第五への道筋II
激戦が続く。
アレクシスを打倒する為の戦い……だが天使側も阻まんと次々と立ちはだかるものだ。
その一角に現れたのが――
「りもこんっち、やっとまた会えたね!
さぁ、約束を果たす《ポコパンかます》から歯ぁ食いしばって~!」
「――えぇ。果たしてない約束を果たしに戻りましたよ、りもこんさん」
力天使へと至ったりもこんだ。かの者の姿を見つけ、明星 和心(r2p002057)と夜神 ステラ(r2p002295)は声を紡ぐ。
パノプティコンからの脱出以来か。あの時の交戦で力天使の強さは身を持って体感している。簡単にどうこう出来る相手ではない。けれど。
「ねぇりもこんさん……その仮面と軍服、似合わないわ? 前の仮面に戻ったら?」
覚悟をもってして、蘇芳 菊蝶(r2p000425)も彼の前に現れよう。
その手にはネックレスが一つ握りしめられていた。
ブルーアイリスを模した装飾に込められた意。想えばこそ力が湧き出でる。
――私はずっと、あなたも、魂も、守りたかった。だから。
「一つだけ聞かせて……魂は、何処?」
『……それは聞かずとも分かってるだろ?
これに関しては隠し立てする程の事でもねぇ、な……残念だが俺の今の主によって消されたよ。もう取り戻せるとか、取り戻せないとかそういう選択の次元じゃないう。アレは凄まじいモンだった。遺体すら残っちゃいねぇ――
が、魂さんは最後まで主の力に抗おうとしていた。
俺が言うのもなんだが……立派な最期だったろうさ』
「――――、――」
『もう魂さんは、この地上のどこにもいねぇ。それは確かな事だ。
尤も……ある意味ですぐに魂さんの痕跡には会えるかもしれないけどな』
「……りもこん氏、お会いできて光栄だと挨拶させてもらおうか。
しかし少し妙な表現だな。何を知っているんだ? いや何を見たと問うべきか」
「地上ではないどこかになら――いる、という事か? りもこん、教えてくれないか。頼む、私たちは……魂を取り戻さねばならない。一片の可能性でもあるのならば――」
想定はされていた。しかし認めがたき事実が菊蝶らに押し付けられる――
胸中の奥底。刹那に渦巻いた感情に、なんと名前を付ければよいか。
数瞬の思考の果てにも、答えは出でず。
……しかし力天使の言に微かな疑問を浮かべるのはエドワード・ルイス(r2p000459)やイドリス(r2p001664)だ。
ただ単純に魂は死んだ……と言うにはやや歪曲な表現に感じ得たのである。
何を隠しているのか、何があったのか。それぞれの経験や異能をもってして彼から情報を得んと試みる……が。
『悪いが、トップシークレットって所だ。
俺に仔細を話す自由なんてもんは無いんでね。
それに……勘違いしないでくれよ? 俺は皆と話に来たんじゃねぇ。命を受けて――』
「ッ、来るぞ!」
『――殺しに来たんだ』
忘れてはならない。今や彼は第五熾天使直属の天使である事を!
主の命を受け人類を抹殺せんと。己が魂を縛る勅命が彼を突き動かす。
その最中、マリィ・E・テネブラエ(r2p000287)はりもこんを見据えるものだ。数多の攻勢によって微かに生じえた間隙に――彼女の瞳が輝きをもってして翠色へ至ろう。さすれば、りもこんの魂を縛る術式……『我が裁決に従え』の影が見えようか。
(これは……尋常ならざる鎖の数が見える。
外から打ち破るのはとんでもない時間がかかりそうね……)
ソレは大きく力を制限しているとはいえ、第五熾天使から仕掛けられた絶対の術式だ。それを破るなど並大抵の事に非ず、ましてや戦闘中に――しかも力天使たる位階を――外部からどうこうするのは不可能にしか見えない。
それに、この場に現れたのは力天使のみに非ず。
能天使もまた敵を撃滅せんと――姿を見せていたのだ。
「猊下の下へは行かせないわ……貴方達は此処で死になさい」
「ヴァルトルーデ。あんたがどういう想いを抱いていようが自由だが……あんまり人を舐めるなよ」
瞬間。ヴァルトルーデの戦線に参じたのは桑原 蜜樹(r2p000191)だ。
愛だの恋だのといった心の機敏は……己にはよく分からない。
ただ、一つだけ明確に知っている事がある。
「人間は強いぞ。特に――失う怖さと失った痛みを知っている奴はな!
全知全能の神様気取りとその配下なんぞに……分かるかァ!!」
天使級を捻じ伏せヴァルトルーデに接敵せんと試みる!
