4月3日 - Part5


 2024年4月3日。
 崩れた街並の中を、天使達が飛んで行く。
 瓦礫の間から顔を覗かせた猫が、翼を羽ばたかせる異形の存在を目に映す。
 こんな時に通りを出歩く人間は稀だろう。自暴自棄になっているか、避難所が潰され別の避難所へと移ろうとしている最中か。
 いずれにせよ、誰もが平和に往来していたはずのこの通りは、もはや天使たちが支配する地獄と化してしまった。
 そうして天使の脅威にさらされた人々に追い打ちでもかけるように、新たな事件が発生する。
「あ、あれ……? 私、一体……」
 急速に薄くなっていく自分の身体を見て、目を見開く女性。
「助け――」
 伸ばしたその手は空を切り、それきり姿を消してしまう。
 後に座標消失と呼ばれるこの現象が、世界各地で起きたのだった。

 フレア=ミユウ=カービニティア(r2p001411)は命からがら逃げ延び、座り込んでいた。
 天使化した父が母を殺すそのさまを、見てしまった。
(アタシ、どうしよう……ママ、パパ……)
 誰もいない倉庫の中で半泣きでいると、その瞬間が――消失の瞬間がやってくる。
「今度は何!? もう……もうやだぁ!!」
 泣き叫ぶ声は誰にも届かず、フレアは消えてしまった。
 一方、巡 在時(r2p002204)は極限状態を迎えていた。
 メキシコ旅行から帰ってすぐ、成田で天使の襲撃にあい、親友の命日を自分の命日にしてたまるかという想いで逃げ延びた。平静を保つために役立ったのは、レトロゲームのRTAチャートだ。
 そんな巡は、声を聞いた気がした。「生きろ」と、親友が言ったように聞こえたのだ。
 ふと、一歩前に進み出す。それきりだ。
 それきり、巡は消失してしまった。
 またその一方。
 シマ・エナガ(r2p001994)は北海道の山奥で友達の女の子と震えながら隠れ、息を潜めていた。
 一番の友達で、怪我して一人ぼっちだったシマちゃんを助けてくれた恩人の女の子。
(この子に恩を返すために……幸せになって欲しいからシマちゃんは人間さんになったのです)
 外になにかの気配が近づいてくるのを感じる。
(怖いけどシマちゃんがこの子を守るのです……!)
 そう覚悟を決めた、瞬間。シマは消失してしまった。
 次々と人が消えていく。
 野木 三里(r2p002929)は姉と共に隠れていた家が崩壊し、身動きがとれなくなっていた。
 姉が悪人に斬殺されるのを見ながら、しかし動くこともできず静かに泣くことしかできない。
 姉が自分に助けを求めるように手を伸ばしたその光景を最後に、三里は消失に巻き込まれたのだった。
 一方。新夜 カルト(r2p001035)と新夜 ミツキ(r2p001391)は、自分達が育ってきた場所といっても過言ではない深夜食堂の中で、消失の瞬間を迎えていた。
「まってまって、ミツキちゃん……!! 嫌だ、ミツキちゃんがいないとカルトは……っ!!」
 叫び、手を伸ばす。世界はいつも不親切だ。嫌だとごねても、救ってくれない。
「カルトちゃん……! 大丈夫、大丈夫だから……絶対に迎えに行く……!」
 伸ばされた手を掴もうとしても届かない。
 支える存在がいなくなったらミツキに存在価値はあるのか。また野良猫時代に戻るのではないか。そんな絶望に身を焦がしながら、しかしこうも思うのだ。
(カルトちゃん。泣かないで)
 そして、二人は世界から消えた。
 鷹森 孝太郎(r2p001232)は、ヴユー(r2p001162)が消えてしまうヴィジョンを見た。
 それ故に彼を救おうと、無理矢理にも手を引き廃墟の中へと引きずり混んでいた。
「なあ孝太郎。何をそんなに焦っているのだ?
 あの怪物からは逃げるが、我はお前からは逃げん。安心すると良い」
 ヴユーはそんな風に落ち着いてみせる。不安そうな孝太郎が心配だからだ。
「孝太郎」
 お前を放って死ぬわけなかろう? そう伝えようと手を強く握る。
 その手の感触が――ふと、消えた。
「……え?」
 孝太郎が振り返ると、そこにヴユーの姿はもうなかった。
 消失はいくつもの別れを生む。
 そんな中で、幸運なケースもあった。
 フレイ=ハートフィールド(r2p001161)は三日間必至で逃げ回っていたが、ついに悪人に追い詰められてしまっていた。
 幼さの限界というべきだろう。凶器が振りかざされる。その光景を前に、しかし――消失は起きた。凶器が空を切り、悪人は目を見開く。
 これは数少ない、幸運な消失と言えたかもしれない。
 一方、八月一日 夏無(r2p000869)は街を走り回っていた。
 自宅も行きつけのカードショップも、学校も探した。
 命懸けで走り回るのは、幼馴染と未だ合流出来ていないからだ。
 スマホも繋がらず、最後に思い当たる場所といえばタイムカプセルを埋めた桜の木の下。
 辿り着けば――。
「朝日!!」
 十二月三十一日 朝日(r2p001883)の姿がそこにはあった。「夏無、心配してるかな」なんて呟きながら公園に到着したところで、偶然にも出会うことができたのだった。
 泣きそうになりながら夏無が手を伸ばす。
 声をかけ、歩み寄ろうとした朝日は――そこで、唐突に姿を消してしまった。
 絶望に膝をつく夏無。その背中で、邪神の影が蠢いた。
 また一方、遠く離れたイタリア。
 シロ(r2p000998)は仲間達の戦いを見守っていた。
 アルビノで虚弱なシロは、そうする以外にできなかったのだ。
 だが不運は続くものである。天使が戦いに乱入し、シロを襲った。
 仲間がそれを庇ってくれたが、大怪我を負ってしまう。そのことに多大なストレスをうけたからだろうか。シロは天使へと変貌してしまった。
 だがこれは幸運と言えたのかもしれない。そのタイミングでシロは座標消失に巻き込まれ、姿を消してしまった。

(叶えてない夢がまだたくさんあるんだ、こんなところで死ぬわけにはいかない)
 吉原 昌理(r2p000764)と鈴谷 翔(r2p002234)は共に避難所となっていた学校に身を潜めていた。
 避難所の生活は楽とは言えないが、命があるだけマシだった。
 再会した鈴谷先生とも近況を話し合い、気持ちもほぐれてきた頃のことだ。
「笑えない状況だな、こっちは新学期の準備で忙しいっつーのに」
 なんて、翔は昌理の肩を叩いた。
「大変だったな。今のうちに休んどけ」
 苦笑しながらそんなことを言った、次の瞬間。
 突如として爆発がおきた。
 咄嗟に動いた翔は昌理を庇い、光の前に立ち塞がる。崩れる建物。必至に逃げる昌理が振り返ると、そこにはもう翔の姿はなかった。
(んにゃ~~~~! にゃんにゃのだあいつらは!!! ずーっとクチワ追いかけて来るにゃ! このおやつはクチワのにゃ! ぜーーーったいに、ぜーーーったいに、おみゃーらにはやらないのにゃ~~~!)
 天使から追い回され、横浜を走り回るクチワ(r2p001861)。どうやら天使の狙いはおやつだと思い込んでいるらしいが……そんな中、クチワのくわえた口からおやつが落ちる。
 クチワはそれきり、消失していた。

 愛知県豊川市、駐屯地付近。
 氷瀬 彩香(r2p001988)は避難中であった。実家の屋根をなにかがかすめ、吹き飛ばされたことを切欠にした避難だった。
 避難中に天使の血を浴びたせいなのだろうか。わからないが、両耳が焼けるような違和感がある。
 今は情報を待つしか無い。事態の収束をここで待つか。それとも別の避難所へと移動するか。それはまだ、分からない。分からないことだらけだった。
 一方、避難所にたどり着いた巻上 澄人(r2p002205)は、次々に流れ込んでくる人々の中に知った顔がないかを探していた。
 着実に進む崩壊の音。誰のものとも分からない悲鳴。それゆえに眠れないのだ。
 人を纏めたり物資を配ったりといった手伝いで気分を紛らわす。それくらいしか、できることはなかった。

「……はぁ、困りましたね。
 まさか「先を越される」とは。
 各地の擬製人形たちとの連絡も殆ど途絶えていますし――。
 私たちの目的は破綻したと見ていいでしょう。
 ――皮肉なものですね。
 危機感を煽る側であった筈の私たちがそれを忘れ、危機感を煽られる事でようやく思い出すだなんて……。
 ……起こってしまったものは致し方ありませんね。
 まずはこの場を切り抜けませんと」
 マヤ・フェルシェ=アカミネ(r2p002410)は呟き、行動を開始する。気に掛かるのはアリサ・フェルシェ=クロサワ(r2p003103)の無事だ。
 一方のアリサはというと。
「マヤさんと連絡が取れない……。
 どんな時でも落ち着いて行動する方です、大丈夫だとは思うのですが。
 いえ、それより自分の心配をするべき……でしょうか」
 天使を前に、同じくマヤの無事を気にかけていた。
 遠く離れた二人は、それぞれの行動を開始する。
「……内蔵兵装、徒手格闘戦闘システム、倫理ロック《セイフティ》解除。
 マヤさん、無事でいてください……私がこの身に代えても、あなたを傷つけさせません……!」

