無烟の香炉


 ――イーリロスやアヴァリティアがよりも前。
 薄暗い雲が周囲を覆ってしまう南街の様子を確認しながら障壁に隔てられた――魔法仕掛けに変貌していく姿は穏やか、と呼ぶべきかは定かではないが――中央街ではノエ(r2n000225)と雀居 影臣(r2n000218)が顔を突き合わせて最終調整を行っていた。
 何の、というのは簡単な話だ。サーカス団による招待状と、唐突に表れた通路という点から前情報の少ない状態で多摩南街へと足を踏み入れる事となったK.Y.R.I.E.は能力者達をフォーカポーカのという危険に晒している状態となる。
 影臣に言わせれば元終末論者、現囚人(経過観察中)の身の上である自分がそうした地域へと派遣されるのは全くおかしくはない話だが、なんだかんだと自らへと世話を焼く迦陵羅・ルラ(r2p000241)や結樹 ねいな(r2p000031)、それから個人的に一部分を大変揶揄い半分に好んでいる接している白雪姫 ウルスラ(r2p002212)をそうした場所に送り出すのは余り納得感がない。
「それは、炭鉱のカナリアに貴方がなっても仕方がない身の上だという事ですか?」
「まあ、美人が危険に晒されるだとか、個人的に友好がある人間が安全ではない区画に入り込むのは人間の良心が痛むだろ。
 フォーカポーカっていうアザーバイドの毒の種類は異世界産出、定義が難しく名前も存在していないものだろ?
 それが脂肪分を減らすみたいなやつだったらどうする。危険すぎるだろ、分かるか? ノエ」
「……そう、ですね。よく分かりませんが……まあ、他者を危険に晒すことはオレも好きではありません。 
 それに、皆さんから手伝って頂けたことでやっと、目当ての品を手に入れる事が出来たのですから早急に魔道具は作り上げておくべきでしょう」
 淡々とした調子でノエはそう言った。影臣はぺろりと舌を出して、大半のジョークを彼が穏やかに回避したのだと悪戯をした子供の様に笑ったか。
「ん、で?」
「はい。滞りはなく」
 K.Y.R.I.E.は早急に、毒素を和らげて能力者達人的リソースの安全を第一にするようにとノエへと要請をしていた。
 その為に、調査を行うべくKPAの技師も派遣されていた。ノエ自身もフォーカポーカの毒の解析を行うべくK.Y.R.I.E.の能力者たちと南街の調査へと赴いていた。
 無事に手に入れたはK.Y.R.I.E.、KPA、そしてノエがその力を尽くして解析を行い――
「こちらが無烟の香炉です。ああ、けれどご心配なく……フォーカポーカ達の吐き出す息のような香りがするわけではありません。
 まず、これは歯車の花ともよく似た性質を有する花となります。
 他のアザーバイドから得たもので。この花はかおりを吸い込む性質があるそうです。
 ですので、これにを吸わせ、毒を活性化させます。
 そうして活性化した毒へと物理的な刺激を与える事で花が浄化作用を働かせ――使用者にとって心地の良い香りに変化させることが出来るのです」
「へえ? 香りなあ……」
「勿論、香りをなくすこともできます。シェナに聞いてみると、香りの強弱もやはり好みによって変化するのだと言っていたので」
「……器用なもんだなあ」
 影臣がそう言えばシェナは「いいえ、中央でだけですよ」とそうやって笑った。
 中央でだけ、というのには何らかの意味合いがあるのかもしれない、がその辺りを追求する必要はないだろう。
「んで? 最終調整にはK.Y.R.I.E.の協力があった方が良いって事か」
「そうですね。オレは細かく最終調整を行っていきますので……手を貸してください。
 皆さんが無事であるためにオレも出来る限り協力をします。KPAも、K.Y.R.I.E.も素晴らしい技術提供をしてくれた。
 ……本当に、マシロ市とは目を見張るものがある。皆さんと出会えたことがオレはとても嬉しいです。
 ですから、皆さんがフォーカポーカ達によって負荷を与えられることはあまり好ましくありませんから……少しだけお手伝いをしてくださいますか?」
 ――彼らが作り上げたのは南街に漂う汚れた空気を幾許かは和らげるための魔道具だ。
 ノエから、K.Y.R.I.E.の能力者への安全と、協力への感謝を込めての品だろう。
 だからこそ、彼はシェナに先んじてその性能確認を込めた調査に送り出したのだ。
 出来るだけ、客人であるK.Y.R.I.E.の達には安全無事で居て欲しい、と。

 ――なんで、あんたがこんなとこに居るのよ……! アヴァリティア!!

 ――こうやって会えたんです。こんなにも待ちわびたんです、それなのに、なんて許せないんです。
 ――だから、その要らない、きっと綺麗なその感情は、私がもらおうって、ね。


多摩南全体シナリオ『彼方とのグレンツェ』




ロストアーカディア二周年!