2052年 - Part1
【時間転移】気が付いたら28年後に来てた件【ここどこ?】
0001 Watcher
2052/04/XX(月) XX:XX:XX
時間転移者だけど何か質問ある?
本当に慌てて「インターネットを下さい」と懇願したR.O.M(r2p001264)はスレッドに書き込まれる文字列に頭を抱えた。
どうやら此処はマシロ市と呼ばれていて、しかも2052年なのだという。一体何が起こっているのか――
貸し与えられたスマートフォンを手にR.O.Mは気をもうしないそうな感覚であった。
周囲には自らと同じような存在が多く歩き回っているのは確かだ。興味深そうに周囲を見回したのは苺 メロ(r2p003124)。
果たしてどの様な奴らが時を渡って来たというのか。歓迎しているのか、それとも困惑しているのか、緊張しているのは確かなのだがふくよかな体格を有する佐藤 夜行(r2p002046)は余りに唐突な事態に光っていた。
「光ってる……」
呆然と呟いたのはぽろちょ(r2p000634)だった。
「急に28年後に飛ばされ、お前は悪魔! とか言われても何が何やら……。
ぽろの可愛い脳みそでも処理しきれないよぉ! ぽろちょの遊んで暮らす完璧な計画が……許せん天使!」
狭苦しいマシロ市、と言うべきか。人類の安息の地はぽろちょにとってハイパー素敵な娯楽とはなり得なかった。
そんな突然この場にやってきた者達へとマシロ市は急ぎ、説明の機会を設けたらしい。
「――と、このように。貴方達は過去より現在に跳びし時間跳躍者。
そして此処はマシロ市にあるしがない教会。この世の人理最後の防衛戦へようこそ、レイヴンズ。
私は其方らの帰還を心よりお待ちしておりました。共にこの世界を救おうではありませんか。
……はて、急にそんな事を言われてもわからない、ですか」
こてんと首を傾げる雨屋 嗎(r2p003028)のように能力者を保護する者も居る。Fleurety(r2p002883)の様に市役所での対応に追われ目を回す者――そして、刻陽学園でも、その動きは活発であった。
「――ようこそ、フレッシュの皆さん。マシロ市は貴方達を歓迎します」
淡々と説明会のスタッフの一員として小鳥遊 灰音(r2p000672)は声を掛けた。後方には嘉神 ハク(r2n000008)が立っている。
「灰音さん、有り難うございます。こっちもお願いします」
「はい。生徒会長」
資料を手にした灰音はそそくさと作業を続けていく。唐突な座標消失した者に誰も彼もが大忙しである。
「あ。ハクさんや。お疲れ様です。今期も生徒会長勤めはるんです? ははあ、相変わらず気張っとうなあ」
「こんにちは、諒真さん」
柔らかに微笑んだ連城 諒真(r2p003112)にハクもにんまりと笑みを返した。「最近はどうですか?」とハクは問う。
「ぼくは……うん。相変わらずですわ。精神壊して戦えん戦闘員とか穀潰しもええところや。
……まあ、戦い以外なら動けんこともないんで、こうしてK.Y.R.I.E.の要請受けて、跳んできた人らの誘導とか聞き取りのお手伝いしとんですけどね。
……ハクさんはなんで折れずに頑張れるんです?」
ハクは目を丸くしてから「どうして、でしょうね」と誤魔化すような笑みを浮かべた。
刻陽学園の図書室で埃被った記録を読みながらメイデン(r2p001240)は大破局の記録を眺めてからお腹いっぱいだと呟いた。
「最初の3日間の記録だけでお腹いっぱいになってしまいそう。。
まだまだ続きがあるようですが、まさか『負けた』と書くだけにこんな厚みを持たせたなんて言いませんよね?
……この世界の人類の勇姿、も~っと魅せてくださいね!」
そう、だってこれは序曲の筈なのだから。外では騒ぎが起こっている。生き残った者達の再度の行進が此れより始まる筈なのだから。
鮮やかな赤いランドセルに黄色いカバー。青紫の防犯ブザーを揺らすヘル・ミンサー(r2p001219)はうっとりとした顔をしていた。
「マシロ市に来るまで無学歴の極み、保育園すら通ってない身分だったからクラスメイトに馴染めるか心配ね。
ンッフフ、担任の先生は男性かしら好い男かしら……」
一年生のヘル・ミンサー君の担任が素敵な人になることを願わずには居られまい……。
「会長」
呼び掛けられてからハクはくるりと振り返った。体育教師として転移者の相手をしていた鵜来巣 夕星(r2p002783)は備品を取りに校舎にやってきていたのだろう。
「あれ、鵜来巣先生。どうかしましたか?」
「ボールを取りに来たんだ。子ども達とドッジボールでもして励まそうかなって。
俺みたいな現場の担当はまだ楽な方だ。今頃、お上の人達は人がいきなり増えちまって大変だろう?
……それで、さっき、校舎で見かけた奴が警戒心バリバリで……会って貰って良いか?」
「勿論」
穏やかに微笑んでいたハクの瞳は徐々に見開かれていく。夕星が連れていたのは2024年に見慣れた兎神 ウェネト(r2p000078)の姿だったからだ。
「ウェネトさん」
「ああ、会長殿、ご無事でござりゅ……な。
まだここは危険なので逃げて……夏帆先輩殿もきっと無事で、妹殿も……」
何時転移したのか。本当に最初だったのだろう。ウェネトは真新しい校舎の中に唐突に転移し、姿の変貌した者を警戒していたらしい。
ふらりと気を失った彼女の体を抱き留めてからハクはその言葉を噛み締める。
――夏帆先輩殿もきっと無事で。
「ハクくん! 良かった、無事だったんですね……! 夏帆ちゃんは?」
慌てた様子で駆け寄ってきたのは天音 瑠璃(r2p001888)だった。親切な人に送って貰ったのだと告げる彼女にハクは渋い表情を見せた。
「夏帆、は――」
彼はそれ以上の言葉を紡ぐことが出来なかったか。瑠璃の視線が忍海 幸生(r2n000010)を捉えた。
そして、彼が付けていた夏帆のネックレスを見て――察したのだ。彼女は、此処に居ないのだ、と。
●
「……なんで、生きとる……? わしだけ……」
呆然と呟いたのは殿原 天国(r2p001046)その人だった。その瞼にはついさっき命を落とした友人の姿があった。
あのまま、焔の中で死んでしまえばよかったのに。そう、願っていたはずが――この在り様だ。
天国は膝を付いて項垂れる。
此処は常世の国なんかじゃなくて。ただの、現実なのだ。
――遠い、遠い過去での記憶を姫椥 ユスラ(r2p000051)は思い出す。
刻陽大学の敷地で、戦っていた。出来うる限りの安全を得るために張り巡らせた結界が破られたのだ。息絶えた忍者を放り投げる天使を前に、九字護身法。
ユスラはその力を覚醒させ座標消失によって2052年へとやってきた。
そう、退屈な歴史の授業に七竈 龍也(r2p002136)が「面倒だな」と呟いていた頃だ。幼い龍也にとっては有り得ないような平和と、今では日常になった天使という存在の災害。
「どこかで暇を潰せないかな……」
そんなことを呟いた龍也の目の前にユスラが居た。確か、あれは忍者か。そんなことを思って居た刹那に、振り下ろされた木刀で龍也の目の前には星が散った。
「消えた人々が戻ってきたんですって!?
もしかしたら、天使襲来のさなかに通信が途絶したアシタもいるかもしれないわ……!」
慌てた様子で告げた松戸 ミライ(r2p001673)。有り得やしないことだ。それでも28年の月日が流れて漸くあの子に逢えるかも知れないのだ。
ミライの心は高揚していた。もしも、そうだったならば――ああ、なんて幸運なのだろうか!
「……急に起こされたと思ったら、此処は28年後だなんていきなり言われてもね」
ある意味で都合が良いのだろうかとディセリア・ミスルトゥ(r2p000112)は眉を寄せた。ここなら誰も自分を知らない可能性がある。ごまかしだって利くだろう。
「はい、次…今日は君で13人目だ。其れじゃあ君の話をしてくれるかい、28年前からの来訪者君。
……と、随分と余裕だな。もう少し狼狽えたって良いだろうに。魔術師にとっても、時間跳躍なんて埒外にも程がある現象だろ?」
「多分、此れから戦える人間を活用することになるんだろうということは理解した。それ以上に必要?
其れなら、私は結構オススメだよ。何せ、28年前の英国ではそこそこ名高い魔術師家門の一員だからね」
夢現 オルレア(r2p002778)は呆れた様子でディセリアを見た。
「先の処遇は兎も角として。困ったことがあれば訪ねるといい……君らみたいなのには首輪が必要になりそうだからな」
「へえ、此の街には魔術師も結構いるんだ……知り合いがいなきゃいいけど」
困った事になるとディセリアはその言葉を飲み込んだ。
刻陽学園の高等部へと進学した天龍寺 ソフィア(r2p000705)は「先輩」と嘉神 ハク(r2n000008)へと呼び掛けた。
「次は何を手伝いましょうか?」
「……そうですね、入学手続き書類を纏めて貰えますか? 資料を一つに纏めていた方が分かり易いでしょうから」
「はい」
頷くソフィアは悩ましげな表情を見せた。大量の流民となったフレッシュ――彼等を受け入れる余裕がこの人類生存圏(マシロ市)に存在して居るとは思えない。
(……一番『現実的』で『人道的』な案は、平和と惨劇しか知らない能力者に戦争を教え、戦場に出す事なのでしょう)
「ソフィアさん?」
「いえ……はい。義務と権利は等しくあるもの。彼らの学園生活の為頑張りましょう、ぴすぴす」
彼女を見詰めてからハクは「そうですね」と渋い表情を見せたのだった。
この都市は唯一の楽園だ。マシロ市というのは『外』とは比べものにならない待遇を能力者に与えてくれる。
一歩踏み出すだけでも怯えることはなく、煮立った湯を飲み干せと苦しみに呻くことも必要はないのだ。
――けれど、この都市は仮初の楽園に過ぎず、真なる楽園とは嘗ての『地球』に存在して居たと暗道 灯熾(r2p000128)は耳に為たことがあった。
やっとの事で訪れたマシロ市学生の身分を手に入れたのは、彼にとっての幸運であった筈だ。
(……安息の地。それでも、生きる為には対価が必要だ)
灯熾はぎゅうと拳を固めた。必要な人間だと思われたい怯え、必要な人間だと思われていかなければ生きていけない世界――燻った怒りを飲み干すことなど出来まい。
(人が人であるだけで生を嘉することが出来た時代は、遠い楽園だ。……楽園に戻れないひとたちは、何処に行けば良いのだろう?)