「やあ〜。ああぁあ〜。やだあぁ」
 アメリカの地で、フォン・ユゥリン(r2p002572)は失意に暮れていた。
 内向的なフォンは家族や友達と避難の列に並んでいたところを、天使達に襲撃されたのだ。
 止めてよ。
 戻してよ。
 私もこの時死んで。
 全部止まってくれたらよかったのに。

「行き倒れてたらモンスターまみれになってるんですけど…?
 グスッ……お腹すいた。
 このままだと自分がモンスターのご飯になってしまう……そんなの嫌だよぉ……せめてお腹いっぱいになってから死にたいよぉ……」
 泪(r2p002567)は非常時にはコンビニから物資をいただいても犯罪にならないという知識を思いだし、コンビニへとふらふらと歩き出した。
 そのそばを、周防・智也(r2p000651)がすれ違って歩いて行く。
 学校に来るまで避難する最中、天使の襲撃で車が大破。その後に両親とはぐれてしまったが、一人だけでも避難所に向かうつもりのようだった。
「きっと父さんも母さんも無事に辿り着いてるはずだから!」

(家にも避難所にもいない。卒業した中学も。
 あとどこだ、思いつく場所は……っ)
 三上 永久(r2p001579)が訪れたのは、ある桜の木。その下に、座り込む三上 悠(r2p002262)の姿があった。
「悠! やっと見つけた……っ!」
「あっ! お兄ー……、っ!?」
 悠には、見えていた。駆け寄る兄のその後ろから、怪物が迫ってきているのが。
 だから、咄嗟に動いたのだ。兄を突き飛ばし、怪物の前へと出る。
(あ、これきっと、もうだめだなあ)
 横を向き、兄へと笑いかけた。
(お兄、大好きだよ。ちゃんと、生きてね?)
 怪物の向こうに消える妹の姿。
「悠……? おい、悠?
 やめろ、そいつを連れていくな! やめてくれ、たった1人の大事な妹なんだ――!!」
 その願いは空しく、滅びの街へと消えていく。


 2024年4月3日。
 戦いは激化し、そして尚も続いている。天使級を圧倒できる程の能力をもった者たちの中にも、スタミナの限界に達した者もいた。
 体中から血を流し、大きな交差点の中心に立つ名も無きオルフェウスの女がいる。信号機は倒れ、その用を既になしていない。通るはずの車はなく、その代わりに無数の天使の死体があちこちに転がっていた。
 天使が持っていた銀色の剣を拾いあげ、杖のようにつきながらぜえぜえと荒い息をする。
 もうどれだけの数と戦ったのか、覚えがない。だがここで戦いをやめたなら、すぐそばにある避難所は新たな天使の群れによって蹂躙されてしまうだろう。
 彼らの組んだバリケードなど、きっと時間稼ぎにすらならないのだろうから。
「……さて、おかわりだ」
 振り返ると、遠い空に鳥の群れが見える。いや、天使の群れだ。
 剣を振り上げ深呼吸をする。
 天使達を迎え撃とう……とした、その瞬間。
 まるで冗談のように、オルフェウスの姿は消えてしまった。
 彼女が避難所の顛末を知るのは、それから28年後となる。

「姿形は聖典の御遣いそのもの。けれど、貴方たちはなぜそうも『邪まに笑っている』の?」
 Lucia Afrania(r2p000218)は聖座に奉仕する者として受け入れられなかった。彼ら天使による終末など。
 対抗するためならなんでも利用するとばかりに、聖アルヌルフの遺物を核に、奇蹟を大盤振る舞いする。光の鉄槌カール=マルテルを次々に天使へと落としていく。
 Lucia自身は燃えさかる炎の剣と共に天使の軍勢へと突撃した。
 そんな姿を水月 鏡禍(r2p001916)は顔をしかめて見つめる。
 手を貸せと言われたので(惚れた弱みもあって)手を貸しているのだが……なにせ運命の相手と信じたのだ。いいところを見せなくては。
 妖力で空に鏡を生み出し、数多の鏡像を作り出しては天使にけしかける。天使とその鏡像がぶつかり合い、次々に相打ちになっていった。
 その一方で、無明祭儀書(r2p001986)と瓜生 コウ(r2p001987)もまた戦いに身を投じていた。
 無明祭儀書と契約し魔法使いとなったコウは、オカルトサークルのお遊びと思っていた魔法が天使群に対し効果を上をげるのに驚きながらも天使達に魔法を叩きつけていく。
 戦っていたのは高い再生能力をもつ奇妙な天使であった。
「なら、『切り札』の出番だな」
 コウは寄生木の枝を使った魔法を発動。相手の再生能力もろとも天使を殺し尽くす。
 だが集まる天使は多く、徐々に追い詰められていった。
 ならば、と。
 本来の姿をとった無明祭儀書はG∴O∴D∴の原型となる力を起動。
 それは爆発のような力の波を生み出した。だが代償もまた大きい。多くの天使を道連れにして無明祭儀書はコウと共に姿を消したのだった。
 後の運命を、まだ彼らは知らない。

 キャッパ寿司が爆発した。
 嘘でも比喩でもない。本当に爆発四散した。
「カー―――ッカッカッカ! 折角だ、派手にいこうぜ」
 寿司屋の地下にため込んでいた池神 暇次郎(r2p000690)の妖力が全解放された結果である。
 この力に名をつけるとするなら、『地獄門』。
 天高くまで上がった火柱が天使だけを焼いて降り注いでいる。
 おかげで周辺の天使は全滅したのだが……。
「今度は開いた門を閉じなければな」
 これでは天使どころではない大惨事だ。
 天狗道 会心(r2p002497)は天狗の風の力を使い、開いた門を閉じにかかる。
「本来であれば上級妖怪数十体がかりで閉じるものだからな。全力でかからねばならん。ぬぅぅぅぅぅううううううううんッ!!!!!!!」
 羽団扇に全妖力を込め、暴風を発生させる。
「暇次郎が開けた地獄門を閉じるんだろ? オーケーオーケー!」
 一方でマイケル・コナーキー(r2p002430)がスーパージャンプ。からの一回転! からの重量増加! からの門めがけてのヒップアタックを叩き込んだ。
「カッパボーイが大胆なことやらかすのはいつものことだろ?
 それを全力でサポートするのが俺達の役割ってやつさ。
 ノープロブレムだ」
 かと思えば、ニュードウ=弐号機(r2p002784)が拳を繰り出す。
「ハイパー入道パンチの出番の様ですね」
 一発、二発、足りずに散髪。
「こうして暇次郎様の尻拭い……後始末……をするのも久方ぶりですね。
 なんだか同窓会のようで実に楽しいじゃありませんか。
 はっはっはっは!」
「笑い事ではないわ! わしがこっそり日本征服の為に使おうと思っておった力を……こんなつまらんことに使いおって……!!」
 白石 たまも(r2p001603)が文句を言いながら門を閉じにかかる。
「こりゃーーーベアード!! そなた力いれておらんじゃろ???
 ガチでこれ大変なんじゃから!!!!
 はよ閉めるぞえ。はよはよはよはよ!!!!
 うぎ~~~~閉じんかいこのクソデカ門!!!!!」
 声をかけられたベアード・キングスマン(r2p001585)は苦笑しながら門に力を入れる。
「人間どもの為に取っておきを使ってしまわれるとは……。
 もはやお優しいという領域を超えておバカですよ、我等がボスは」
 等と言いながら、仲間達を見た。
「あーーーもーーーこれ閉じるの大変なんですからね!!
 あと、なんかこれ……私だけ頑張って妖力使ってません!?
 たまも様もちゃんと手伝ってくださいよ?
 あーーーほら開いちゃう開いちゃう!!! 力入れてください皆様!!!」
 キャッパ寿司は爆発したが、案外みんな楽しくやっているようだった。

 Lord・of・Library(r2p001944)は図書館へと攻め入ってきた数体の天使を相手に、強力な魔法を解き放った。
 天使の襲撃が始まってから三日にわたり続いた戦闘は、Lordの個弱な肉体に大きな負担をかけている。
 何体もの天使を相手にしても退かぬ強さはしかし、人の肉体を動かし続けるには限界があったのだ。
 強力な天使の一体を魔法で燃やし尽くしたところで、ふと自分の身体が消え始めていることに気付いた。
 ここまでか。そう確信がやってきて、Lordの身体は消失したのだった。
 守りのなくなった図書館は、炎に包まれて行く。
 同じく籠城していた孤児院近くの教会では、エクスセリア(r2p001259)が多数の天使相手に戦っていた。
 息が切れる。だが、止まるわけにはいかない。
 教会には孤児院から生き残った子供達がいるのだ。彼らを守るためには――。
 だが、その決意を世界は裏切った。エクスセリアの身体が、消えていくのだ。
「そんな……!」
 子供達が天使の手にかかる瞬間をみながら、エクスセリアは座標消失に巻き込まれたのだった。
「お母さんならきっとこうしてるよね」
 また別の場所で、夕凪 沙良(r2p000739)は妖狐の姿で戦っていた。
 刀を振るい、天使の腕を切り落とす。
 と同時に、岡止々支 紫音(r2p000036)が見事な連携でもって天使へとトドメを刺した。
 そうして要救助者たちをケーキ屋『ショコラ』へと避難させるのだ。
 店先に立ちはだかり、天使と激突する沙良と紫音。
 何体の天使を倒した頃だろうか。
 紫音の左手は地面へ落ち、だくだくと血が流れている。天使達を圧倒できるほどの戦闘力をもった紫音でさえ、この物量を前には……。
「まだ、倒れるわけには」
 無事な右腕で武器を握り、天使へと構えた――その瞬間、紫音は左手を残して突如消えてしまった。
「そんな……まだ守れてないのに……!」
 腕を拾いあげ、叫ぶ。そんな沙良もまた、座標消失に巻き込まれ消えてしまった。
 守るべきものを、残して……。

