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 固有権能として有する天眼は三千世界すら瞬く間に走査するとも称されるだ。
 当の本人にそう言ったなら渋面で否定するであろうとの同一性こそ彼女が選ばれた至高の熾天使である事を証明している。
 さて、そんなマリアテレサ・グレイヴメアリーが眺める地上の様子は今日ばかりは彼女の力によるものでは無かった。
「ふふ。いじましい」
 他の誰かを軽侮する華やかで毒々しい微笑みは彼女の本質を実に雄弁に示していた。
 たちどころに答えを産む天眼ではなく敢えてマシロ市お気に入りの虎の子――KPA-OSアスト-M001ラチカハックした乗っ取った彼女は、実に賢明な事に数少ない情報と限られたリソースから既に地上の状況ラグナロクの始まりを察知した人類の勘の良さとアーカディア・ツー涼介・マクスウェルの優秀さに愉悦している。
「力無きは罪ですが、凡愚を自覚して――もこなせないようでは尚更ですからね?」
 先にとは称したが、より厳密に言うのなら一時借りた、が正解だろうか。
 少なくともマリアテレサは残された人類の叡智、即ちたるマシロ市のシステムを侵すその心算はない。
 余程神経質な人間でない限りは――殆ど誰にも気付かれない僅かなノイズ以上に爪痕を残す心算すらなかった。
 単純に言い切れるのはこれは単なる彼女の戯れであり――重要なのは実際に地上で
「……さて」
 アストラチカの把握と最新の状況を偏差する為に天眼が走る。
 マリアテレサは座天使未満有象無象をいちいち気にかけはしないが――今回ばかりは特別だ。
 熾天使メインプレイヤー達は地上の各地に自分の陣地を構築している。側近である座天使、智天使。現場の主力になる主天使の動きも殆どは無い。
 東欧から中央アジアを拠点にするアレクサンドラ派と西欧に薔薇園を構えたリーゼロッテ派の一部が交戦した記録はあったが、如何にも小競り合いじゃれ合いといった所。
「ふふ」
 だが――は別であった。
 各熾天使達は各地で小競り合いを展開してはいるが、日本に対しての姿勢は別だ。ほぼ全ての熾天使派が何らかの思惑を以って麾下のをマシロ市近隣に派遣しているようだった。それは組織的な軍としての侵攻ではないだろうが、動きが暗躍の為の下準備であり、或いは橋頭保を築こうという動きである事は否めまい。
 そして、勿論と言うべきか。そんなを喚起させているのが――
「――である事は否めませんね」
「あら。分かり切っていた事でしょう?
 それを人は未必の故意というのよ、マリアテレサ」
 独り言ちたマリアテレサに予想外の声が応えた。
「……聖堂に居なさいと言った筈ですけど」
「ミミ以外の全ての熾天使が地上に居るのよ。私を隔離する理由はもうには無いでしょう?」
 ああ言えばこう言う――可愛くない永遠にマリアテレサは珍しい苦笑をした。
 確かに彼女を聖堂に隔離したのは万が一を恐れてが理由である。
 
 マリアテレサは父からの失望を買う事を唯一と言っていい程に――酷く畏れている女だから。
イサークを叱っておかないと」
「冗談が上手いわね。マリアテレサ」
 嘆息したマリアテレサに永遠は毒気たっぷりに意地悪な笑みを零した。
「私がその気になったとして、主天使ドミニオン如きに止められる筈がないでしょう?
 折檻はよしてよね、マリアテレサ。
 イサーク・グラシアはあれでも貴重な暇潰しの相手なのよ。
 毎度毎回律儀で真面目で苛め甲斐があるから」
「そんな事は軟禁していた貴女が一番分かっているでしょう?」と皮肉っている。
「つまり、私はの意向に従順な妹だったのよ?」と伝えてもいる。
 ……全く以ってな永遠にマリアテレサは諦めた。
「まあ、いいです。ともあれ……煽った甲斐があったかしら?
 やはり、どれもこれも日本の――マシロ市近隣での活動は多いみたいだし」
「まあ、あそこには1/6が居るからね。その内貴女と対戦しなければならない彼等からすれば鍵になるのは確かでしょう。
 まあ、アレクシス程上手く取り込む手段はないと思うけど。ディオン辺りならまだ隠し玉位はあるかしら?」
「ゲームの進行はスムーズであるべきです。中間トロフィーが無ければ、盛り上がる事もありませんし。
 実際、
 マリアテレサの言葉に永遠はへらっと笑って肩を竦めた。
「性格が悪いわよ、マリアテレサ。あそこには二番も居るんでしょう?」
 分かたれた。純粋な使。東京エリアに堕ちたを含めて――
 言うまでもなく――語るまでもない程には特質性を帯びている。
 最悪の出来レースラグナロクに風穴を開け得るなら、それ以外有り得ないと言い切れる程に。
 だが、熾天使達さえ把握しないは大いなる罠と言うしかあるまい。
(……でも、相変わらずの自信家ね。
 貴女はお父様が造った可能性にすら、何ら頓着していないのでしょう――?)
 言い換えればマリアテレサは永遠自身やさえも問題にしていない。
 
 実際問題、天を裂き、地を割る大いなる黄昏の戦争さえマリアテレサにかかればただのお遊びに違いない。
 間違い無く彼女はそう振る舞うだけの力を持っている。
 同じ熾天使と号するに余りに無慈悲な程に――父の加護の量が違う。グレイヴメアリーは痛烈なまでに圧倒的だ。
「様子を見るのよね」
「勿論。僕ははしたなくも地上に簡単に顕現等いたしませんから」
「地上なんて興味はないものね?」
「ええ。僕はずっとエデンに居なければ」
「嘘吐き」
 永遠は笑った。
 マリアテレサはマシロ市を気に入っている。
 お忍びで何度も遊びに行っておいて――何と言う言い草だと。
「でも、様子を見るのは本当よね」
「はい。ゲイムは始まったばかりですからね。
 不本意ですが、イザベルにお茶を淹れさせましょう。
 貴女がふらふら出歩くよりはマシだから――一緒に皆さんのお手並みを拝見する事にしましょうか。
 勿論――、ね?」