横須賀平定作戦報告書


 新人類圏に組み込まれた横須賀の平定作戦。その全ての報告書が出揃い、K.Y.R.I.E.の横須賀平定部隊の面々は会議室でバタバタと……本当に慌ただしく動いていた。
 何しろ地上に残っている施設は良い方であり、海中に沈んだ施設もあったのだ。そんな場所で目的を果たすのは並の苦労ではないし、K.Y.R.I.E.能力者部隊やキャンプ・パールコーストの軍人たちの支援を受けた作戦もあった。
 当然ながら提出する書類は多岐にわたり、「書類が山のように積み上がる」という冗談みたいな状況は自然と能力者たちを遠い目にしてしまう。
「なんでこんなことになってるでやんすか? そりゃ、ここまでが仕事と言われればそうでやんすが……!」
 『秘めし日々』久雲 陽子(r2p000019)も旧人類軍吾妻倉庫地区の奪還作戦に挑んでいたが、やはりK.Y.R.I.E.の能力者やキャンプ・パールコーストの援軍の加わった大規模作戦だった。
「しかしまあ……あの市川柚香という大天使。思い返しても天使に堕ちてなお護りての矜持を失うことなし、実に見事でやんした」
 彼女の墓も今頃出来ているだろう。この書類が終われば祈りを捧げに行くのもいいかもしれないが……そもそも魔術倉庫を何に使うかは、まだ決まっていない。
「あの場所、何に使うでやんすか?」
「分からんぞ!」
 聞かれた『謎の力の正体』メロディアス・ハイギャラクシア(r2n000110)は自信満々にそう答える。何処に自信満々になる要素があったのかは不明だ。不明だが、メロディアスは今回の作戦の指揮官になってしまっているのでここ数日はずっと「へにゃっ」としている。業務量が多いせいだ。
「そもそもだなー。開発する場所と整備する場所が多いし、旧人類軍防衛大学校の整備もあるしで我も頭がパーンしそうだ!」
「あー、防衛大学校ね。なんか関連書類がどっさり増えてたわよね。何かするの? あそこ」
 『夢は宇宙飛行士』神薙 焔(r2p001145)もメロディアスにそう聞くが、あの旧人類軍防衛大学校の奪還戦も大規模な戦いだった。K.Y.R.I.E.能力者部隊にも死者が出てしまったし、けれど彼らやキャンプ・パールコーストの部隊のおかげで迅速に目的を果たすことも出来ていた。
 施設も比較的綺麗に保たれていただけに「何か」はあるだろうと考えていたが、まさか本当に……という想いもある。
「んー……そうだなあ。そのうち発表はあると思うぞ?」
 如何にも何かありそうなことを言うメロディアスに焔は「そう」と簡単に割り切る。そう言うのであれば本当にそうなのだろうと思うからだ。
「ところでさー、あのツチノコ? マジでたまに動くんだけど。何なん?」
「知らない。でもそういうものなんじゃない?」
「マジかー」
「そこ! さーぼーるーなー!」
 『蓬莱の剣』蓬莱 青羅(r2n000042)が暇そうに焔とそんな雑談をしているのを見てメロディアスが怒るが、まあとにかく横須賀防衛大学校は何かしらの計画が進んでいるようだ。
「杠葉を見習え! ちゃーんと仕事してるぞ!」
 メロディアスが指差した先では『覚悟を決めて』伏見稲荷・玉藻後・杠葉(r2p000462)が大量の書類を前に格闘していた。
 事実、旧人類軍武山基地の司令部に向かった杠葉たちは大変だっただろう。何しろ水没していただけではなく、海底王国の前線基地になっていたのだ。
 メインコンピュータからのデータの回収こそ出来たが、前線基地を作った主犯は太平洋の闇へと消えてしまった。
「報告書は見たけどなー? ほんと、よく帰ってきたと思うぞ?」
「わらわも同じ気持ちじゃ。あれほどの戦力を持った者たちが潜んでいようとは……一歩間違えばどうなるか分からんかったのじゃ」
 海底王国の初代女王とならんが為に『藍月姫』フィサリア ブルームーン(r2p005247)が蓄えていた戦力は相当なものだった。
 今回逃がしたことが今後どういう展開になっていくのかは、今は分からない。大打撃を与えたと信じたいところではあるが、今は何とも言えない。追加調査をするにしても、今のタイミングではないからだ。
「大丈夫だし☆ 何かあったら! あたしを呼んでほしいじゃん!」
「うむ、ありがとうじゃ」