 在日米海兵隊員、ルーカス・L・ベンソン(r2p000041)は緊急招集に応じ、戦車の随伴歩兵として天使と戦っていた。
(娘の誕生日にディナーの予約をしていたんだがな……会うことも叶わなかった。今は妻と娘の無事を信じて今は戦うしかない)
 戦車の砲撃と航空戦力の連携。爆発の炎があがり、そこへルーカスがアサルトライフルを持って遮蔽物から身を出す。全力射撃によって、爆発から逃れた天使が大きくのけぞった。
 そこへ永倉 神楽(r2p001549)が飛び出し仕込み杖を抜刀。天使の翼を一太刀で切り落とす。
「はぁ、全く面倒極まりないですわ……」
 市民の避難誘導をすると司誠調停委員会のメンバーに嘘をついて、単身天使との戦いに介入した神楽であったが……。
「局長さんたちは大丈夫かしら……。いえ、今は私のやることをちゃんとやらないと駄目ですね」
 首を振り、仕込み杖を構え直す。
 天使が背後から迫るも、善吉(r2p001725)の手刀が天使を叩き落とした。
「……話も通じぬか。一体なんじゃ、貴様らは?
 何の為にこんな……いや、まさか殺戮こそが目的か!?」
 表情を歪め、叩き落とした天使にスタンピングをかけトドメをさす。
「この、外道どもが! よせ!
 ここじゃ! 来るならば、ここに来い!
 数に頼んでも倒せぬ鬼が、ここに在るぞ!」
 そう叫びながら、ちらりと善吉は遠くを見た。天使に襲われていた被害者たちが避難していくのが見える。これでよし、だ。
 そんな中、避難民と逆行するように天使へと突撃していくアンアリス・ヴァナルガンド(r2p000988)の姿があった。
「追加の花の苗を買おうと思ってたのに」
 言いながら、空を飛んで距離を取ろうとする天使へ追いつき地面へと叩き落とす。
「昔からヤンチャな輩はいましたが、いささかはっちゃけすぎでは?
 混乱混沌は嫌いじゃないですが、やりたい事の邪魔されるのはだぁいきらいなんですよね。わたし!
 え? やつあたり? まっさか!」
 などとテンション高めに天使を一方的にたたき伏せていった。
 その一方で、クイン(r2p000722)が天使の顔面を掴んでいる。
「あはっ♡ 天使だってぇ♡
 あれだけ、人に慕い敬われてた存在がぁ牙を向くだなんてさいっこぉ♡
 この世界でもぉ、天使狩れるようになるんだぁ♡ なら、蹂躙してあげるぅ♡ さぁ、最高なショーの幕開けだぁ♡」
 グリード・バランスの影響を受ける前のクインである。まるで自ら首を捧げたかのような天使のそれを、微笑みを浮かべ切り落とす。
 色欲の悪魔王の名にふさわしい光景であった。
 かと思えば、呪喰(r2p001524)が別の天使を抹殺している。
「……」
 何も言わず淡々と天使を屠っていくその目的は、どうやら呪いを喰らうためであるという。呪いは呪喰のエサなのだという。
 桜乃 刀華(r2p002571)はそんな、本来なら人類の敵にすらなり得るような存在達を横目に見ながら左脇腹の打刀を抜刀した。
「11日前からこの世界に飛ばされ、各地を放浪して来たが…ようやく、面白い事になって来たな」
 天使が斬りかかってくるが、それを華麗に回避して相手の肉体を真っ二つに斬り割く。
「面妖で奇っ怪な化け物が跋扈しているとは……じつに面白い事だ、そうだろう?
 まあ、ゆっくり楽しむ事にしよう。
 焦ってしまえば…楽しむことなく死してしまうからな、
 腹八分目がちょうど良いというものだ、何事もな」

 千狐 六姫(r2p002528)は天使の頭を地面へと叩きつけ、その息の根を止めた。
 隠居していた社のある、寂れた山村でのことだ。締め込んできた天使達と仙術を用い戦っていた。
 力の差でいえば六姫は圧倒的だ。だが、どうしても天使の数は多かった。
 倒しきれぬ天使がアリの群れのように村へと入り込み、炎をあげていく。
「あやつの眠るここだけは……!」
 凄惨な光景に絶望しながらも、かつての伴侶のお墓は守り通そうと六姫は戦うのだった。

 フィリア シアフィールド(r2p000440)は天使に向けて魔法の衝撃を放つ。
 横浜市の自宅へ帰る途上、鷺澤 美幸(r2p001099)たちと協力しながら天使と戦っていた。
 襲われている人々の救助と治療、そして安全な場所へ逃がすためだ。
 天使が炎をあげる杖で殴りかかってくるのをギリギリで回避しつつ、フィリアは覚醒したばかりの魔術師の力を叩きつける。
 その一方で、美幸は防御に転じていた天使の不意を打って背後からの一撃を加えていた。
 『鷺澤流』師範代としての戦闘能力はそこら中に散らばっている天使たちよりずっと高い。
 山ごもりをしていたが、天使の襲撃にあって下山。住宅へも帰れず流されるままに戦っていた。
 連係攻撃が成功し、崩れ落ちる天使。
 一息つこうと立ち止まったフィリアを、突如謎の光が覆った。
「――!?」
 振り返る……が、そこにはもう何もない。フィリアの姿も、消えていた。
「これは、一体……?」
 訳の分からぬまま、避難民と共に避難所へと入る美幸だが。彼女もまた、休憩に入ろうとしたところでいつの間にか消えてしまっていた。

 政府を通し天使の詳細は世界に知らされていたものの、民間の間では未だ混乱による情報の錯綜があった。
 羽の生えた化け物やその他の怪物が人々を襲い、人間もその化け物に変わることがあると噂を、天上・ヨハネス・玲斗(r2p000312)は知った。
 父は死に、妹の天上・アグネス・百合華(r2p000205)はヴァニタスへと覚醒していた。
 混乱した人々に見つからぬようにとそれらしい部位を隠し、百合華の座る車椅子を押して避難所を点々とする。
 だがそれも、すぐに終わりを告げることになった。
 燃える避難所から出てきた天使が、二人を見つけたのだ。
 百合華を庇おうと前に出る玲斗。
 瞬間、百合華の天冠が発光して翼が顕現。車椅子が義肢へと変形し、立ち上がったのだ。
「百合華……?」
 突然の出来事に目を剥く玲斗。
 天使を義肢で蹴り飛ばし、戦う百合華。華麗に、そして美しく天使を屠る。
 だがそこまでだった。
 翼を広げ、こちらへ振り返ろうとする百合華が――光と共に消えてしまった。

 某所、ある研究施設にて。
「クソッ!?何だってんだよコイツ等ッ!?
 倒しても倒しても湧いて来やがるッ!!
 管制室! 状況はッ?
 おい? 管制室? 管制室ッ!?
 嘘だろ? 返事してくれよ主任ッ!?」
 アリフレッテ・クルエ・ルヒト(r2p001141)は通信機にとりつき、叫んでいた。
「返事しろ主任!!
 ……嫌だ……返事してよ義姉ちゃん!?」
 振り返れば、新たな天使達が姿を見せる。
「お前等か……お前等が義姉ちゃんを…皆をッ!!
 殺すッ! 殺す殺すッ!! 一匹残らず超重力の底に呑まれて死ねッ!!」
 天使への殺意が、アリフレッテの脳を支配した。

