水底の街


「なんとも、自然が豊かな土地だね。ここに昔はきちんと街が存在し、人間が生活していただとは思えないほどだよ。
 ……そう言えば、昔の人は寝過してしまったならばこの辺りにまで運ばれて来るのだったかな。
 最果ての地だなんて呼ばれていたけれど……ここまで風光明媚に変わってしまうと、その時の感想も変わってしまうかのようだね」
 そう息を吐き出したのはアガルタ所長であるシェス・マ・フェリシエ(r2n000067)であった。
 穏やかな笑みを浮かべている彼女の傍ではアガルタの職員でもあるるうあ(r2n000029)が白衣姿で農具を携えうずうずと身を揺らしている。
「いやあ、凄いですね! ここがアガルタの新天地! って思うとうきうきしますよね。
 バレンタインデーですし、カカオが此処にいきなり生えてきて走り出したりしませんか? あれはアガルタだけですかね?」
「アガルタでも、どうしてそうなってしまったのかは分からないのだけれどね」
 困った顔をしたシェスにるうあはぱちくりと瞬いた。
 アガルタ甲府観測所――第五熾天使との決戦の地となった御殿場周辺から整備を行い、K.Y.R.I.E.富士駐屯地周辺から忍野八海までの幅広い範囲に富士橋頭保を設立する計画を行っている。
 ある種、前哨基地となる富士橋頭保。マシロから地続きでやってくるならばこの場所が関所ボーダーラインともなる。
 富士橋頭保より山間に出来上がる街道に沿って進むことで甲府盆地に能力者達は到達したのだ。
 ――今は、甲府盆地とは呼べやしないのかもしれないが。
「すべて水底かあ」
 シェスはまじまじと眼窩の景色を見遣った。
 何もかもが沈んでいる。山梨県は甲府盆地に水を張ったように何もかもが失われてしまっている。
「……いや、凄いね。自然の変化が」
 ぽつねんと呟くシェスは地下実験区にて行っている遺伝子保存ジーンバンクに新たな種を記録、保存できるのだと心の底から喜んでいた。
 これまでは狭苦しい範囲で生きて来た。その範囲が広がり、これほどまでに雄大な自然へと踏み出すことが出来たのだから、得られるものは多くなる。その分、危険も隣り合わせではあるのだが。
「世界はずっと変化していっていますしね。これから先もまだ見ぬ風景が広がっているんでしょうか……。
 諏訪に行ったら、何が待ってるでしょう? そこから先も気にかかります。アストラチカの情報があっているならばがある場所もあるみたいですし」
 るうあは農具を大地に叩きつけながら何気なくそう言った。
 アストラチカを参照してみれば、日本だけも大きく変化している。
 故郷の変化に対しても苦々しげな気持ちを抱えているものも多くいた。痛ましい事だ、ともシェスもるうあも認識している。
 二人とも異世界からやって来たオルフェウスだ。知識の上では日本各地に関して理解をしていても、郷愁の念を抱く事はなかった。
「……そうだね。各地に根付いた文化なども収集ていていきたいね。それもアガルタのあるべき姿であり、使命だ」
 この場所までK.Y.R.I.E.とのシステム通信は結ばれていない。そうした通信経路の構築も課題の一つではある。
 まだまだ時間はかかる、だろうが――
「とりあえず、バレンタインですよ! バレンタイン!」
 ぶんぶんと農具を振っているるうあはにんまりと笑ってから、あなたを振り返った。
「なんだか、イベントの日に、皆で幸せいっぱいに笑っていられるなら嬉しいですね!」

 

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