中で、身内と分かたれるのは辛い。シャウラ=ルクシローズ(r2p000820)とエルタニン=ルクシローズ(r2p000839)の姉妹もそうであった。
 相手を探しながらも、抗う手段もなく逃げ惑う。そんな最中に異変が起こる。
「な、何、なんなの!?」
 姉は突如発現した力に困惑し、
「姉さん! 姉さんどこにいるの!?」
 妹はその力をもって障害となる天使をふっ飛ばしていた。出会えると信じ、諦めず――そうしてふたりは離れた場所で忽然と姿を消したのだ。
 離れた場所でも、すぐ近くでも、町中でも。人が突然消えていく。
「新宿って歩くと結構遠いんですね……」
 ホストクラブの取り立てから逃れるために新宿を離れた藤見野 朝霞(r2p000622)だったが、結局行く場所もなく戻ってきた。こっそりと隠れ歩き、空を見上げれば天使がビルを――落ちてくる瓦礫が視界いっぱいになったところで朝霞の姿も新宿から消えた。
 知人がどうなったのかもわからない。でも逃げねば犬吠埼・のどか(r2p002423)は間違いなく殺される。
「……え?」
 けれど同じ状況の人を見捨てることも出来なくてどうにかしなきゃと思った時、のどかの中で何かが目覚め――そうして同時にのどかの存在は世界から消えた。
 眼の前で誰かが消える瞬間を目にした者も既に多くあるだろう。防衛前線で消えればどうなるか――
「よし、この調子で防壁を作って安全陣地を確保しましょう……!」
 芸術魔術による防衛、そしてそこからなる自衛隊員の十字砲火。シエル・クラーカ=ブロッサム(r2p001303)の描くアート(防壁作戦)は上手く成していた。だが、シエルが唐突に姿を消したことにより、この防衛線は瓦解した。

 4月3日の夜中から、各地で原因不明の人体消失事件が起きていた。
 天使の何らかの攻撃により存在ごと消されたのだろう――という見方もされているようだ。人の死が間近であるからこそ――そうでなくとも、古来より原因不明の『神隠し』にあって戻って来るケースは稀なのだ。
 それでも。それでもだ。
 生きている人間は諦めない限り戦い続ける。

 そうして時は流れて――。

 執筆:壱花



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