「子供たちの夢と生活を破壊する天使もどきめ、殲滅してやる!」
 ビヒロ-Ω(r2p001494)は横浜市内の展示会場から起動すると、アニメさながらの戦闘音を鳴らしながら天使をビームサーベルでなぎ払っていた。
 助走をつけ、脚部ブースターで大きく跳躍。
「『ラジオアイソトープビーム』!」
 胸部から放つビームが、天使たちを焼き払う。
「日本の平和は私が守るッ!」
 そこへ集まっていたのは鴨脚 華護萌(r2p000461)たち、神秘を秘匿し人外の保護も行う組織の傭兵仲間の三人だった。
「わしらに召集をかけた本人が行方不明!?
 まったく、部下に後始末を任せるとは良い身分じゃのぅ」
 言いながら、四肢を樹木のように硬化、巨大化させて天使の攻撃を受け止める華護萌。
「これ琴乃よ、天使の姿でも敵対せぬ元人間もおるのじゃ見境なく斬るでないぞ」
「はいはい分かってるっておじーちゃん」
 新宮 琴乃(r2p001091)はけだるそうにしながらも、日本刀型の武器で天使の足を切り落とした。
 空に逃げようとした天使を、竜の翼で追いかけ翼をも切り落とす。
「ねぇもう3日目だよ? 数だけの小鳥相手は飽きてきたよ〜まだ終わらないの? 鬱陶しいなぁ」
「彼方にも此方にも……排除対象が多すぎますね」
 『美味シそウ』という言葉を呑み込んで、瀬那波 群星(r2p001098)は自分の本体である魔導書を開いて魔術を詠唱。天使の動きを鈍らせると、仲間達に自分の魔力を載せて攻撃の威力を上げる。
 そんな群星を邪魔に思ったのだろうか、天使がちらりと目を向ける。
「お前、セスを狙ったね?」
 琴乃が殺気を溢れさせ、天使の首をはね飛ばした。
「ふむ、羽付きの襲来者……。伝承の通りのことが起こった様だのう。
 わしも行動を始めねば……」
 丁度その場に居合わせた狩干・潮(r2p002894)は、別の天使を殴り倒しつつ振り返った。
 由緒正しき縄文武術の正当継承者、らしい彼にとってはその辺の天使など敵ではないのだ。
「とりあえず伝承の残る横浜の貝塚跡に向かうとするか……。
 今こそ、受け継いできた力を使う時という訳じゃな」
 そうして、ふらりと潮は歩き出した。

「……春近」
 加賀 秋末(r2p001594)はかすれた声で呟いた。
 弟の春近を探し彷徨い続け、誰のかもわからない血や砂埃に塗れただ一人立ち尽くす。
 左手には自身の能力で変えた元は右腕である銃が握られていた。
 弟は今何処に居るのか。
 なぜ兄を置いて消えたのか。
 未来の約束は嘘だったのか。
 考えが、巡る。
 そして向かってくる天使へ銃を構え引き金を引く瞬間、秋末の姿は消えてしまった。

 指で空をなぞり、魔法を現す。
 セザ・クローガー(r2p002825)の世界を黒く染めるようなその魔法は、天使の身体をえぐりとった。
「あとで焼かなくてはな」
 散らかした天使を見ながら呟く。
 バケモノの形でも、人間の面影を残していても気にしない。
 黒画家の実験室から目覚めたばかりだ。
「これからどうしようか」

 国道沿いを走り抜ける、チベタン・マスティフの足。御嶽 穿(r2p002597)はケンタウロス型の獣人だ。
 その決して軽くない身体による突進が、民間人を斬り付けようとする天使を強引に突き飛ばす。
「避難所へ! 走って!」
 穿は唖然と見上げる民間人にそう叫ぶと、突き飛ばしたばかりの天使を睨む。
「この世界でも、また天使か……」
 天使と争うことに疲れて逃げ出し、この世界へ迷い込んできた。それでもまた、天使。
 だがここで見捨てるわけには、いかないだろう。
 起き上がったばかりの天使めがけ、レグルス・スターパレット(r2p000642)がボウガンの矢を打ち込む。
「幼い頃から異能の訓練をしてきたから、実戦も少し経験があるよ……。
 けれどね。こんな日、訪れて欲しくはなかった」
 悲しみを孕んだ瞳でレグルスは言うと、素早く矢を再装填した。
 スターパレット家の異能は推進の力だ。天使に刺さった矢は通常のものとは比べものにならない衝撃をもって天使を吹き飛ばしている。
(怖い)
 でも、力有るものはそれを顔には出さないものだと、レグルスは思う。
(かつて憧れたヒーローのように……皆を救う為、奔走するのさ)
 不安もきっと、親友の笑顔を見れば拭われると信じて。
 一方で、別の天使とトロン・フェザールーン(r2p001724)が激しい戦闘を続けていた。
 大恩ある雇い主から天使の撃退を指示されたトロン。本来の任務は雇い主の家族の護衛なのに、遊撃に回されたので心の内はあまり穏やかではないようだ。
(それでも……)
 天使を減らすことが彼らの安全に繋がるならと、レグルスたちと共闘しながら天使を避難所から遠ざけていく。
 トロンの放つ魔術光線が天使の翼を穿ち、バランスを崩した所に魔力を込めた回し蹴りが炸裂する。
 そうして吹き飛んだ天使を、高柳 京四郎(r2p000017)が腕で受け止める。
 否、突きだした腕で天使の胸を串刺しにして貫いたのだ。
「多少若くは見えるかもしれないが、こう見えてもそれなりの間人間を見続けてきたんだ。その趣味を邪魔するのは大変不愉快だ」
 京四郎は血に濡れた腕を天使から抜くと、非人間的な力で天使の身体を蹴り飛ばす。
 人間に好意的な吸血鬼の末裔として、長年人間を眺めて過ごしてきた京四郎である。それを邪魔されたことが怒りへと繋がっていた。
 そんな光景を中央分離帯を挟んでチラ見していたラーティリカ・オートクレール(r2p000609)だが、すぐそばの獅堂 政克(r2p000061)へと視線を移す。
 自分と政克にはえた翼とヘイロー。天使と見まがうそれに、いつかアレらと同じになってしまうのではという不安がよぎる。
 そしてそれを振り払うように、ラーティリカは天使めがけ拳銃を撃ち続けた。
 死ぬわけにはいかない。お腹にいるかもしれない子供のためにも。
(自分が政克さんを守るんだ)
 だがそんな想いに反するように、拳銃が弾切れの反応を示した。
 リロードは、間に合わない。槍を手にした天使が豪速で迫ってくる。
「琳さん!」
 槍の痛みは、しかし無かった。
 気付けば政克が間に割り込み、その身体を槍が貫いている。
 一方で政克は。
(痛い、嫌だ、死にたくない、せっかく貴女に逢えたのに)
 そんな言葉を、すべて吐き出す血の代わりに呑み込んだ。
 振り返り、笑ってみせる。なんでもないように、不安にさせないように。
「幸せに……なってくだ……」
 槍が引き抜かれ、言葉が途切れる。そして、彼の命もまた。
(貴女に逢えて……俺は幸せでした)

 アム・IT・ナイトメア(r2p001982)の指から放たれた光線が天使の身体を焼き尽くす。
「マジックミサイルってね」
 アムは道路上に飛び出し人々を襲っている天使を見下ろしながら、跨がる箒をカーブさせる。
「おれ……うぅん! 私の箒ももう少し速度が出ればよかったんだけど」
 などと言いながら、空へと飛び上がってくる天使へ再びビームを叩き込んだ。
 直撃を受け、墜落する天使。地面へ叩きつけられたそこへ、硯 ミレイ(r2p001077)が襲いかかる。
 ミレイはまだ、この惨劇を飲み込めたわけじゃない。自分がヴァニタスに覚醒してしまったこともだ。
 けれど。家族を、特に弟と子犬を守らなくてはという想いが、ミレイを突き動かした。
(……誰か、助けて……!)
 そう叫びたい気持ちを、塗り替える。
(違う。私が、守らなきゃ。弟と、この子を!)
 黒い竜の如き爪で天使を引き裂き、牙をむき出しにして威嚇する。
「我々は貴様らを倒す為に牙を研いできた……本当か冗談かはその身に喰らってみるといい」
 パーラシア・チルコア・サピロス(r2p001601)が魔力を付与した爆弾を放り投た。
 通常のものとは比べものにならない爆発が天使を吹き飛ばし、その様子を見ながら不敵に笑う。
 会社でいつも通り寝ていたらこの有様だ。全く酷いエイプリルフールもあったものである。
 そんなパーラシアを脅威と見たのだろうか。爆発を盾で防いでいた天使が剣を握り飛びかかってくる。
 魔力を付与した鉄パイプで剣を受け止める。頑強にコーティングされた鉄パイプは、鋼を斬り割くような剣を受け止めていた。
 瞬間、オリヴィア=クレティエ(r2p000243)が強烈なパンチを繰り出し天使を吹き飛ばした。
 オリヴィアの目に希望の光は、ない。敵意や怒りといった感情すら消えているかのようだった。
 両親を探し、ようやく見つけ再会したものの、ヴァニタスとなった自分の姿を両親は拒絶してしまった。その絶望だけが、瞳を満たしているようだった。
 杯を満たし溢れるかのようなストレスと、自暴自棄な感情。それが、天使を殺す衝動となってオリヴィアを動かしていた。
 吹き飛ばされた天使が起き上がり、見る。車を捨てて路上を走る民間人を目で捕らえたようだ。
 天使が剣を振り上げ、投げつける。
 回転して飛ぶ剣は民間人に――当たらなかった。代わりに、浅霧 優弥(r2p000477)が展開する漆黒血の防壁によって止められる。ガキンと硬質な音をたてて弾かれた剣を天使が驚きの目で見る。
「便利な力だな。けど、なんなんだこれ……」
 発見は偶然のことだった。人々が逃げる手伝いをしている最中、出血したそのときに自分の血が漆黒血になっていることに気付いたのだ。そして、その血を操れることも。
 突き詰める時間も余裕も、今はない。この力を使って、人々を守るのみだった。
 剣を拾おうと動き出した天使の首が、鬼一(r2p002112)によって切り落とされる。
 吹き上がる血に、鬼一の表情が動く。
 天使となった父を斬った時、鬼一は勝つことの喜びを知った。生き物を殺す快楽を、知った。
 ドゥームズデイの惨劇は世界を壊したが、同時に鬼一に自由をもたらしたのだ。
 鬼一は彼ら天使に感謝すらしていた。
(ぼくを自由にしてくれてありがとう。斬って良い存在で居てくれてありがとう)
 このイカれた世界で、ぼくは自由に生きてみよう。鬼一は血を浴びながら、そんな風に笑った。
 一方、ゴールド・ウルリヒ(r2p000171)は凄まじく強力な天使を前にどこか余裕の態度を見せていた。
「――ほう、これはなかなか強そうなのが出てきたな。……うむ、これは――手こずりそうだ」
 天使の攻撃が直撃する。常人であればひとたまりもない攻撃だが、しかしゴールドは肩をすくめただけだ。
「――なんだ、その程度かね?……期待はずれだな。君はもう少しやれると思ったのだが」
 もう君に用はない。そう呟くと、ゴールドは天使へと手を伸ばす。

