はじまりはじまり IV
欧州。荒廃した世界に不似合いな豪奢な宮殿が佇んでいる。
理不尽なまでに美しく青い薔薇を咲き誇らせるそれは非現実めいて幻想的だ。
「仮住まいとしては――こんな所でしょうか、お嬢様。
勿論、この程度が相応しい筈もありませんが、それはおいおい」
しなやかで美しい獣人体の天使――ティル(r2p007340)は白いテーブルでお茶をする主人にそんな風に水を向けた。
普段の話し方とはまるで違うが、それもその筈。
彼女が崇敬するのは絶対にして究極の美の化身。
アーカディア・VIを戴冠する、幻想の薔薇のような少女だった。
「歌を。忠誠を、総ゆる美を集めて御身に捧げましょう」
賛歌のように謳ったto What?(r2p006770)にリーゼロッテは退屈半分、愉快半分の微笑を見せる。
世界は舞台。
花形のスタアは何処に居る?
私を満足させる演目は、一体何処にあるかしら?
「まぁ、始まった以上はね。
優雅に、華麗に、美しく――
いいこと? 如何なる無様も、如何なる敗北も赦しません。
私達は唯圧倒的に――ええ、それから。精々本戦を愉しまないと嘘というものだわ」
世界の真ん中。ユーラシア大陸の中心に一つの理想郷が産まれつつあった。
その場所は全ての愛の集う場所。我が子を包む母の胎内のように、不安とも不幸ともかけ離れた穏やかな場所。
「母上、私達は何時から動き出すのですか?」
問いかけたジークリンデ(r2p007413)にシスター服に身を包んだ妙齢の美人は「んー」と少し悩んだ顔をした。
おっとりと、母性の塊のような彼女は優し気な糸目のまま。豊満な身体は彼女の母性をより強く匂わせている。
「お母様! 御命令頂ければきっとボクが働きを示してみせます!」
恐れを振り切り、キーテ=クリメンス(r2p007379)が意気込めば、
「うふふ。可愛い。アレクサンドラ様も、必死に頑張るキール君も」
ニコーナ デール(r2p007403)は薄く笑う。
「……でも、あんまり無理しちゃ嫌よ?
貴方達が傷付いたりしたら私は……そういう時は、全部私に任せるのよ?」
泣く子も黙る天使さえ、まるで子供扱いだ。アーカディア・IIIの愛情は母そのもの。
溢れんばかりの愛情を受けた子供達は、彼女への敬愛を隠さない。
子供達は母に良い所を見せたがるものだ。
母が自分達の為に尽くすから――想いは強くなる事はあれど褪せる事等ありはしない。
南の島。
「いやー、遂に始まっちゃったね。
仕方なかったかも知れなかったけど……
本戦がこんなに近かったなら、アレクシスも随分みっともない早漏をしたモンだよね」
例外的に美しさを残したままのビーチでチェアに寝そべっている。
極彩色のアロハシャツをラフに着込んだ優男は実に気楽に、他人事にそう言った。
「ディオン様。またそんな風に仰って――
貴方様は、かの御方とは仲が宜しかったではありませんか」
「ン? まあ、良いか悪いかで言えば確かにね。
アレクシスは中々面白いヤツだった気がするし。
こうなる位なら一晩位は付き合って欲しかったよ」
「……また、そんな事を仰る」
ツェール・オクス(r2p005662)はディオンの目である。
情報収集に長けたこの美少年はディオンの最近のお気に入りの一人だった。
「嫉妬かい? フフ、可愛いじゃあないか」
天地が返ってもマイペースが崩れない主人にツェールは笑う。
本戦が何であろうとも、最も狡猾なアーカディア・IXを謀れる運命等ありはしないように思われたから。
北米、かつて地球で最も栄えていた中心地。
「――決して油断するな。
我等は失った。我等は屈辱に塗れた。
その日の事を忘れるな。どれ程に、千々の彼方に色褪せたとしても。
ゆめ忘れるな。あの日を、遠い日を。誰にも降った理不尽極まる審判を!」
精強な自軍を前に凛と轟く号令を下したのは理想を思わせる騎士であった。
「御身の心の侭に」
「腕が鳴る。待ち詫びた日だぜ」
リベル(r2p007408)が、ロミュラス(r2p006277)が剣を、槍を捧げれば、
(いやー、必死な男の子って何時も最高に可愛いよね!)
