ばちばちします。


 長野県、諏訪――人の気が失われ、神霊や精霊たちの領域として機能しているその場所は奇異な事に彼らを護るかの如く神璽結界が張り巡らされている。
 能力者達がその場に踏み入れる事が出来たのは甲府側から対話意思を持っての行軍のお陰でもあっただろう。
 客人マレビトと神々は訪れた者を呼ぶ。
 好意的に接し心を砕く者もいれば、敵愾心を露わにし何ぞかを護らんとする者もいる。
 何を守っているかなど、簡単だ。
 ――八尺瓊勾玉。
 三種の神器の一つであるそれがこの諏訪湖に存在しているというのだ。
「元々は、東京ってところにあったんですよね? ところがどっこい、どばーんと居なくなっちゃって、今はここ」
 ぽってりとしたが周辺に張り巡らされている結界の前に立っている。
 可愛らしい犬を思わせる姿だ。まるまるとしたフォルムに出来うる限り愛らしさを追求した姿はテーマパークに存在するのが良く似合う。
「あってる~?」
「はい。あってます。ちゃちゃさん」
 こくりと頷いたのは兎のぬいぐるみを抱きしめていた天使プルト(r2p006820)だった。
 その傍らでは気だるげな顔をしたアズ(r2p007929)が髪を指先で弄びながら「……面倒くさい」と呟いた。
「ちゃちゃまる様。さっさとこんな結界破れば良いではないですか。
 気になっているから来たんでしょう? 我らが主に仇成す何者かでないかということが。違うんですか?」
「それは~、そうなんですけどぉ~……」
 もじもじとした着ぐるみ――ちゃちゃまる、と呼ばれていた。きっとそうした呼び名なのだろう――はちらりとアズを見る。
「けど、アズちゃん。プルトちゃん。ここで無理やりどっか~んってするの、嫌じゃないですか?」
「いえ。さっさと終わらせるべきです。ただでさえの一件でも手を焼いているのですから」
 淡々と告げる執事然とする娘の言葉にちゃちゃまるが「うぐう」と呻いた。その姿にその仕草、可愛らしさだけで塗り固めた様な使だ。
「でもですねぇ~」
「あの、ちゃちゃさんは、ご心配でここまで来たんですよね?
 リーニャ……あ、ハイデス達がアーカディアV様を打倒したという残存人類拠点の観察に出かけている間に」
「それもそうですけどぉ~……いえ、あれですよ。ちゃちゃまるはヘレンちゃんもミネルヴァちゃんもハイデスちゃんもつよつよなので、そっちを心配したんじゃないですよ」
 そこまで言って一息つく。プルトにとっての最愛を馬鹿にしたわけではないという事は何としても伝えておきたかったのだ。
 ちゃちゃまるはそうした気遣いこそ大事だと認識している。こんな姿をしているのだ。
 やはり関係性に配慮してきっちりと相手を慮りたい。そんな優しいにプルトは気にしてもいないというように頷いて次の言葉を促した。
「アズちゃんの言う通りです。ちゃちゃまる達は今、草薙剣の所在を認識しています。
 それはそうです。なら、こんな結界ばーんしたほうがいいです。解りますとも。
 でもですね~……何か、変ですよね。何が変かは分かりません。これ、入れないやつですよね。ちゃちゃまるそういうの詳しくないのでアレなんですけど~……」
 もじもじとしたちゃちゃまるが身を揺らがせる。徐々に寂し気な空気を背負っていくこの犬の着ぐるみがプルトはだんだんと不憫になってきた。
 プルトから見て、ちゃちゃまると呼ぶこの天使はだ。
 ふざけた外見をしているが、それにも意味があると知っている。
 アーカディアVIII派閥。熾天の座に就くの主人に付き従う天使であることは確かだ。
 プルトは主人達の求めに応じて可愛らしい犬の不格好をしているこの主人の事が嫌いではなかった。
 ほんの少しおまぬけで、優柔不断ではあるけれど――可愛らしく、素敵な上司であることには違いはない。
「では、お試しで入ってみましょうか」
「ま、待ってアズちゃん! 危ないかもしれませんよ!? ちゃちゃまるがッッああッッつゥゥ!
 待ってください、こればちばちしますって!
 無理くり開けるんですか!? や、やめ、ときましょ!? 無理やりは人間関係に軋轢です! これで配慮もなくアカ8ちゃん陣営来ちゃったとか言われたら困、困りますってェ」
「他の熾天使に仕えている天使の姿も近郊で見られますが」
「そゆのじゃないですって! 違う、違うの……なんですよぉ~……」
 結界の外で優柔不断な態度を見せている犬のぬいぐるみは部下二人を振り返ってからこう言った。
「とりあえず、情報収集だけして、帰りましょ。京都……」
して?」
「うう~……」
して?」
「あう~……」
 ちゃちゃまるは頭を悩ませてからがっくりと肩を落とした。じめじめとキノコを背負った可哀そうな姿だ。
「……草薙剣の事だけ要観察、しましょう……。
 ちゃちゃまるたちが岐阜……御津那海ミヅナミ町から、追いかけてきたのはそっちですし……。
 どこ、行ったのかなあ……あの子……」




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