だが彼は己で奴を討とうと思って来たのではない。彼は――
「――此間ぶりですね、ヴァルトルーデ」
獅堂 琳(r2p000609)の助けにならんとすべく、来たのだ。
愛から遠ざかった獣。忠誠と自らの心に蓋をした可哀想な子……
「今から貴方に引導を渡します」
「引導? 立場を弁えなさい。引導にして滅びが与えられるのは貴方達の方なのだから!」
「貴方の、その強者の心地も今日此れまで。
もっと俗に言いましょうか? あぁ――くたばれ、心が盲目たる羽付き」
激突。龍華の女たる証を声に乗せ宣誓するものだ。
高速の蹴撃。出し惜しみの一切ない全霊が其処に乗っている――
先日の喧嘩の続きをしましょうね、ねぇヴァルトルーデ?
「下賤な。私が律儀に付き合ってあげるとでも――落ちなさいッ!」
「――そうはさせません。ラーティリカさん、貴方は存分に雪辱を果たしてください」
されどヴァルトルーデは魔術を振るう、いわば後衛型。食らいつき逃さぬように迫って来る琳の土俵でなど戦ってやるものかと……払いのけるように魔力の波を放つものだ。
だからこそ、その動きに即応したのは縁である。
琳に届かんとする撃を受け止め治癒の力を紡ぎあげ。
「貴方がヴァルトルーデさん、ですね。初めまして。
……共感はしますよ。私にも、命より大事な人がいるから。
ですが――いえだからこそ、私は。私達は」
貴方を殺さなきゃいけない。
九重 縁(r2p001950)は彼女を見据え、まっすぐに告げるものだ。嘘偽りなき決意を。
であれば琳の撃は未だヴァルトルーデに届き、真髄たる獲物を全力でぶちこんで――しかしやらせるかとばかりに他所の天使級共がやってくるものだ。あぁ無粋。無粋極まる。
「木っ端にかまけている暇はない――退け」
『ラーティリカさん……っと、今は琳さんでしたっけ? とにかく、俺の代わりに天使をぶちのめしてくれるってんなら――全力で援護させてもらうんで、存分にどうぞォッ!!』
故に朝倉 蓮(r2p001946)が叩きのめし、カシリが治癒の術式を用い周囲の面々を支えるものだ。
当然ながら一撃かまして終わりではない。そのまま天冠へと魔力によって紡がれた紫紺の杭を解き穿とう。あぁウチの女王様は喧嘩に夢中らしいから。
「水を差すなよ。そもそも、コイツですら途上の石にしか過ぎないんだ。
俺達がさっさと倒すべき存在は、神様気取ってふんぞり帰ってるクソゴミ野郎だ」
『あぁ! んな野郎様に、仲間と友人たちをくれてやる訳にはいかない――
ってなことで、さーて! 畏み申す!』
続け様、祝詞を挙げるように谷橋 カシリ(r2p001076)は謳おう。
同胞の安寧を願う。信条の旗を掲げ、修羅の道へと赴く者を賛歌するのだ。
この先に勝利があると信じて。一人も倒れず帰れる未来があると信じて!
「誰も彼も無駄な抵抗を……!!」
「――結局、このようになってしまいましたね。
……ですが、あなたという天使を識れたことは幸いでした。
あなたと私は近しい所もあるのでしょう。
ですが――えぇいい加減ケリを付けましょう。
私はあなたと戦います。私達は――先へ進むのですから!」
「また貴方とは! いいえ、貴方の道はここで行き止まりよ。
ケリをつける? 私も貴方の顔は見飽きた所!
猊下の下へは行かせないわッ――我が命に代えても!」
続け様に現れたのはクラリッサ・クラーク(r2p002781)だ。
彼女とはパノプティコンを含め何度となく顔を合わせた仲……
だがそれも今日此処で終わりだとばかりに――激突する意志と意志。
互いの接触は苛烈さを増すばかりで……
「ふふ、また来てしまいました」
と、その時。紡がれる言の葉。その主は――音無 沙織(r2p000458)だ。
沙織は見据える……恋の色を尊敬という言葉で糊塗した、彼女の瞳を。彼女の――恋焦がれつつ、見捨てられる事を恐れている心の深奥を。
「何故、そうまで恐れているのですか? 何故――想いを告げないのですか?」
「貴方も他の連中と似た様な事を言うのね。私は――」
「素直になるべきですよ、ヴァルトルーデお姉ちゃん」
間に合う内に。溝が、埋まらぬ程に深くなる前に。
……この感情はきっと、恐らく他の人類には理解されにくいだろう。
だけど初めて共感できた個体との決別を胸に――此処に来た。
さぁ始めましょう。貴方の名をお姉ちゃんなどと呼ぶ事は、これにて仕舞。
――さようなら。ヴァルトルーデさん。
杭の魔術と暴風の術式が炸裂。凄まじき衝撃波が万物を薙ぎ……
「邪魔ですの! 邪魔ですの! フランの前に出たらけがするぜーですの! フランのすーぱー・はいぱー・うるとら・すごい・ひっさつわざを受けろ、ですの――!!」
「チィ、人間如きが……我々を阻むつもりか!?
