謫すトルメンタ I
神奈川県西部、小田原市。
第五熾天使との決戦の地から目と鼻の先であるそこは――終末論者どもの牙城で。
「囮もボクにお任せニャ!」
瓦礫も悪路もなんのその。ハイゼンちゃん(r2p000184)のモーターが唸り、土煙を上げて荒れた大地を疾駆する。その後方から殺到するのはライドラの群れだ。
連中の牙城より戦力を引きずり出し、これを討つ。それが長らく続いた終鐘教会との決着をつける為の第一手としての、K.Y.R.I.E.側の作戦であった。
別の囮部隊を、久慈宮 華月(r2p000151)の金の瞳が見つめる。囮という危険な役目を担う者を護り抜くことこそ――彼女の使命で。
「――ええ、必ず守り抜きますとも。私が立つ限り、誰も犠牲にはしませんから」
広げるは鷹の翼。燐光散らす外套を翻し、その身に刻まれた魔術紋は焔のように緋く灯ろう。
雷同 光巴(r2p001176)もまた守護者の一人だ。終末論者、そして天使の前に、威風堂々と立ちはだかろう。望まれた英雄的資質や強さを持ち得なかったとしても、「そう在りたい」という願いは確かにこの胸にあるから。
「たとえ、偽物でしかなかったとしても……」
どうか英雄で在れますように。――振り下ろされる一撃へ、堅牢なる盾を構えて。
ぶつかり合う。
「とおさない……」
終末論者の一撃を、神白 小雪(r2p002004)は凍れる竜の爪で受け止めた。纏う氷点下は、害する者の命すらも蝕もう。返す刃――氷竜の鉤爪は血濡れることを臆することなく、振り抜かれる。
小さな少女の背中には、大切な義姉と親友がいるから。護り通すのだ。いつまでも。
ルチル(r2p000057)も大切な人の為に戦う乙女である。えいやっ、ていやっ、自慢の爪牙とパワーとパワーで天使も終末論者も薙ぎ倒し。
「どうして、縋っちゃうんだろうね? 天使さんなんて、結局最後にはみんな殺しちゃうのに。
それとも、みんな殺されちゃうから今だけはって縋るのかなあ?」
「なんでだろうね」
それは戌亥 レオ(r2p006588)も疑問だった。足元には、折れて砕けた聖釘の残骸が転がっている。そして、血を吐いたまま動かなくなった聖釘の犠牲者と、その血だまりも……。
「誰も幸せにならないのに、縋りたくなる何かがあるってこと?」
聖釘。こんなにも悲劇を生んで。人間の命を、その未来ごと蝕んで。
――人間に完璧はない。帯刀・轟(r2p000437)はそう思う。人間は不揃いだから良い、と。
「だが……その不完全な部分につけいるのは、流石に悪意的だろうよ」
負った深い傷から血が流れる。それを拭い、轟は天使が飛び去った方角を見据えていた。
――人間として生きる事に耐えられず、かと言って化物になる事もできなかった半端者め。名無(r2p006054)が終末論者へ向ける眼差しは、厳しい。
「俺はな、こんな地獄の中でも生き抜くことを決めた『人間』の味方をすると誓っとるんや」
終き鐘の音が? ご高説を賜り恐悦至極。さっさと去ね、半端者ども。
「『人間』の足を引っ張んなや」
血を流す手で握る、二つの短刀。逆十字に刻む、剣閃。
飛び散る血は、天使のものではなくて――
「……人の命をなんだと思ってるのですか」
月夜見 皐月(r2p006565)が感じたのは怒りだ。そしてやりきれなさだ。聖釘。終末論者。そんなものがなければ、幸せで居れた者がもっとたくさんいたはずで。
任務を終えたばかり。鼻の奥に血と死の臭いがこびりついている。ごめんなさい、と少年は小さく呟いた。誰に、何に謝っているのかも、曖昧なまま……。
――嗚呼。悲しいことや辛いことが、あんまりにも多すぎるから。
「大丈夫」
アリアス・ミラドレクス(r2p000020)は笑顔を絶やしてやらないのだ。イジワルな運命に、抗う為にも。
「きっと大丈夫! わたしは絶対に負けないよ!」
歌うように声を弾ませて。
明日は今日よりもよくなると信じるのだ。
――奴らが論じる終末なんて、認めない。