この楽園が仮初のものであると姫神・南天(r2p000694)は知っていた。四凶祝福は魔や病をくらい蓄積し、正しきモノを惑わせる。
この混迷の中では暴動が起きかねない。南天はただ一人その喧噪から逃れるように人気の無い方向へと走り出す。
「死ぬわけにいかない、こんな病魔に蝕まれた身体でなんで死ねない」
擦れ違うようにその喧噪を眺めていたのは当真 暁斗(r2p000997)だった。生を受けた時から、天使は存在し、常に死と隣り合わせであった。
その緊張がぷつりと途切れたのは確かなのだが暁斗は自らの名前以外の全てを忘失したように何が起こっているのかさえ理解出来ずに傍観していた。
「……厄介な事に、巻込まれたくないんやけどなあ……」
呆然とした様子で立っていたのは二星 夏希(r2p002775)その人だった。まさかのまさか。全く以て予測していなかった状況がそこにある。
「は? 亜希が生きてたですって? 堕天使になってる!?」
愕然とした夏希は素直に妹の生存を喜べなかった。28年もの間、自身は彼女が死したと思って過ごしたというのに。
「……二星夏希は生きてるって伝えないで頂戴。絶対一緒に世界を救おうとか言ってくるわ。もう懲り懲りよ、28年も働いたのよ、こっちは。
ただのサボり魔のリカで十分。二度も世界救いたく無いわ……アイツも、私が生きてると知ると嫌がるだろうし」
路地裏で、exegesis(r2p001263)は拾われた。この喧噪の中で、opéra(r2p001590)が剣を抱えていた彼を保護したのだ。
そうした者達は幾人も居る。生きていてくれればそれで良い。そう望むようにして路地裏に幸村 糸(r2p000794)は立っていた。
(……明百花は――)
如何しているのだろう。忘れないように、右に青、左に紫のアイラインを重ねて弱い自分を隠す糸は俯いた。龍妃の為にと裏の道に染まりながらも、あの陽だまりのような友人の無事を願った。
(……これは)
大劇場を去る人々の背中を見送る日々から、何も持たぬ遺体を送る日々へと変化して随分と経った。
技術を見せるハコに憧れ、人を収める箱に縁など無かった浦片 掛吏(r2p002978)はこの事態に耳を疑った。
――服の切れ端でもあれば諦めがつくのにと煤けた写真やささやかな品しかないのだけれど。
そう言っていた人々の元に大切な人が戻ってきたというのか。それはなんと、不可思議な出来事であろうか。
●
「今日は2052年4月1日、ドゥームスデイ10227日目。
ここは人類最後の砦。かつて横浜と呼ばれた地。希望の都マシロ市にようこそ! 早く入って、天使が来る前に!」
エレン・フォレスター(r2p002150)はマシロ市の前で立ち竦んで居た跳躍者へと手を伸ばした。
武装した姿では怯えさせるかもしれない。それでも、友好的に微笑んで彼等を受け入れるのだ。
ネム・フィアーナム(r2p000070)の放浪の旅もお終いの時間がやってきたか。師に叩き込まれた生き残る術を生かすにはマシロ市と呼ばれる場所で過ごすことが必要不可欠だ。外では人間の生存は絶望的で――エレンの言う人類最後の砦という言葉はしっくりと来るほどだ。
「……で?」
目をそっと逸らした天逆 九天(r2p002759)に「逸らすな」と眉を吊り上げたのは課員である春名 朔(r2n000031)であった。
「そう怒りなさんなよ。外に出る……勇気を、ね」
「そうですけれどね」
一応は上司に当たる九天に朔は「必要な事です」と嘆息した。神秘対策課としてもこの人口大流入には対策を打たねばならぬと言うことだ。困った様子の九天に朔は「申し訳亡いですけれど――」とそう言ってから顔を上げた。
マシロ市の端末の光が柔らかな光を帯びたからだ。
「program:realize boot.transfer object is MachinaWill’ego.completed。牧名うぃるは現実世界にHello Worldしたですよ」
牧名 うぃる(r2p000581)の声が響き渡る。九天は「対応しなくちゃな」と思わず呟いた。
「手伝いましょうか」
静かな声音で告げた明(r2p000329)に朔は「よろしくお願いします」と肩を竦める。
もはや猫の手をも借りたい状態だ。階級なんてかなぐり捨てる勢いで、一先ずは何が起こっているのかの現状把握に走らねばならない。
「興味深い事ですが、あまりナユタとは関係のないパーリィタイム……いえ、一応関係ありますね。
このお祭り騒ぎでお役所の窓口が右も左もてんやわんや。ナユタの編入手続きは予想外に時間を取られてしまいました。
そう考えると、ナユタ、結構オコです。ファッキュー」
拗ねている天道 ナユタ(r2p003101)のように役所のパンクによって手続きに手を取られる者も居る。
荷物も多く、運送には時間が掛るのは確かだ。拾 春風(r2p001715)と言えば「春風個人運送でーす!」とマシロ市役所や警察に顔を出しては個人宅へと駆抜けていくのを繰返していた。
例えば、眠り続ける輝夜 姫子(r2p000065)のように異世界から不時着した者がこの喧噪で目を覚ます可能性もある。
春風は不可思議なカプセルを一瞥したが、それは微動だにすることも無かった。まもなく彼も目覚めるはずだが、それはまた別の話だ。
途中、「は~い、皆おは~。今朝も元気かな?」とUCP財団のモニターから挨拶が聞こえた。AIであるハッピー・キャンディ(r2p002100)の楽しげな声音だ。
職員のメンタルヘルスやバイタルチェックを行ないながら、異変に対してもいち早く対応を行なわねばならないと思案する。
「大昔に行方不明になっていたひとたち……?
あの、おなかすいてる、のなら、りーくんのお店、ごはん、おいしい、よ……?」
こてんと首を傾げたのは燈森 紫空(r2p000637)だった。祥 黎明(r2p002796)は緒を抱き締めておずおずと告げる紫空の宣伝を受けてにんまりと笑う。
「欢迎光临! 兄さん姉さんたち、腹減ってる顔してんな!
うちで食ってけよ。ほらほらお代はいらね……あ!? これ旧時代のお金じゃん! 初めて見た! なあ、本物かこれ!?」
凄いなと500円硬貨をきらきらとしたお宝だと認識した黎明は瞳を煌めかせた。
ぱちくりと瞬く紫空はそれが嘗ての存在が帰ってきたという事に気付いて、ノアくんと呟いた。会いたい人は、今どこに居るのだろう――?
「あれ……ここはどこ?」
思わず、石薬師 八雲(r2p002610)は呟いた。二人の兄を探すために走り回って漸く逢えたはずだったのに。
「誰か! 誰かいませんか!? 兄様を! 兄様を助けて!」――そう、叫んでいたはずなのに、気付けば知らない場所に居た。
瓦礫と共にあった長兄はどうなったのか。声を張り上げたのに、己は安全地帯に立っていた……?
「あれぇ、こんなところで何してるの? お姉ちゃんってば、もしかして迷子?」
ぱちくりと瞬いたのは夜月女 遊兎(r2p001537)だった。
「ん~、とりあえずK.Y.R.I.E.にでも連れてけばいいのかなぁ?
そこでぼんやりしてても何もわかんないと思うし、案内してあげる♪」
そう告げる遊兎に「全部、夢――だったのか?」と春秋 佑河(r2p000035)は問うた。
「そうだ。友達を知らないか? 誰か――殿原、イヴリン、イレイン?」
呼びかけるが周囲には誰もいない。唇を噛んだ。親友に撃たれたのは確かだ。その疵痕はくっきりと己に残っている。
だと、言うのにこちらの方が夢なのか? 何も解らぬままに佑河は立ち竦む。
(――まずは何故この時間に彼ないし彼女ないし人外達は存在そのものをずらされたのか)
悩ましげにシャルラタ・ブラックウェル(r2p002436)は呟いた。天使の目的か、それとも何らかの思惑があるのかは定かではない。
一介の市民であるシャルラタにはその仔細は分からないが――「解体できる日をお待ちしているよ」
「……私は生まれた。敵を倒す為に生まれた。多数の人が戻り、多数の敵がいまだいる世界に私は生まれた。
敵を倒す為だけに存在する私だ。――敵は何処にいる? 教えて」
淡々と問うたルベリィ・ウィシーズ(r2p000545)は相棒と呼んだその人を前に手を伸ばした。
「……あなたが私の相棒? じゃあ、よろしく。そして行こう敵をせん滅しに。
あなたも私もその為にいる筈。……違う? 何故?私はその為に生まれた。貴方は違う?」
ルベライトの煌めきと、それから誰かを模倣した姿。ルベリィは首を傾げる。宝玉の煌めきを最初から持っていた少女にとって天使との戦いは当たり前のことだった。
●
地上の楽園とは何処にあるのか。大破局を経てからエルタニン ルクセ(r2p002446)はずっとその場所を目指していた。
アフリカの小国から懸命にやってきたこの場所は、余りにも小さな世界にも見えただろう。
しかし、ルクセの目には確かに素晴らしい楽園に見えたことだろう。大型の獣に跨がって辿り着いてから季節が巡り――運命を変えた日に消え失せた人々がやってきたのだという。
「はー、DD当時の失踪者が現れるなんて、不思議なこともあるもんっすねぇ」
「ホントだねえ」
「わあ。愛ちゃんじゃないっすか!」
「行くよ、杏理ちゃん!」
ごーごーと拳を振りかざす新世代。大里 杏理(r2p002672)は匂坂 愛(r2n000011)と共に駆け出した。
「こうしちゃいられないっす、とりあえず同い年くらいの困ってそうな失踪者に話しかけにいくっす!