えぇい押しつぶせ! 敵の数は決して多くない、突出を止めればそれまでだ!」
「止めればそれまで――? 何を言うかと思えば!
殺す、絶対に殺してやる!!
一体何に手を出したのか、分かる必要もありはしない!!
殺し合いで一番重要なのがなんなのか――今こそ教えてやる!!」
更に、激怒する権天使アルヴレッドとの交戦も苛烈さを増していた。
敵の数はとにかく膨大。故に指揮官層を少しでも削らねば、話にならぬ。
死ぬほど邪魔な天使級共を引き潰す気全開。苛烈な戦意と共にフラン・フラン(r2p001256)が往けば、続く形で立花 椛(r2p001244)もアルヴレッドを強襲――その瞳には殺意が宿っている。一切の容赦などありはしない。
――わたしの大事な家族に危害を加えるというのなら、修羅にでもなってみせよう!
「ハハッ、アルヴレッド! キミの中にも随分とした怒りがあるあらしい――怒り、怒りか! あぁいいだろう! その剣も感情も、ボク達に全部ぶつけるといいさ! 退屈なんてさせないよ! 受け止めてあげようじゃないか! さぁ――来いッ!!」 「アルヴレッドがあばれると、なかまたちのいのちが、あぶない。
……たたかおう、アレクシスには。アレクシスのせかいには、したがえないから――」
「――――」
チェルキオ ギルトレック(r2p004722)もリウラ・ヴィアンシエール(r2p005000)に次いでアルヴレッドを抑えんと前線に踏み込もう。
その動きを統括するようにベアトリーチェ カルミーナ(r2p004365)はリーダーとして立ち回る。同時に彼女は……沈黙の儘に、彼方を見据えるものだ。
――まだだ。まだ熾天使には遠すぎる。
あの敵の懐に跳びこむにはもう少しばかり……総ての手段を尽くし活かし、繋げる必要があるだろう。故、治癒の魔法を駆使しチェルキオとリウラの傷を即座に癒して。
「わたしたちが、あいてをするよ。ここで……かならず、おさえる」
「猊下の御心を理解せぬ愚か者共が! あの方の下へなど行かせん。ここで殺す!」
「ハッ。そうはいかない、アレクシスの統治の下に自由はないだろう? そんなのは御免だ。ボクはただ、暗闇の中でも手を伸ばし模索する――選ぶ者でいい!」
自由を失ってまで、答えに縋ろうとは思わない。だから――戦う。
正に奮戦。力天使にも能天使にも一歩も引かず臆さずレイヴンズは戦い続けよう。
果てにある熾天使の下を目指して――
――だが、その時レイヴンズは見た。
富士の方からやって来る――天使の更なる増援の姿を。
しかもその数。百だの二百だのといった次元ではない。
……この瞬間に至るまで、多くの天使をレイヴンズは倒して来た。
だがその行為がまるで無為になるかのような影が見えるのだ。
『あぁ、来たなまた増援が。これが俺の主の恐ろしい所さ――
……いや? 俺は知らねぇが、他の熾天使の所もまぁ大体同じなもんかね?』
「――そうね。天使級なんて幾らでもいるもの。貴方達を押し潰すに十分な量が、ね」
言を紡いだのはりもこんと、ヴァルトルーデである。
これが天使の恐ろしさ。無尽蔵とも思われる超大軍を有している事。
――別の戦場でミハイル派と相対しているレイヴンズもいるだろう、が。ミハイル派とアレクシス派の戦場における最大の違いはコレとも言える。ミハイル派は言うなれば個々人の集まりだ。力に優れる『個人』はいるが、軍勢を持っている訳ではなく……アレクシスに言わせれば『群れ』でしかない。
一方でアレクシス側は文字通り『軍勢』を有している。
事、数と言う面においてはミハイル派とは比較にもならぬのだ。そして――
その数の差がレイヴンズの目の前に絶対的な脅威として現れようとしていた。
※第五熾天使アレクシス側の戦場が苛烈さを増しています――!
(※第二章移行は、更なる情報の後に行われます)