 花宮 寧音(r2p000644)の身を寄せた避難所は、天使の攻撃によって壊滅していた。
 逃げだし、走って、走って、たどり着いた家もまた倒壊していた。
 立ちすくむ寧音の目の前には、変わり果てた両親の姿。
(ねおんのことばけものってなぐろうとしたひとも、だいじょうぶってまもってくれようとしたひとも、みんな、みんなきえて……)
 気付けば、寧音の背には完全な翼が生えていた。

 アーチェ(r2p001497)は、目を覚ました。そんな筈はないのに。
 病院のベッドだ。天使の襲撃によってひどく混乱した今、もはや放っておかれてすらいたアーチェの病室に人の気配はない。
 ゆっくりと起き上がると、背中に違和感をおぼえた。手を伸ばせば、それは翼だった。
 なぜ? 探ろうにも、過去の記憶がまるでない。
 嗚呼――とため息のように声が漏れる。
 それがアーチェの始まりであり、ある意味での、終わりだった。

「これを見たか?」
 ふれぶてしい態度で写真を突き出す日野 義明(r2p001634)に、知らぬ誰かは首を振って背を向けた。避難所へと走る最中であったらしい。
 全く……と肩を落とし振り返る。
 態度にこそ表れていないが、義明は実の娘を愛していた。この騒ぎのなかで見つからずに、内心では焦ってもいた。
 だからだろう。振り返った瓦礫の前に立つその姿に、安堵が漏れる。
 一方。星野 あかり(r2p000760)は立ち尽くしていた。
 自身の運営する「ほしのおへや」の子供達が、殺されたのだ。天使の襲撃によるものだった。瞬く間に建物が破壊され、子供達が殺され、ただ一人残った自分は……ヴァニタスとなっていた。
 天魔因子の姿となったあかりは他の「ほしのおへや」の子供達を助けようととびまわるが、悲しむべきことにすべては手遅れだったのだ。
 また一つ増えた燃える瓦礫を前に立ち、振り返る。
 義明と、目が合った。
 悪魔の如き姿に義明が表情を歪める。
「――」
 何かを口走り、そして去って行くあかり。義明はそれを、追うことはできなかった。

 人ならざる体も、力も、全てが忌まわしかった。
 でも、その力のおかげで妻と姪を守れた。
 小鳥遊 玲次(r2p000682)は避難所の入り口に立ったまま、疲労する身体に手を当てる。
(今何が起こっているのか分からないが、二人を守るために戦おう)
 そう決意し振り返った瞬間、目の前で小鳥遊 凪(r2p000422)が光り始めていた。
「凪!!」
 咄嗟に手を伸ばす。
 一方で、凪は困惑していた。
 ヴァニタスに覚醒し、玲次に戦い方を教わりながら天使と戦ってきた。避難所を守るために、小鳥遊 香苗(r2p002833)と共に。
 おかげで避難所は守られた。人々も無事だ。
 だから片思いの相手を思い出す余裕も出来た。この姿を怖がられたら嫌だなという想いと、好きな人が傷付くのは嫌だという想いが、その人のもとへ向かおうという決意に繋がった。
 なのに。
「あ――」
 玲次へ手を伸ばすも、そこまでだった。凪の身体はかき消えてしまった。
 駆け寄ってくる香苗。
「何があったの?」
「分からない。凪が――」
 表情と少ない言葉から、香苗は察し頷いた。
「私は大丈夫、凪ちゃんを探しに行って」
 頷き、走り出す玲次。
 一体何が起こっているのだろう。
 ついさっきまで、避難所に入ったら怖がられるなどという凪たちに、「そんな優しい所も魅力だけど、もっと自分の事を考えてもいいのに」なんて心配していたのに。
 香苗には何も、分からなかった。再会がいつになるのかさえも。
 そんな香苗の前に、ふらりとアーサー=フォン=セシル(r2p001933)が現れる。
「こんなに実験体が溢れているなんて、何て素敵な世界ですか」
 意味の分からないことを、言う。
「彼を解剖したい、切り開きたい。でも今は彼の妻。妊娠しているなんて、一度に実験体が増えますね」
 笑い、香苗に手をかけた。
 常人離れした力だ。振りほどけない。そして香苗は、アーサーによって連れ去られるのだった。

「うそつき、やっぱり、ひーろーも、ひろいんも、いなかった、ね」
 一代 社(r2p001589)は暗い目をしていた。
『システム残量5%を下回った為、自壊プログラムを起動』
 守り抜けた家族の姿を見る暇も無く脳内に響くシステム音。
 自身の意思とは無関係に拳銃の弾が無慈悲に身を貫く。
「俺……ひーろーに、なれ……」
 崩れた瓦礫と天使の屍の山。
 呟きは誰にも届くことなく、社は座標消失に巻き込まれた。


 2024年4月3日。
 世界を蹂躙する天使達とはまた別に、異能を振りまき欲望の限りを尽くす者たちが、あるいは異能を持たずとも巨大な火事場泥棒を働こうとする者たちがいた。
 彼らは避難所を襲い、宝石店を壊し、食料品店を荒らしていく。
 人々が避難所へと逃げ込んだ今、彼らは好き放題だ。
 だがそれを許さぬ者たちもまたいた。
 食料品店の前に立ちはだかり、剣を抜く名も無き老人。
 ヘルメットを被り特殊警棒を握った男たちを前に、老人は深く息を吐く。
 その気迫は凄まじく、男たちは老人より圧倒的に数で勝っているにも関わらず近づけない。
 老人が踏み込もうと動き出した、その瞬間。
 まるで神の悪戯の如く、老人の姿はかき消えてしまった。顔を見合わせる男たち。
 そこに、老人の影はもうない。
 後に語られる、座標消失の発生であった。

 魔術師協会のセーフハウス前。
 アルトリウス・クレイヴ・ミスルトゥ(r2p001306)は不可思議な現象を前に表情を僅かに歪めていた。
 一切の前触れも無く――人が、娘が消えた。
 此れは、何の運命の悪戯か。
 遠く、私を呼ぶ声が聞こえる。
 ――分かっているとも。
 未だ、襲来は終わっていない。
 特殊警棒を持った男たちを前に、光の剣を振るい立ち向かう。
(少年、少女よ。目に焼き付けると良い。此処からは大人の仕事だ)
 一方で久慈宮 鷲明(r2p001577)は紅き焔よりも遥かに高温の蒼い焔を操り、驚く男たちを纏めて焼き払う。ネイルガンが反撃として打ち込まれるが、焔が壁となりそれを阻む。
「神隠しですか、面白くなって来ましたねぇ。
 時に物語にはアドリブ演出が必須とは言いますが……どうやら悲劇は皆さん求めていないようで。
 ならば運命を捻じ曲げて差し上げましょう、我々の手で」
 それにしれも、男たちはどういう理由でこの施設を襲っているのだろうか。敵対組織の何か、なのだろうか。
 風宮 怜(r2p002009)は僅かに疑問に思いながらも、座標消失について考える。
「……何たることか。
 涼介殿の御助力がなければ今以上の惨劇になっていた、とはいえ……。
 駆け付けてみれば、多くの者が消えた。その様な話は聞いていない以上、彼も知らぬ未知の現象という事だろうな」
 そして、刀に宿した月の光の剣を振るった。それは恐るべき切れ味をもって警棒を切断し、男の胸から血を吹き上がらせた。
「我らが成すべきは今、残る者達を守り切り敵を討つ」