誰も知らない、世界も全く違う、そんなんじゃきっと心細いっすよ。うちが新世界の友達1号になるっす!」
そうして、この世界を好きになってくれる人を増やすのだ、が。
「ハァハァ……、そ、そこのお嬢ちゃん……、どうでござるか……?
一度でいいから拙の事、振るってみたくはござらぬか……? ああ! 逃げないで! 先っちょだけ!!
柄の先っちょだけでいいでござるから!!!」
フツノ ミタマ(r2p001726)をつんつんと突いて「あんた、面白いねぇ」と糸瀬 きい(r2n000055)がくすくすと笑っている場面に対面する事となったのだ。
「あなた……いい身体してますね……。ビキニ、着ませんか?」
にんまりと笑ったニキール・B・ホメー(r2p002749)は転移者に声を掛けていたが、穏やかな笑みできいに通報される。
紳士的なニキールではあったが、街の人々を怯えさせたのは確かなのだ。その様子を眺めて居た朝倉 日向(r2p002561)はきっと大丈夫と感じていた。
先程、親友も見に行ったけれど、此れからは大丈夫だろう。彼女はもうこの世に居ない。ただ、居ると思い込んでいただけだ。
きいがくるりと振り返って、視線があった気がしたけれど、きっと、そう、気のせいだ。
「あの日、あの時に居なくなった人たちが戻ってきたって……茂さん、茂さんはいるのかしら!」
慌てた様子で千代 ヤチヨ(r2p000034)は人波を掻き分けた。大破局を経てからの28年、それをも乗り越えられたのは夫――千代 茂(r2p000992)との70年の歳月がしあわせであったから。
「……ここは28年後の横浜なのか」
呟く茂は思い出す。破滅を迎えたあの日に、妻は天使のような女の子になってしまった。それでも、彼女を愛していた。
「妻は、妻はどこにいるんだろうか。僕と同じように28年後に来たんだろうか。それとも、28年も待たせてしまったんだろうか」
茂は目の前に彼女を見た。そして、堪らずに抱き締める。ヤチヨ、と。
「思い出がわたしを支えてくれたけど、それだけじゃ……茂さん? 本当に、本当に茂さん?」
はらはらと零れる涙に、愛しい妻を抱き締めて「そうだ」となんども繰り返した。
「…さて。いつまで持ちますかね、自我」
そう呟いたのは花子(r2p001402)だった。生きる上で、人間として世界が平和になる事を願わなくては鳴らない。
時間が飛んでしまっただなんて荒唐無稽なことを信じていなくてはならないのだ。
「オデ、夢がある。生きるのは不自由、だから大変。
なんでこんなに大変になっちゃった? なんでこの世界に、天使がいるの? 事件、じけん?
オデ、そんな疑問と事件を解決する、ビッグな探偵、目指してる!
あちこちにある謎も、そこにある困難も、ばちんときりっと、オデが解決してみせたい!」
胸を張ったEm(r2p002638)のように明るい者も居れば、不安げな鵜崎 みう(r2p000063)の姿もある。
「……みう、このあいだまで高校生で、みんなと誕生日に遊びに行く約束して、なんだか変な羽根が生えてる人たちがきて。
みんな壊れて、そうなったはずなのに、なんで?」
――本来はみうの記憶であるはずの記憶が混濁している。横浜は亡くなって、マシロ市になって。
「……なんで? どうして みう、社長になって渋谷に住んで、笑って、みんなと遊びたいだけ」
はらはらと少女の涙は毀れ落ちる。まだ知らぬこの街をわたしの場所と呼べるのだろうか。
波城 月歌(r2p000766)はと言えば、好奇心に任せて市内の探索を行って居た。右も左も、何も解らないけれど楽しそうな事には違いは無い。
状況は今は何一つも分かって居ないから、一先ずは街の中を気儘に歩き回ってみるべきだろうか?
「……こ、こは……?」
大破局では己の力を利用していた――筈なのだ。しかし、風景も太陽の位置も何もかもが変わってしまっていた。愕然としたゼムガー(r2p002068)はぼんやりと掌を眺める。自らのカードも、随分と弱ってしまっていて。
(……ここ、は……?)
己の存在その物を疑ってしまうような場面がやってきてしまったのだ。
「……お恥ずかしいところを……」
困った顔をした鷹村 綾(r2p000768)は唐突なる座標消失で大切な洋服一式を手にしていなかった。着の身着のままの状態であったのだ。化物へと変貌した父と、その凶刃から己を逃がしてくれた母――それから、身体の変化で性さえも変貌してしまった事に気付いたのは丁度、今の話しだった。
茶屋:猫之森
それが玄野 壱和(r2p002272)の拠点だった。エイリス・リデル(r2p003091)は戸を開いて呆然とした様子で外を眺める。
何があっても開店しよう、と考えて居たのだけれど、扉を開いたら――
「はあ?」
「……イツワ、あれなに?」
どうやら、そこはマシロ市だった。
「エイリス、少しの間でいいから黙っててくレ」
そんなエイリスに壱和は何が起こっているのかと眉を顰めることしか出来やしなかった。
――私はここにいた。名前はない。この世界で発音出来る言葉が、私にはまだない。
生きている。それだけが嬉しくて、呆然としていた一人の悪魔は飛騨と名乗った男に拾い上げられた。
飛騨 まり(r2p002323)は然うしてたった一人の主を得たのである。
「……数万人が? 過去から?」
眉を寄せたエシェ(r2p001170)はそういうこともあるんだ、程度に考えて居た。
「今日はクイーンズプロムナードの辺りにガンガゼを掬いに行こう。あれは害獣だから勝手に獲ってもたぶん怒られない」
と、思いながらも何れだけあったって食糧の安定供給はできっこない。それがこの都市が直面する課題なのだろうか。
●
「うぉ! 此処どこやー? って何やこの景色! さっきと景色が違うやん! どないなってんねん……」
周辺が唐突に様変わりしたことにSūn・Wùkōng(r2p000154)は首を捻った。その声音にElaine Willy(r2p000291)は思わず立ち止まる。
何時もの如く警備を行って居た、だけだけれど――
「ウー様……いえ、そんな筈が、28年前のあの日からお姿が見えず、……死んでしまわれたものと――
けれど、あのシルエットを見間違える筈がありませんのに。まさか……本当に、ウー様なの?」
「何や嬢ちゃん? ウチの事知ってるんかー?」
顔立ちは変わったが、美しいと褒めた髪の色も、彼女だけの呼び方も。それは、まさしく――
「イレイン──?」
呆然と立ち竦んだ二人を眺めて居た岡崎 星(r2p000838)は「妃、何か知ってるか?」と任務の同行者である万条院 妃(r2p001410)へと問うた。
「本日、人出が多くなるような催しはなかった筈ですわ、先輩」
それにしたって奇妙なことが起きている。自殺志願者には見えない者がぞろぞろとマシロ市外に出ていこうとするだなんて。
「そこの貴方? この場への不用意な立入りは推奨できませんわよ?」
「おい、死にたくなけりゃUターンしな」
そう声を掛ける二人へとトン、トン、トンと仕込み杖を白杖のように使っていた舞月 咲(r2p002924)が振り返る。
「……ふふ♡ ……なんや動き始めそうやなぁ。ドキドキするわぁ」
天使も転移者も増えてくる。忍ばせた刃があれば、有象無象くらいは簡単に倒せるだろう。
ホークアイ(r2p002064)の様に周辺を警戒し、ロングライフルスナイパーを手にしながら索敵を行なう者も居る。
変異種などは警戒しておかねば何時、海を越えてくるかも分からないからだ。
所属そのものは残るとは言えども、K.Y.R.I.E.へと正式配属になったと言われれば軍で使用していた部屋もこざっぱりとし、何処か居心地が悪い。
大破局以降からずっと最前線だった。戦えるというだけでそうして死地に駆り出されて来た天海寺 サリル(r2p000322)は呆然とした様子で外を眺めるのだ。
「……フシギ」
異常なまでに嘗ての面影を残したマシロ市は、新しく第一歩を踏み出すこととなるサリルを歓迎してくれているのだろう。
「2024年の『あの日』に何があったのですか?」
リゼット・レイズ(r2p000316)はそう問うた。歴史として走っていても、参上の意味を知らない。
産まれた時から莉ゼットは戦うことが当たり前の存在だった。それでも――どうにも、リゼットの知らぬ意味が込められている気がしてならなかったのだ。
故にアルフレッド・レイズ(r2p002121)は彼女に語るのだ。自分について、ではない。その時の情勢についてを語るのだ。
「――誇りを忘れるな」
静かに、アルフレッドはそう言った。一族に伝わる語りのように、竜の因子を発現した我々が何者であろうとも、戦う能力を持つものは、それを行使する義務があるのだ、と。
「パールコースト所属の大月だ。アゴーニ船長、協力に感謝する」
手を差し出した大月 暁(r2p001576)にアゴーニ・ハープーン(r2p002875)は頷いた。
此れまでのアゴーニはマシロ市が出来るまでの間も各地に停泊し、船員達と共に過ごしてきた。
「どうやら、世界が変わったあの日に消息不明だった者たちが現れるという。常軌を逸した現象が発生しているのだ」
「ああ。これからK.Y.R.I.E.は仕事で行方不明者だった者の捜索を行なうだろう。
その一助を大月達はするんだろう? 備品は貸し出す。無駄骨にならないのを祈ってるよ。いってこい」
そう笑ったアゴーニの声音を受けてから背筋をピンと伸ばしたのは日向 珠生(r2p001623)と朝比奈 昇(r2p001608)であった。
「大月班長、了解した」
「朝比奈、指示を受け取りました。日向副長の指示に従い捜索活動を行います!
