ラスカシェロスの繭


「――状況は?」
 問うたカオゲミに対して「ぼちぼち」と呟いたのは月見里 月華(r2p002525)であった。
「あ、待って。今はどっちの事を聞いた? ? それとも?」
「どっちも、だけれど強いて言うなら後者で」
「御殿場に陣を展開してる。猊下の配下も粛清に手を抜くことはないよ。
 物量戦でマシロ市を挽き潰してくれるかもしれないね。その方があたしたちにとっては儲けものだよ、カゲちゃん。
 アレクシス・アハスヴェール猊下の配下達は思惑は人それぞれだけれど、人間を捻り潰す意志だけは統一されているようだから」
 小田原、天守閣にてカゲオミはそんな月華の言葉を聞いていた。
 その傍らには項垂れながらぐすぐすと涙を流す北条 ミユキ(r2p005714)の姿も見える。彼女を慰める伊勢 時之丞(r2p006932)はその肩を撫でながら「安堵するが良い」と声を掛けた。
「喩え、誰が貴殿を悪と謗ろうともこの身は必ずミユキ殿を守り通そうとも」
「……それで、時さんが傷付いたり、気が狂っただとか言われてしまうのは恐ろしい事だよ。
 わたし達を傷付けた人達は、今、大きな戦場で戦っているんでしょう? なら、小田原を護る為の準備は今しかないよ」
 幼い子供の様に泣いていたミユキは信念が籠った声でそう言った。
 のろのろと顔を上げた彼女は月華に問う。現状がどうなのか、はっきりと教えて欲しい、と。
「第一に武闘派だろう銃歌オラトリオ』ブラムザップは自分の人生を彩るためにも戦っている筈。あの人は命が燃え尽きるまで楽しければ良いんだと思う。
 そういう奴ほど恐ろしいよ。だって、んだもの。
 それに『紅い月』イザベルは自分の信念のために戦ってる。素敵な人だよ。あたしたちが指導者シスターの手を取ったように――あの人は、男性きらいなものを全て駆逐する戦いをしてる。
 そういうの、あたしは嫌いじゃないんだよね。素敵じゃない? ね、誰の味方したくなる? 勿論天使だよね」
「……わかんない」
 ミユキが首を振った。
 ――もし、ブラムザップが勝ったら? きっと、その次の戦場を求めるだろう。
 ――もし、イザベルが勝ったら? きっと、を根絶やしにするんだ。
「その他は? 2人しか情報を得られていない等と言う事はないだろう。
 我々にも連携をと、口添えをしたヴァルトルーデ嬢がそうした事に手を抜くわけがない」
「急かさないでよ。うん、『血染めの』フェルエナはキル厨のシューターだ、ボイチャで相手を口汚くののしって雑魚呼ばわりしておきながら、負けるとキーボードを破壊するタイプだね」
「なんて?」
「つまり、
 ふふ、ジョークだよ。『黒騎牙』ジルデ・ビターダはフェルエナとは対照的かも? イザベルに似ているかもね。信仰って、毒だよ。ねえ、あたしたちも身に覚えがあるけど」
 月華が薄らと笑えば、カゲオミが視線を逸らした。
 事情がない人間がこのような場所に居るわけが無い。
 かつて、ミユキが能力者に問うたように『もしも、カゲオミという男が可哀想な過去を持っていたならば』能力者は男を悪人として殺せるのか、という話だ。お人好しには辛かろうとも時之丞は思う。
 何せ、指導者シスター・ヒルダはあえてマシロ市に残った人類に「やむを得ない事情があり悪人となった人間同胞を殺せるか」という課題をだしたつもりで居るのだから。
「ね、ね、なんで2人とも黙ったの? ミユキ、時乃丞」
「ううん、何も無い。他は……? 小さな男の子、いたよね?」
「ああ、うん。ウィラって能天使でしょ。
 あの子はセントラル・テミスを護ってもんね。あはは、あれは凄いよね。ね?
 猊下の権能の一部って言われているけれど、あれをあたしたちが手にできたら、十分に利用価値があるもの。
 ……あ、そっか! ウィラが護り切ったら終鐘教会にも使用させてっておねだりしてみる? 猊下ならきっと!」
「……が、って言われるかも知れないぞ。
 兎も角、『カオスルーン』フィフス・アイレーンが広域を守護しているなら、セントラル・テミスも防衛しきれるんじゃないか。
 確かに通信妨害に、利用価値のある神秘的建造物って言うのなら、欲しい。聖釘にも更に強化を施せる、かも」
 カゲオミはぽつりと呟いた。更なる強化を施せば、マシロ市を遠隔より脅かせる――かもしれない。
 欲しい。その為にはウィラに勝利して貰う他ないだろう。かの地は重要防衛地として権天使などの支援も厚い。
 退路を塞ぐフィフスに拠点進軍を行って居る今は亡きベルセノス麾下の天使達が加われば、人類を窮地へと陥れることが出来るかもしれない。
 月華はにこにこと笑った。アレクシス、ターリル、そしてお邪魔虫ミハイル――と、マシロ市への襲撃を目論む『エルシィだった誰か別働隊
「どうする? このまま猊下達が勝っちゃったら。その時は小田原だけは護って下さいってお願いしてみる?」
「……念には、念を入れたいな、月華ちゃん。
 小田原のを起動しよう。もしもアレクシス様達が勝っても、わたし達を許容するとは限らないもの」
 ミユキはふらふらと立ち上がった。無数の聖釘核を集め、束ね、小田原の民がして作り上げられた決戦兵器――それを彼女は繭と呼んだ。
 繭の内部に育っていく。それが一度起動すれば小田原は強固な守りを得ると同時に、する事になる。
「いいの?」
「……いいの。皆ともいっぱい、いっぱい話し合った。
 だから、わたし達が生き残る為にはこうするしかない。
 それに、繭の獣が育ったら、アレクシスさんたちの助けになるかも知れないよ。少し恩を売ってあの人達の庇護下に入れば小田原は安泰だ。そらに、ほら、使が後ろ盾につく以上に心強いことはないもの。
 期待してる。ブラムザップさんなら、楽しい戦いで勝利を収めてくれるはず。イザベルさんなら、嫌った世界を正しい形にするはず。
 それに、ウィラ君はセントラル・テミスを無事に護り切って……アレクシスさんやターリルちゃん、……あのエルシィ別働隊……? の力になるはずだから」
 ミユキは震える指先で眼前に存在した奇異なる繭に聖釘核を
 それは、忽ちに眩い光を帯びていく。
 脈動し、生をも感じさせる。
 北条 ミユキは愛する小田原と、その大地の住民を護りたい。
 それだけが彼女の活動理念であり、終鐘教会と、そしてヴァルトルーデアーカディアV派閥と手を取った理由だった。
「ミユキ」
「月華ちゃん、心配してくれてありがとう。でも、大丈夫。
 ――生き残る為に、わたしたちには力と覚悟が必要なんだもの」


・*+.Autumn Novel Campaign.+*・

※リミテッドクエスト『焔を越えて』が開催されています!!

※ラプラスの箱『インケン天使で危機一髪!?暴走半島くじらでやふー!富士の国!』に新規アイテムが追加されました!