喝采の時、闘技の華


 ――人工的偶像計画、とは実に理にかなかった計画である。
 人民のストレスケア。希望の喧伝。あるいは親しみを持った勇者の創造。
 プロパガンダ的な意味合いは多分にあるものの、2024年の人間が想像したディストピアのそれとはまったく異なる。というか、分かりやすいディストピアなどでは、間違いなく早晩にことを、マシロ市創設メンバーが理解していなかったわけがない。
 マシロ市とは、より『希望に拠った』都市であることは間違いなく、少々の後ろ暗いところはあれど、それは2024年の人類社会が存続するのと同様のバランスを持った都市に間違いはない。
 レイヴンズとは、いっそアイドル的な性質を持つ。となれば、そのレイヴンズの中から、より広報に特化した存在を作り上げることは、まったく理にかなった、そしてどこにでもありそうな話だ。
 藤代ガーネットという一人の偶像アイドルは間違いなくその役割を果たし、そして今多くの仲間たちを引き連れてにて激戦を繰り広げている。彼女はよくよく、役割を果たした。
「だがね。彼女はきっと、になる」
 と――男は言った。
 マシロ・スタジアム。その控室である。
 洋の装いあるスタジアムの控室とは、いっそ真逆、異質な印象を持つ男であった。一言で例えるなら、柳。その不健康な節に妙な色気を感じさせるような男である。
「なにせ……私は反対したのだがね。
 妃野原いばらは、いずれ彼女のアキレス腱になるよ、と。
 この後の展開を当ててみせようか――ああ、厭、こんなところで物語の展開を詳らかにすることは、読者への冒涜だ。
 聴衆は、きっと、藤代柘榴と妃野原いばらの戦いを、悲劇を、テレヴィジョンの前で固唾をのんで見守っているに違いないからね。
 まぁ、それはいい。
 そのために、君たちのようながいるのだ」
 そう、男がうっすらと笑った。
 控室には、二人の人物がいた。
「……ええと」
 うち、黒髪の少女が言った。
「とにかく。ガーネット先輩の跡を継げばいいんでしょ? わかってる」
 ぽち、とスマートフォンの端末をつまらなそうにいじる。雷の領域での戦い、その戦火が華々しく報告されている、K.Y.R.I.E.の公式ページ。
「戻ってきたら、お疲れ様、って言った方が良い?」
「そうだね。サナ。君は優しい」
 サナ、と呼ばれた少女が頷いた。
「まずは最初の仕事。アリーナガール、だっけ。そこでデビューか。
 プロデューサー、彼女と心中してそうな顔してるけど、仕事できるんだ。
 正直、あんまり信用してなかった」
「ははは、ちょっとグサッと来たな」
 プロデューサーと呼ばれた男は笑った。
「わたくしは、いつからクジョウ様にプロデュースされていたのかしら? 覚えがありません」
 と、あまりにも少女然とした、もう一人のが言った。
「とはいえ。一緒の仕事なのは理解しております。クジョウ様がこの仕事をとってきた手腕も。
 ええ。とても。わたくし、血沸き肉躍る――というとなんとも陳腐ですけれど。
 そう言った戦闘競技の実況を行えるのは、僥倖と感じているのですよ?」
 フェミニンに。笑う少年へ、クジョウと呼ばれた男はうなづく。
「そうだね、はつるさん。
 今日は記念すべき日だ。君たち二人が、アリーナの華として鮮烈にデビューする。
 もちろん、今はまだ、アリーナが本格稼働したわけではない。
 それでも、この場所には多くのレイヴンズたちが押し掛けるだろう。
 想像してみたまえ。
 戦う者たちを時に癒し、時に湧きたてる、戦場の華の事を。
 その二輪――それがキミたちだ」
「わたくしは、ええ。
 皆様の戦いが見られればそれで充分」
 はつるは、やはり妖艶に笑い。
「わかってる。
 ガーネット先輩の負担にならないようにしてあげないとね」
 淡々と、サナは頷く。
「では、アリーナを開くとしようか」
 クジョウがそう言ってうっすらと笑う。
 二人のアリーナ・ガール/ボーイは、ゆっくりと控室の扉を開いた。
 その先には――。

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