……私がまだ未熟なのは知っています。訓練を続けていつかは私も戦いお役に立つようになりたいです」
キャンプパールコースト所属の能力者もK.Y.R.I.E.が絶対指示権限を有することで此れからは様々な任務に挑むことがある。
「……ん。捜索……了解」
淡々とした大日 刧(r2p002038)とは対照的な昇の緊張は確かなものだった。彼等にとっての日常である奇怪な生物や天使――しかし、それらを知らぬ者達がこの場にやってくるというのだから、此れからの日々は大きく様変わりすることだろう。
「……助かった、礼を言うよ。君たちはどこの部隊の人だい? 僕の個体番号はP-0F10。呼び難いなら、フィオで良い」
唐突な転移にP-0F10(r2p002099)は渋い表情を浮かべていた。
天使に滅ぼされた世界よりやってきたP-0F10にとってこれは予期せぬ事態ではあったが、この場所ではまだ抗う手が存在して居るらしい。
(ココガ地球カ……俺様ガイタ世界トハ随分雰囲気ガ違うナ……。
ドウヤラ……天使ガウヨウヨ居ルヨウダナ……)
天使を知っていたホーネスト・アースト(r2p001808)は外を眺めた。異質な怪物や天使の存在。
どうやら地球という場所は窮地に陥っているらしい。元より天使を狩った経験があるホーネストはその一助になる事が出来るだろうと、そう認識していた。
●
慰霊碑――それは大破局を経験した旧世代が作り上げた嘗てを忘れぬ為の象徴的存在だった。
長く伸ばした金の髪を春風が柔らかに揺らしている。ナタリア・トゥオーノ(r2p000741)は目を伏せった。
ルンペルシュティルツに所属してから暫く、ようやっと平穏と呼べる日々がやってきたのだろうか。
「……今年も来てやったで。安らかに眠れよ……」
酒を入れたスキットルを一口呷ってからナタリアは呟いた。亡くした者は多すぎた。
父に、仲間に。弔いの言葉は白い一輪の花と共に風に乗せられどこへやら。
ふと、振向いた天宮 彩香(r2p000679)はぴょこりと跳ねた空色の毛を揺らがせる。
大破局服膺式典。新世代にとっては形式張ったものだろうか。ただ、旧世代と呼ばれる彩香にとってはこれは『嘗てを懐かしむ』為の式典ではない。
「安心しろ、まだ人類は諦めちゃいない。だから――――」
――明日へ、そして、未来へと向き合う為の決意表明。祈りと、そして、抗うがための勇気を得る日なのだから。
「……退屈でしかありませんわ」
唇をつんと尖らせたのは桐枝 ミント(r2p000347)だった。彼女は彩香と違って新世代、所謂大破局を知らない世代だ。
故に、ミントの父が式典へと協賛している都合でこの場に来ているが死没者と言われたって教科書の中の世界でぴんとも来ない。
(……だって、今日だって、どこかで誰かが死んでいるのですもの。マシロ市が幾ら安息の地だと言ったって、何時まで平穏が続くかもわからない。
私だって、戦いに出れば明日死ぬかも知れない。そんな我が身を思えばこそ死なんて、ずっと傍にあって――)
ミントは俯いた。当たり前のようにして死が傍らに存在して居る。それが彼女たちにとっての日常だったのだから。
「失った世代……かぁ」
変わってしまったこの世界に現れた新しい子供を喪われたと表すのは酷い傲慢だ。
「憐れられているのかなぁ?」
凍(r2p001406)はそう呟いた。当時のことを知り、式典に力を入れて運営参加している大人の向ける目線は時に何もかもを知らぬ子供への憐憫のように感じられて。
「わたし達はわたし達で楽しくやっているけれどなあ?」
「……そうだな。世界が変貌した日、か」
そう呟いたのは祠堂 一葉(r2p000216)だった。産まれた時からこの世界で生きてきても平和であった世界とはいまいちぴんと来ない。
同居犬はそうした思い出話をする度に最後には悲しそうな顔をするのだ。悪い思い出ばかりじゃなかったからこそ悲しいのだろう。
今ある命を大事に、なんて標語めいた言葉だけを考えて。土産でも買って帰るかと気を取り直した。
ロストエイジ達に大破局の出来事を教える羽取・A・リコリス(r2p000389)は当時を生き延びた者が此れまで歩んで来た道のりを教える啓蒙活動に勤しんでいたのだろう。
(……そうだな……)
眉を顰めた結城 辰哉(r2p001596)はK.Y.R.I.E.の一員としてこの式典への参加を行って居た。戻ってこなかったお兄さんや目の前で亡くなった母に生き別れた家族。
大破局だけではない『早贄と福音』事件でだって――天使のせいで命を失う者がこれ以上はでないようにと、そう誓ったのだ。
(……大破局服膺式典、といえど――)
大破局を忘れぬ為にと言う式典はK.Y.R.I.E.の職員とマシロ市の職員が用意し、刻陽学園では一度は強制的な参加が授業に組み込まれることがある。
と、言えど亡きシスターに連れられて何度も来ていたクラリッサ・クラーク(r2p002781)にとっては何度目かも分からぬこの日だ。欠伸を思わず漏したのは致し方あるまい。
(ぼく、こういう場所苦手なんだよな……)
居心地が悪そうに深川・セト(r2p001675)は身を揺らがせた。大人の目があるからと粛々と喪に服して居るがそもそも、御伽噺のような感覚だ。
涙を流す大人を見れば胸がドキマギとするのだ。代乃 美瑠波(r2p001307)の様にこの式典を重要な位置付けとするものだっている。
「……あれからもう28年も経ったのですね。それにしても、お兄様は一体何処で何をしているのでしょうか……」
大破局によって全てを変えられてしまったのだ。それは仕方が無い事だったはずだ。それでも――変化は訪れる。
「ここ、は」
驚いた様子で目を見開いたのは四葩 紫凛(r2p002963)であったか。そして、月暈 華羅(r2p000857)は呆然と此方を見返した。
「あの……あれ……? 私は先ほどまで横浜磯子天使災害臨時対策所に居たはずなのに。
間近で羽付きになった人を見てそれとの戦闘を見て非力さに震えて、命ちゃんは、御魂様は、……つかさお姉様、は……?」
唐突に世界が変化した。ざわめきと共に式典が中断される。
華羅はその場で倒れ、紫凜は「ここは? 異世界? いや、横浜の面影が」と譫言めいて呟いた。
「そ、それに、この姿は? ……紫陽花が自分から生えてる。引っ張っても……いて、くっついてるのか」
「……俺は……えぇと、ここで何をしていたんだっけ」
同じく姿を現したエルネスト・フォリア(r2p001462)は「ここは?」と問うた。問われたクラリッサが「マシロ市……と、呼ばれているけれど」とおずおずと口を開いた。
戸惑うクラリッサを見て「マシロ市?」と青年は呟く。自分が直ぐに何かを忘れていくことだけは覚えている。何か、大変で嘘みたいな光景を見ていた気がするのに――思い出せやしない。
「情報収集、を」
そう口にした罰天院 ウズクマル(r2p000605)は一先ずは相手が誰なのかを確認した。
誰もが皆2024年からやってきたと口にする。身分証明書も、何もかもがあの大破局周辺を差しているのだ。
「――……これからどうするのか、判断するのは上ですが。なんらかの材料には、なるでしょう。
……私の作者が、いるかもですし。ね」
新世代と跳躍者の出会い。そして旧世代から見たこの1日は余りにも――余りにも荒唐無稽なものであったのだろう。
「成程……? 座標消失で28年前に消えた人達が帰ってきたんだって?