muguet(r2p005658)は不敬も交じりに笑みを零す。
「これは、我々の戦いだ。全てを正しく引き戻す――戦いなのだ!」
それぞれ鬼気迫る士気を高める天使達は圧倒的な男のカリスマの前に声を上げる。
最も軍勢らしい軍勢は凡そ敗れそうな死角を持たぬ。
アーカディア・IVの名の下に、大願はすぐそこであるようにも思われる――
南米。争いを好まない少女が居る。
「……不可避の事とはいえ、どうしてもこうならざるを得なかったのね」
(あ、圧倒的美少女!!! やっぱし推ししか勝たん!
それも……北米と南米で箱推しが出来るなんて……最高すぐる!!!)
物憂げに呟いたアーカディア・VIIを眺めながらファン=メイド(r2p006508)は鼻息を荒くしている。
フレアは首尾良く同盟相手のマーカスの近隣の南米を抑える事に成功していたが、本戦に積極的な彼と違い――彼女はこの先の戦いを期待する心境にはなれそうもなかった。
「フレアちゃん、あんまり思い詰めちゃダメっしょ?」
「……シュテルン」
フレアは気安い天使――シュテルン(r2p007387)の名を確かめるように呟いた。
「こうなったらなるようにしかなんないし!
フレアちゃんがどう思ってたって……
フレアちゃんはアタシ等は絶対負けさせたりしないし!
本気で真剣でやれる事全部やったるし!」
「ありがとう」と微笑んだフレアの心がそれで晴れる事は無かったが――
聡明な彼女は考える。この本戦が説明された通りのものである保証はない。
ならば、最良は何処にある? どうすれば一番良い結果になる?
アーカディア・VIIを得たのが足掻きの結果だというのなら、彼女は弱くても諦めるその心算が無い。
――そして、日本。旧京都。
「……はあ、全く。大人って名乗る癖にさ。
皆、案外に子供っぽいものだね、リ=ル」
「そういうものなのよ。エイ=ル。
知ってるでしょう? 皆嘘吐きばかりだし、大した連中じゃないからね」
双子は大人と称したライバル達への軽侮と嫌悪を隠さずに無邪気に笑う。
「活躍にご期待下さい、我が姫、我が王子!
そうしたら――ブランシュだけはその大人の例外に置いて下さいね!」
「単純過ぎる。それに主に意見を挟むな。第一お前は騒がし過ぎるのだ」
「考えとく」程度の回答に大喜びしたブランシュ(r2p003276)を嗜めるようにミネルヴァ(r2p006814)が言った。
理想の大人のように振る舞うミネルヴァに双子は小さく鼻を鳴らす。
「信じる者は救われる……って言うじゃないですか」
取りなすように言ったヘレン(r2p006810)に「そう!」とブランシュが同意した。
アーカディア・VIIIは対にして一つ。但し互い以外を不信する――子供の天使。
「もし……そんな大それた事を望むなら、お前達は証明してみなよ」
「証明してみたらいいわ。そうしたら――少しだけは見直してあげるかも知れないわ」
……嗚呼、始まる。
世界各地に落ちた破壊の種は今芽吹く。
数多の思惑を呑み込み、謎に満ちた運命を携えながら――本戦が始まるのだ。
笑うのは誰か。熾天使か、人類か、それとも――天で嘲る代行者か?
その答えを持つ者は今は無く。ただ、物語の歯車は重く、重く動き出す――
※世界各地で熾天使達の胎動が始まっているようです!
※広域地理情報管理システム『アストラチカ』のメジャーバージョンがアップデートされました。
更新内容
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