夕凪の間奏
「――クラーケンの様子は?」
化け物との激闘から生還した浪花アルネ(r2n000145)は、KPA-WS-53 アルゴーと桟橋を繋ぐ連絡橋を往く。
「現時点での大きな動きは観測されていません。――おかえりなさい、アルネ司令」
帰還を待っていた兵士、由原 れんげ(r2p005566)の言葉に、「結構」と女王はキャンプ・パ-ルコースト横須賀基地へと降り立った。
「しかし大した御身分だな、あのクソ怪物」
歩みは止めぬまま、アルネは夕闇に染まりつつある水平線を一瞥する。
「天使共があんなにも暴れてるっていうのに……そんなに眠りたいなら永遠に寝ていればいいのに」
「御尤もで」
天使をブッ潰す為に兵隊となったれんげにとって、羽根つき共がこの海でパーティしているのはすこぶる気に喰わない。いつもの口の悪さがつい跳び出しそうになるが、叩き上げの軍人としては司令を前にぐっと堪える。
「『ペルチスカ島』のイェラキに、『蒼きオルニエール』のトレサリスですよね。……連中の鼻はへし折れました?」
「ああ、手下共もろとも回れ右していただいたよ」
「もう一体の天使……ファルマチュール(r2p003494)とかいうのは?」
「あのクラーケン万歳してる環境活動家気取りのクソカルト野郎か。船で撥ねといた。今頃おうちで泣いてるよ」
「流石です、司令。――では『浄化霊珠』は護りきれた、と」
れんげの言葉に、アルネは頷く。――浄化霊珠。光の領域を護る結界の要石である。
さて結界付近には大浄化霊珠『ワタツミ』が在った。そちらには通賢黙娘(r2p003175)――ひとに牙を剥いた神が、邪精霊と共に襲いかかっていたが。
「――プリンセス、お怪我は?」
アルネがホロ通信機を起動すれば、光の領域が――凛と佇む真月里(r2n000190)が映し出される。アルネの軽口にプリンセスはくすりと笑った。
「ひとつもないわ、王子様が護り抜いてくれましたから」
「いやはや、まさかカチコミされるとは。……領域の力狙い、でしょうね」
司令官は執務室へと向かう道のりで、ホロ表示される数多の報告書を並列処理している。彼女の言葉に真月里は微かに眉尻を下げて微笑み、同意を示した。
「あなたの魅力は我々とて十二分以上に理解しています、真月里さん。作戦にご協力いただくほどに」
「ええ」
このまま延々とタワーディフェンスしているつもりはない。一つの作戦が終わり、真月里の力を用いた新たなる作戦が間もなく開始される――。
「クラーケンの目覚めはまもなくでしょう」
一間の後、真月里の表情は引き結ばれる。
シェーヴェと呼称される奴の分体が跋扈していることは、既に真月里の耳にも届いている。「急がねばなりませんね」とアルネの眼差しは険しい。
(あの……クソ海産物が、木っ端微塵にブチ殺してやる……)
執務室のドアノブを掴んだ手に、不意に力がこもる。
アルネはレイヴンズと共にクラーケンの分体と相対した。そうしてアルネも、誰も彼もが、ひとつの最悪を痛感する。
――分体であの強さか。
なら、本体はどれほど強い――?
(本当に勝てるのか?)
かつてあの大怪物は、九相寺・大志(r2n000122)率いる海上自衛隊の『特務艦隊』すらも鎧袖一触に葬っている。
アルネ自身も、幼い日に見た地獄の撤退戦で――原初の恐怖として、あの大怪物の巨影と周囲の狂騒は魂に深く傷痕を残していて。
戦わねばならないことは百も承知なのに、それでも、その不安はいつだって心の裏側に張り付いている。
「――大丈夫」
俯きそうになったアルネの顔を上げさせたのは、通信機を介した真月里の声だった。
優しい凪の声。煌めく海の微笑み。ホログラムの神様は、そっと手を伸ばしてアルネの頬を撫でた。夕凪を吹き渡る、柔らかな潮風のように……。
「あたしは今度こそ――貴方たちのことを、護り抜きますから」
どうか信じて。その海色の瞳には、愛と、そして、確かなる決意と覚悟が在った。
※広域地理情報管理システム『アストラチカ』のメジャーバージョンがアップデートされました。
更新内容
・日本地図掲載←New
・新人類圏地図掲載←New
・世界地図掲載←New