ようこそ、2024年からやってきたの皆! 戦いの世界だけど、まずは帰還おめでとう!」
堂々と告げたキャンディ・レインドロップ(r2p002105)は一先ずは彼等を受け入れる事にした。
その明るい声音に慌ただしく駆け寄ってきたのは学園案内を手にした八月朔日 燐(r2p003113)であった。
「――新入生が、増えるって、コト!? 大事件じゃん、大事件! お友達も増やせるってことだよ!」
それでも燐は大破局を知らない。その日から地続きの彼等を前にして。
「刻陽学園で困った事があったら、なんでもあたしに聞いてよね! 全力でお手伝いするよー! ねっ!」
ただ、明るく振舞ってみせるのだ。
「大変です、ゆーが君! ランチセットの……いえ、全セットの危機です!」
慌てた様子で田沼 縁(r2p000424)が叫んだ。外食産業にダイレクトなアタックが掛けられている現在。
流民にどの様に対処するべきかを縁は懸命に考えていた。
「戦いましょう、ゆーが君! まずは食べられそうなサヴェージをゲットです。出来れば牛系で!」
青海 悠河(r2p000047)は遠い目をしていた。これからイキナリ牛を倒せというのか――この状況で。
(――昔、この街以外にも世界は広く輝いていたと謂う。
俺には信じられない話だが。この世界を救えれば、それを見る事はできるのだろうか? まぁ、今は……)
仕方がない。
「了解した、たぬ姉。ランチセットのBが少ないのも俺が焦がしたせいだ。アルバイト青海悠河として臨もう」
実は犯人の一人なのだ。文句は言えまい。
そんな様子に弍梓木 識零(r2p000615)が胡乱な言葉を物申す。
「…なるほど! BLTサンドからTが消えてBLになるのですね! それは困るのです! マシロ市に人が増えないのです!」
全てがBLになってしまうサンドイッチが爆誕しそうになって居る。識零は「にゃはー」と笑った。
「ええっ、ご飯の危機?! それは一大事。たぬ喫茶バイト戦士として直ちに出動するよ!」
慌てた様子でマンモスを襲撃しましょうと時代を大きく逆行したかのようなティニー(r2p001615)の一声にこてんと首を傾げたのはニムファ・グランダリ(r2p003154)であった。
「みんなでピクニックいくのかなー。
……? ピクニックじゃなかったのかー、でもニムもいっしょにいこー。おにくだー、とるぞー」
「はい! 撮りましょう!」
それでいいのだろうか。縁を始めとした喫茶店アルバイター達はただ、ただ、肉を求めていた。
●
――ぴちゃり、と音がした。瀕死で血濡れの自分が倒れ伏した音だったのだ。周囲からは叫声と響めきが起こる。
ああ、此処が地獄で、この声が獄卒だというならば。
「鬼が出すには可愛らしいナァ」
そう唇に笑みを浮かべてから夭 白虎(r2p000306)は大丈夫かと声を掛けた匂坂 愛(r2n000011)に「……できれば、助けてほしいナって――」とそうそれだけの言葉を零した。
「はい、次の方来てください……って、随分と青い顔をして。そんなに現実が嫌になったですか?」
眉を顰めた片霧 コユキ(r2p002337)はK.Y.R.I.E.の医務室でバイタルチェックを担当しながらも俯くフレッシュをまじまじと眺めた。
心に寄り添うことは簡単だ。だが、寄り添ったところで現実は変わらない。大破局で得た傷も癒えぬまま、未来へまで飛び込んだその人になんと言葉を授けるべきか――冷静に、冷淡に、コユキは言葉を選ぶ様に唇を擦り合わせた。
「じゃあアドバイスを1つだけ。痛いということは生きたい、ということです。
失恋したり心に傷を負うと心が痛いでしょ? それと一緒です」
治療は終わりましたよと背を押す彼女は嘆息した。今日は何て日だろうか。まだまだ騒ぎは続きそうだ。
「こっちですよ」
ユニス ミゼリコルディア(r2p002213)に促されるようにしてソフィ リンネア(r2p002242)は行く。
眩い紅色の瞳を瞬かせたソフィを案内しながらも未だ幼いユニスは「大丈夫ですか?」と問うた。
「ええ……唐突なことで驚きました」
「そう、ですね。……2024年と2052年では大きく違いますし、この附属病院も見知らぬ場所でしょうし」
「はい。刻陽学園――でしたっけ」
ユニスは頷いた。頼れる者の居ないソフィを支えてやらねばならない。ユニスは「でも」と何処かと惑うようにソフィの手を握った。
「もしかすると、ソフィさんを知っていらっしゃる方が生きているかも知れません」
「はい……そうですね。ユニス君」
――此れが二人の始まり。遠い過去からやって来たソフィを支える心優しいユニスは「次の場所に案内しますね」と微笑んだ。
「……?」
何時になく騒がしい学内を月見里 陽菜(r2p001343)は歩く。その騒がしさに、驚きと、不安ばかりが舞い上がった。
(……大破局。この日に起きた事は知っています。教科書にも載っていたし。
けれど……こんな、こんな事は初めて。何時になく騒がしい学校内に、慌ただしいマシロ市に、知らない人達が波のようにやってきた)
陽菜は姿を消した『片割れ』を探す様にきょろりと周囲を見回した。
あの子が居なくちゃ立てやしない、なんて日々には別れを告げなくちゃ――探し出すなら、声を届ける為に。強く、強くならなくちゃ。
きっと『これが何もかもが変わってしまう切欠』なのだから。
余りの騒がしさであったとしても気にする事も無くシースー・デ=ザギン(r2p001992)は歩いていた。
(……今は何時、何処で、何をすべきか)
能力者として、K.Y.R.I.E.に所属する者として。これらを確かめるべくシースーは道すがらに様々な情報を得ながら行く。
それが全ての民と世界のためだシースーは戦いに身を費やす覚悟があった。名乗るならば、そう、騎士と名乗ろう。寿司の騎士と。
出身世界こそ違えども、同じような出自であったのは何と言う偶然だろうか。ミュー=シミュラント(r2p002113)とニュー=シミュラント(r2p002114)はLBB-DD34/CST モデル・シシュ(r2p001759)を自宅へと招いた。
パジャマパーティーをするにはうってつけの日だろうか。なんたって、世界が大きく変わるのだから一念発起にぴったりなのだ。
「この見た目の良さを活かさない手はありません、アイドルをするのは如何でしょう?」
真面目な顔をしたミューにぱちくりとシュシュは瞬いた。確かに何かを始めるのはぴったり、だけれども。
「ニューちゃんも可愛いですしミューちゃんも同じぐらい可愛いですし!
ボクも可愛く作ってもらいましたし! ボク達三人の可愛さが、市の皆さんの希望になるはずです!」
「ちょっとめんどうかも……。でもミューとシシュがするならする。あと、そんなことよりもっとはさんで」
ふんふんと鼻息荒く二人に挟まれてうれしいなあと身を揺らすニュー。
突っ込み不在の三人娘はこの特別な日にユニット結成を目論むのであった。
暇――実はそんなに暇ではないのだけれど――だからと地上 麦星(r2p001847)は妹の地上 真珠星(r2p001838)と過ごして居た。
「お姉ちゃん」
宿題をまじまじと眺めて居た真珠星は「クラスのみんなは結構色々あったみたい」とそう言った。
何か実践授業が増えるともも聞いていた、真珠星としては郊外遠足が楽しみなのだ。
「うーん。大破局って言われてもね、お父さんとお母さんがわたし位の時の話だし、わたしも、ピンとこないかも」
姉妹は困った顔をして居たが、何か思い出したのは誰かが唐突に設置したという黒井 ビッキーニ像だった。
「あれも大破局だっけ」
黒井 ビッキーニ(r2p002544)の功績を称えて作られたと言うが、黒いビキニを着る風習は麦星も真珠星も「変わってるなあ」と思わずにはいられなかったのであった。
中華街から眺めて居る焔 鋼太郎(r2p001280)はぼんやりと眺めて居る。父は死んだ筈だ。けれど――特別な心当たりがあるとすればあのどこか幼い姿をした友人だった。
「まさか、な……仮に居たところで、俺には関係のないことだ」
皆が生き残る可能性? それとも、当たり前の様に何処かから生きていたと顔を出す?
何もかもが理解の範疇を超えている事に鋼太郎は嘆息した。
「懐かしい人たちが帰ってきたのだと。そう聞きました」
そう静かに呟いた音喰 禊(r2p001565)は首を傾いだ。禁黎楼でのお留守番の最中に、ふと店主のあの人の知り合いも帰って来たのだろうかと思いを馳せる。
さて、それは分からないけれど、何も変わらぬままではないのだから。妙な予感を禊は感じていた。
●
「……あーあ、結局私以外のDrunken Party!のメンバーはいなかったか。死んじゃったんだなぁ、みんな」
そう呟いたのは大里 汐里(r2p003055)その人だった。
「じゃ、解散ライブでもやるか! デビュー曲しかないけどさ!
