唸る海鳴り、嗤う揺蕩い III


 いっそう激しくなりゆく嵐は、しかし、決着が目前であることを示唆していた。

 ――天使の激しい一撃が、大里 杏理(r2p002672)の駆る人型機動兵器リアンLiAN Medicの装甲とぶつかった。火花が散るも、損害軽微。
「よそ見しないでちゃんとかかってこいっす!!!」
 サイレンを鳴らし、鉄躯にて立ちはだかり、杏理は仲間達の盾となる。仲間を守ることに理由なんか要らない。思い通りには、させない。
 それは天使達を相手取るフォートレス Mk-Ⅳ(r2p001532)も同じく。
 ……焦げ付くような、ままならない想いが絡む戦場で。それでも何か、繋げるものがあると信じている。
(オレは……
 だから。護りたい。誰かが手遅れにならないように、その時間を瞬間を、一秒でも多く――!
 セイヴィーア(r2p002088)も手を伸ばそう。護る為に。生きて帰る為に。いつものように飄々と。
「――いいとも、レイヴンズがお相手するよ」
 かくして迫る脅威を――邪悪な精霊シーゴーントを、嘆きの暗闇を、払うように。
「うるってば可愛いだけじゃなくてとっても強いの。――どっちが強いか勝負だよ!」
 白雪姫 ウルスラ(r2p002212)の吹雪が如き回し蹴りが、凍てつく終焉をもたらしていく。
(どんな姿をしていても、うるは迷わない)
 睨む先。撤退していく天使達の姿
 海は時に途方もなく恐ろしい。
 そのことをエリオット・アスター(r2p005875)はある種、誰よりも知っている。
(だとしても……これはあんまりにも残酷すぎんだろ)
 趣味の悪い。渦巻く黒波に身を投げたクラーケン分体シェーヴェを思い起こし、彼は顔をしかめた。
「――亡くなった方の姿を走狗とする、品のあるやり方ではありませんね」
 連中のやり口に、音無 沙織(r2p000458)は小さく呟く。
 顔を上げた。陰の気が去った海は透き通り、清々しい青さを取り戻していた
(いつか、どうか……)
 今は束の間のこの青が、当たり前になりますように。
「――ね、綺麗だよね」
 ラゼンシア・ブルー(r2p007778)は、すくった海の水を天へと散らした。
 きらきら。空の青。海の蒼。水平線。青と蒼のあわいに煌めく七色にじいろ
 ――あの嘆きに、哀しみに、虚ろに、どうか
「心が凪ぎますように」

 ――ぽん、ぽん、軽い破裂音を立てて、空に信号弾が上がる。
 全員生存を示すそれを見上げて、月之瀬・レナ(r2p000688)は深く息を吐いた。
 いつもそう死者ゼロだとは限らない。犠牲を避けずに通れる戦いなんてない。それは分かり切っている、それでも無い方が絶対にいいから。――乙女は、そんな『夢』を抱いているから。
 負けない、退かないと臨んだ、『蒼きオルニエール』トレサリス――此度の天使勢力の首魁が一人との戦い。その憎悪と暴威をレナは思い返す。既に立ち去ったトレサリスに思いを馳せる。
(何も知らないままに戦うことは……怖いから)
 彼我の線がどこまでも交わらず、果てには闘争しかないだろう予感はしながらも。

 黒森・秘蜜(r2p000247)は、天使勢力のもう一人の首魁、『海の魔女』イェラキ飛び逃げ去った方角をじっと見据えていた。
『私は、そんなつもりじゃぁ、なくて――だって、そうしないと……』――天使の明らかな動揺を、震えた青い瞳を、今一度だけ思い返す。でも、溜息は飲み込もう。秘蜜は青薔薇の奇術師『ミス・シークレット』、いつだって仮面に浮かべるのは笑顔だから。
「守るべきものを、護り抜けたね。――さあ、我々のホームグラウンドに帰ろう凱旋しようか」

 天使ファルマチュール(r2p003494)とクラーケン分体アルネの母の姿をとったシェーヴェを退けて――戦域を離脱したKPA-WS-53 アルゴー甲板上は、負傷者の手当てで忙しさに包まれていた。
「ご無事で何よりです」
「うん、……守ってくれてありがとね、白紅さん」
 手当てを受けている者の一人、絵空 白紅(r2p000568)は、司令官である浪花 アルネ(r2n000145)の無事にそっと微笑んだ。アルネはそんな彼の手をぎゅっと握って。
見てたよ。……、上手く言葉で説明するのが難しいけど、なんていうのかな……
 少し……心の中に、風が吹いた感じ」
 戦場で白紅が描き出したものはなれど。彼が描いてくれた母親浪花ハリエットの姿は――確かに在ったものだから。
「……よかった」
 白紅は小さな手を握り返す。護り抜けたぬくもりを、確かめる。

 ――誰も死ななかった。

 そのことが、九相寺・大志(r2n000122)に脱力感にも似た安堵を与える。
 神霊・通賢黙娘とんしぇんむーにゃんr2p003175)率いる邪精霊シーゴーントの侵攻から大浄化霊珠『ワタツミ』を護りきった一同は、束の間の凪に包まれていた。
「ふー……ご苦労だった、鍵子くん」
「九相寺さんも。ご無事で何よりだわ」
 猪市 鍵子(r2p000636)は明るく笑顔を浮かべてみせる。得られた情報は、どれも笑えるようなものではなかったけれど。
「……通賢黙娘は、
 そっと、傍らにいる真月里(r2n000190)の分体へ問いかける。月の神霊は眉尻を下げて首を振った。
「たとえ、何が起きても」
 その言葉に鍵子が眼差しを向ける。その続きを聞こうとしている……が、真月里がそれ以上を紡ぐことはなかった。ただ、いつもの笑顔で。いつもの明るく懐っこい声で。
「さあ、横須賀に帰りましょう! 皆さんお疲れでしょう?」

 ―― この命に代えても護るとは、彼らには言えなかった



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 更新内容
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