Happy Halloween……?
街並みは、橙と紫に彩られて。
偏屈な顔をしたカボチャランタンが愉快に笑う。1日幻影薬を服薬すればV.A.L.K.Y.R.I.E.システムにプリセットされた仮想データを被せることが出来る。
――少しの遊び心で、V.A.L.K.Y.R.I.E.(r2n000098)と七井 あむ(r2n000094)が用意したのは「プリセットされた仮想データだけを利用して生身の人間ではない者を映し出す」というドッキリだった。
無論、幽霊のようなものだ。当人ではない。死者蘇生はありえない。あくまでも故人の遺族が望んだ場合にだけそうしたデータをハロウィンパーティーの最中にだけで市内にホログラムとして立体映像を映し出すのだ。
嘗ての姿で仮装をし、楽しげに歩き回る故人達の姿を見れば物思う者も居るだろう。
「休憩っ!」
潮騒の中、忍海 幸生(r2n000010)は一人佇んでいた。
仮装をして街を巡った。それからついでに久しぶりに帰った自宅には幼少期から変わらず菓子の詰め合わせが置かれている。
「おかえり」とそれだけが書かれたメモを握りつぶして菓子だけを回収して帰ってきたのだが――
「……ただいま位、書いときゃ良かったか」
幸生は思わず呟いた。父親との関係性は最悪だ。それもこれも母の死が全てのトリガーである。
母親、忍海 夏帆(r2n000020)は2038年に起こった『早贄と福音』事件で死去している。その際に傍に居たのは父であったと耳にしていた。
もしも、あの時に指揮に適した嘉神 ハクを連れていれば。もしも、あの時に二人で向っていなければ。
誰もが口を噤むような繊細な事件だ。幸生だって詳しくは知らない。まだ物心も付かなかった頃だ。
それでも、そう思わずには居られなかったのだ。
あのメモが遠征に対するものだとは気付いたが、まだ彼とのすれ違いは続いた状態だ。
「……また、機会はあるだろ」
肩を竦めてから幸生はふと顔を上げた。遠巻きに友人達の姿が見える。
フレッシュが現れて、遠征があって、日々は忙しない。
高校二年の同級生に、新たに増えた友人達に。共に過ごす日々は充実その物だ。
「おーい」
幸生が立ち上がったとき、ふと、160cm位の少女と擦れ違った。
長い紫の髪を揺らし、和風のメイド服姿の少女が幸生の進行方向とは逆に進んでいった気がするのだ。
「幸ちゃん」
呼ばれた気がして、幸生は振り返った。気のせいだっただろうか、そこには誰もいない。
「幸生」
友人達の呼び掛けに「何もねえよ、何処行く?」と幸生は明るく駆け出した。
Happy Halloween――あなたにとって素敵な一日となりますように。