転移してきた誰かがもしこの曲を知っていたなら、君たちが悲観するほど人は文化を失ったわけではないということを。
まだ高らかに歌い上げて明日を志す事を諦めていないことを知ってもらおう。
――そして何より、さらば我が友たちよ。これがレクイエムだ」
メタルバンドでボーカルを務めていた汐里にとって、それは悲しい別れともなっただろうか。
(真昼は――…私の父は、少し前から行方不明らしい)
どうしたって、鵜来巣 未明(r2p000774)は納得なんて出来なかった。
「……私の事を守るだなんて言っておいて、先に消えるなんて許さない。
余計な善意ばかり押し付けて、辛い事も悲しい事も全部隠して独りで背負って、打ち明けないまま勝手に消えるなんて」
一度たりとも『お父さん』なんて呼べなかった。
(この心の隙間は、どうやって埋めればいいのよ。……馬鹿)
――「え?」
思わずその姿勢の儘で倉御上 ゆき(r2p002122)は固まっていた。ボスのお気に入りのコップを手にしたままやってきたのだ。
「ボスのお気に入りのカップ……返さなきゃ。此処では、死ねない……!」
それだけの強い思い込み。最高級の行動理念が出来たのである。それが彼女にとっての物語の始まりだというのだから妙な心地でもある。
「クソ気に食わねェ……いや失礼。
とっくに滅んだ旧い世界が蘇ってきたとなると、旧世界で陰日向に耐え抜いた末に今の地位を手に入れたボクとしては、正直な所いい気はしなイ。ウチの若い連中に旧い常識だの価値観だの、余計なモン吹き込まれなきゃあいいんデスが」
そう呟いたのはキドー・ルンペルシュティルツ(r2p000187)だった。その傍では海堂 六吉(r2p000315)がにんまりと笑っている。
「おれは力を振るえればなんだっていいんです。
絶対に厄介事が起こる。悪意があろうと無かろうと、起こしたかろうと無かろうと。
社長、いつだっておれには解決する用意があります。あなたがやれと言えばこの力でなんでもやる、そういう契約でしょう?」
「まァ」
キドーを見詰めてから六吉は声を弾ませた。死人は蘇らない、天使は人には戻らない。そんな当たり前は何時も此処にある。だから、何時も通りに過ごせば良いのだ、と。
「あ、あ……ッ」
同胞の姿を見付けたFleurette Lesoleil(r2p002742)は安堵し涙を浮かべる。
「ご無事な方がいらっしゃって本当によかったです」
そう告げる彼女は知っている場所がなくなってしまっても、これが神による試練だと知っていたのだ。フランスは今、どうなっているだろう。
ヴァチカンは――それから。そう思えば胸がぎゅっと締め付けられる心地にもなる。
「……これは……」
この状況では臥龍岡 設楽(r2p001363)も落ち着いては居られなかった。
「結界貼って神域もどきにはしていたけど……あの子たちも無事だといいわね。
なんか変なのがいる気配がするわね、いざっとなったら本来の姿になって戦うしかないかしらね……」
悩ましい。此処は何処で、何が起こっているのかは全く理解出来てやいないのだから。
そんな設楽の隣を駆抜けていくのは郵便配達人のアデリナ(r2p001558)だった。どこもかしこも、騒がしく、再会を喜ぶ者に驚愕に困惑し続けるもの。
善良な郵便配達人を装ってマシロ市の現状把握に勤しむのだ。
「最近、ひとが増えたとか。売上が伸びるといいと思うんです」
そう呟いたのは白炉 ジア(r2p003126)。混乱も何処吹く風と言った様子で露店では硝子細工を売り続ける。
少しでも人々のやすらぎになれるようにとアクセサリーや食器を並べて空を茫と眺めては「今日の空も明るいな……」と呟いた。
「ちっ……嫌な感じだな。こんなもん上がっちまった日には、碌でもねえことが起こるぞ」
――九蓮宝燈。
どよめく友人の声を聴きながら獅堂 政宗(r2p001844)は嘆息した。奇跡的な確率でしか上がれない役が揃ったという事は最悪が訪れるのだ。
「……ほれ見ろ、これから荒れるぜ、こいつはよお」
煙草に火を付けてから政宗は「最悪な日だな」と呟いた。
酒場に設置されていた広報用モニターを眺めてからフレデリカ・アンダーソン(r2p002829)は酒を呷った。
何やら外では何かが起こっている。堕天使の増加は戦力の増強。悪い話しではない、が。
「アンダーソン」
「……」
しらばっくれるつもりであったがそうは行くまい。此れだけの騒ぎなのだから能力者として、いいや、軍人として治安維持に努めろという事だ。フレデリカは引き摺られるようにして酒場を後にした。
「未来のロボットってないのか」
近代的な文明を創造していた外峰 瑞希(r2p001150)はと言えば未来への展望に眉を顰める。
食い扶持を稼がなくては鳴らないのは確かだ。そんな彼の傍には宇宙より飛来したという情報生命体α ブルぺクラ(r2p002916)が堂々と着陸していた。
「ハロー、ハロー、小星は……」
きゅるきゅると音を立てるα。その声を聴きながら跳躍者など居て堪るかと言わんばかりに肩を竦めたのは南馬 トバリ(r2p002374)であった。
「28年前に消えた人間が大量に表れた?んな馬鹿な話をしてる暇があったらプロジェクトをすすめろや。
とうの昔に消えた遺物どもに今を生きる自由があると思うてんのか……」
嘆息する帳はそれでも、何か使えるかも知れないと引き出しから取り出した宝石のカードを握り込む。
これだけの人間の多さ。過去から来た自分がやるべきは28年の断絶に、どの世代の人間であっても縁を繋ぎ直すことだ。
かつての青春のトーク。あの場に集まり笑い合った人々。
「そうじゃ、【ネオ・高校生あちまれー】というのはどうじゃろう!?」
――銭丸(r2p000130)のネーミングセンスは28年前に置いてきたのだった。
●
――空から舞い降りした少女。世界が変わろうとしている予感をアダム・セッションズ(r2p000539)は確かに感じていた。
油断していたのだ。天使という存在を。甘く見ていた。非能力者であろうとも太刀打ち出来るだろうと。
「ミア、行け」
それが、ミア・セッションズ(r2p000197)のみた最後の父の姿だった。
そうだ。それが最後。
(パパがいなくなってからいろんな事が起きたよ。
28年前に消えた人達がマシロ市にいっぱい来たんだ。
私は戦えるようになったよ。……あとね、中等部のスカベンジャー部で部長になったんだよ)
ミアは父の面影を追うように思い出す。生きてさえ居てくれればそれで良い。生きて。生きてて欲しい。
そっと顔を上げれば、高台に誰かがいた。透花・セレッサ・ミネウチ(r2p002417)か。
「ふふ……うふふふ……!」
透花は意味ありげに微笑んだ。邪神の生まれ変わりであると自らを定義する一般的女子。
と、言えども本当に邪神の生まれ変わりである可能性は否めない(そうではないが、そうしておこう)。
彼女の笑い声はマシロ市に響き渡る――
「わっせ わっせ。みんながお腹を空かしてる」
えんやこらえんやこら。炊き出しは必要かと鍋には豆と芋の煮解しが入っている。狂狗榴 呑子(r2p002303)はせっせと坂を登った。
「急に人が? 羽根が生えてる? 天使かなあ それとも──まさかまさかの、新入りさんかなあ」
ぱちくりと瞬く呑子。もしも、新入りだというならば彼女にとってのおもてなし相手が増えただけなのだ。
「守護天使1号です! 天使復権委員会の名代として参りました。
ワタシ達は、マシロ市の生存領域拡大に多いに賛同し、協力を惜しまない所存です。
戦力は、ワタシはじめ守護天使1号から5号まで。それから我らが『委員長』」
守護天使 X号(r2p002476)は全力で捧げるとそう告げた。跳躍してきた者は最優先の保護対象であるとも、そう口にする。
その光景を眺めて居た伊秩・穂乃花(r2p002418)は何かが起こっているのだと眉を顰めた。自らの肉体にはルベライトが存在して居る。これは術に転用できるからこそ良かったが――此れまでの28年の空白を埋めるように怒涛の勢いで世界が変容しているとまたも勉強の連続と言うべきだろうか。
「それにしたって、活躍している弟子の話も聞くけれど相変わらずやんちゃばかりだそうな……」
そろそろ実戦復帰も必要な頃合いだろうか。
「ようこそ2052年へ。歓迎するよ……私はね」
静かにそう言ったファイナ・ルソード(r2p002241)。彼女は待てど暮らせど災厄は終わらず、世界は停滞の只中にあると知っていた。
半ば怠惰そのものである。それでも、その惰性とも呼べる戦闘ばかりの毎日に新たな光が訪れたのだ。それを期待せずに居られようか。
「うるママ……どこ……? ここ、ワイナリーじゃない……しらない場所……」
涙をぼろぼろと零すソフィア・B・ウィムフォクシー(r2p003155)はきょろりと周囲を見回した。
「いい子にしてたら、うるママたすけにきてくれる……? しらない人がいっぱい……こわいよ、うるママ…!」
涙が毀れ落ちるのを必死に堪えてうるママの事を聞いてみたが、情報を得られる事は無く。
「うるママぁぁぁああ……」
「ベビオラ!」
どうして、とウルズ・ウィムフォクシー(r2p000090)は叫んだ。転移を経ての転移。そして、それは自分だけでは無かった。
ソフィアの姿を認め、ウルズは直ぐさまに彼女を抱き締める。ああ、何が起こったのかは分からない――けれど、彼女が無事であった事だけでもそれは喜ばしい事なのだから。
「だらしないよ」
眉を吊り上げた桜木 結永(r2p000944)は寮ではなく、実家へと戻っていた。母がK.Y.R.I.E.から珍しく帰宅したというのだ。
仕事人間とは言いながらも彼女は良い母親ではあった。そんな母が飲んだくれてテーブルに伏しているのだ。
「お母さん」
「何」
桜木 澪(r2p000950)の瞳がゆらりと揺らいだ。
「探しに行かないの?」
「……いいの」
「見にいけばいいのに」
「良いの」
「ふうん」とそれだけ呟いてから結永はその場を後にする。母も素直に泣いてしまえば良いのに――
大黒 虹児(r2p001783)が不運であったのは、大破局に巻込まれた事だった。
しかし、彼が幸運であったのは見知った場所に、そのままそっくりの建物が残されていたからだ。
「やっぱり僕は正しかった! これはタイムマシンだったんだ!!」
――故に、彼は転移したことをしっかりと受け入れられたのだろう。ただ、疲弊した精神ではその言動は何処かちぐはぐになってしまっていたのだけれど。
「今日も、無事一日を終えることができた……」
ごろりと転がってから絃(r2p001348)は「あーあ」と呟いた。アルバムは焼け焦げて、あまりにぼろぼろぼになってしまったけれど。
「私も、もう少ししたら戦わないといけないんだって分かってる。でも、怖いな」
軍服を着た父と、仲間が笑い合っている写真だ。
「ね。パパ。パパの仲間って、本当にいるの?
