チュートリアル・オーダー III


 血を塗りたくったような赤い夕焼け。
 一つ、また一つ、戦いの終焉に静けさが灯る。

「ッ……はぁ~~……ようやっと帰ったか……」
 騒々しき獣達のパレードの喧騒は風の向こうに掻き消えた。煉谷 紅似(r2p006137)は重い傷を押さえ、ずるずるとアスファルトの上に座り込む。
「天使に堕ちたクソたわけ共が。死んだも同然の癖に、俺たちからチップを奪おうなんざ百年早えよ」
 鬱陶しい賑わいが去った東京の輪郭を、バリケードを隔てて榊巻 洸(r2p000027)はきつく睨み据えていた。バヂッと爆ぜる電光の残滓が彼の怒気を物語る――。
 命空骸戯カタルモイ。チップを賭けて行われる殺し合い。であるなら、K.Y.R.I.E.サイドの拠点『旧展示場跡要塞』に存在する統合デバイス『プルリブス・マキナ』を敵が狙って来るのは戦略的とも言えるだろう。ゆえにこそ、護りきれてよかった……と紅似は今はひたすら安堵を噛み締める。ガムだったら味がなくなるぐらいに。
 同様に、アルジェント・ディノッテ(r2p006088)も防衛戦に勝利した。旧展示場へ続く高架上線路を、傷ついた仲間に肩を貸しつつ歩いていく――彼方、西側、真っ赤な夕日が沈んでいく……夜の気配が東京の街を縁取り始める。
(彼は無事だろうか……)
 白い耳を飾るピアスが、この東京のどこかにいる愛しい人を想って、一番星のように煌めいた。
 ――と、その耳に届いたのは仲間が使う通信機からの声。
 独特の電子合成音声は、白星 くろく(r2p000073)によるものだった。
こっちの防衛は成功した。……お互い、無事でよかったな』
「うむ……天使などにくれてやるチップなど一枚たりとてないわ」
 答えたのは杜鵑(r2p000373)。一方的に押し付けられ、未だ全貌も曖昧なこのは、どんな綱渡りよりもきっと危険命懸けで。
「兎角、拠点が無事でよかった。本丸が落ちていては洒落にならんからの」
『おかげさまで。チュートリアルでゲームオーバーなんて、流石にクソゲーだしな』
 息を吐く。それは疲労であったり、安堵であったり。
「まさか初陣がこんなことになるとはね……」
 拠点付近にて『サーカス団』を退けた柊羽(r2p008370)は、その初陣が白星となったことにまずは大きな安堵を覚えていた。でも、きっと戦いはこれから。なんせこれはチュートリアルゲイム――ということは、この戦いは序章にすぎないのだろうから。
 はてさて……ユアー ヴァレンタイン(r2p000991)は春用に仕立てた魔術礼装スーツの埃を軽く払った。
「しかし、此の悪趣味なゲイムに我々と天使以外にどんな勢力が噛んでいるのやら。たとえ人類側であっても、それなりに手を焼く連中が絡んでいそうですが……」
「……天使についても。一枚岩ではなさそうですが」
 通信機を介し、マートル・マーター(r2p000087)が応える。その白いヴェールはそこかしこ、艶やかなまでの鮮血で染まっていて……。
「座天使タラリア、だけでなく……他熾天使セラフの麾下が、観測されているようです」
 マートルはまさに第三熾天使アレクサンドラ麾下と刃を交えた。その被害は、決して無視できないほどで……。
 仲間のやりとりを通信機で聞きつつ、リースリット・フィアル・ミルティス・フュステリエル(r2p001804)は瞳を揺らす。なにせ――彼女らが戦ったのは、かつて味方だった者r2n000022だからで。
(ウィリアム様……あのやり方では、貴方は大願を果たせない……)
 どうにか彼らを退けることはできた、ものの。ソフィーリア・ペンスフォード(r2n000028)のことや、石動 結斗(r2n000024)のことを思うと勝利の笑みを浮かべることなんて……今はできない。
「随分と、乗り気な勢力が多いのですね」
 Elaine Willy(r2p000291)が携えるに、天使の血がゆっくりと伝っていく。花に埋もれた身体には……彼女自身の血が滴っていく。
 まるで蟲毒だ。しかして蟲毒は呪術である。……このカタルモイという蟲毒呪いは、命を喰らい合う果てに何を成す?
 斜陽が、俯くかんばせを照らしていた。
「はぁっ―― はぁッ――」
 ここまで逃げればもう大丈夫だろうか。深手を負った月之瀬・レナ(r2p000688)は、息を弾ませながらそっと後ろを振り返る――追手は居ない。戦域からは離脱できたようだ。深く……息を吐く。まだ少し手が震えているけれど、生きている。
「よ、かった、……」
 一筋縄ではいかないシビアな状況ばかりだ
 ピエロが立ち去ったそこは、さっきまでの狂騒が嘘みたいに静かだった――音無 沙織(r2p000458)は、垣間見たピエロの素顔をもう一度心に思い描いて。
「シュウジさん、何か悩みがあるなら後で聞きますよ?」
 共に戦ったシュウジ クジョウ(r2n000156)へ、夕焼けに縁取られたこがねの髪を揺らして振り返るのであった。
 ほろほろと崩れ落ちた塩の天使の欠片は、暮れなずむ空の向こうに溶けて消えてもう見えない。
「人間はやはり愚かだな。いや、人間ではなく天使だろうか?」
 そう呟いたイドリス(r2p001664)の体躯に刻まれた傷は、夕日に照らされなお赤く。傷に翳した掌が薄明の光を帯びれば、傷のいくつかは修復されゆく。最中にも、先程の戦いを思い返す……
 
 ――サーカス。終鐘教会。塩の天使。願望器。ゲイム。

 今しがたルナ・エクリプス(r2p003936)が終えた戦いは、今日一日で消化しきれる情報量じゃない。それでも、どうにか――
「生き延びられました、ね」
「そうだねえ~……」
 はふ、と結樹 ねいな(r2p000031)は息を吐いて空を見上げた。モニター越しとはいえ、主天使メイに座天使タラリアとの邂逅は――そう、なかなかにだった。
「まあ……これまでも、私達は戦争ストラテジーで自我を主張してきたんだ。押し通れない道理があるもんか」
 チュートリアルが終われば、次はいよいよ『本番』が始まるのだろうか。
 不穏な気配の象徴のように、東京を照らす太陽が沈んでいく……。




命空骸戯カタルモイ - 旧展示場要塞システム/ゲイム・ルール