はじまりはじまり III
「――ならば聞かせて貰おうか。その六体同時顕現の意味を」
静かながら重い口調で切り込んだローデリヒ・V・ラディーレン(r2p000113)に涼介・マクスウェル(r2n000002)は「勿論」と長広舌を再開した。
「先程、神命の話をしましたが――教授の言う熾天使の崇高な勤め、世界を本質的な意味で維持する行動はあくまで予選だけに掛かっているのですよ。
意味が分からないと思いますから嚙み砕きますと、つまり――既に予選は終わったという事です」
「……そりゃどういう事だい?」
「言葉通りの意味ですよ。
世界を本質的に維持する為、過膨脹に対して間引きを行うのは神命だった。
謂わば、これは熾天使に架せられた神からの労役です。
しかし彼等は知っての通り――特別だ。
神であろうとも熾天使の如き連中を無条件で従わせ、働かせる事等出来はしない。
先に述べた通り神とは揺蕩う目的意識であり、システムだから。それは世界に直接干渉する力を余り持ち合わせてはいなかった筈だ。少なくともこれまでは。
それは同格別個体であるCase-Dを頼んでいる事からも、熾天使を代行者に指名した事からも窺える」
問い直した李 浩宇(r2p000832)に涼介は説明を続けていた。
(まったく――やれやれ、だ)
理路整然と立て板に水を流すかのような彼の言葉は何時から用意されていたものなのだろうと浩宇は感じずにはいられなかったが――
ともあれ、この場で唯一の解を持つ涼介の口は滑らかなままだ。
「つまり、熾天使に労役を架すならば神であっても報酬は必要だった。
それが神の約束した大願の成就なのですが――」
「……なのですが、どういう事だしぃ!?」
せっかちな明星 和心(r2p002057)が持って回った物言いをする涼介を急かす。
焦れてきたのは彼女だけではない。この場に居る全員からの視線を集めた涼介は幽かな苦笑いをして言葉を続けた。
「――神は出力の問題か。熾天使全員にその報酬を渡す心算は無かった。
これは神なるシステムが現世に直接干渉する力に乏しいと私が判断した理由でもありますがね。
或いは際限のない願いというものが持つ価値と、果たさねばならない奇跡の大きさを考えれば当然の事なのかも知れないが――どうあれ、神は熾天の宝冠を有する十一人に一つの報酬しか用意しなかったという事です。
神命を達成する期間を予選と定め、彼等に任務を果たすと同時に生き残るというプロセスを与えたのです。そうして十分な間引きを行ったら――神の思う十分数が滅びたら予選は終わる、とそういう話になりますね」
「予選が終わったという事は、これが本戦だという事なのか?」
フォートレス Mk-Ⅳ(r2p001532)の言葉に涼介は「はい」と頷いた。
「これまでの熾天使の行いは神命の達成が為。世界を滅ぼす事は或る種のノルマであり、彼等は同僚のようなものだった。
だが、神がたった一つの報酬しか用意してない以上、これより先――本戦は彼等全ての私闘なのですよ。
これは推測になりますが、代行者の中の代行者であるマリアテレサが本戦開始を告知したのでしょう。
舞台をこの地球にして――彼等に本戦をさせようとしている」
「えっと……それって……じゃあ……
……じゃあ、私達はその熾天使の戦いに巻き込まれる感じ……です……!?」
「大いに迷惑な話でしょうが、間違ってはいませんね」
アリアス・ミラドレクス(r2p000020)の言葉を涼介は肯定した。
「人類は或る意味で幸運で、或る意味で不運だった。
熾天使は最早この世界を必ず滅ぼさねばならない理由を持たない。
だが、彼等は我々に何の配慮もしない。
この世界を舞台に大願に手をかける本戦を行うでしょう。
それは全く無遠慮で、全くお話にならない災禍だ。どれ程に我々が身を縮こまらせようともやり過ごすには無理のある――災禍そのものなのだ。
だから、人類は変わらず天使と戦わねばならない。彼等の野望を挫くではなく、己が生き残らんとする為に」
「何処まで――身勝手な……!」
フレデリカ・アンダーソン(r2p002829)の発した怒りは当然のものだ。
「分かっちゃいたが、『はい、そうですか』で流せる話じゃねーな」
「SGSG的にも……ちょっと、違う。
それって大分放っておける話じゃないんだよね……」
吐き捨てた朝倉 蓮(r2p001946)の、眉を顰めた甲斐 つかさ(r2p001265)の憤慨も尤もなものだった。
熾天使という連中は――何処まで人類を侮れば済むのか。
これ程の破壊を残しておきながら、予選。
達成し切らずとも終われば、舞台。
最初から本戦しか見ていなかったのだ等と言われれば、この三十年の悪夢が、悲劇が、絶望が――赦せない程に軽侮されているに他ならないではないか!
