誰もが水着に着替えたら
クジラ島。かつて房総半島と呼ばれていた大地が海に沈み残った島。精霊のすまう、ここは聖なる場所だ。
「ほら見て、ここにも綺麗な貝が落ちてるの。空の月みたいにキラキラしてるんだよ!」
ルチル(r2p000057)が浜辺に屈んで虹色の一枚貝を拾いあげた。
いつものルチル、と呼んで良いものか。ふわふわした高級な犬種を思わせる毛皮に水着を纏い、星模様の浮き輪をひきずって歩く姿はこの夏のためにうまれたマスコットキャラクターみたいだ。
「そう……?」
さざ波のよせる砂浜の、ちょうど波が至る場所。
つま先のすなをさらっていく波を見送ってから、ラピス・ニル(r2p005759)はあらためてルチルの手の中にあった貝殻に視線を送った。
「月って、そんなにキラキラしてるかな?」
確かめるみたいに空に顔を向けると、海風に長い髪がはらはらと目にかかった。手で押さえてみれば、欠けなくまあるい月が見える。
青い空に白く霞むそれは、夏の遠く抜けた青さのなかでいっそうに白く。たしかに言われて見れば、輝くように思えるのかも。けれどそれを言うのなら、積み上がる夏特有の雲こそ、きらきらしているように見えた。
「なんの話ですか? キラキラ、と言っていましたけど……水着の話でしょうか?」
セレーネ・ローザ・フォレスティ(r2p000402)が靴をさくさくと鳴らして歩いてくる。
「水着が、なんできらきら?」
「ラピスさんの水着、とってもキラキラしているでしょう?」
それはラピスそのものが、というべきなのかもしれないが。
あえて否定はせずにラピスは俯いた。
「夜に、コンテストの表彰式が始まるそうですよ。どこでやるんでしょうね。御霊骨の前でしょうか、それとも満月台?」
遠い海と雲が溶け合ったような、透き通る白い彼女にぴったりの水着姿で、セレーネはいう。
海の向こうを見つめながら物思う彼女の姿は、聖なるものをおもわせる。
そういう彫像が紀元前からあったかのように、砂浜の風景に溶け込んでいた。
「あっ! みんないた! おーい!」
立花 椛(r2p001244)が両手をぶんぶん振りながら駆け寄ってくる。黒い髪に猫の尻尾。オレンジを基調としたスポーティーな水着と両手の水鉄砲というムテキの装備なせいで、セレーネとはもはや対照的な活発さだ。
「ルチルちゃんとラピスちゃんと――あっ、すごいみんな揃ってる! ラッキーだね!」
そう言って振り返ると、音峯・紗菜(r2p001554)がくすりと笑った。
手には巨大なコーラ瓶……ではなく、半透明なギターケースが握られていた。形状と色合いのせいでコーラの瓶そっくりなのである。
紗菜自身も黒いビキニにスカートと短い服をあわせて、なんとも夏めいた……いや、水着コンテストめいた格好である。きっとコンテストでは彼女のギターと歌が披露されることだろう。
「なんでもぉ、表彰式はおこつの前でやるそうですよぉ。『私も一肌脱ぎます』って言ってましたぁ」
リーラ・ツヴァング(r2p000085)が両手を頭の後ろに組んで、これでもかとセクシーポーズで言う。ここでいうポーズは、背から生える四つの脚も含まれる。これほど『蠱惑的』という言葉が似合う少女も珍しい。水着の布面積の低さもまた、彼女らしさというべきだろう。
「一肌脱ぐって……あのお姫様、もう水着になってたよね?」
ロロ=ヴァントーズ(r2p003282)は疑問を口にすると、そのくちでアッと答えにすぐたどり着いたらしい。
「あそこに祀られてる御骨のこと?」
祀られてるというか、安置されているというか。
ようは姫様の『うまれたままのすがた』である。露出度でいえば200%だ。リーラを越えている。
「あれって、見られるとはずかしいのかな……」
ロロはちらりと自分の水着を見下ろした。
フリルでいっぱいのドレスみたいなその水着は、ロロの透き通った砂糖菓子のような雰囲気によく似合っている。露出ばかりが水着ではない、というのはロロを見ればよくわかるはなしである。
ルチルたちも立ち上がり、なら一緒にと歩き出すなか。
神籬 チトセ(r2p005823)がシャツに袖を通した。スポーティーなハイレグの水着のうえに羽織る白いシャツ。白といっても、肌がそのまま見えるくらいに透明な生地だ。膝や胸元にぺたりとはりついて、高級なオブラートみたいだ。
それはなんというべきか、チトセ本来の大人びた甘さをより際立たせているように見える。服を着込んだほうが更に甘くなるとは、水着もなかなかに深い。
そうやって歩いてくる一団を、ニネミア(r2p000214)が小さく手を振って迎えた。
黒いビキニとタイトなパンツスタイルは、白い宝石を人の形に作り上げた美術品のような彼女を飾るにぴったりだ。
ニネミアは一人ずつゆびを動かして数えると、最後に自分を指し示して頷く。
「やあ。揃ったみたいだね。表彰式は夜からだけれど……ああ、もういい時間だね」
見れば、西の海に日が沈んでいく。太陽が隠れて世界を夜が支配しはじめる時間。そうなってやっと、空をみてラピスは気付いた。
「ああ――」
遠い、遠いどこかで。
Ἑώς・Θάλασσα(r2p004614)は夜の空を見る。
月がぽっかりと黒い膜に穴を開けたみたいに光っていて、かかる薄雲が光をゆらしているようだった。
夏だからと用意した可愛らしい水色の水着姿。眼鏡の奥で、目を細める。
「ああ、なんて綺麗な月でしょう。今宵ばかりは、如何な色にも輝けそう」
今宵は水着コンテストの開催日。コンテストの結果が発表される夜だった。
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