 元気いっぱいなうさぎ少女『Vorpal Honey』羽取・魅月(r2p000072)も杠葉にそう笑いかけるが、実のところ魅月もタイミングと目的こそ違えど旧人類軍武山駐屯地へと小型潜水艇『KPA-ASMS-02 ケートス』で向かっていた。
 フィサリアとの関係は不明だが、根城にしていたスモーアリゲーターとの戦いをこなし持ち帰った物品は現在研究中であり、書籍類もやがてマシロ市のサーバに電子の形であげられるだろう。
 そうしたデータが今後のマシロ市のためになるのは言うまでも無く、他にも海の安全という話であれば『人斬り』玖威 良秀(r2p000566)の関わった騒霊船の話も忘れてはならない。
 廃船に憑依し、おびき寄せた人間をポルターガイストによって殺害してきた大天使『騒霊船』。幽霊の正体見たり大天使……とは現代では「よくある話」かもしれないが、放っておけばその被害はどこまで増えていったか分からない。
「大変だっただろー?」
「……ん。まあ、オレにしてみれば、そうだな……」
 書類から視線をあげると、良秀は適切な言葉を探す。あのときは「此奴は其れにも満たない徒花だったな」と語ったが……。
「ま、ロクでもないものだったことは確かかねぇ」
 わざわざ、あんなモノに風流な言葉を二度も使ってやる必要もないだろうと良秀が肩をすくめればメロディアスは「クールなんだなあ」と感心したように声をあげる。
 まあ実際、これからのことを考えれば海の邪魔物は少ない方がいい。それは確かな事実だろう。
 追浜夏島工業地区もかなり苦戦しつつも奪還し、今は全員が少なからず傷を負い治療を受けている状況だ。他の作戦と比べてもかなり厳しい戦いを強いられ、書類からもその状況が伝わってくる。
「実際、大変だったろー?」
 そんなメロディアスの気遣うような言葉に『医術士』ルナ・トレイン(r2p000206)も頷く。
 権天使級『イーナ』。そのナルシストな気質も仕方ないと思えるほどの強敵だった。
「そうですね。可愛い事はいいことなんですが……難敵でした。けれど、次はきっと……!」
「うんうん、我もそれでいいと思うぞ。頑張ったのは書類からでも伝わる。何より目標は達成したんだ。なら、次に行かなきゃな」
 そうして苦労した分は司令官たる自分が苦労を背負おうじゃないか、などとメロディアスは思うわけだが、実際軍需産業を支える場所だった追浜夏島工業地区は現在、何が使えて何が使えないのかを分類し始めている。
「何かを作るってのは大切だからなー。道具にしろ、食べ物にしろ……」
「違うの! その報告書は違うの! いろはは、そこまで食いしん坊じゃないの!」
「な、なんだあ!?」
 芒月 いろは(r2p004979)が書類に飛びついてきたのを避けようとして避けられず……くっつけたままメロディアスは手元の書類を見る。
 水没した旧人類軍横須賀工科高等学校、研究棟でのメモ回収……立派で難しい仕事をやりとげたと言っていいはずだが。
 そう考えていると、イカタコデベデベの足を持って帰るとか持って帰らないとか、たこ焼きを食べに行ったとか……まあ、そんな話が記載されている。
「あー、まあなー。いいんじゃないか?」
「違うの!」
 どちらにせよ、とあるクソだらしない電波系ひらめきで生きてる研究者の遺したメモは持って帰って来れたのだ。タコだかイカだかが混ざったサヴェージを食べたところで「そっかー」という話でしかない。
「ま、でも全部なんとかなったんだし。ざぁこ♥ って感じだよねー。よわよわ~♥ 手羽先♥ かわいそ~♥」
「ん、色々あったけどな。横須賀も『先』に進むときが来てるのかもな!」
 『メス・ガキ♥』鳴砂・上総(r2p004470)が向かった旧人類軍火力発電所での戦いもそれなりに大きな規模だったが、天使を「教えて」いた教育者の大天使『レーゲンアイン』を……取り逃がしはしたが撃退することが出来た。
 この火力発電所も今後どうなるかは要検討だろう。しかし全体としてみれば様々な情報や施設を手に入れた、満足いく結果を得られたと言い切れるだろう。
「さあ、皆やるぞ! 書類はまだまだまだまだあるけど……あと一歩だ! 気持ち的に!」
 横須賀の重要施設を対象とした作戦は終わり、今後の為の書類が積み重なっている。
 けれど、其処には確かな「未来」を芽吹かせるための種があったのだ。