「ヨノソラぱーんち!」
 ヨノソラ・E・ヴァッペン(r2p001189)は手にした杖で見知らぬ悪党の顔面を殴りつけていた。
 吹き飛び、飛んで行く相手。
 ヨノソラ含む七人の仲間達は、日本旅行の途中でこの災害へと巻き込まれていた。
 大切な者たちと一般市民を守るため、この機に乗じて悪事を働こうとする者たちと戦っていたのだ。
 が、混乱ゆえだろう。気付けばフロレンティーナとはぐれてしまっていた。
「彼女を探そう! 回り道できる所もあるはず……!」
「そうだね。諦めちゃ駄目だ! 絶対見つけて助けよう!」
 頷くヨゾラ・E・ヴァッペン(r2p001190)。
 襲いかかってくる男へと向き直り、本を握る。光と星の魔術が解き放たれ、男が派手に吹き飛んだ。
「星空の泥よ、敵を呑み込め……!」
「ヨゾラ様達は倒させません……!」
 フィールホープ・グリュック(r2p001515)はその動きに連係するようにモップを握り、呆気にとられている男を殴りつけた。
 男は足を殴られ転倒し、そこへモップの突きが叩き込まれる。
「絶対に助けましょう。ヨゾラ様達も、気を付けて……」
 一方でライゼンデ・C・エストレジャード(r2p001516)は剣や銃を手に男たちに立ち向かっていた。
 右腕、もとい機械の義肢を翳し、フィールホープを殴りつけようとした誰かの鉄パイプを受け止める。そして至近距離から銃撃を仕掛けた。
「親友達と友の恋人は絶対に守り切る!」
 更に剣による一撃で相手を沈めるを周りの様子を確認した。
「すまん……彼女ではなく俺が分断されていれば……!」
 後悔のように呟くが、今は仲間を探すのが優先だ。
 レノ・ヴィールング・レプリーゼ(r2p001517)が手にスパナを持ち、掴みかかろうとしてきた男を殴り飛ばす。
「戦闘より機械いじりのほうが得意なんだが……!」
 続いてローデリヒ・V・ラディーレン(r2p000113)が吸血鬼の力を解放。剣で男の胸を貫く。
「フロレンティーナ……」
 絶対、助けに行く。そう固く誓ったその瞬間だった。
 一緒に戦っていたヨノソラ、ヨゾラ、フィールホープ、ライゼンデの姿が突如として消え始める。
「!?」
 突然のことに驚いている間に、何かを言おうとしたヨノソラたちの姿かき消える。
 顔を見合わせる。レノとローデリヒ。
「戦い続けなければ。守るべき者達を守り、皆を探し出す……!」
「そう、だな。まだ諦めたくねぇ……!」
 意志は、同じようだった。
 一方。分断されたフロレンティーナ・V・シェーンハイト(r2p002098)は、傘を手に見知らぬ悪党をたたき伏せていた。「私だって吸血鬼なのです!」と強気に振る舞ってみるが、しかし分断された恐怖は変わらない。
「私は大丈夫です、ですから……。
 ローデ様。どうか…私を見つけてくださいね」
 指輪を大切に握る。
(ずっと待ってますから)
 だがそんな思いを裏切るように、その後フロレンティーナが見つかることは無かった。

 噂を信じるならば、世界の終末を語るカルト宗教が生贄を求めて避難所を襲っているのだという。
 粗雑な作りのスクラップ銃を手に集まる彼らを前に、春原 文乃(r2p002718)は立ちはだかる。
 世界では座標消失によって次々に人が消え、そのことに顔を青くし動き出したのだ。
「超常的な力に怯えているからこそ悪事を控えている人間でしか無い悪党はきっと数多くいる事でしょう。そして力を得たばかりの小悪党も……」
 男たちへ、身構える。
「無辜の民を守らねば」
 そこへ歌川 こぐに(r2p000119)がふらりと現れる。
「ずっと我慢して来た」
 その呟きの意味を、誰も理解しない。できない。
 それはこぐにが持っていた欲求だった。人を殺し喰らう望み。にも関わらず天使達は我慢していたご馳走を踏み荒らし、どころか人間達の間にも我慢を踏み越える者らが現れる。
「コイツラなら食っても文句は言われまいよ」
 巨大な骸骨形態に変貌し、恐怖に声をあげる男たちへと食らいつく。
 一方で、颯爽と現れた神凪 アリサ(r2p001058)が男たちからスクラップ銃を無理矢理奪い取り、地面へと蹴倒していく。
「怪我して反省しなさい。運が良ければ、生き残れるでしょう」
 避難所に入る気には、なれなかった。
(……だって。こわがらせてしまうから。もしも、知った顔を見つけても笑って相対する勇気が、今の私にはない)
 そんな風に瞳に悲しみを宿すアリサ。そんなアリサの背後へ、チェーンソーを唸らせてえ襲いかかる男。
 が、そんな男の足に大型犬――もといホクト(r2p001546)が思い切り噛みついた。
(俺ね! お寺のハゲの人にお世話になってるからね! ハゲの人にご飯貰ってっから!
 でもハゲの人、皆と避難しちゃってお寺のハゲから市中のハゲになっちゃったからね! 俺がお寺守るよ!
 ドロボーとかね、とりあえずぶっ壊したいヤツとかね! 自分より弱いやつに言う事聞かしたいバチアタリは出てくるからね! 噛む!)
 随分動きのうるさい犬だ。が、力は強いらしく男の手からからチェーンソーが落ちる。
 その隙に無々瀬 華煉(r2p000123)が鋭い蹴りを入れ、男を吹き飛ばした。
「わぉ、この世界は平和って聞いてたんだけどなぁ……えーっと、安全なのどっちだろ……?」
 声をかけられたホクトが首をかしげる。
「ま、いっか」
 華煉は振り返り、こちらに銃を向ける男たちを見る。そして勢いよく飛び出した。
 このくらいなら余裕余裕、と呟きながら。

 ジェームズ・ネルソン(r2p001282)の人生は戦いの連続だった。
 正直戦いに疲れたときもあった。
 しかし娘や妻を守れる力をもてて、今は感謝すらしている。
 ……はずだった。
「これは、一体……!?」
 ジェームズの身体が消えていく。
「やめてくれ!
 私は家族を守るんだ!
 そのために此処にいるんだ!
 私から家族を奪うなぁーーー!」
 叫びも空しく消えていくジェームズを前に、シャーロット・ネルソン(r2p002820)は絶叫する。
「私達を守ってくれるって言ったじゃない!
 嘘つき! 嘘つき! 嘘つきー!」
 お父さんがいればこの地獄は乗り切れると思った。
 コウモリ傘でもどき天使をバッタバッタと倒してくれた。
 強かった。頼もしかった。だからこそ……。
 消えてしまったジェームズを前に、へたり込むシャーロット。
 イザベラ・ネルソン(r2p002782)はそんな光景を前に呆然としていた。
 そうするしか、なかった。
 ――後に、イザベラはヴァニタスとして長く戦うこととなる。『早贄と福音』事件で、天使となるその日まで。
 滅びこそ福音であると。死こそ救済であると。そう、知ってしまうまで。

 中臣 杏奈(r2p001996)は天使から逃げ回ってビルに隠れていたところで、火事場泥棒を目撃してしまった。
 天使に追われたストレスと、こんな時に好き勝手する悪党への怒り。それが、杏奈に火をつける。
「イピカイエー!! くそったれ!! イピカイエの意味知らないけど!」
 扉を蹴破る勢いで開き、驚いて振り返る男たちを次々に殴り倒す。
 その様子をちらりと見て、男たちと戦っていた焔宮 蛍(r2p003044)は小さく笑った。
「世界は変わり、終わろうとしている。
 だから何だというのです? わたくしのやることは今までもこれからも変わることはありませんわ。
 民を、護る。どんな手を使ってでも」
 炎を纏わせた刀を振るい相手の武器をはね飛ばすと、炎逆巻く呪術を放ち相手を燃え上がらせる。
「この状況で人に刃を向けることは些か心苦しいですが、為すべきことを為すまでですのよ。
 おいたをする人の子には、お仕置きが必要ですの」

「――タクヤ!?」
 銃を構え、目を見張る。
 大隈 重信(r2p003108)は暴徒から拓哉(r2p003127)を守り、戦っていた。
 だがその拓哉が人質に取られてしまったのだ。
「分かった……銃は捨てる……」
 相手の要求に応え、銃を足元に落とし蹴る。それを相手が拾おうとした瞬間、タックルを浴びせ相手を地面に押し倒した。殴りつけ、気絶させる。
 が――気付けば脇腹から血がしみ出していた。
「おじさん……?」
 解放された拓哉が駆け寄るが、うずくまったまま重信は動かない。
「タクヤ……父ちゃん、になれなくて、ごめん、な」
 そしてそのまま、ゆっくりと横たわった。
「おじさん、ねむってるんだよね?
 そんなはずないよね、おじさんはヒーローなんだよね?」
 ――オトゥサンハキットツカレテネムッテルンダ。
 ――ナラコワイヒトタチカラボクがマモラナキャ。
 頭の中で声がするようだった。
「ヴアアアアッ!」
 ――オトウサンハボクガツレテイク。
 翼が、拓哉の背から広がった。
 重信の死体を抱え、叫ぶ。