ねぇ? ほんとなの? ママ。『パパは魔女だったのよ』なんて……」
まるで有り得ないような言葉を呟くように絃はそう言った。
●
――2038年に死した女がいる。その名前はエル=ソル・ウィンベル(r2p002061)と言った。
その人は、2035年に地球へとやってきて堕天使の男と結婚した。しかし、そのしあわせは長く続かず、天使となった夫はエルの命を奪ったのだ。
当時は未だ1歳であった娘は、彼女を鮮明には覚えてやいない。けれど――
「……あたしは、必ずお母さんの仇を討つよ。
それがかつてあたしのお父さんだったとしても、天使となってお母さんを殺したのなら、憎むべき仇だから……。
あたしからあり得たかもしれない幸せを奪ったそいつを、絶対に許さない!」
母の形見のマフラーは手放すことはなく。トリス=テラ・ウィンベル(r2p002063)は静かにその決意を口にするのだ。
「ったく……面倒くせぇ」
立花 楓(r2p001834)はぼやいた。先輩との哨戒任務の最中ではあるが大破局の残滓が紛れ込む可能性とてある。
面倒だと粒や行く楓の傍で彼女はたった一人の少女を見詰めて目を見開いていた。
(へぇ……姐御もこんな顔するんだ)
若干妬けるが構いやしない。ここは地獄。ここでの先輩は楓の方だ。この地獄で、出会えた事が奇跡なのだけれど。
「……」
ある喫茶店の前でソフィー・L・瑠維瀬(r2p003133)は思い出す――
それは5歳の頃の話しだ。己の良心はある日出現した両親によって殺され、飲まず食わずでソフィーは逃れるようにして此処までやってきた。
そうして、この喫茶店に辿り付き、これからの未来が開けたのだ。
「まさか異世界に2度も飛んでくることになろうとは夢にも思わなかったけど。
この世界でもどうにか馴染むことができて、生活を送れるようになってきましたね」
そう微笑んだアイラ(r2p001660)の袖をくいくいと引いてからアッシュ(r2p001000)は「とっても大変なことになってるみたいです」とそう言った。
「ずっと昔にいなくなった人達が、帰ってきたんだって、パン屋のおじさんが教えてくれました。
一体、どんな人達がやってきたんでしょうね?」
家庭菜園は寮にこじんまりと作っていた。アイラにとっての大切な人が戻ってくるなんて事知らずにアッシュは「お友達になれるひと、いたらうれしいです」と期待を告げる。
「アッシュちゃんなら、きっと大丈夫ですよ。だってボクがついていますから!」
「はい」
二人で顔を見合わせて微笑んだ。何かが変わってしまう予感は風となって吹き抜ける。
これは日課だ。目指せ永遠の17歳☆りんりん☆ランニングは大事な事なのだ。
理上 凛津(r2p002598)――1995年生まれ。今日も陽気に走っている。
「おい☆ 逆にりんりんに病院を勧めるのはやめろ☆ りんりんの頭はいつだって元気いっぱいだゾ☆」
彼女は「2024年から来た? んー、ちょっとキャラ作りにしては属性薄くね?」と呟いたが――どうやら真実なのだ。
思わず驚愕してキャラがぶれてしまったが構うまい。スマートフォンでは様々な配信が為されており、凛津は取りあえず一番上に表示されていたリアルタイム配信を開いた。
凸守 萌々香(r2p000704)――でこちゃんは「コン☆ デコモモチャンネルの時間だよ!」と明るく挨拶する。
「ようやく状況を掴めてきたというか、落ち着いてきたっていうか……そんなところ。
びっくりするほどの時間が経ってて、あたしの事を覚えてる人もどれだけいるかわかんないけど。
少しでも、こんなところでも何か力になれればいいと思ってるよ!よろしくね!」
――どうやら彼女も2024年から来たと告げて居る。
「昔、大きな戦いがあったらしい……戦いと言うより虐殺か。
そこから天使症候群やらグリード・バランスやら色んな事が起きたり、色んな人達が現れたり……」
指折り数えるのは花厳 葵(r2p002708)。それでも葵にはあまり知らない事で、どうにも窮屈な日々を過ごしていたけれど、これから生きる未来が変わりそうな予感がしたのだ。
「……遅れてきた大予言という感じか」
「成程?」
葵はふと隣を見た。どうやらクヨウ ナツナ(r2p001107)などは葵の知らない過去から現れたらしい。
原稿データを手にしながら如何した者かと悩んでいる内に大破局という絶望的な場面からマシロ市にまでやってきたのだという。
「え、これどういう状況? ……おっけー、わかった!」
何も解らないけれど、流れ着いた魔力はキラキラでしゅいーんしていた。マナ・アルス・マグナ(r2p002447)の瞳がキラリと輝いた。
そう、持ち前のかしこさで爆速理解(してない)のマナは取りあえずお腹が空いたからとご飯を食べに行くことにしたのだ。
「……はぁ!? K・Y・R・I・Eに潜り込め!?いくら私がヴァニタスだからって、無茶振りが過ぎませんか!?
……いえ。誓って絶対服従、御命令とあらば従い遂行するまでです。はい、全ては大いなる使者、"N"様の望まれるままに。
"N"もお前らも……私も。全員、呪われて地獄に堕ちろ」
頭を抱えた槓良=N=澪(r2p002132)は如何した者かとその場をうろうろと歩き回り跳躍者達という光景に直面したのであった。
●
牛乳を売り歩いている우유(r2p002218)は「物々交換でも結構ですよ」と微笑んだ。
「一応牛乳瓶はいくつかあります! 如何ですか?」
にこにこと笑っていた우유の前にばたんきゅーな者が居た。
アリアス・ミラドレクス(r2p000020)は目を覚ますとベッドの上だった。カレンダーには2052年と指し示されている。
倒れていたところを助けられたのだという。サイドテーブルには牛乳が置かれていた。
「……?」
鮮烈な記憶は無いか聞かれたが分からず――アリアスは首を傾いで外を見た、が、そこには何とも言葉に出来ぬ世界が広がっていたのだ。
「これこそがヨハネの黙示録に記された”Doomsday”か」
そう俯いたのはアンジェロ・D・ラガーディア(r2p000052)であったか。大破局の後に起こされた千年王国があるわけではない。
ただ、人類の生存を保証するマシロ市の外は荒廃しているのだ。嘆きばかりが溢れているこの世界でアンジェロは堕天使として生きる事が定まったのだ。
「うーん、日常生活には困らないね☆彡」
ぱちくりと瞬いたフィオレンティナ・花山院(r2p000526)
未来が続くのならば明るくて元気で可愛いキャラクターの様に振る舞おう。肩にはヘッドフォンを。
皆で明るく希望に満ち溢れた世界となって欲しいとそう願う。28年の歳月は、16年馴染み育ってきた作品たち以上だったのだから。心の支えとなる作品があるだけで幾らだって歩いて行ける。
「――ってことがあったんやけども」
我妻 鏡夜(r2p001620)は昔話のように語っていた。かなり良い保存状態の品を手にしていた鏡夜は嘆息した。
「だからこういうのも余計に捨てられなくなってもうてなぁ。
ほら、これはえーと、源氏物語の写本の古本やら、とあるアイドルに貰ったコンサートチケット。
……大事にせな、あかんよ。色々、な」
級に無くなってしまう品があの時には多すぎた。
懐古する鏡夜の様に、此れまでの事をぼんやりと考えて居た小石川 弦一郎(r2p001778)はまるで転た寝をするように目を伏せる。
横浜が崩壊して、長い戦いがあった。マシロ市が作り上げられていくのを見詰めながら孫と共に苦難を乗り越えた。
孫の心に希望が宿されているならば其れだけで良い。孫ならば屹度生きていける。
(……なら、わしの役目も終わったんじゃな……)
弦一郎はゆっくりと目を伏せった。
――不安、戦意、怒り、絶望、苦痛。様々な感情が其処にはあった。藍玉(r2p001277)は青玉(r2p001278)と共にマシロ市外周部で哨戒任務をこなしていた。
「行くぞ、藍玉」
「……」
その腕を伸ばす藍玉に青玉は応える。外にも大勢の移民が居るのだろうか。天使達を倒さねばならないことは確かだ。
天使。そう、それは翼と天冠を有しているのだ。
(……化物にはなりたくない)
人間として生き続けることが唯一の願いであったのだから。水花(r2p000307)は俯いた。
自分が人間であると証明するために、同じ境遇の人にも救いがあるのだと証明するために、力を振るうことに決めたのだ。
天使狩り。それが水花の生き方そのものである。
「……父上、天使級と遭遇しました」
告げるバオ・スニエ(r2p001380)は天使達を睨め付けていた。外には有象無象が存在して居る。哨戒任務で其れ等を倒す必要があるか。
高揚した気持ちを抑えるバオはくるりと振り返った。「『星明の民』は知りませんか」とステラミラ(r2p002285)に問われたからだ。
「ボクは何になってしまうんだろう……」
猫の耳や尾を抑えるように身を縮め困らせたステラミラ。何もかもが識らない世界に変化してしまっていた恐怖を拭うように当てもなく歩き出す。
「様子を見て来いって言われた時はどうしたもんかと思ったッスよねぇ……」
綾木 不破(r2p002830)はやれやれと肩を竦めた。カフェオーナーに拾われてから、情報収集を続ける日々だ。
古い社の修繕費はこのカフェで集める為に不破は日々を過ごすだけである。
「いらっしゃいませー。2名様、ただいまお席にご案内しまっす!」
●
――ここは何処だろうか。メイス・ツリー(r2p000100)は周囲を見回した。
虹の架け橋を渡って家に帰ろうとした。それだけだった。父は『使うな』と言っていたが子供心に、踏み入れたならば見知らぬ場所にやってきたのだ。
(ここは? 知った世界じゃない? あれだけお父さんが使うなと言って居た理由って……。
……仕方ない、世の中片道は死のみ……頑張って帰り道を探さないとな……最低限の装備はある、頑張っていこう)
異世界にやってきた彼が立っていたのはマシロ市と呼ばれる、全く見知らぬ場所であったのだ。
Sehnsucht(r2p001667)は呆然と周囲を見回していた。名をも有さぬその『少女』は俯いた。
「状況を整理しないと……うん、整理しても変わらないけれど……。
昨日は同胞たちと共に行動して狩りをして家畜を得て……それから……夕食をして、眠って……それからどの位……?」
魔力の流れを感じて瞼を押し上げれば『マシロ市』に立っていたのだ。どうするべきか。『名前がまだない少女』はただ「どうしよう」と呟くことしかできなかった。
ただ只管に逃げ回っている内に世界が変化した。白石 明日香(r2p000762)は唐突に全く別の世界へと辿り着いたような気がしたのだ。
見知らぬ地形、川が存在し、その対岸には無数の獣の存在があるらしい。風の便りが明日香に何かの予感を感じさせていた。
――誰か知る事は無い。ずきりと痛んだ頭には見知らぬはずの天使が己に剥けて何かを言う、そんな幻想が見えた気がした。
「やっと着いたよ。ほんっと長い道だった」
はあと息を吐いたAria=Penlife(r2p000067)は「この世界は──天使に襲われてるんだ。なるほどね!」と周囲を見回した。
Ariaは天使を知る悪魔だ。異世界からやってきた彼女をK.Y.R.I.E.の職員は何事かと問うただろう。
「通りすがりの冒険者、『Aria=Penlife』。覚えておいて! それから、これが――待って出力制限!?」
どうやら持ち込んだ剣はこの場所では出力の制限が掛ってしまっているようだ。
「ワタクシ、人間サマ方と敵対するつもりはございませんの
マシロ市というところにこられれば、他よりは平穏に暮らせると聞きましたの、ということで、是非お仲間に加えてくださいませ!」
ぷるぷると震えていた小さな可愛いウサギ、シュマロ(r2p001772)。その姿を見付けたK.Y.R.I.E.の職員達は「アガルタに運ぶか」と声を潜めていた。
「ピピピ……」
小さく鳴いたぜんまい鳥(r2p003120)を丁寧に保護をしていたアガルタの職員は「見える?」と問うた。
『やあ、あのひからずっとずっと、さがしていたんだよ。……あいたかった』
フレッシュの少年が泣き崩れる様子をぜんまい鳥は不思議そうに眺めては首を傾げるだけだった。
心を読み、声音をも真似て囀る小鳥の双眸にそれはどの様に映ったことだろうか。
白銀の狼(r2p003151)は懐かしい気配を感じて駆け出した。マシロ市、そう呼ばれたその場所にずんずんと近付いていく。
――もしも本当にあの人なら。もしもまた逢えるのなら。あの時の恩を返したい。
「ああ!」
白銀の狼は呆然と立ち竦んで居た『恩人』の姿を見つけ出すことが出来たのだろう。
嘆息したシャーリー・ザミエル(r2p001569)はK.Y.R.I.E.は忙しく、それ程化物退治への仕事を与える暇も無いと見た。
対岸にはクソッタレな獣の姿がある。怪物を思わす犬を骨董品と呼ばれたリボルバー拳銃を手に息を吐く。
(――ここには夢も希望もない。あるのは自分が生きているってコトだけ)
生き残るには屹度、この先に進まねばならない。平穏期と呼ばれていた停滞の時期はもはや終わりを告げるのだから。
「ああ……この調子だとまた起きれない、かな。明日は登校するって、約束した気がするけど……仕方ないね」
小さな欠伸を噛み砕くようにして天生 藍青(r2p002857)は空を行く。天使が存在するマシロ市外にはK.Y.R.I.E.や学園の演習でなくては出る事も叶わない。
故に、藍青の空はちっぽけな大きさでしかなかったけれど。こんな世界になる前の夜空は広く、そして美しかったのだろう。天使を全て刈り尽したら、その美しさを見ることが叶うのだろうか?
