秋空のむこうに
「昨日までさ、ハッピーハロウィーンて言ってたじゃん」
「だねぇ」
「もうクリスマスの準備始まるんだな」
「だねぇ」
11月の関内。賑やかな通りのベンチに、巳笠 烈斗(r2n000033)と九美上 こひな(r2n000071)は並んで座っていた。
彼らの手にはクレープが握られていた。秋を意識したさつまいもクリームが使われた甘いスペシャルクレープだ。
商店街は来月に控えたクリスマスに向けて、早速プレゼントやパーティーを意識した飾り付けを始めていた。
赤と緑と白からなるクリスマスカラーで店頭を飾り付ける店もあれば、店の前に立てた黒板にパーティーのご予約をとポップな書体が踊る店もある。
こひなはクレープをぱくりと大きな口でかじった。
ホイップクリームとサツマイモが合わさった深い甘みが口の中いっぱいに広がって、ついつい笑顔がこぼれてしまう。
「秋っていいね。町が賑やかで、お菓子がおいしい!」
「こひなのねーちゃん、基本食べ物で季節考えるよな」
烈斗も同じクレープをかじってみる。確かに甘くて、そしてどこか平和な味がした。
マシロ市という人類最後の砦が築かれてから暫し。人類から一度は失われた平和な日常を、この町はこうしてくり返している。
春に桜を眺め、夏に水着で海遊びをし、そして秋が来ればこうして美味しいお菓子を作る。商店街がクリスマスカラーに染まるのは、人々が未来を見ることができている証拠でもあった。
そして現に、彼らは未来へと突き進んでいる。大岡川を遡上して拠点を作り、更に進軍を進めているのだ。きっと横須賀での戦いも近いのだろう。
「クリスマスになったらケーキとチキンを食べてー、すこししたらお正月でしょ? そしたらお節料理とお雑煮食べるんだぁ」
「やっぱ食べ物で季節考えてるよな」
早くもクレープを食べ終えたこひなは、残った紙を手の中で丁寧に畳んでいる。
烈斗は少し冷たくなった空気を吸い込んで、空を見上げた。
半袖で過ごすにはもう涼しい、秋めいた風がそよそよと流れていく。
「あ、まって。じゃあ期末テストもうすぐだ」
「マジか! ぐわー、俺全然勉強してねー!」
なんて、言いながら。
秋の空は平和に町を見下ろしている。
次の季節の訪れを、まるで心待ちにするかのように。