「天使達に復讐する、それを使命だと思っていましたが、それはやはり間違いでは無かったんだね」
「……………ッ……!」
美神 剣(r2p000500)の言葉に最近笑うのが下手になった卯槻 咲月(r2p000433)が唇を噛んだ。
天使という連中はどうしてこんなに無慈悲なのだろう。末端の全てまでが熾天使の意向を受けている筈も無いのに。
救いたいと、救おうと――いいや、エゴで取り戻そうとする自分を嘲り笑うようにバッド・ニュースを重ねてくるばかりではないか。
「全て、お怒りは尤もな話です。
但し、皆さんに勘違いして頂きたくないのは、私は敢えて中立でモノを言っているに過ぎない。熾天使達の言い分に寄り添う心算等一切無いという事だ。
単純に冷徹に現実を分析し、皆さんに情報を与えている。
そしてここから話すのは皆さんがこの局面でどうするべきかの未来の為の話という事」
「……聞かせて下さい」
ヒュプリル・ヒュプノス(r2p000012)の表情には日頃のほんわかした雰囲気が無い。
涼介がこれから放つ言葉は人類の未来そのものを導く羅針盤になるのだろう。
悪魔を信じるは愚かやも知れないが、寄る辺さえ無いのなら溺れる者は藁さえ縋るのだから。
「まず、熾天使の出力を考えれば現状でまともに相手にする事は難しい。
それは骨身に沁みて理解している事と思いますが、我々にとって好都合なのはあのアレクシスです。アレクシス・アハスヴェールは熾天使の中でもかなり一目を置かれた存在でしたからね。
あの男を敗退させた人類を熾天使は甘く見ない。簡単にこちらに仕掛けて他のアーカディア・イレヴンに隙を突かれたなら、敗退は必至だ。
彼等は我々が何もしなくてもある程度お互いを牽制し合い、膠着を余儀なくされる。
地上に残る勢力で一番自由なのは実は我々なのですよ」
「次に」と涼介は言う。
「我々は雪代刹那さんを有している。
……細かい部分はこの場で言う心算はありませんが、彼女は特別だ。
アレクシスを含め、熾天使は彼女を求めている。
本戦の鍵になる人物と言ってもいいでしょう。
つまり、熾天使達は我々を無視も出来ないし、虎視眈々と狙わねばならない。
他に先を越されない為にもね。
悪いニュースに聞こえましたか? いいえ、違いますよ。
だってそれって――」
――私があの連中をコントロール出来るって意味ですからね?
涼介は悪魔めいた笑みを浮かべていた。
「本戦に今の所不参加なのはアーカディアIであるマリアテレサとXであるミミ。
マリアテレサは唯の観戦で、ミミの方は気まぐれでしょうか。猫ですからね」
レイヴンズは「猫?」と聞き返したが涼介は答えなかった。
「我々は勝たねばならない。熾天使の思惑がどうあれ、その全てを飲み干してこの地球を取り戻さねばならない。
状況は進展しましたが、求められる事は変わらない。同時に、やりようがある――その意味も分かって頂けた事と思います」
「……涼介君」
全てを言い切った涼介を王条 かぐら(r2n000003)は見つめた。
「君は我々に含めてもいいんだよね?」
言葉の切っ先は恐ろしい程に鋭く、正真正銘抜身の真剣のような真摯さを滲ませていたけれど。
「勿論。皆さんには――マリアテレサを引っ張り出して貰わねばなりませんから」
「私にとっては決勝以外は過程に過ぎませんからね」。そう言葉を結んだ涼介は平素と何も変わらなかった――
※市長からマシロ市に驚愕の情報がもたらされています――
※広域地理情報管理システム『アストラチカ』のメジャーバージョンがアップデートされました。
更新内容
・日本地図掲載←New
・新人類圏地図掲載←New
・世界地図掲載←New