 物資の略奪があちこちで起きている。避難所が襲撃され、悪人に占拠される事態まで起きていた。
 怪盗である天津風 愛莉(r2p002723)は、そんな悪人達こそが気になっていた。
(オレも怪盗だからわかる気がする こういうのは今みたいなときが好機なんだ)
 心の中でつぶやきながら、歩き出す。
 武器を手に人々を威圧していた悪人の首に、毒塗りナイフが走った。
 暗殺者めいているが、愛莉が『向こう』でやってきた中の一つだ。
 可愛く、カッコよく、えげつなく。
 愛莉は悪人達を倒して行く。
 かと思えば、兎月 ゆめ(r2p002686)が占拠された避難所へと堂々と飛び込んできた。
「悪を成敗する正義の月兎とはゆめの事なのでごぜぇます!
 本物のうさ耳と尻尾が生えてきた時はびっくりしたですが、やはりゆめは本物の月兎だったのでごぜぇますよ!!」
 となにやら分からぬことを言いながら、武器を向ける悪人の腕を蹴りつける。相手の手からナイフが飛んで行った。
「くっくっく、そこらにいる化け物はともかく。
 今のゆめに敵う悪人なんているわけねぇです。
 火事場泥棒なんかしてるシミッタレは成敗でごぜぇます」
 その一方で、江島 春章(r2p000026)が魔術を用い水と風を操って悪人達を翻弄していた。
「末端の天使をいくら屠ったところで状況は変わらないのは承知だ。
 それは彼の世界で見た故に既に知っている。
 ならば、少しでも多くの人が生き残るために尽力しよう」
 掴みかかろうと迫る相手の顔面を掴み、地面へと叩きつける。
 頼もしい戦いぶりに、ゆめが感嘆の声をあげる。
「そういえば桃兎会の皆は無事ですかね?
 今のゆめの力なら、きっと守れ……え?」
 瞬間、ゆめの身体がふっと消えてしまった。
 突然のことに春章も、悪人たちも困惑の表情を向ける。気付けば、同じように何人もの人々が消えていた。

「――遂に始まった、か」
 燁姫=D=バルビザンデ(r2p000855)はこの世の終わりを俯瞰する。
「そして、どこの世界にも蛆虫共は存在する……ある意味『天使』よりも質が悪い」
 どうやら地下に潜っていた異能者たちが顔を出し、今こそ自分達の時代だとばかりに略奪を行っているらしい。
「最後まで抗う者にのみ、勝利の女神は微笑むものだ」
 高所から飛び降り、着地する。
 避難所へと突入しようとした男たちの前に、軽やかに着地した。
「ふん、やはり録でもないことを考える輩はいるものよな。
 我様の故郷でも良く見たゆえ、汝様らの動きなど手に取るように分かったぞ?」
 見れば、ガルディール・ラグンフォード(r2p002485)が避難所からふらりと出てくる所だった。
 普通の人間に擬態していたガルディールだが、今は『どうでもいいな?』という思いから本来の手足を晒している。
 ちなみに先ほどの台詞はハッタリなのだが、男たちは動揺しているようだ。
 手をかざし、魔術を放ってくる――が、そんなものはガルディールたちの敵ではない。
 素早く距離を詰め、魔力で固めた拳で相手を殴り飛ばすガルディール。
 そこへ、翼を広げたNyx・白花(r2p000954)が乱入する。
「『ソレ』は! ダメ!」
 あんなのと一緒になりたくないと翼をむしった。嫌だと叫び頭をかきむしった。けれど、それよりも……天使に便乗する様に我欲を満たそうとするモノたちが見えた。それが、頭を支配した。
 どんなに辛くても。
 どんなに絶望的でも。
 どんなに冗談の様な現状でも。
「それだけは! ダメなんだよ!!」
 覚醒したばかりの力を奮い、男をなぎ払う白花。
 それは白花自身の戦いの始まりでもあった。


 これは、交錯するいくつもの運命の物語である。
 洞爺 源六(r2p000183)は、何もできなかった。
 父と母が殺されるのをただ見ているだけしかできなかった。
 父と母のように妹達を守ることもできなかった。
 ただ、立ち尽くす。
 そんな源六を責めるように、洞爺 七海(r2p001383)は怒りを露わにしていた。
(私が学んできた法律なんてこの天使の前では無意味だった。
 父と母が殺されていくのに何の役にも立たない。
 役に立たない兄にも嫌気がさす、なんで我先に逃げようとしてんのよ。
 私たちを逃がしてくれた父さんと母さんのようになんでなれないのよ)
 せめて守ろうとした妹の八千流は消えてしまった。
「もう嫌、全部消えてしまえばいい」
 七海の姿が天使へと変貌していく。
 そこへ現れたのは、武甕 悠(r2p003095)であった。
「家族が天使になるとは……。せめてその手にかける前に倒してやろう。
 武甕流の極意とくと知るがいい」
 事態を理解した悠は七海と戦い、そしてひとり残った源六を守り切った。
 天使化した七海は逃がしてしまったが、今はそれだけで良しとしよう。
 そう考え立ち去ろうとした悠を源六は呼び止める。
「なに、弟子になりたい?」
 源六に首をかしげる悠。才能はないように見えたが、いいだろう……と。悠は源六を連れ、長き地獄の時代へと歩き出すのだった。
 一方、それから38年後のこと。
「あれ、ここどこ……?
 お姉ちゃん? お兄ちゃん?
 急に一人になっちゃうなんて、どうしよう」
 洞爺 八千流(r2p001385)はひとり、座標消失後のどこかへと立っていた。
「とにかく生き残らなくちゃ。二人もきっと生きてるはず!」
 変異体となったコハルと共に、源六たちを待つことにした。

 ルート=エス(r2p002624)は横浜の高台に建つ御霊邸の地下にいた。
 遥か昔、御霊一族の祖先と共に渡ってきた実体を持たないプログラム体。それがルートである。
 無機物を依代とし密かに一族を監視してきたが、その一族の末裔が次々と命を落としていくのを、感知したのだ。
 そして、最後の一人の反応が突如として消える。
 ーーナニガオキタ?
 ルートは捜索のため、行動を開始するのだった。

「あと少しです。大丈夫、独りじゃありませんから」
 エルシオン・リースヴェルト(r2p002460)は小さな子供の手を引いて走っていた。
 だがその最中、突如としてエルシオンの姿が消える。
「え……?」
 困惑し、繋いでいた手を見つめる子供。
 呼びかけても、応えはもう帰ってこない。

 ライラ・マキシマ(r2p001377)はライブ会場を舞台に天来 莉衣茄(r2p000421)と共に戦っていた。
「絶対にやっつける!」
 莉衣茄は生まれ変わった姿で両手にガトリング砲を構え、攻め込んでくる天使達を迎撃する。
 だが、それは突如として起きた。
 天使の攻撃と同時に強い光が生まれ、莉衣茄を包み込む。
「え、何!?」
 訳も分からず、しかしこれが『終わり』なのだと直感できた。
(ライラちゃんに、プレゼント渡しそびれちゃった)
 そして、莉衣茄は姿を消してしまった。
「え……」
 突然のことに動揺するライラ。失意と怒りが混ざり合い、鴉の如き漆黒の翼がその背に広がった。
「ねぇ……」
 回転式拳銃を天使へ向けて、覚醒したライラは高らかに宣戦する。
「遊びましょ」
 それが復讐の始まりであった。
(もしも願いが叶うなら。もう一度だけあの子と話がしたかった)

 ボロボロの体でフラフラとどこかを彷徨う伽羅堂 喜行(r2p002208)。
 悪意や負の感情が世に蔓延するほど身体能力が上がるが、同時に己の中のエネルギー体『ひがんさま』の意思が強くなり負の感情を求めるようにる。それがこの時点での喜行の性質である。
 四月三日の未明には完全に精神と肉体が剥離し友人と死闘を繰り広げてしまった。そのせいで身体はボロボロだ。
 自分の身体が徐々に消えていくのがわかる。
 もっと悪意を浴びたいという思いとやっと終わるという思いが混じっていくなか……静かに、喜行は消えた。

 横浜のはるか遠方の集落。その神社にて、谷橋 カハク(r2p002702)は兄夫婦とその息子の無事を祈り願っていた。
 そして、神社と祀られたカミサマが被害を受けないようにとも。
「…………」
 それだけ、だ。分かっているのはそれだけしかない。
 以降カハクは誰に知られることもなく歴史から消えてしまった。神の遣いとして異形化したとも、生き続けているとも噂されたが、それを確かめるすべはなかった……。

 リオス・W・メルキオール(r2p002184)は「助けて」という声を聞いた気がした。
 男か女か大人か子供か、もしかしたら人でもなかったかもしれない。そんな声が聞こえ、リオスは世界を転移した……筈だった。
 だが、それは遅かったと言わざるを得ない。
 リオスが到着したのは四月三日の夜。人々が殺し尽くされた場所の上。
 何が起きたのか分からぬまま、リオスの身体は座標消失を起こしていた。彼が次に見つかるのは、2025年4月以降のこととなる。

「月白、放送は任せるからねぇ。
 おっさんは機材の操作と内容の纏めをするから君はこれドンドン読み上げて~」
「うん!」
 小さな貸店舗に設置されたローカルラジオ局のブースでは、新垣 雪季(r2p000164)が災害伝言版といった情報源からめぼしい情報を拾いあげてはそれを文章へとまとめ書き起こしていた。
 渡された文章をとにかく端から読み上げていく月白(r2p001389)。
 端から見ればマイクの前に可愛いぬいぐるみを置いているだけに見えるかもしれないが、実のところそのぬいぐるみこと月白は付喪神であるらしい。
 燃える街に、電波に乗って声が拡散されていく。

