彼方とのグレンツェ III


「――もしもし? もしもーし? おーい」
 二兎(r2p000626)は通信機に呼びかけ続けるが、返ってくるのはノイズばかりだ。
「ど? さくさくと繋がりそ?」
 そう破風 マナカ(r2n000174)が尋ねたのは、さっき彼から「さくさく」――春名 朔(r2n000031)と友人なのだと話を聞いたからだ。マナカの問いに、二兎は「んー」と首を傾げる。
「アカンなぁ、これ壊れてるんちゃう?」
「え~……この場に居る20人全員の通信機が、一気に? 流石にないっしょ、通信障害だと思うよ」
「……。おれのせいやないで? 呪器やけど」
「や、大丈夫、疑ってないから」
 とはいえ。任務を無事に終えたのに、心休まらぬ状況である。
 しかしその時だった。ノイズまみれで酷く不安定ではあるものの、一瞬だけ通信が繋がって――
「――し、もしもし? こちら―― の、――那珂 ……」
 三羽 那珂(r2n000118)である。彼女のすぐ傍ではナタリア・トゥオーノ(r2p000741)が、「つながったんか!」とその手元に顔を寄せた。
 まずは互いの無事を確認し安堵を。「よかった」と言いたいところだが、いつ通信がまた切れるか分からない以上、要件だけを手短に。
「なあ、さくさくは?」
 二兎が問う。那珂は「それが……」と瞳を揺らした。
「春名さんが今どこにいるか分からないんだ。
 任務でみんな留守にしてる間に、ノエ(r2n000225)さんとシェナ(r2n000219)さんに何かあったのかも……二人も音信不通だし」
「ついでに、あの元オワガネ終鐘教会の……カゲオミ(r2n000218)も行方不明なんやろ? 大丈夫なんか?」
 もし裏切ったのなら……とナタリアの眼差しに剣呑が帯びる。仲間の感情が二人分も奪われて、今のナタリアは些か殺気立ってた――が、続く言葉をピタリと止めさせたのは通信機から聞こえる藤代 柘榴(r2n000030)の声で。

 きっぱり、と。そこに一切の「かもしれないmaybe」を含ませずに。
「――へえ、」
 ナタリアは聖釘事件のを知っている。であればこそ、藤代 柘榴ガーネット知っている。
 その柘榴本人が雀居 影臣カゲオミというのなら。ナタリアは一呼吸で、湧き起こりかけた殺気を鎮めよう。
「まあ、おまわりさん春名 朔がカゲオミをつれてったんかな、お前も働くんやぞッて」
 そうだといいね、と那珂が相槌を打とうとした瞬間だった――再び、通信機がノイズの海に沈んだのは。

「――あらまあ」
 いいところだったのに、と眉尻を下げたのは音喰 禊(r2p001565)。でも、今何が起きているのかの断片的な情報は手に入った。
「皆様、大変そうですね……」
 ちらと通信機から視線を逸らす先に、心の中身をエーデレッセンに奪われてしまった仲間の横顔。早く、取り戻さねば。気落ちが逸るが――こういう時こそ落ち着かねば。息苦しい街で深呼吸をしても、『息苦しさ』は据え置きだけれど。
 ――見上げても、星の無い暗い空
 心の欠片を失った仲間の慟哭が、石畳に染みていく……フラン・フラン(r2p001256)は、その背中をただそっと見守ることしかできなくて。
(……ゆるしませんの!
 次に会った時には、あのおなかを斬り裂いて……赤ずきんの狼さんみたいに代わりに石でも詰めてやりますの!)
 ぎゅっと、得物チェンソー剣を握りしめる。体の痛みは分からないけれど、心の痛みは分かるから。 
(命だけは、助かったけれど……)
 スヴィン=A=アルクティカ(r2p005471)は不安げに、自分の指先同士を触れさせた。「命があるならよかったじゃないか」、だなんて、とてもじゃないが言えるような状況じゃない
 自分の中にあったものが、無くなってしまって思い出せない苦しさ、寂しさ、虚しさ。記憶喪失者であるスヴィンは、それがよくわかる。だから……今はただ、仲間に寄り添うことしかできなくて。
「……、」
 未完の物語より生まれた罰天院 ウズクマル(r2p000605)にとって、茫失とは何かを考える。枷や楔、未練や躊躇いが無くなれば動きやすくなるのだろうか。
 でも、こうも考えられる。……?
 と、まあ。フォーカポーカをはじめとした連中を放置しておくのはマシロ市に危険が及びかねない。となればに危険も及びかねない、ので、少年忍者はこれからも黙々と戦うのみだ。
「けほ、……」
 ルゥリィ・ロペス(r2p001208)は眉根を寄せて咳き込んだ。ポルカ・ポルカを撤退させたとはいえ、残ったがまだうっすらと辺りに残っていて。無烟の香炉があるから、辛うじてまだ息ができる……。
(……さて、)
 気管支のひりつきに喉をさすりつつ、ルゥリィは先の戦いを思い返す。
 ――「命は取らないけど、まだ、私達を……マシロ市を相手にするっていうなら、決死の覚悟で挑んでくるといい。私達は狩られるだけの獲物なんかじゃないってこと……その身に刻んで教えてあげるから」。ルゥリィはポルカ・ポルカにそう告げた。かくて大大王はこう答えた。
 ――「う~~ん、殺されたいわけじゃあないよ~~~、でもね~~~」
 ――「ぼくら~~、このままだと、ここで絶滅するから~~~。お急ぎなんだよ~」
 そこに分かり合える余地はなく。ただ、どちらかが死に、どちらかが生きるか、そんな生存競争だけが残されていて。
 だが。滅びる気は毛頭ない。
 ここで立ち止まってしまっては……これまでの道で散っていった全ての命に、向ける顔がない。

 だからもう、進む他に道はない。
 たとえここが――行き止まりの街であろうとも。