「――アハ、ハ」
小さく笑ったメテムサイコシス(r2p001139)。何もかも記憶を無くした彼は直ぐさまに外に出て天使と戦うことを望んでいたのだ。
そうでなくては行きてなど居られまい。その体は最早嘗ての面影など何処にも残して居なかったのだから。
●
――マシロ市の外で、ユリトウトエル(r2p002680)の羽音が響いていた。
呆然としていた幸村 巻(r2p002081)は小さい息を吐いた。ふらりと足を向けたのはマシロ市と呼ばれる『人類』の生存圏だ。
もうすぐでその場所に辿り着く。行かねば鳴らないと認識したのは――ああ。
「何か周りの様子が違う。ここがどこで、今がいつとか、そんなのわからないけど。
……さっきまで飛び回ってたアレも、アレはあれで美味しかったけど」
2024年からやってきた女は、腹を満たすご馳走を探す様に、脚を動かした。
「……蜘蛛の眷属……? 糸、お姉ちゃん」
ぺろりと舌を見せてから巻は、少女は嗤った。
「先ずは手札を増やしましょー、お友達をふやしましょー、そうしたら、我が君にぶつけましょー。
我が君を邪魔をするなら他のやつをけしかけてつぶしましょー。
すべては我が君のためにー、わたしはーあなたのーともでありーげーぼーくー」
まるで歌うように、空(r2p003099)は行く。『我が君』の姿は未だ見つからないけれど、いつか、屹度。
「……」
息を吐いたのは月見里 月華(r2p002525)だった。げっかちゃんと呼ぶ声は遠い。
空を見上げれば、何時も通りの月と星が見えてくる。鮮やかな太陽だって、変わらず昇るだろう。
大破局で『世界』が変化したと言われたとしても月華は何も知らない。何も変わらない。ただ、変わったならば――少女の背には翼と天冠があった事。
大切だったのに。大事だったのに。今はもう、わからない。
今日も今日とて退屈だった。シャーリー・アスカ・ヴァルハイト(r2p001786)は退屈な日々を過ごしていた。
マシロ市と呼ばれるその場所の外で佇み、力無き者の命を奪うだけ。オブジェとかした屍の山を乱雑に崩せともなんらトロフィーとして認識出来なかったことに気付くだけだ。
「――」
風がひゅうと吹いた。妙な予感がした。予感は春の稲妻のようにしてシャーリーへと降り注ぐ。誰かがやってきた気がする。
愛しい人が――荒廃した大地に佇みながらシャーリーは静かに息を呑んだ。
ヒトは居所を移した。行きうることの出来る場所はこの世界では限られていたからだ。
知っている。ハハシア(r2p002523)は死の気配を求める性質を有していたからだ。その姿は西洋の信者が描く天使像そのものであっただろう。
美しい白い翼を揺らめかせ、空を駆る。ほら、次の死は何処に存在しているだろうか。死の気配に俯くハハシアの視線の先で、どすりと音が立った。
巨大なガベルを地へと叩きつけるアナストロフィ(r2p001985)は『壊し』続けることだけを続けて居た。
それがアナストロフィの存在意義だった。世界を滅ぼす事が少女のお仕事だ。
その射干玉の瞳は、ただ、破壊衝動だけを映し混み、瓦礫の山をがらがらと崩し続けた。
アリエース・メリノ(r2p002331)はもふもふとしたその毛皮を揺らしながら、存在して居た変異種へと牙を立てる。
襲う、噛む、蹴る、喰らう。そして、時折討伐される。羊の姿をしたそれは温厚な家畜などではなかった。
ただ、人間を殺す為だけに存在して居た。獰猛なる獣の姿をして、哀れな末路を同胞が辿ろうとも気にする事も無い。
アリエースの目の前を走り抜けていくのは一本(?)のサトウキビ。二本の根っこは脚のようで、しなやかに動かされる。
「キビーーーーー!!!!!!」
サトゥ=キビ(r2p001793)であった。勢い良く駆け行くサトゥ=キビの「キビーーーーー!!!!!!!」という声に重なったのは「カカオーーーー!!!」
そう、空飛ぶカカオ・の・実(r2p001794)であった。呆然と見上げたアリエースの視線の先で祖空飛ぶ巨大なカカオの実が「カカオーーーー!!!」と雄叫びを上げている。
「ポッポポポッポポッポコォ!」
「ヘポッポッポッヘッポコォ……」
「ポッッッ!! トッポコォォォ!! ポッゲエエエエエエエェェッッ!!!!」
カカオを突然啄むように現れたのはポッポコーン(r2p001868)であった。突如として群れを成した鳩の変異種が餌を求めるように急降下し始める。
「ブギィィィィィィ!!!」
警戒する怒号猪(r2p001795)はポッポコーンを斥けようと勢い良く走り抜け、眠っていたマテリアルキャット(r2p002396)へとぶつかった。
「フシャアアアアアアアア!!!!!」
ごろごろと喉を鳴らして、優雅な微睡みの最中であったマテリアルキャットは怒号猪へと毛を逆立てて非難がましく声を上げる。
マシロ市の外に広がる光景は迚もじゃないが人間の安息の地は存在して居ない。
ふと、ポッポコーンがポロッと鳴いた。資産の先には「シャーーーーシャーーー」「ココココ、コケーーー」と泣き続けるチキンニャーメン(r2p002344)の姿があった。何故か相撲取りがドスコイ100%でここで食い止めてくれる可能性もあるが、今はない。
只管熱いラーメンを適当に浴びせ続けて自身のおいしさを誇示しようとしているのだ。
ころころとまん丸とした白玉 あんみつ(r2p002044)――龍の負傷した魂が現地の動物と融合して変異したふかふかな異形だ――はその喧噪に巻込まれないようにところりと転がっていく。
サトゥ=キビが「キビーーー!!!!!」と声を上げてポッポコーンに突撃していく様を眺めて居たフィランディ(r2p002202)は目を伏せった。
フィランディにとて空腹とは罪だ。故に、腹を満たす必要がある。ああ――これから、この騒がしいテーブルには上質なディナーが運ばれてくるのだろう。
しかし、世界が変化した事をナットゥ・ネバリウス(r2p002222)が理解しているのかは定かではない。ずるずるとその体を引き摺るように這って進んだ。
理解をしていたのはナットゥが探していた菌株が何処にもなかった事であった。ナットゥは伝来や秘伝の菌株に対して尋常ならぬ敵意と征服欲を抱く存在だ。何故かその心が刺激され始めたのである。
ארמיאל(r2p002402)は書き記す。これはヒトの暦において2052年の出来事なのだという。
彼女にとって未踏の地と成果てたマシロ市は人類拠点となった。天使の絶対的脅威から逃れるようにして過ごす人類の安息地。
退屈と代わり映えの無い日々を過ごす事となったארמיאלは風の便りで知った喧噪を記録してからノートを閉じるように両手をぱたりと打ち合わせた。
「――ארמיאל、記述終了」
執筆:夏あかね