「辰哉に約束したんだ。お前は俺が守る、だから必ず戻るって……!」
 峰川 昌季(r2p000818)は、ヴァニタスに覚醒すると同時に女体化していた。だが幸いにして戦う力も得た昌季は、辰哉を避難所へ置いて戦地へと赴いていた。
 天使との戦いは順調だった。そこら辺の天使なら、昌季にも倒す事ができたからだ。だが、そこまでだった。
 強力な個体に遭遇し、玩具のように振り回される。
 剣が振り上げられ、死を覚悟し目を瞑った……その瞬間、座標消失によって昌季は消えた。

 人々が次々に消えていく四月三日の、夜深く。サンフランシスコのダイナーにて。
 ブラッド=コーディヴィル(r2p002559)はどこか満足そうに飯を食っていた。
 殆ど機能を失ったテレビ局からの混乱した情報がテレビ画面に映っている。
 ブラッドはそれらを聞き流し、金を精算すると店を出た。
 ウキウキする。まるで自分好みの混沌と破滅の世界へ、向かっていくようだ。


 2024年4月3日。
 大きなビルが爆発を起こし、その側面を吹き飛ばしていく。
 無数の天使が空を舞い、ビルへと飛び込んでいくのが見えた。
 遠い悲鳴は聞こえない。もう、今更だ。
 世界は破壊に満ちていて、暴力と悪意で燃えていた。
 そんな地獄のなかで、天使の翼を生やした名も無き少年がいた。
「ああ、ああ、僕は、やっと自由になれたんだ」
 朗らかな笑顔を浮かべ、翼を羽ばたかせる少年。天へと舞い上がり、集まってくる天使達と合流する。
 もう、追いかけられることはない。恐怖に震え閉じこもることもない。これから僕は、『こっち側』なのだ。

「くふ ふふ ふふふふっ!」
 Address=Blacksky(r2p002648)の家は、夜空に浮かぶ星らを宝石に見立て放つ宝石魔術師の家系であった。
 だが今代の当主であったAddressは光る才もなかった。
 ……が、それが、変わった。
 水晶の翼、宝飾の髪、金剛の瞳。
 頭上に浮かぶ魔法陣型の天輪。
 手中の宝石は無辜なる人の魂魄。
「あぁ、最高じゃ……妾は今、魔力に満ち溢れておる!」
 偶然か運命の皮肉か、Addressは人を宝石へ変える天使と成り果てていた。
 一方で、腹バット天使(r2p002240)が徘徊している。
(満たされない、酒も、殺しも、女も、何をもってしても俺は満たされない)
 そう考えていた天使は、ある者を目にした。
(あれが天啓だ。この混乱を収束させるものがある女から生まれる。俺が永遠に生き続けるためには、そいつがはらむを子を生れ落ちる前に殺すしかない)
 そう思った天使はバットを手にし、女を追いかけ始める。
「PPPi…たたtt対象を補足。処理しますss」
 量産型・心臓奪取くん(r2p001770)が暴れる人間を押さえつけ、心臓を引っこ抜く。そして燃え上がらせた。
 どこかの愚かな科学者が命の灯を失いつつある幼児に他人の心臓を与えるために開発した終末世界の殺戮ロボット。それが心臓奪取くんである。
 しかし異なる世界から移ったときにネジが何本か無くなってしまったようで、様子がどうにもおかしい。

 事件を起こすのは、なにも天使や怪物ばかりではない。
 森屋谷 英司(r2p002785)の目の前では、天使が避難所の人間を次々に殺して回っている光景が映っていた。わざと避難所へ誘導し、この状態を引き起こしたのだ。
「自分が世界を壊したかったのに、先に壊れていくなんて狡いズルいずるい。いっそのこと皆で殺し合えばいいんだ」
 微笑み、その光景を眺める。
「天使の見た目をしたやつは皆人間の敵で、人間の姿をしたやつは天使の敵だ。そうだろ兄弟。やられる前に殺らなくちゃ」
 手を広げ、ほがらかに英司は笑う。

 一方で、奇妙な行動を起こす天使もいた。
 エリスフィア(r2p002873)は略奪を行っていた人間を殺し尽くすと、唖然と見上げる店主らしき人間に目を細めた。
「貴方、天使になる気はない?」
 望んでなれるものでは、勿論ないが。だがエリスフィアはそんな風に声をかけずにいられなかったのだ。より強い天使を生み出すという野望のために。
「考えておいてね」
 自分に向ける敵意を感じ取りながらも、相手に手を振り空へと飛び立っていく。

「司! 早く私に孫の顔を見せておくれよぉ!」
 門司 文子(r2p002574)は病院のベッドでナースコールを押し続けていた。
 混乱しきったこの世界で、コールに答えるものはない。
 代わりにというべきだろうか。文子の背からは天使の翼が広がっていく。
 送れてやってきた看護婦がその様子に悲鳴を上げるも、構わず文子は襲いかかった。
 そして目指すは、実子と共に暮らしていたアパート……。

「ピザのベースは小麦粉だから野菜、とってもヘルシーだよ☆」
 ピーザー・パン(r2p002221)はこの燃えさかる街でピザを振る舞っていた。
「いろんな食材を乗せて焼いた完全食品さ!」
 こうすれば人類は喜ぶはず!
 なのになぜ? 理解不能。
 食べればわかるはず。
 お食べ。食べなよ。食べよ、ね?
「さあ、ボクのピザをお食べ♡」

 エクスフロード ネオロムス(r2p003012)は東京を舞台に爆破テロを行っていた。
 いくつもの爆弾が爆発し、ビルの側面が吹き飛んでいく。
 それもすべて、自身の目的である『スーパーヒーロー』を見いだすため。
(平穏な時にヒーローは出て来ない。
 ただの混沌で出てくるのは普通のヒーローいえ、かつての自身と同じ贋作。
 破滅的混沌こそが絶対的なヒーロー『スーパーヒーロー』の出現に必要なのよ)

「レン、やっと見つけた、我的愛人」
 李・凛華(r2p000585)は微笑み、御田寺 蓮(r2p000580)の前に立っていた。
「この姿、素晴らしいわ、何をしても『気持ちがいい』の
軽く捻ったら車は潰れるし、ちょっと引っ張るとヒトが千切れるの。
 昔からヒトを引っ張ったらどうなるかな?
 叩いたらどうなるかな?って想像していたから、できるようになって嬉しいわ。
 それにね、なんだか羽根が生えてから力がどんどん湧き出るのよ。
 不老不死にでもなったりして! うふふ!」
 笑い、手を差し出す。
「ねぇレン。貴方も私と一緒にならない?」
 対して……蓮は首を横に振った。
「凛姐姐……オレは、行きません。
 姐姐の考え方は、何だかよくない気がするんです。
 オレは、好きなことに、料理に向き合いたいんです。
 凛姐姐、サヨナラ」
 それが、決別の言葉だった。二人を永久に別つ、サヨナラだった。

「さあ縄張り争いと行こう。あの羽根付き共に後れを取るわけにはいくまい」
「ハハハハッ! 楽しいなぁ、冥殿!」
 日柴鬼 灯吾(r2p001788)と鬼京 冥(r2p001789)は声を掛け合い、逃げ惑う人々を押さえつけていた。
 冥は人間を頭から喰らい、流れ込んでくるものに目を細める。
「この世界の人間は旨い。知識で溢れている」
「ああ。それも狩り放題だ。存分に飢えを満たそうぞ」
 灯吾は笑い、爪をふるって人間を斬り割いた。
 多く言葉を蓄えた者ほど旨いらしい。名前ごと、発した悲鳴の一音さえも残さず腹に収めてやろうと、更に人間を斬り割き続ける。
「今や俺達の姿を気に留める者などいまい!
 天も地も、あの羽根付き共がうようよしている故に!」
 二人は笑い合い、地獄を堪能するのだった。

 四月三日。伊部谷 純(r2p002651)は避難所を目指し歩いていた。
「人類はみんな殺し尽くしてしまおう。
 人類の滅びた先に、新しい日常はある」
 たどり着いた避難所のシャッターを、衝撃波で吹き飛ばす。
 武器を持って人間が飛び出してくるも、純はそれを更なる衝撃波でなぎ払ってしまった。
 目を細め、どこか悲しげに呟く。
「わたしが死んでも、天使が滅びても。日常は、戻ってこないのに」

 目を覚ませば家は火の海で、呼べど叫べど、応える声はひとつとして無かった。
 国立 花(r2p002959)はその中で、知る。
 遠ざかる車の音、聞き覚えのあるそれは父のもの。
 両親と、祖父母と、妹。5人乗ったらいっぱいで、花の乗る隙間は無いのだと、『家族で水族館』に行くときに言っていた。
 炎を纏い、翼を広げる。
「もっと早く、こうしておけばよかった」
 花から取り上げた玩具も、着もしない綺麗な洋服たちも、みんな焼き尽くしていく。
「でも、『みんな』がまだだよ」
 炎を纏った天使が、燃えた空へと舞い上がる。

 執筆:黒筆墨汁



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